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映画で学ぶインドネシア

【インドネシア語専攻で勉強する人のために】

まだ知らない土地や時代のことを知るためには映画はとても参考になります。もちろんまったく予備知識がないと理解できなかったり誤解したりすることもありますし、映画特有の脚色があるので現実そのものとして受け取ると誤ってしまうこともあります。それでも、映像と音声で未知の世界が描かれる映画は、インドネシアについて学ぶうえでの最良の教材といってよいでしょう。

ただ、残念ながらインドネシア映画は日本ではなかなか入手できませんし、教材として使うとなると、日本語か英語の字幕があること(インドネシア語専攻の学生だけでない授業ではとくに)、できれば授業時間内におさまること(できない場合は2回にわけるとか1.3倍速とかで対応する)、テーマが明確なこと(何のために見るのかを意識する)、制作年度や監督・出演者などの背景情報があることなどが条件となります。

ここでは、インドネシア映画とインドネシアを扱った外国語映画の中から、授業でも紹介している作品を中心に、インドネシアを学ぶうえでとくにお奨めの作品を紹介してみます。(DVD入手方法の情報はあくまでも参考です。DVDの購入と再生にあたっては自己責任でおこなってください。YouTubeの情報についても変更の可能性があります。)(最終更新2022年04月02日)

インドネシア映画をもっと探してみようという人はFilmarks(日本語)あるいはInternet Movie Database(英語)で探してみてください。ただし、データベースの内容の正確さについては注意が必要です。

なお、インドネシア映画の全体像については風間純子さんのインドネシアの映画の解説がよくまとまっていて参考になります。また、最近のヒット作としては『アリサン!』、『分かちあう愛』、『アヤアヤ・チンタ』などがありますが、これらについてはブログ『ジャカルタ深読み日記』のエントリー「インドネシア映画に見る愛と結婚」に興味深いコメントが出ています。

1. 青空はぼくの家
【原題】Langitku Rumahku (ぼくの空、ぼくの家)
【制作】インドネシア、スラムット・ラハルジョ・ジャロット監督、1989年、102分
【言語】インドネシア語、日本語字幕
【入手】NHKテレビ「アジア映画劇場」で放映されたものを録画
【内容】金持ちの子どもと貧困層の子どもの友情を描くロードムービー。
【視点】80年代後半のスハルト政権下における経済開発が生み出した社会の格差を批判している。
【補足】本編の前に映画評論家佐藤忠男氏の解説がある。

2. エリアナ、エリアナ
【原題】Eliana, Eliana
【制作】インドネシア、リリ・リザ監督、2002年、86分
【言語】インドネシア語、英語字幕
【入手】英語版DVD市販
【視聴】YouTube全編
【内容】西スマトラ州の田舎から大都会ジャカルタに出てきて働く若い女性エリアナのもとに母親が訪れ、故郷に戻るように訴える。ジャカルタでの一夜の出来事を追いながら、伝統と現代社会の葛藤の中で揺れ動くインドネシアの若い女性像を描く。
【視点】母と娘の関係を手持ちのデジタルビデオカメラによる臨場感あふれるドキュメンタリータッチの演出で描き、インドネシア映画界に革新をもたらした。
【補足】2002年シンガポール国際映画祭新人監督賞。2009年国際交流基金提供「アジア映画の巨匠たち」上映作品。

3. オペラ・ジャワ
【原題】Opera Jawa
【制作】インドネシア、ガリン・ヌグロホ監督、2006年、116分
【言語】ジャワ語、英語字幕
【入手】英語版DVD市販
【視聴】YouTube全編
【内容】叙事詩ラーマーヤナの物語を現代のジャワ農村を舞台に移し替え、全編をガムラン音楽を伴奏にした現代ジャワ舞踊で描く実験的なミュージカル映画。
【視点】ジャワの伝統であるラーマーヤナの物語を新鮮な解釈で映画化している。
【補足】2006年ウィーンNew Crowned Hope Festival招待作品。2007年シンガポール国際映画祭最優秀作品。映画のなかで使われている言語はジャワ語。
【参考】青山亨「映画『オペラ・ジャワ』に見るラーマーヤナの変容」『総合文化研究』13: 37-60, 2010.(PDFファイルにリンク)

