授業関係のお知らせのトップに戻る

3年次対象ゼミ

2021年1月14日

今週は今学期最後のゼミとなりました。来年度に向けて研究計画を提出し、検討をおこないました。出席した5名の研究テーマは以下のとおりです。このうちAHさんとSKさんは副ゼミとしての参加です。

  • AHさん「日本語を母語とするインドネシア語学習者とインドネシア語母語話者の発音比較と矯正方法の効果」
  • SKさん「インドネシア共和国における保険医療の質向上に向けた取り組みと課題」
  • NHさん「神に意味付けされた世界を⽣きるムスリムとそうでない⼈々は精神的に強さの違いがあるのか」または「〜境界線を乗り越えた⼈々〜イスラーム信仰をやめる⼈々と⾮イスラーム世界で育ちつつイスラムに⼊信した⼈のそれぞれの動機」
  • STさん「2000年代初頭までのインドネシア語における話し言葉について」
  • USさん「インドネシアの首都機能移転の展望 他国の事例を踏まえて」

それぞれ、音声学、国家的な制度、個人の信仰、社会言語学、政策という異なった専門分野のテーマが出され、研究計画について議論がおこなわれました。とくに、就活を踏まえた現実的な工程を考えるべきこと、コロナ禍が続くためネットを最大限に活用した文献収集を進めるべきことなどを指摘しました。

研究計画に含まれた基本文献の書評レジュメの提出が、春学期の4年次ゼミの最初の週に提出する課題となります。書評レジュメを書くときには、単なる感想にならないよう、その文献の中のどの部分が自分の卒業論文にどう関わってくるのかを明らかにしてください。

それでは、新型コロナ感染に気をつけつつ、充実した時間を過ごしたのち、春学期に再会しましょう。

2021年1月 7日

今週は2021年最初のゼミです。以下の文献について全員に書評レジュメを提出してもらい、議論をおこないました。なお、書評レジュメの対象にしたのは、出版用の原稿のもとになった脚注・出典表示のある原稿です。

この論文では、イスラームの信仰と災害、そして防災教育の在り方について論じています。導入から結論にいたるまでの論の立て方、論をサポートするためのデータの取り扱い方、さらに、使用したデータの出典表示の仕方に注目してもらい、卒論を書くときの参考にしてもらいました。

次回は、今学期最後のゼミとなります。A4判1ページ以内に、卒論の研究計画を作成し、提出してください。

研究計画には以下の要素を盛り込んでください。

  • 卒論のテーマ(何を明らかにするのか、何を論じるのか)
  • そのテーマについて卒論を書くために必要と予想されるデータ
  • そのデータを集めるために必要と予想される方法
  • 以上を踏まえた、卒論完成までの月単位の工程表(スケジュール)
  • 卒論のテーマに関わる基本文献

基本文献には、テーマに関連して読んでおくべき基本的な文献(論文ではなく、書籍)をあげてください。この文献の書評レジュメの提出が、春学期の4年次ゼミの最初の週に提出する課題となります。書評レジュメを書くときには、単なる感想にならないよう、その文献の中のどの論が自分の卒業論文にどう関わってくるのかを明らかにしてください。

2020年12月24日

今週はUSさんに以下の文献の書評レジュメを報告してもらいました。

ジャカルタが抱えるインフラの課題について、経済インフラ、環境インフラ、法制インフラ、そして人口増大の4点に整理して分析されました。1999年であるため、現在の状況についてはデータが不足していることが指摘されました。ジャカルタに滞在した経験のある受講生もいたので、さまざまな意見がだされました。また、首都圏ジャボタベック(現在は、ジャボデタベックに拡大)を考えるためには、東京では千葉・埼玉を含めるような、広域の視点を持つ必要を指摘しました。

今年のゼミは今日が最後です。次回は、2021年1月7日です。以下の文献の書評レジュメを提出してもらいます。

それでは、健康に気を付けて、よい新年をお迎えください。

2020年12月17日

今週はSTさんに以下の文献の書評レジュメを報告してもらいました。

インターネットのメールやチャットのようなテキストによるコミュニケーションでは、声の特徴、身体の動作・外観・接触、空間・時間・においの使用などの非言語情報は文字化されて伝達されます。この論文は、日本語のデータをもとに非言語情報の文字化の現状を整理し分析したものです。

