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【世界に現れる「神」】 10月25日

【リレー講義】

10月25日火曜日1限に、総合文化コース専修専門(宗教学)のリレー講義『世界に現れる「神」』の第4回として、「インドネシアの神・神々・カミ」を担当しました。受講生は256名でした。

コメントシートはすべて読ませもらいました。質問の中からいくつか代表的なものを選んで、回答したいと思います。似た質問や関連する質問は整理してまとめている場合もありますので、ご了承ください。また、過去の年度の講義でも類似したあるいは関連した質問に回答しているので、ぜひそちらも参考にしてください。

2010年度の講義での回答
2009年度の講義での回答
2006年度の講義での回答
2004年度の講義での回答


質問 1 バリ島に観光旅行に行ったとき豚を生贄(いけにえ)にする儀礼をみました。あれはイスラームではなくヒンドゥー教ですか?

回答 1
ご指摘のとおりヒンドゥー教の儀礼です。イスラームでは豚は不浄とされているので生贄として犠牲にすることはありません。バリ島では住民の9割以上がヒンドゥー教徒で多数派を占めていますから、観光客がバリ島で目にする行事のほとんどはおのずとヒンドゥー教の儀礼ということになります。


質問 2
キリスト教でも神のことをAllahと呼ぶとは知りませんでした。もう少し説明してください。

回答 2
よく誤解されていることですが、アラビア語のAllahとは「イスラームの神」のことではなく、「神」のことです。したがって、アラビア語をしゃべるキリスト教徒も自分たちの神をAllahと呼びます。インドネシア語には大量のアラビア語からの借用語がはいっているので、インドネシアのキリスト教徒は神のことをアラビア語起源のAllahと呼んだり、マレー語起源のTuhanと呼んだりします。Allahは日本語の「神」、英語の「God」、Tuhanは日本語の「主」、英語の「Lord」に対応しています。


質問 3
イバン人の信仰についての講義で、インドネシア語で「公務員」を意味するpegawaiは、イバン人の言語で「儀礼」を意味するgawaiと関連があり、「儀礼をする人」という意味だという説明がありました。すると、インドネシアでは公務員として働くということは、一般の人よりも神に近い存在になるということなのでしょうか?

回答 3
結論から言えば、pegawaiと呼ばれる職業の人たちが一般の人々よりも神に近い存在とされることはありません。もっとも、公務員という職業が収入の安定した望ましい職業とみなされている事実はありますが。

ここで、授業での説明を補足しておきます。まず、インドネシア語ではpegawaiは「公務員」(pegawai negeri)だけではなく、一般的な「職員」も指します。次に、インドネシア語には、語幹に様々な接頭辞や接尾辞を付けることで派生語を作るという特徴があります。pegawaiという語の場合、「行為の主体」を意味する接頭辞pe-が語幹gawaiに結びついたものとして分析することができます。しかし、現在のインドネシア語では、語幹gawaiが他の接辞に付いた派生語は使われていません。つまり、現在のほとんどのインドネシア人にとってgawaiという語幹自体の意味はわからなくなっていると言えます。インドネシア語のpegawaiとイバン語のgawaiに関連があることは両者の比較分析の結果から出てくる結論です。

ちなみにgawaiという語は、10世紀頃の古ジャワ語文献にも見られる語で、そこでは「仕事」、「職業」、「祝祭」と言った意味で使われています。したがって、もともとgawaiという語は、宗教的なことから世俗的なことまでを包含した「おこない」一般を指す語であると理解したほうがよいと考えられます。


質問 4
イバン人は比較的新しいキリスト教徒になったという説明を受けました。すると、キリスト教の信仰と土着的な精霊信仰が併存しているということなのでしょうか。

回答 4
そのとおりです。講義ではイスラーム教徒の社会でも土着の信仰が続いていることを主に示しましたが、同様のことはキリスト教徒の社会でも見られます。スラウェシ南部のトラジャ人の葬送儀礼などはその典型的な例でしょう。関心のある人は自分で調べてみてください。新しく入ってきた宗教(とくにイスラームやキリスト教のような大宗教)と土着の信仰の関係というのは、けっして1つのあり方だけではなく、多様な形態があることに注意してほしく思います。

          

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