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2020年5月28日

【4年次対象ゼミ】

今週は「なぜプラスチックごみは問題視されているのか」というテーマでKさんに報告してもらいました。参考にした主な文献は以下でした。

  • Akenji, Lewis, et al. 2019. Circular Economy and Plastics: A Gap-Analysis in ASEAN Member States. Institute for Global Environmental Strategies, pp. 14-20.

この報告をもとにプラスチックごみやごみのリサイクルについて議論を行いました。その記録を下にあげておきます。

whiteboard-20200528.png

この報告は卒論の序文に相当する部分で、このあとごみ処理システムにおけるインフォーマルセクターの貧困層の役割や、政府の政策や施策について調べる予定であることを確認しました。

次回は、Yさんにインドネシアの災害・防災をテーマとして報告してもらう予定です。

【3年次対象ゼミ】

今週は、先週に引き続いてベネディクト・アンダーソン『定本 想像の共同体:ナショナリズムの起源と流行』の書評レジュメをもとに議論をおこないました。

最初に、1661年頃に描かれたバタビアの絵をもとに17世紀のオランダ東インド会社の商業活動について検討しました。オランダは16世紀の後半に次に触れるハプスブルク家の支配から独立し、17世紀にはヨーロッパ随一の海洋商業国家に成長しました。オランダは南アフリカやスリランカにも植民地を持っていました。このことが、バタビアの市場を行きかう多様な民族構成に反映されています。

続いて、第2節のハプスブルク家の「性的政治」とタイのチュラロンコン王の事例について再確認をおこないました。ハプスブルク家の領域拡大が戦争によってではなく婚姻によったことは「汝、幸せなハプスブルクよ、結婚せよ」という成句によく表されています。一方、19世紀のタイのモンクット王とその息子チュラロンコン王は国の近代化に努めました。参考として映画「王様と私」の一部を鑑賞しました。広大な領土をもったハプスブルク王家にとって「国民」(nation)は意味を持たなかったのに対して、19世紀のタイの王はタイ「国民」を体現する役割を果たしました。同じ王国といっても前近代と近代では役割が変質していることを、この二つの例を対比させることで、アンダーソンは指摘しています。

最後に、同様のことが第3節の「時間の了解」にも見られることを確認しました。ここでは、前近代の「予知と成就の時間」「メシア的時間」と近代の「均質で空虚な時間」とが対比されています。このことは、過去と未来が今ここでつながっているという前近代的な同時性と、今この瞬間に何かが同時に起こっていると想像する近代的な同時性の違いともつながっています。

それでは、「予知と成就の時間」「メシア的時間」とはそもそもどのような時間なのでしょうか。ここで時間が無くなったので、続きは来週に検討することにします。そのあと、本書の中心である第3章「国民意識の起源」に進むので書評レジュメを読み直しておいてください。

2020年5月25日

【大学院】

In this week we explored the impact of the arrival of Europeans in Southeast Asia. Obviously they were not uniform. Different groups of Europeans came to different regions at different times for different reasons. This can be summarized as follows:

  • In the 16th century, the Portuguese and Spanish arrived at Indonesia for spices (clove, nutmeg and mace).
  • In the 17th century, the Dutch East India Company arrived at Indonesia for spices. The Dutch later introduced coffee to the region. Meanwhile, the Portuguese almost disappeared except in Timor-Leste and the Spanish were engaged in the trans-Pacific trading with Chinese merchants in the Philippines.
  • In the 18th century, the characteristics of the Dutch changed from the trader to the landlord by interfering with local politics.
  • In the late 19th century, the British expanded its Indian territory into Myanmar and also settled down in parts of Malaysia for trading and later for tin. The French, initially looking for a trade route with China, eventually occupied Vietnam, Cambodia and Laos.

One of the interesting questions regarding the colonization of Southeast Asia is why Thailand was not colonized. We will look into this before discussing the movie "Max Havelaar" in the following weeks.