受講生にも身近なテーマであるため、意見やコメントがたくさん出されました。とくに、インドネシア語のような日本語以外の言語を対象にした場合にはどうなるのか、さらにデータを集めて検討をする余地があることが指摘されました。

次回は、USさんの書評レジュメを報告してもらう予定です。

2020年12月 3日

今週はOYさんに以下の文献の第2章である吉田禎吾「バリの儀礼と共同体」(p. 33-52)の書評レジュメを報告してもらいました。

バリ=ヒンドゥー教の儀礼について文化人類学的視点からまとめた文献でした。興味深い内容であり、質問やコメントもたくさん出ました。多神教であるバリ=ヒンドゥーと国民国家インドネシアが掲げる国家原則パンチャシラにある唯一信仰との整合性、バリの「カースト制」の実情、司祭になるための通過儀礼における象徴的「死」の意味、子供にたいするヒンドゥー教教育のあり方、5つの供儀(ヤドニャ)と日常のチャナンとの相違など、興味深い質疑応答が行われました。卒論に向けて、ここに描かれている儀礼と供物の対象の関係をさらに調べてみることを確認しました。

来週は、1年生のTOEIC受験のため全学的に休講となります。次回12月17日はSTさんの書評レジュメを報告してもらう予定です。

2020年11月26日

今週は、先週に引き続いてNHさんに『イスラームとは何か』の書評レジュメを報告してもらいました。

発表の主なポイントは、神からムハンマドに下された啓示であるクルアーンと、預言者ムハンマドの真正な言行録とされるハディースの二つが基本的な聖典であること、19世紀以降、西欧植民支配が広がるなかでムスリムの間に、イスラームにとって危機の時代にあるという意識が生まれたことでした。

クルアーンのアラビア語韻文としての美しさが称賛されることから、キリスト教と比べてイスラームでは口承性が優位と言える可能性があること、危機の時代という意識から近代的なイスラーム改革運動が生まれたことなど、密度の濃い議論ができたと思います。

次回はOYさんの報告を予定しています。

2020年11月12日

今週は、先週に引き続き、映像資料「発掘 幻の国策映画 日本軍政下のジャワ」(NHK総合、1989年、44分)を見ながら議論を行いました。今週見た部分ではブリタル蜂起と独立準備委員会の設置指示が描かれていました。議論を通じて、日本ではほとんど知られていないインドネシア軍政期の実態について、インドネシアからの視点で見ることの重要性を深く理解することができました。

このあと、NHさんに以下の文献についての書評レジュメを報告してもらいました。

今週は、残念ながら第1章までの報告をする時間しかなかったので、残りは次回に行ってもらうことにしました。なお、次週は外語祭のため休講なので、次回は11月26日になります。

2020年11月 5日

今週は、先週の報告で触れられた日本軍政期の宣伝映画および音楽について、具体的な状況を見るために、映像資料「発掘 幻の国策映画 日本軍政下のジャワ」(NHK総合、1989年、44分)を見ながら議論を行いました。

改めて映像を見ると、日本語の歌、インドネシア語の歌、西洋のオーケストラ曲など多様な音楽が使われていることが確認できました。

今週は「労務者」のエピソードが終わった時点(35分55秒)まで鑑賞しました。次回は、残りの映像を見た後、NHさんに報告をしてもらいます。

2020年10月29日

今週はBCさんに以下の文献の「第6章 宣撫工作」の書評レジュメを報告してもらいました。

報告では宣伝部の外郭団体であった啓民文化指導所(Poesat Keboedayaan)の活動、とくに映画による宣伝に焦点が当てられました。宣伝の内容は、戦争末期になると日本の戦争活動を支えるために、農業産物の増産や労務者への参加を促すようになったとことが報告されました。議論では、宣伝活動に関わったインドネシア文化人についても調べてみる必要性が指摘されました。

なお、ここで取り上げられている日本軍の宣伝映画はニュース映画や文化映画ですが、そのほかにも劇映画が作成されていたことが以下の文献で分かります。

これによると日本映画社による映画が1943年と1944年の2年間に8本制作されています。

  • Berdjoang (1943)
  • Didesa (1943)
  • Dimenara (1943)
  • Djatoeh Berkait (1944)
  • Gelombang (1944)
  • Hoedjan (1944)
  • Keris Poesaka (1944)
  • Keseberang (1944)

