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【東南アジア地域基礎】5月21日「宗教と社会(その1)」

【リレー講義】

今週は、東南アジア地域基礎「東南アジア研究入門」のリレー講義の一環として、「宗教と社会(その1)」というテーマで、月曜1限に227教室で授業をおこないます。この授業では主に東南アジア島嶼部のイスラームについて、宗教としての概要、東南アジアでの定着と受容、現状について講義をおこないました。(2018-05-24更新)

この講義では、配付資料とスライドおよぶ映像資料にもとづいて、島嶼部を中心に信仰されているイスラームを取り上げ、イスラームの基本、東南アジアにおける展開の歴史、現代の傾向について理解を深めました。最後に、全体の整理として小テストを行いました。あわせて、次回の講義(宗教と社会 その2)で使うアンケートを行いました。

授業終了時に、小テストの答え(マークシート)、コメントシート、アンケート(マークシート)を提出してもらいました。

小テストの成績は10点満点で平均点は8.5点でした。これは例年に比べてよい成績です。各問いの正答率は、それぞれ問1が90%、問2が98%、問3が87%、問4が64%、問5が95%、問6が74%、問7が91%、問8が98%、問9が76%、問10が89%でした。模範解答を後日お知らせする予定です。

また、コメントシートに書かれた質問にも時間をみて回答する予定です。いくつかの質問には、2014年度の「宗教と社会(その1)」の授業のページで答えているので、こちらも参考にしてください。

この講義で使用したパワーポイントのスライドを春学期末までの期間限定で以下のリンクからダウンロードして閲覧することができます。なお、スライドの閲覧には授業中に告知したパスワードが必要です。
スライド-宗教と社会-20180521(PDFファイル)

この講義を補う情報については、『東南アジアを知るための50章』(明石書店、2014年)の第18章「世界宗教の地域性:東南アジアのイスラーム」を参考にしてください。また、講義の後半で触れた「イスラーム主義」については、末近浩太『イスラーム主義―もう一つの近代を構想する』(岩波新書、岩波書店、2018年)が参考になります。紹介したビデオ映像については、制作班が裏話も含めて記録したNHKスペシャル「イスラム」プロジェクト『イスラム潮流』(日本放送出版協会、2000年)が参考になります。

映像資料のなかで取り上げられたマッカ(メッカ)巡礼については以下の記事が参考になります。

イスラームの巡礼(高等学校 世界史のしおり)
ハッジ(大巡礼)(イスラミックセンタージャパンによるムスリムの立場からの説明)

タイプBの国における紛争(フィリピン南部、タイ深南部、ミャンマー・ラカイン州)については以下のサイトが参考になります。フィリピン南部では2017年に政府軍とISを自称する「マウテ・グループ」との間で数か月にわたる市街戦が起こっています。
Asia Peacebuilding Initiative

以下、コメントシートに書かれた質問にお答えしていますので、参考にしてください。なお、質問の文章は類似の質問をまとめたうえで文言を整えてあります。(2016-06-21更新)


質問1

 マッカ巡礼の映像では白い服を着た男性が目立ちましたが、何か決まりがあるのでしょうか?

回答

 巡礼にあたっては決まりがあります。巡礼の間、性交や爪や髪の毛をきることなどが禁じられているほかに、男性は特別に定められた白い巡礼服を着用することが決められています。これは、神の前にすべての人間が平等であること表しています。なお、女性には巡礼用の特別な衣服はありません。


質問2

 マッカ巡礼の映像を見ると大変に混雑している様子でしたが、今後、インドネシアから巡礼を希望する人の数が増えるとどうなるのでしょうか?

回答

 マッカに巡礼できる人の数には制限があり、いくらでも増加するという訳ではありません。
 大型航空機の利用が一般化した1970年代以降、メッカ巡礼者の数は爆発的に増加しました。巡礼者の受入れ体制(道路、空港、宿泊設備など)の整備は、マッカが所在するサウジアラビア政府が行っていますが、受入れ総数に制限を設けたうえで、各国のムスリム人口に応じて、国別に受入れる数の上限を設けています。インドネシアからの巡礼者の受入れ数は20万人ほどで、これは200万人近い巡礼者総数のおよそ1割にあたり、国別では最大の数です。インドネシアでは、巡礼を希望する人はマッカ巡礼ツアーを扱う旅行代理店に申し込むのが一般的です。しかし、毎年、大勢の人が巡礼を希望するので、申し込んでも許可が出るまで何年も待たなければならない状況です。詳しくは「インドネシア・イスラム教徒たちの人生最大のイベント「メッカ巡礼」」を参照してください。


質問3

 マッカ巡礼の期間は何日間なのでしょか?