2020年5月21日

【4年次対象ゼミ】

今週は、「ナショナル・コスチュームとしてのクバヤ(インドネシアでのクバヤの歴史)」というテーマでTKさんに複数の文献をもとに報告してもらい、議論を行いました。引用された主な文献は以下のとおりです。

  • Lukman, Christine Claudia, Yasraf Amir Piliang and Priyanto Sunarto. 2013. Kebaya Encim as the Phenomenon of Mimicry in East Indies Dutch Colonial's Culture. Arts and Design Studies, vol. 13, pp. 15-22. [PDF]
  • 中谷文美. 2013. 「伝統染織を着るということ--インドネシア、バリ島の手織布の地域内自給とその変容--」『文化共生学研究』(岡山大学大学院社会文化化学研究科)第12号, pp. 1-20. [PDF]
  • Boehlke, Heidi. 2005. "Kain-Kebaya." Encyclopedia of Clothing and Fashion, edited by Valerie Steele, vol. 2, Charles Scribner's Sons, pp. 294-295. Gale eBooks

クバヤの普及には以下の段階があることを確認しました。

1. 現地社会での受容の段階:イスラームの影響(アバヤが語源)で現地社会の上流階級の女性がクバヤ(アバヤが語源)の着用を始め、やがて庶民も着用。
2. 外来者への拡大の段階:プラナカンやユーラシアンの女性が着用(独自の変化)し、やがてオランダ人女性も着用。

20世紀初頭の国籍法の改正で、プラナカン女性が二重国籍(オランダ臣民籍と中国籍)を持つことになり、オランダ女性に似たデザインのクバヤの着用が認められたというポイントは興味深かったです。

このあと、以下の文献を取り寄せて読む計画であることを確認しました。

  • Lee, Peter. 2014. Sarong Kebaya: Peranakan Fashion in an Interconnected World 1500-1950. Asian Civilisations Museum.

次回はKさんにプラスチックごみのテーマで報告してもらいます。

【3年次対象ゼミ】

今週は、先週に引き続いてベネディクト・アンダーソン『定本 想像の共同体:ナショナリズムの起源と流行』の書評レジュメをもとに議論をおこないました。

最初に、先週読んだ第2章第1節の内容を振り返ったあと、ナショナリズムの起源にあたる宗教共同体(religious community)と王国(dynastic realm)の節を検討しました。神が創ったこの世界と結びついた言語(カトリック教会のラテン語、イスラームのアラビア語)の特権性を確認しました。また、アンダーソンはとくに触れていませんが、一神教において個人は(言語を通じて得られた)神の教えにしたがうことで死後の永遠の命が保証されているという点で、宗教共同体とナショナリズムとの間に共通性があることを確認しました。次に、主権の正統性が神によって保証された王が、王との階層的な人的な関係で結びついた住民を組織したものが王国であり、国民を構成する住民に主権があり、途切れないのない国境線で囲まれた領域を持つ近代的な国民国家と異なることを確認しました。

第2節で触れられたハプスブルク家の「性的政治」とタイのチュラロンコン王の事例は大変に興味深いものです。この二人の王について深掘りで調べてくることを小課題としました。

次回は、第3節の「時間の了解」に進む予定です。

2020年5月18日

【大学院】

In this week's Photo Challenge, we continued to identify another eleven images. By analyzing the photos, we came to appreciate the cultural/religious diversity of Southeast Asia and understand how the past is shown in multiple historical representations. 

In the next week and after, we will start looking back from the map of European colonization of Southeast Asia at the end of the 19th century to the arrival of European powers in the 16th century so that we understand who (which Europeans) arrived when, where and for what reason.

2020年5月15日

【4年次対象ゼミ】

今週は、Wさんの書評レジュメをもとに、インドネシア独立前後に起きた「ジャカルタ憲章」をめぐる論争について議論をしました。書評レジュメの対象には、以下の論文が使われました。

  • Elson, R. (2009). Another Look at the Jakarta Charter Controversy of 1945. Indonesia, (88), 105-130.
    Retrieved April 30, 2020, from www.jstor.org/stable/40376487