次回は、今回の報告の内容と深く関係する映像資料「発掘 幻の国策映画 日本軍政下のジャワ」(NHK総合、1989年、44分)を見てもらい、議論をすることにします。

2020年10月22日

今週はSKさんに以下の文献の書評レジュメを報告してもらいました。

  • 吉田正紀『民俗医療の人類学 : 東南アジアの医療システム』東京 : 古今書院, 2000.
    東外大附属図書館所蔵

インドネシアの医療人材に関心をもつなかで、インドネシアの医療の多元化の状況を知るためにこの文献を読んだということでした。民俗医療と近代医療の対比について議論をすることができました。次のステップとしては、インドネシアの地域保健医療の末端を担うPuskesmasについて調べることを確認しました。

次回は、BCさんに書評レジュメの報告をしてもらう予定です。

2020年10月15日

今週は全員から夏学期に読んだ文献の書評レジュメを提出してもらいました。レジュメはすべてSlackにあがっているので、各自全員の分を読み込んでおいてください。

第1回は、AHさんに以下の文献の書評レジュメを報告してもらい、クラス内で議論をおこないました。

  • 崎山理「日本語とインドネシア語のアクセントとイントネーション」杉藤美代子編『講座 日本語と日本語教育3 日本語の音声と音韻(下)』明治書院, 1990, 288-302.(Amazon

いつも学習しているインドネシア語をアクセントとイントネーションという観点から説明してもらい、新しい見方ができるようになりました。また、報告者も自分では分かっているつもりの概念を、ほかの人に分かりやすく説明することで、自分の理解が深まったように思います。議論のなかでは、アクセントとイントネーションのほかに、統語論やピッチポーズについて関心が集まりました。

最後に、7分ほどの時間でWordの使い方講座として、「改ページ」と「スタイル」の「見出し」の使い方を説明しました。

次回は、SKさんに医療人類学の文献の書評レジュメを報告してもらう予定です。

2020年10月 8日

今週のゼミの前半では、青山ゼミの卒業生で社会人として活躍中の方の依頼で、勤務先の企業のインターンシップの案内をしてもらいました。参加をするか否かは受講生の希望に任せています。

後半では、今年、青山が刊行した論文を取り上げて、論文の最初のスケッチ段階から実際の論文に完成するまでのプロセスを説明しました。この論文の詳細はこちらの記事を参照してください。

  • 地震は神の徴か:イスラームの信仰と災害」串田久治編『天変地異はどう語られてきたか:中国・日本・朝鮮・東南アジア』東方書店、2020年2月12日、296pp. ISBN 978-4-497-22001-1.

この論文については引き続き、サンプルとして取り扱い、書評レジュメの対象にもする予定です。

最後に、卒論を作成する際に知っておきたいWordの使い方について説明しました。この解説についても引き続き、少しずつ説明を積み重ねる予定です。

2020年10月 1日

今週は秋学期最初の週でした。春学期に引き続き秋学期もオンライン(ZoomとSlack)で実施します。

春学期の5名に加えて、インドネシア留学から戻ってきた学生1名、本ゼミの指導教員が特別研修のため一時的に青山ゼミに参加する学生1名の2名が増えたので、秋学期は7名でクラスを進めます。

今週は、夏学期の主な活動や、卒論のテーマについて進捗状況を自由に語ってもらいました。

再来週から、夏学期に読んだ文献の書評レジュメを報告してもらうことにします。

2020年7月16日

今週は春学期最後の授業です。あらためて、現時点での卒論のテーマと夏学期の研究計画について全員に発表してもらいました。みなさんがそれぞれテーマを一歩絞り込み、具体的な計画を立てていることが確認できました。

今年の夏学期はインドネシアを訪問することができない特別な状況です。文献資料の収集をネットも活用してしっかりと進めてください。また、テーマに関わる基本的な文献(入門書、概説書などを含む)を読み込み、テーマ自体の理解を深めてください。

大学からは、秋学期から対面授業とオンライン授業に加えて、少人数クラスについては対面授業も認めるという方針が出されていますが、最近の新型コロナウイルス感染拡大の状況をみると、このゼミについては、秋学期もとりあえずオンライン授業を続ける予定です。秋学期の初回は10月1日です。

それでは、秋学期の再会まで、健康に気を付けて実りのある夏学期を過ごしてください。

2020年7月 9日

今週は、以下の文献の書評レジュメを提出してもらい、オランダ植民地期のバリの観光化と伝統の創造について議論しました。

  • 永淵康之「観光=植民地主義のたくらみ―1920年代のバリから」山下晋司編『観光人類学』(新曜社、1996)pp. 35-44.

