卒業論文で気になる表記上の問題点
【インドネシア語専攻で勉強する人のために】
卒業論文は中身が最重要であることは言うまでもありません。しかし、学生のみなさんの卒論を読んでいると、表記の上で気になることも少なくありません。ここでは、よく見かける問題点とその改善案をまとめておきました。卒論作成の参考にしてください。なお、あくまでも指針としての分かりやすさを優先しているので、ある程度割り切った説明をしていることをご了承ください。(更新: 2019-01-13)
1. 表記符号を使うときの注意点
句読点・括弧などの文字以外の記号を表記符号と呼ぶことにします。よくある問題点をあげておきます。
なお、表記符号については「表記符号の使い方」が参考になります。
1.1 ダッシュと音引きは区別
ダッシュは主に副題を付けるときに用いられますが、長音符号と紛れやすいの注意してください。実際、このブログのフォントでは、ダッシュは「―」で、長音符号は「ー」なのですが、見たところ区別がつきません。しかし、ワープロソフトで明朝体を使うと違いがはっきりするので、誤用すると目につきます。パソコンで入力するときには「だっしゅ」と打ち込んで変換すると「―」に変換される場合があるので、利用すると便利でしょう。
- ダッシュの例:『サピエンス全史―文明の構造と人類の幸福―』
- 長音符号の例:イスラーム
ダッシュのもう一つの使い方として、参考文献リストで同一の著者の文献が続くとき、2回め以降を省略するときにも使います。著者名に代えてダッシュを3つ入れます。
- 例:橋本進吉. 1946.『国語學概論』東京:岩波書店.(初出時)
- 例:―――. 1950. 『国語音韻の研究』東京:岩波書店.(2回め以降)
英文でのダッシュについては、下の項目を見てください。
1.2 文献を記すときの一重鉤括弧と二重鉤括弧の区別
文献を記すとき、論文の題名は一重鉤括弧で、書籍の題名や雑誌の誌名は二重鉤括弧でくくります。
- 一重鉤括弧の例:「インドネシアにおけるイスラームの新しい展開」
- 二重鉤括弧の例:『文明の衝突』(書名)
- 二重鉤括弧の例:『東南アジア研究』(誌名)
2. 英文を書くときの注意点
日本語の論文であっても、英語の文献を引用するときには、英文の書き方の原則にしたがう必要があります。なお、ここでは英文としていますが、同じくラテン文字を使うインドネシア語の文章にも原則として適用できます。
2.1 英文を書くときの基本のフォントはTime New Roman
卒論作成ではほとんどの人がMicrosoftのWordをワープロソフトとして使っています。その場合、日本語の本文に使う標準的なフォントは明朝体だと思います。明朝体に対応する英語の標準的なフォントはTimes New Romanです(他にもいろいろと良いフォントがありますが、迷うのであればTimes New Romanにしておくとよいでしょう)。
明朝体でも英文を表示することは可能ですが、明朝体の英数字はあくまでも漢字・平がな・片かなに対するおまけのような存在なので、英数字や英文をしっかりと表現する場合には、見栄えがよくありません。英文をしっかりと表現する場合には、Times New Romanを使うことを薦めます。
参考までに
明朝体活字は明治時代の日本では新聞の本文を印刷するために普及しました。一方のTimes New Romanはイギリスの新聞紙タイムズの印刷のために開発された活字体です。いずれも良い意味で変哲もないデザインであることで文字自体が主張することがなく、読み手が書かれた内容に集中できるよう可読性を高めているところに共通性があります。
2.2 明朝体で英数字を表記するときは半角
明朝体などの日本語表記用のフォントには全角と半角があります。もしも明朝体で英数字を表記するときには、原則として半角を使ってください。
- 例:「2020」ではなく「2020」(年代)
- 例:「Smith」ではなく「Smith」(人名)
半角を使うときには、全角と混用しないようにしてください。とくに半角のコロン「:」は全角のコロン「:」と紛れやすいので気を付けてください。以下の例ではスペースの部分にアンダーバー「_」を付けています。
- 例:「(Smith_2007:389)」ではなく「(Smith_ 2007:_389)」
2.3 英文を表記するフォントは統一する
いずれにしても、英文の表記に明朝体とTimes New Romanが混在しているのは見栄えがよくありません。統一するようにしましょう。以下の説明では、Times New Romanで英文を表記することを前提にして説明します。なお、残念ながらこのブログのフォントではTimes New Romanは正確に表示されないのでご注意ください。