ジャカルタ憲章のいわゆる「7語」"dengan kewajiban menjalankan syari'at Islam bagi pemeluk-pemeluknya"の削除は、インドネシア独立の維持という目前の共通の課題に取り組むために、政教分離の世俗国家を目指す民族主義者たちと政教一致のイスラーム国家を目指すイスラーム主義者たちとの間で行われた妥協である、ということを確認しました。

政教分離といっても現実にはさまざまなタイプの国家がありうる点にも注意を払う必要があります。

次週以降は、TKさん、Kさん、Yさんの順番で卒論に関わる書評レジュメを発表してもらうことにします。

2020年5月14日

【3年次対象ゼミ】

今週は、先週に引き続いてベネディクト・アンダーソン『定本 想像の共同体:ナショナリズムの起源と流行』の書評レジュメをもとに議論をおこないました。

最初に、先週読んだ序章(第1章)の内容を振り返り、とくに、ナショナリズムの日本語訳について検討しました。簡単に整理すると以下のようになります。

  • 1. nationは「国民」と訳される。この場合、nationalismの訳は「国民主義」となる。
  • なお、United Nationsは「国際連合」と訳されているけれども、本来は「団結した諸国民」という意味である。
  • ちなみに、インドネシア語ではnationはbangsaと訳される。国際連合はPerserikatan Bangsa-Bangsaと訳されており、United Nationsの原意に近い。
  • 2. nationは、いまだ独立して国民になっていない集団が国民になることを目指している状態では「民族」とも訳される。この場合、nationalismの訳は「民族主義」となる。したがって、オランダからのインドネシア「民族」の独立を主張したスカルノはnationalist「民族主義者」と呼ばれる。
  • 3. 日本語ではethnic groupも「民族」と訳される。「インドネシアは多民族国家である。そのうちジャワ人(族)が最大の民族である」という文の「民族」はethnic groupの意味である。日本語では「民族」の意味が2種類あって使い分けられているので注意が必要。
  • ちなみに、インドネシア語ではethnic groupはsuku bangsaと訳されており、日本語のような混乱はない。

続いて、第2章の冒頭を取り上げ、ナショナリズムは、個人は死んでもネーションは不滅という感情を提供する点で、かつて宗教共同体がもっていた機能をになっているというアンダーソンの指摘を検討しました。

次回は、第2章の続きを読んでいきます。そのあと第3章に進むので、第3章の書評レジュメの提出をお願いします。

2020年5月11日

【大学院】

In this week we look into a historical perspective of Southeast Asia to understand the cultural diversity of the region.

First, we analyze the "structure" of the history of Southeast Asia by using the Time-Space Matrix Framework of the History of Southeast.

Time-Space Matrix Framework of the History of Southeast AsiaTime_Space_Matrix_Framework_History_SEA.png

Blank worksheet

2020-05-11-Time_Space_Matrix_Framework_of_History_of_SEA.png

Then, we started "Photo Challenge" where we observe selected historical images and identify their positions in the Time-Space Matrix Framework.

In this week's Photo Challenge", we identified three images. We continue challenging more photos next week.

Also we will look into the arrival of European powers and try to understand who arrived when for what reason.

2020年5月 7日

【4年次対象ゼミ】

今週は、先週時間が無くて報告できなかった2名に報告してもらいました。

最初に、Hさんに、在日インドネシア人ムスリム児童の教育という研究テーマに関係する研究論文の書評レジュメを報告してもらいました。

基本的な制度の在り方を理解しておくというよいでしょう。外国人の観点からは法務省、教育の観点からは文科省のデータを押さえておく必要があります。

法務省は日本に在留する外国人の統計を出しています。

文科省は「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」を実施しています。インドネシア語を母語とする児童生徒は個別の数字があがっていないのですが比較的少ないことが分かります。

第2世代の在日インドネシア人に聞き取り調査を実施するのではあれば、そのために必要な事項を整理しておくとよいでしょう。

続いて、Oさんに、アメリカによるフィリピン植民地支配とフィリピンの「植民地ナショナリズム」の形成を論じた論文の書評レジュメを報告してもらいました。

  • Abinales, Patricio N. (2002). American Rule and the Formation of Filipino "Colonial Nationalism". Southeast Asian Studies 39 (4): 604-621. http://hdl.handle.net/2433/53705