最初に、1906年と1908年のオランダによるバリ侵攻とバリ王族のププタン(集団自決)の衝撃について検討しました。

続いて、1932年にバリを訪問したチャップリンのドキュメンタリー映画 Chaplin in Bali(2017年)の予告編を見て、ここに描かれた、当時の欧米人がバリに見出したもの(仕事と遊びが有機的に結びついた生き方、文明に汚染されていない自然な生き方)を検討しました。また、「悪魔の島」をはじめとするバリを舞台にした当時の映画がこのような見方を助長したことも確認しました。

このようなバリの文化と社会はけっして「自然に」できあがったものではなく、1908年にバリの最後の王国を破壊した後、オランダが意図的に作り上げ、観光地として整備してきた結果である(観光と植民地支配は表裏一体)というのが、この論文の論点であることを確認しました。

このことは、同時代のバタビアの状況(自動車と路面電車が走り洋服の人々が闊歩する街並み)と比較してみると、より明らかになります。

次回は春学期最後のゼミになります。現代段階での卒論テーマと夏学期・春学期に向けての研究計画について報告をしてもらう予定です。

2020年7月 2日

今週は、附属図書館のオンラインジャーナル・データベースを使って調べてもらった「ケチャ」と「ヴァルター・シュピース」の記事をもとに、ケチャについての理解を深めました。

現在、私たちが知っているケチャの始まりは1933年に公開されたドイツ映画「悪魔の島」の撮影がきっかけであり、その創造には、バリに住んでいたドイツ人芸術家ヴァルター・シュピース(Walter Spies)が深く関与していることを確認しました。ケチャの主要な要素としては、憑依儀礼サン・ヒャン(Sanghyang)の男声伴奏とラーマーヤナ(Ramayana)を演じる舞踊があることも確認しました。

「悪魔の島」についての基本情報は以下の通りです。

  • Insel der Dämonen(ドイツ版タイトル、イギリスではBlack Magic、アメリカではWayan: Son of a Witch)、監督Friedrich Dalsheim、白黒、78分(ドイツ版)、1933年公開、[IMDb]

当時は、それまでの無声から音声の付く映画が普及した頃で、海外ロケによるエキゾチックな題材が欧米の大衆の間で好評を博した時代でした。「悪魔の島」という題名には非キリスト教の信仰に対する西洋的な視点が含まれています。以下の論文が参考になります(JSTORで閲覧可能)。

  • Cohen, M. (2015). Representing Java and Bali in Popular Film, 1919-54: Sites of Performance, Extra-daily Bodies, Enduring Stories. In Legêne S., Purwanto B., & Nordholt H. (Eds.), Sites, Bodies and Stories: Imagining Indonesian History (pp. 132-156). SINGAPORE: NUS Press.

現在上演されているケチャでは、金色の小鹿が現れてラーマを森におびき出したあと、ラーヴァナがシーターを誘拐する場面を中心とするものが多いのですが(Youtubeの例)、かつては、猿のスグリーヴァとスバリの兄弟争いを描くものもあったことが分かります(Youtubeの例)。

次回は、以下の文献の書評レジュメをもとに議論を深めたいと思います。

  • 永淵康之「観光=植民地主義のたくらみ―1920年代のバリから」山下晋司編『観光人類学』(新曜社、1996)pp. 35-44

2020年6月25日

今週は、最初に大学附属図書館のオンラインジャーナル・データベースにアクセスして論文や記事を検索する方法について紹介しました。今週のゼミで取り上げたのは、学部生にも使いやすい以下のリソースです。