回答

 マッカ巡礼のもっとも重要な儀式は、巡礼月(イスラーム暦第12月)の8日から10日までの3日間におこなわれます。ただし、実際には、多くの巡礼者が8日前にマッカに到着し、さらに10日のあとも数日滞在することを選んでいるようです。また、マッカ巡礼の機会に周辺地域を観光していく人も少なくありません。


質問4

 マッカ巡礼には誰でも行けるのですか?

回答

 マッカ巡礼はイスラームの五行の一つであり、ムスリムにとって義務です。しかし、誰でも実行できるのではなく、金銭的に余裕のある健康な成人で、巡礼中に残された家族の生活を保障できる人だけがマッカ巡礼をおこなう資格をもつとされています。


質問5

 インドネシアからマッカ巡礼に行くにはどのくらいの費用がかかるのですか?

回答

 インドネシアからマッカ巡礼に行く場合、上に述べたマッカ巡礼ツアーに参加するのが普通です。ツアーの料金には往復航空券、ビザ、食事、宿泊、現地移動、観光などの費用が含まれます。したがって、一般の海外旅行ツアーと同じように料金にも幅がありますが、安い価格帯で35万円から50万円程度、高い価格帯で100万円から150万円程度のようです。


質問6

 マッカ巡礼に行った人と行っていない人の間には差別はないのですか?

回答

 差別はありません。ただし、メッカ巡礼に行った人は地元では尊敬されます。インドネシアでは、男性の場合はHaji、女性の場合はHajjahという称号を名前につけることがよくあります。


質問7

 マッカ巡礼で石投げをおこなっていましたが、けが人はでないのでしょうか?

回答

 石投げに限りませんが、大勢の人が一個所に集まって時間を過ごすわけですから、けがをしたり病気になったりする人は当然出てきます。日本の初詣の状況を考えてもらえば不思議ではないと思います。マッカ巡礼にあたってはサウジアラビア政府がけが人や病人への対応を行っています。「イスラム潮流」制作班の記録を読むと、撮影中もしょっちゅう救急車のサイレンが聞こえたと書いてあります。


質問8

 映像資料によると、インドネシアではヒンドゥー教を利用してイスラームを広めたということですが、問題はないのですか?

回答

 正確にはヒンドゥー教の影響を受けた土着のジャワ文化を利用してイスラームを広めたということです。講義でも述べたように、イスラームの定着は、多くの場合、土着の文化や慣習をときには利用し、ときにはそれらと折り合いを付けながら行われました。インドネシアでは、多くのムスリムがこのような形のイスラームを受け入れていると行ってよいでしょう。


質問9

 モホリスさんの世帯の構成員が多いことに驚きました。イスラームの国では大家族が普通なのでしょうか?

回答

 家族の大きさはイスラームかどうかということよりも、その社会の文化や経済発展の程度や国家の政策に影響されるところが大きいと思われます。インドネシアの場合、近年は一貫して政府の政策で家族計画が進められてきたので、イスラームか否かを問わず、たいていの家族では子どもの数は2人が一般的です。モホリスさんのように子どもが9人というのはインドネシアでも例外的に子だくさんと言ってよいでしょう。しかし、モホリスさんの世帯の構成員が多く見えるのは、子どもの数が多いことだけが理由ではありません。制作班の記録を読むと、結婚している長女と次女のうち長女は近所に住んでおり、よく子ども2人を連れて実家を訪れていること、隣の家には奥さんのお姉さんが住んでおり、近所に住む奥さんの妹さんともども家業の煎餅作りに参加しに来ることが書かれています。このように、同じ屋根の下に多くの血族・姻族が出入りすることはインドネシアではよく見られることで、世帯の構成員が多いという印象を与えることになります。


質問10

 親がイスラームを信仰していると子どもも自然にムスリムになるのでしょうか?

回答

 ムスリムにとってムスリムであることは、良き人として生きることですから、子どももイスラームの価値観を学んで育つのが一般的であると言ってよいでしょう。このような事情は、欧米の家庭でキリスト教徒の両親の子どもがキリスト教徒として育つことを考えてみれば理解できると思います。


質問11

 モホリスさんの家の映像資料で、モホリスさんの奥さんが、礼拝を済ますと「借金」を返したように気持ちがすっきりすると言っていましたが、「借金」という表現に違和感を感じました。

回答

 確かに宗教儀礼の説明に「お金」が出てくるのは違和感があるかもしれません。字幕で「借金」と訳された語はインドネシア語のhutangです。この語には「借金」という意味もありますが、「負い目」、「果たさなければならない義務」という意味もあります。一日5回の礼拝は五行の一つ、つまり神からの命令ですから、これを守らないと負い目を感じ、礼拝が済むと負い目が晴れるということになります。

          

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