これは雑誌論文なので、このような形式で書誌情報を整理しておく必要があります。

この論文では「フィリピン化」(Filipinization)がキーワードとなっています。これが「フィリピン人によるフィリピンの統治を促進すること、ただし、アメリカのやり方に準じた統治の方式であること」を意味するのであれば、オランダ領東インドにおいて「インドネシア化」政策がとられたのかどうかという観点から、インドネシアの事例と比較すると興味深いかもしれません。

基本的な理解を深めるうえで以下の2冊をまず読んでおくとよいでしょう。

  • 永積昭『インドネシア民族意識の形成』東京大学出版会、1980年
  • 増原綾子・鈴木絢女・片岡樹・宮脇聡史・古屋博子『はじめての東南アジア政治』有斐閣、2018年

来週は、Wさんに「ジャカルタ憲章」論争を踏まえてインドネシアにおける宗教と政治の関係について整理して報告してもらう予定です。

【3年次対象ゼミ】

今週は、以下の文献の序章(第1章)と第2章の書評レジュメを提出してもらい、議論をおこないました。

  • ベネディクト・アンダーソン『定本 想像の共同体:ナショナリズムの起源と流行』 書籍工房早山、2007年.

最初に、なぜナショナリズムはマルクス主義から見て「変則」なのかを検討しました。続いて、ナショナリズムをめぐる3つのパラドックスを時間をかけて整理したあと、国民(nation)は「想像された政治的共同体」という定義と、そこから導き出される4つの特徴、すなわち、「想像されたもの」「限定されたもの」「主権的なもの(=最高の意思決定主体)」「一つの共同体」について確認しました。

文献を読んで書評レジュメを作成するにあたって、いくつか役に立つポイントを確認しました。

  • 柱となる重要な論点とそれを支える根拠とに分けて整理するとよい。
  • 著者の言葉をそのままなぞって要約することで終わらず、自分の言葉で説明できるようにすることが大切。
  • 抽象的な論点は身近な具体的な事例で説明することで腑に落ちやすい。
  • 逆に、身近な具体的事例は抽象化することで一般的な議論にすることができる。
  • 「抽象」と「具体」、「普遍」と「固有」、「構築主義」と「本質主義」、「社会」と「個人」、「政治」と「文化」、「共時」と「通時」、など物事を理解する枠組みを自分なりに持っておくと、理解が進みやすい。

次回は、第2章を取りあげて検討を進めます。そのあと、第3章に進むので、書評レジュメの準備を始めておいてください(提出は来週以降で大丈夫です)。

2020年5月 4日

【大学院】

In this week's meeting, we reviewed the cultural outlook of eleven Southeast Asian countries (ASEAN10 plus Timor Leste). Please refer to the table.

As for the map, please read an insightful article on Wikipedia, the difficulties of mapping world religion, and a most bizarre map.

Among the eleven countries, the Philippines and Timor Leste share common characteristics with Pacific countries because of their geographical location. Their populations are predominantly Christians, except for the southern region of the Philippines, which is dominated by Islam. The Spanish and the Portuguese who colonized the Philippines and Timor Leste respectively introduced Christianity (mostly Catholicism).

Vietnam is mostly dominated by Chinese Mahayana Buddhism mixed with Confucianism and Taoism, although there are sizable populations of Christians and indigenous Vietnamese religions. Because of its geographical location, Chinese is influence is most strongly felt in Vietnam (especially in the northern half). The French colonization also brought in Christianity to Vietnam.

Apart from those explained above, it can be generally described that Mainland Southeast Asia (Thailand, Cambodia, Laos, and Myanmar) is dominated by Theravada Buddhism, while Island Southeast (Indonesia, Malaysia, Brunei) is dominated by Islam.

Singapore's religious make-up is unique because it was largely created by immigrants (mostly from China) in colonial times.

The island of Bali in Indonesia is dominated by Balinese Hinduism. This is living proof that most part of Southeast Asia was in fact once dominated by Hinduism and Mahayana Buddhism from India.

In the next meeting, we will see more about the historical background of this cultural diversity in Southeast Asia.

          

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