  • CiNii 国内の学術雑誌の検索
  • J-STAGE 国内のオンラインジャーナルの検索
  • JapanKnowledge Lib 『岩波 世界人名大辞典』『東洋文庫』などの日本語の参考図書の検索
  • 聞蔵IIビジュアル(朝日新聞) 朝日新聞の記事の検索
  • JSTOR 英語の人文・社会科学分野の学術雑誌の検索
  • Gale eBooks 英語の参考図書の検索

オンラインジャーナルに収録された論文や記事のうち、オープンアクセス(Open Access)になっているものは、論文や記事そのものをPDFで読んだり、ダウンロードしたりすることができます。

オンラインのPDFの文献を保存する場合、自分のパソコンにダウンロードするだけではなく、クラウドのストレージに保存すると効率的です。今週のゼミではEvernoteというクラウド・ストレージを紹介しました。また、Webクリッパーを使うとブラウザーで表示されている情報をその場でEvernoteに保存することができます。

また、PDFの文献を読むとき、検索機能(Windowsではコントロール+F、Macではコマンド+F)を使ってキーワードを見つけると効率的です。

練習として、Gale eBooksを使ってKecakとWalter Spiesについて調べる課題を出しました。

ゼミの後半は、「序論:伝統は創り出される」について残った論点を検討しました。まず、「新しく創り出された伝統」は、しばしば古い材料を再構成して創られたという指摘を検討しました。日本の国歌「君が代」が、和歌(10世紀の古今和歌集)から取った歌詞と雅楽から取った旋律を採用しながら、近代的な国民国家の象徴として創り出されたことが例として挙げらることを確認しました。

次に、歴史学者であるホブズボウムの関心が、近代、つまり産業革命以降、とりわけ19世紀以降の「創られた伝統」にあることを確認しました。言い換えれば、アンダーソンの「想像された共同体」としての「国民国家」によって創り出された「伝統」であると言ってよいでしょう。

この点で、「解説」で文化人類学者の青木保が指摘しているように、今目の前で観察できる「文化」に関心を持ってきた文化人類学者は、ホブズボウムの指摘によって過去の「伝統」に関心を持つようになったものの、近代以前の異文化を対象としている限りは、ホブズボウムの「創られた伝統」の議論とは、似ているようで異なっているということになります。

次回からは、これまでの議論を踏まえつつ、対象をインドネシアに移し、オランダ時代のバリの観光開発を論じた以下の論文をもとに議論をする予定です。

  • 永淵康之「観光=植民地主義のたくらみ―1920年代のバリから」山下晋司編『観光人類学』(新曜社、1996)pp. 35-44

2020年6月18日

今週は、ホブズボウム編著『創られた伝統』(紀伊國屋書店、1992年)のホブズボウム「序論:伝統は創り出される」の書評レジュメをもとに議論をしました。

とくに結論部で述べられている、近代の国家が悠久の過去に起源があるという共同体(国民)を創造している、という一見、逆説的に見える事実に注目すべきであるという主張は、アンダーソンの言う想像された共同体としての国民という議論と、明確につながっていることを確認しました。

続いて、ホブズボウムが、近代に創造された新しい伝統と、前近代の古い伝統を区別している点を確認しました。古い伝統が衰退した分を新しい伝統が補うことになったが、古い伝統が社会の中で果たしていた役割と比べて、新しい伝統の役割ははるかに小さいと主張されています。

自由主義者や社会主義者のような改革者と伝統の創造との関係についても議論を行いましたが、この点については、もう少し原文を見直した方がよいようです。

また、伝統が創り出される背景についても、次回に改めて議論することにします。

『創られた伝統』を読んだあとは、インドネシアの事例として、オランダ植民地期のバリの観光と芸能を取り上げる予定です。

2020年6月11日

今週は、先週に引き続いてベネディクト・アンダーソン『定本 想像の共同体:ナショナリズムの起源と流行』の書評レジュメをもとに、とくに第3章の「国民意識の起源」で焦点が当てられている「出版資本主義」(print capitalism)について検討しました。

前半では、出版言語の出現について検討しました。ヨーロッパの知識人の文章語であったラテン語から、民衆が読み書き可能なドイツ語などの「俗語」に出版言語が変化したことの重要性を確認しました。また、出版言語の確立は、多数の方言の中から有力な方言が標準語としての地位を得る過程でもあったことを確認しました。