4. 危険な年
【原題】The Year of Living Dangerously (危険に生きる年)
【制作】オーストラリア、ピーター・ウェアー監督、1982年、117分
【言語】英語、日本語字幕
【入手】日本版DVD市販
【視聴】YouTube予告編
【内容】オーストラリア人特派員(メル・ギブソン)を主人公にして1965年の9・30事件前夜の騒然としたインドネシアを描くドラマ。
【視点】原作はクリストファー・コッホによる同題の小説。オーストラリア人から見た視点であるが、スカルノ政権末期のインドネシアの雰囲気を良心的に再現している。
【補足】56回アカデミー助演女優賞受賞作品。ロケはフィリピン、オーストラリアでおこなっている。

5. 虹の兵士たち
【原題】Laskar Pelangi(虹の兵士たち)
【制作】インドネシア、リリ・リザ監督、2008年、125分
【言語】インドネシア語、英語字幕
【入手】インドネシア版DVD市販
【視聴】YouTube予告編
【内容】1974年、インドネシア西部のブリトゥン島が舞台。主要産業の錫採掘で賑わうが、豊かになった人々は一握りで、多くは資源の恩恵を受けられない貧困層の漁師や採掘労働者であった。廃校寸前の小学校にようやく入学した個性豊かな10人の子どもたちを、新人女性教師のムスリマは「虹の兵士たち」と名付けて、熱心に教育する。
【視点】2004年に発表されたアンドレア・ヒラタの同題の自伝的小説に基づいた作品で、インドネシアでは観客動員数450万人に達し、インドネシア映画史上最大のヒット作となった。同じスタッフによる続編Sang Pemimpiも制作された。エンドロールのメッセージでわかるように、教育による人間の成長の可能性を強く訴えている。
【補足】2009年第3回アジア映画大賞「最優秀作品賞」・「最優秀編集賞」ノミネート。2009年第59回ベルリン国際映画祭パノラマ部門出品 。

6. ビューティフル・デイズ
【原題】Ada Apa dengan Cinta? (チンタに何がおきたのか)
【制作】インドネシア、ルディ・スジャルウォ監督、2002年、112分
【言語】インドネシア語、日本語字幕
【入手】日本版DVD市販
【内容】ジャカルタで友情と恋愛のあいだで揺れ動く女子高生を描く青春映画
【視点】1998年以降の民主改革期におけるジャカルタ都市中間層の状況が生き生きと描かれている。
【補足】2002年公開時にインドネシア映画史上最大のヒット作になった。

7. マックス・ハーフェラール
【原題】Max Havelaar
【制作】オランダ、フォンス・ラーデマーケルス監督、1976年、161分
【言語】オランダ語・インドネシア語、英語字幕
【入手】オランダ版DVD市販(A-Film Home Entertainment)。DVDは Amazon.com (アメリカ)から購入可能です。
【視聴】YouTube全編
【内容】19世紀半ばのオランダ領東インド(現在のインドネシア)のジャワ島を舞台に、理想主義をいだく若い植民地行政官マックス・ハーフェラールの苦悩と挫折を描く。
【視点】原作は、エドゥアルド・ダウエス・デッケルがオランダ領東インドでの植民地官吏としての経験をもとに、ムルタトゥーリの筆名で1860年に発表した『マックス・ハーフェラール―もしくはオランダ商事会社のコーヒー競売』(Max Havelaar, of de koffieveilingen der Nederlandsche handelsmaatschappij)(日本語訳あり)。19世紀中頃の強制栽培制度が行われていた時期のインドネシアが活写されている。作品中に挿入された「サイジャとアディンダの物語」は独立した物語としても知られる。なお、原作者のエドゥアルド・ダウエス・デッケルはオランダの植民地統治の問題点を指摘してはいるものの、植民地支配そのものを否定しているわけではないことに注意しておきたい。
【補足】インドネシアでロケしており、自然風景の映像と音響がすばらしい。