2.4 英語文献の出典表示をする場合のフォント
本文中で英語文献を出典表示する場合には、丸括弧は本文のフォントにあわせて明朝体の全角とし、出典表示自体はTimes New Romanを使うことをお薦めします。括弧の部分までは日本語の本文で、括弧の中のみが英文という方針でよいと思います。
- 例:...と論じている(Smith 2007: 389)。
参考までに
明朝体の本文にTimes New Romanの丸括弧を入れると、明朝体の文字よりも丸括弧の位置が下にずれていることがあります。これは、英語の小文字の中にはjやqやyのように他の文字よりも下に下がる文字があるので、それにあわせて丸括弧の位置を下げているためです(このブログのフォントでは明確ではありませんが)。この意味でも、丸括弧までは日本語の本文という方針の方がよいと考えています。
2.5 英文では単語や句読点の後にはスペースを入れる
英文では単語や句読点の後にはスペースを入れます。当然のことのようですが、とくに句読点などの表記符号の後では忘れていることがよくあるので、気を付けてください。以下の例ではスペースの部分にアンダーバー「_」を付けています。
- 例:(Smith_2018:_21-25)(ハイフンの後)
- 例:Smith,_N._J._(コンマ、ピリオドの後)
- 例:The Journal of Asian Studies_66_(2),_pp._389-420.(単語、コンマ、ピリオドの後)
2.6 英文のダッシュ
英文のダッシュには、エム・ダッシュ(em dash)と呼ばれる通常の長いダッシュ「--」と、エヌ・ダッシュ(en dash)と呼ばれる短いダッシュ「-」があります。日本語のダッシュはエム・ダッシュにおおむね対応しています。一方、エヌ・ダッシュは数値などの範囲を表すときに用います。
- 例:pp._389-420(ページの範囲)
- 例:1998-2018(年代の範囲)
エヌ・ダッシュはハイフン「-」と似ていて紛らわしいのですが、エム・ダッシュよりも短く、ハイフンよりも長くなっています。残念ながら、このブログでは両者を区別して表示することはできません。
エヌ・ダッシュを使う上でやっかいなことは、エヌ・ダッシュをキーボードから簡単に入力する方法がないことです。正確に入力するためには、エヌ・ダッシュのユニコードである8211(十進法)を使って記号を表示させたものをコピペするのが楽だと思います。ユニコードを表示させるサイトとしてはUnicode Lookupが使いやすいと思います。
ただし、卒論のレベルであれば、エヌ・ダッシュの入力で苦労するよりは、中身の充実に時間を使った方がよいというのが現時点でのアドバイスです。
参考までに
エム・ダッシュは小文字のmの幅、エヌ・ダッシュは小文字のnの幅を基準とすることからこのような名前が付いています。明朝体の全角の文字が、どの文字も等しい高さと幅になるようにデザインされているのに対して、Times New Romanに代表される英文のフォントは、文字によって高さも幅も異なるところに特徴があります。
3. 出典表示の位置
出典表示は原則として本文中の著者名の直後、あるいは、直近の句読点の前に挿入します。
- 例:山田(1997:_20-23)によると、20世紀初頭のインドネシアにおけるイスラーム近代主義には二つの潮流があったという。
- 例:20世紀初頭のインドネシアにおけるイスラーム近代主義には二つの潮流があったとされている(山田_1997:_20-23)。
引用がある場合には、引用を閉じる鉤括弧の後に挿入します。出典表示は引用される文の一部ではないからです。
- 例:「インドネシアにおけるイスラーム近代主義には二つの傾向を区別することができる」(山田_1997:_20-23)。
ブロック引用の場合には、引用された文章が終わる句点の後に挿入します。上と同様に、出典表示は引用される文の一部ではないからです。
- 例:...インドネシアにおけるイスラーム近代主義には二つの傾向を区別することができる。(山田_1997:_20-23)
参考までに
ここで指摘されている問題点が自分の卒論の原稿にあるのを見つけたときには、他にも同様の問題が残っていないかを網羅的にチェックする必要があります。そのような場合には、Wordの検索機能を使うと漏れを防ぐことができますから、活用するとよいでしょう。