近代における標準的な文章語の出現については日本の言文一致運動も参考になります。

印刷機による大量印刷が可能になったこと、出版言語の確立で大きな市場が生まれたことが、出版資本主義を生み出します。とくに新聞の出現によって、読み手が、毎日、「同時」に起こった出来事を伝える同じ記事を読むという状況を生み出し、想像の共同体、つまり国民意識が生まれる前提になったとアンダーソンが論じていることを確認しました。

近代における印刷出版の重要性を考えるうえで、日本でも明治時代に銀座の一等地に新聞社や印刷所が集まって情報発信拠点になっていたことが参考になります。現在のソーシャルメディアとの比較も興味深いトピックです。

『想像の共同体』についてはいったんここで終えることにします。これまで読んできた『想像の共同体』をもとに小論文の課題を出しました。

次回からは、ホブズボウム編著『創られた伝統』(紀伊國屋書店、1992年)のホブズボウム「序論:伝統は創り出される」の書評レジュメをもとに議論をします。同書の青木保による解説「「伝統」と「文化」」も参考にしてください。

参考までに、ゼミのZoomで画面共有をしたScrbleの画像を貼っておきます。

2020-06-11#02.png2020-06-11#01.png

2020年6月 4日

今週は、先週に引き続いてベネディクト・アンダーソン『定本 想像の共同体:ナショナリズムの起源と流行』の書評レジュメをもとに議論をおこないました。

最初に、第2章で述べられている、近代の時間と対比されている前近代の時間である「予知と成就の時間」「メシア的時間」について検討し、神の目から見たとき過去も現在(そして未来)も同時であるような時間のとらえ方であることを確認しました。これは、新聞の紙面で世界各地の出来事がたまたま同じ日付で発生したために記事として並列されているという近代的な同時性とは異なるものです。

続いて、第3章の「国民意識の起源」について書評レジュメにもとに議論をおこないました。国民意識の発生について、アンダーソンは消極的な要因3つと積極的な要因3つを指摘しています。書評レジュメを作るときには、このように、テキストの構造をしっかりと把握する作業をまずおこなうことが大切です。

前近代では、民衆には読めないラテン語のテキストが単に文字で書かれているがゆえに秘儀性を帯びていたのに対して、近代では、民衆にも読める俗語のテキストが普及することで書かれている内容が重要になったことを確認しました。アンダーソンの議論では、このように、言語についての考察が豊かな点が特徴的です。

次回では、本章の核心である「出版資本主義」についてさらに掘り下げてみたいと思います。

『想像の共同体』についてはとりあえず第3章までとし、このあとはホブズボウムの「創られた伝統」について読んでみる予定です。

またここまでのまとめてとして、アンダーソンの主張を踏まえつつ、インドネシアの国民意識の形成について、自分なりの切り口で論じてもらうことを課題として出すことにします。

2020年5月28日

今週は、先週に引き続いてベネディクト・アンダーソン『定本 想像の共同体:ナショナリズムの起源と流行』の書評レジュメをもとに議論をおこないました。

最初に、1661年頃に描かれたバタビアの絵をもとに17世紀のオランダ東インド会社の商業活動について検討しました。オランダは16世紀の後半に次に触れるハプスブルク家の支配から独立し、17世紀にはヨーロッパ随一の海洋商業国家に成長しました。オランダは南アフリカやスリランカにも植民地を持っていました。このことが、バタビアの市場を行きかう多様な民族構成に反映されています。

続いて、第2節のハプスブルク家の「性的政治」とタイのチュラロンコン王の事例について再確認をおこないました。ハプスブルク家の領域拡大が戦争によってではなく婚姻によったことは「汝、幸せなハプスブルクよ、結婚せよ」という成句によく表されています。一方、19世紀のタイのモンクット王とその息子チュラロンコン王は国の近代化に努めました。参考として映画「王様と私」の一部を鑑賞しました。広大な領土をもったハプスブルク王家にとって「国民」(nation)は意味を持たなかったのに対して、19世紀のタイの王はタイ「国民」を体現する役割を果たしました。同じ王国といっても前近代と近代では役割が変質していることを、この二つの例を対比させることで、アンダーソンは指摘しています。