8. レゴン
【原題】Legong: Dance of the Virgins
【制作】アメリカ、Henry de La Falaise監督、1930年、65分
【言語】サイレント ガムラン音楽付 英語による説明字幕
【入手】DVD市販(Milestone Films)。DVDはAmazon.com(アメリカ)から購入可能です。
【視聴】YouTube全編
【内容】バリの村の少女で踊り子のプトゥはガムラン演奏者の若者ニョンに恋するが、ニョンはプトゥの妹サプラックに魅かれる。現地ロケで描くロマンス。
【視点】バリの「エキゾチック」な文化にハリウッドの映画産業が関心を持ち始めた時代の産物である。「オリエンタリズム」的な関心がどのように映像化されているかが興味深い。
【情報】Internet Movie Database
【補足】バリでロケしており、1930年代のバリの映像資料としての意義がある。2原色テクニカラーによるカラー映画。Milestones版のDVDには特典映像が複数収録されている。

9. アクト・オブ・キリング
【原題】The Act of Killing
【制作】デンマーク・ノルウェー・イギリス合作、ジョシュア・オッペンハイマー監督、2012年、劇場公開版115分(ディレクターズ・カット版159分)
【言語】インドネシア語 英語字幕
【入手】DVD輸入盤(Amazon.co.jp、PAL、リージョン2)。Blu-ray輸入盤(Amazon.com、NTSC、リージョンA/1)
【視聴】YouTube予告編、YouTube全編
【内容】1965年の9月30日事件のあと、スハルト政権のもとでインドネシア共産党に関わったとされる人々の虐殺が行われた。スマトラのメダンで虐殺を実行したパンチャシラ青年団のメンバーへのインタビューと虐殺の再現劇で構成される異色のドキュメンタリー映画。
【視点】虐殺を行った「普通」の人々の心理に分け入り、なぜこのような虐殺をなしえたのかを明らかにしようとした点で重要。
【情報】Internet Movie Database
【補足】2013年第86回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞候補。続編として『ルック・オブ・サイレンス』が製作・公開されている。

10. ルック・オブ・サイレンス
【原題】The Look of Silence
【制作】デンマーク・フィンランド・インドネシア・ノルウェー・イギリス合作、ジョシュア・オッペンハイマー監督、2014年、103分
【言語】インドネシア語 日本語字幕
【入手】DVD(Amazon.co.jp、リージョン2)。Blu-ray(Amazon.com、リージョンA)
【視聴】YouTube全編
【内容】前作『アクト・オブ・キリング』に引き続いて、ジョシュア・オッペンハイマー監督が1965年の9月30日事件のあとに起こった虐殺の真相に迫るドキュメンタリー映画。今回は、虐殺された被害者の親族が視力検査の名目で加害者に対面し、加害者の本音を聞き出そうとする。
【視点】前作とは反対に被害者の視点から虐殺の本質を描き出そうとしている。前作と合わせて見て欲しい。
【情報】Internet Movie Database
【補足】2015年第88回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞候補。

11. チュッ・ニャ・ディン
【原題】Tjoet Nja' Dhien
【制作】インドネシア、エロス・ジャロット監督、1988年、170分
【言語】インドネシア語・オランダ語
【視聴】YouTube全編
【内容】19世紀末から20世紀初頭にかけて、アチェ戦争でアチェ側の指導者として命を賭してオランダ軍と戦った女性チュッ・ニャ・ディンの壮烈な姿を描く。反植民地闘争の一局面をインドネシア側の視点でリアルに描いている。
【視点】チュッ・ニャ・ディンは1964年にインドネシアの国家英雄に顕彰されている。
【情報】Internet Movie Database
【補足】原題は旧綴り。現在は新綴りでCut Nyak Dhienとも表記される。1989年カンヌ批評家週間で上映され主役クリスティン・ハキムの演技は高く評価された。

12. 人間の大地(ブミ・マヌシア)
【原題】Bumi Manusia(英語題名The Earth of Mankind
【制作】インドネシア、ハヌン・ブラマンティオ監督、2019年、181分
【言語】インドネシア語
【視聴】YouTube全編
【内容】原作はプラムディヤ・アナンタ・トゥルによる小説『人間の大地』(日本語訳はめこんから刊行)。19世紀末から20世紀初めのオランダの植民地下にあったジャワ島を舞台に、民族意識に目覚めるジャワ人の青年ミンケの遍歴と成長を描く。オランダ人植民地経営者とジャワ人の現地妻ニャイ・オントロソの間に生まれた娘アンネリースとの悲恋が一つの筋になっている。
【視点】倫理政策期のジャワ人上流階層とオランダ人支配層との関係がよく分かる。時代の雰囲気がよく再現されているところも見所。
【情報】Internet Movie Database

          

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