最後に、同様のことが第3節の「時間の了解」にも見られることを確認しました。ここでは、前近代の「予知と成就の時間」「メシア的時間」と近代の「均質で空虚な時間」とが対比されています。このことは、過去と未来が今ここでつながっているという前近代的な同時性と、今この瞬間に何かが同時に起こっていると想像する近代的な同時性の違いともつながっています。

それでは、「予知と成就の時間」「メシア的時間」とはそもそもどのような時間なのでしょうか。ここで時間が無くなったので、続きは来週に検討することにします。そのあと、本書の中心である第3章「国民意識の起源」に進むので書評レジュメを読み直しておいてください。

2020年5月21日

今週は、先週に引き続いてベネディクト・アンダーソン『定本 想像の共同体:ナショナリズムの起源と流行』の書評レジュメをもとに議論をおこないました。

最初に、先週読んだ第2章第1節の内容を振り返ったあと、ナショナリズムの起源にあたる宗教共同体(religious community)と王国(dynastic realm)の節を検討しました。神が創ったこの世界と結びついた言語(カトリック教会のラテン語、イスラームのアラビア語)の特権性を確認しました。また、アンダーソンはとくに触れていませんが、一神教において個人は(言語を通じて得られた)神の教えにしたがうことで死後の永遠の命が保証されているという点で、宗教共同体とナショナリズムとの間に共通性があることを確認しました。次に、主権の正統性が神によって保証された王が、王との階層的な人的な関係で結びついた住民を組織したものが王国であり、国民を構成する住民に主権があり、途切れないのない国境線で囲まれた領域を持つ近代的な国民国家と異なることを確認しました。

第2節で触れられたハプスブルク家の「性的政治」とタイのチュラロンコン王の事例は大変に興味深いものです。この二人の王について深掘りで調べてくることを小課題としました。

次回は、第3節の「時間の了解」に進む予定です。

2020年5月14日

今週は、先週に引き続いてベネディクト・アンダーソン『定本 想像の共同体:ナショナリズムの起源と流行』の書評レジュメをもとに議論をおこないました。

最初に、先週読んだ序章(第1章)の内容を振り返り、とくに、ナショナリズムの日本語訳について検討しました。簡単に整理すると以下のようになります。

  • 1. nationは「国民」と訳される。この場合、nationalismの訳は「国民主義」となる。
  • なお、United Nationsは「国際連合」と訳されているけれども、本来は「団結した諸国民」という意味である。
  • ちなみに、インドネシア語ではnationはbangsaと訳される。国際連合はPerserikatan Bangsa-Bangsaと訳されており、United Nationsの原意に近い。
  • 2. nationは、いまだ独立して国民になっていない集団が国民になることを目指している状態では「民族」とも訳される。この場合、nationalismの訳は「民族主義」となる。したがって、オランダからのインドネシア「民族」の独立を主張したスカルノはnationalist「民族主義者」と呼ばれる。
  • 3. 日本語ではethnic groupも「民族」と訳される。「インドネシアは多民族国家である。そのうちジャワ人(族)が最大の民族である」という文の「民族」はethnic groupの意味である。日本語では「民族」の意味が2種類あって使い分けられているので注意が必要。
  • ちなみに、インドネシア語ではethnic groupはsuku bangsaと訳されており、日本語のような混乱はない。

続いて、第2章の冒頭を取り上げ、ナショナリズムは、個人は死んでもネーションは不滅という感情を提供する点で、かつて宗教共同体がもっていた機能をになっているというアンダーソンの指摘を検討しました。

次回は、第2章の続きを読んでいきます。そのあと第3章に進むので、第3章の書評レジュメの提出をお願いします。

2020年5月 7日

今週は、以下の文献の序章(第1章)と第2章の書評レジュメを提出してもらい、議論をおこないました。

  • ベネディクト・アンダーソン『定本 想像の共同体:ナショナリズムの起源と流行』 書籍工房早山、2007年.

最初に、なぜナショナリズムはマルクス主義から見て「変則」なのかを検討しました。続いて、ナショナリズムをめぐる3つのパラドックスを時間をかけて整理したあと、国民(nation)は「想像された政治的共同体」という定義と、そこから導き出される4つの特徴、すなわち、「想像されたもの」「限定されたもの」「主権的なもの(=最高の意思決定主体)」「一つの共同体」について確認しました。

文献を読んで書評レジュメを作成するにあたって、いくつか役に立つポイントを確認しました。

  • 柱となる重要な論点とそれを支える根拠とに分けて整理するとよい。
  • 著者の言葉をそのままなぞって要約することで終わらず、自分の言葉で説明できるようにすることが大切。
  • 抽象的な論点は身近な具体的な事例で説明することで腑に落ちやすい。
  • 逆に、身近な具体的事例は抽象化することで一般的な議論にすることができる。
  • 「抽象」と「具体」、「普遍」と「固有」、「構築主義」と「本質主義」、「社会」と「個人」、「政治」と「文化」、「共時」と「通時」、など物事を理解する枠組みを自分なりに持っておくと、理解が進みやすい。

次回は、第2章を取りあげて検討を進めます。そのあと、第3章に進むので、書評レジュメの準備を始めておいてください(提出は来週以降で大丈夫です)。

2020年4月30日

今週は、先週に引き続いて自分の関心のテーマに引き寄せて、データを集める調査方法について議論しました。とくに、フィールドワークにおける参与観察(participation observation)について検討しました。いずれにしても、特定の調査方法にこだわる必要はなく、複数の調査方法を組み合わせて、必要なデータを補完することが一般的です。また、文献調査として、統計、地図、国勢調査などのデータも重要である点に留意すべきことを確認しました。

ゼミでは、大学附属図書館のオンラインジャーナルやデータベースに学外からアクセスする方法も確認しました。別のページ学外からアクセスする具体的な方法を説明しています。日本語ではCiNii、J-Stage、英語ではJSTORがお奨めです。

次回からは指定したテキストを読んで書評レジュメを提出することを課題とします。別のページで書評レジュメの書き方を示しているので参考にしてください。

最初の課題は以下の文献です。

  • ベネディクト・アンダーソン『定本 想像の共同体:ナショナリズムの起源と流行』 書籍工房早山、2007年.
    amazon.co.jp

原書は1983年に初版、1991年に増補された第2版が出版され、2016年にさらに追記をくわえたものが最終的な版となっています。上記の訳書は2016年版の翻訳です。日本では1997年に第2版の翻訳が『増補 想像の共同体:ナショナリズムの起源と流行』の題名で出版されています。次回には、序章と第2章をまとめて1本の書評レジュメとして提出してください。

なお、今週からはSlackを使ってゼミ内の連絡や情報交換をすることにしました。Slackの招待を行ったので履修生は必ず参加してください。

2020年4月23日

新年度春学期の最初の3年次ゼミは新型コロナウイルス対策のためZoomによるオンラインで行いました。昨年度の冬学期の初めに以下の課題を出していました。

  • 1.【読む】卒論の書き方をテーマにした本を少なくとも1冊は読んでおいてください。
  • 2.【読む】青山のブログ「インドネシア語専攻で勉強する人のために
    とくに「3年次ゼミで学ぶこと」を読んでおいてください(リンク先を含む)。
  • 3.【書く】卒論で「調べる」とはどういうことか、レポートにまとめて提出してください。

今週は、提出されたレポートをもとに、卒論で「調べる」方法について議論しました。関心のある事柄から研究テーマを見つけ出す、研究テーマに即した問いを立てる、自分の問いを位置付けるために先行文献を調べる、問いに答えるデータを集めるために調べることが必要であるという点が共有できました。

レポートの参考文献として以下の本がよく取り上げられていました。

さすがに教育大学の先生が書いただけに分かりやすいです。

ゼミでは、調査方法としていくつかの方法をあげてもらうことができました。

  • 1. アンケート(調査紙法)
  • 2. インタビュー(聞き取り)
  • 3.文献調査(資料分析)
  • 4. フィールドワーク(参与観察)

次回の課題として、それぞれが関心のあるテーマについて問いを立てるとしたら、どのようなデータがあれば問いに答えられるか、そのデータはどのようにして調べたらよいのか、考えてきてもらうことにしました。

今週はアンケートとインタビューについて少し触れましたが、次回はフィールドワークについても検討してみたいと思います。自分の研究テーマに関わる人は、とくによく調べておいてください。

今回は、先週Zoomでプレミーティングをしたおかげもあり、ブレークダウンセッションも含めて順調に行ったと思います。

          

カテゴリー

新規エントリーの投稿
[権限をもつユーザのみ]