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不二真直民俗仮面コレクション所収仮面裏面のジャワ文字

【一般】

不二真直民俗仮面コレクションは、一人のコレクターが半世紀近くかけて集められたインドネシアを含む世界各地の民俗仮面200点近くに及ぶコレクションです。常設の展示館はありませんが、場所と期間限定の公開移動展示を行っているほか、ネット上で仮面の画像を鑑賞することができます。

最近、主宰者の方から、所蔵されている仮面1点の裏側に陽刻されている文字についてお問い合わせがありました。写真をいただき、調べてみたところ、ジャワ文字でSintaと書かれていることが判明しました。

シンタというのは、インドの叙事詩『ラーマーヤナ』の登場人物である王子ラーマの妃である王女シーターのことです。『ラーマーヤナ』はジャワでも人気のある物語ですが、ジャワ的に変化しているところもあり、王女シーターの名前はシンタとなっています。なお、中ジャワ地方の発音では「シント」となることがあります。

この魅惑的な仮面の人物がシンタであることを表しているのだと思われます。仮面に人物の名前が記載されていることは珍しいようです。みなさんも機会があれば、ぜひこの不二真直民俗仮面コレクションの魅力に触れてみてください。

【注記】「シーター」、「シンタ」、「シント」の表記は、「スィーター」、「スィンタ」、「スィント」と表記するのが正確な発音に近いのですが、ここでは慣用にしたがっています。

Javanese Mask

図1 仮面の表面(整理番号 I-02)

Javanese script.png

図2 仮面の裏面に陽刻されたジャワ文字「Sinta」

以下、図2を理解するために最低限必要なジャワ文字についての説明を付け加えておきます。

ジャワ文字は、表音文字の一種で、子音を表す子音字と、母音を表す母音字から構成されています。

1つの子音字は子音と文字に「内在する」母音aからなる音節を表します。

子音字でa以外の母音を表したいときは、子音字の上下左右に特定の補助記号を付加します。

なお、文字は左から右に書かれ(読まれ)ます。

それでは、図2を読んでみましょう。

1. まず、左の文字は、子音字saの上に母音iを表す補助記号が付加されており、全体でsiを表します。

2. 右の上側の文字は、子音字naです。

3. 右の下側の文字は、子音字taです。

4. 2.と3.の2つの子音字は上下に重なることで子音連続を表します。子音連続が起こる場合、前の子音字の「内在する」母音aは消滅します。その結果、2.と3.は全体としてntaを表します。

5. 以上をすべてつなげるとsintaとなります。

【注記1】3.の子音字の右下がひげ状に伸びていますが、これは子音連続の後続の子音字であることを表すもので、taを表す本来の文字では不要です。

【注記2】上記のほかに、ジャワ文字には、子音字に「内在する」母音aを消滅させる特別な補助記号があるので、子音のみを独立して表すことができます。

このように、ジャワ文字は、1つの文字が音節を表す音節文字(syllabary)の特徴と、子音と母音を独立して表すアルファベット(alphabet)の特徴を兼ねそなえていることから、アルファシラバリー(alphasyllabary)のタイプに分類されています。

ジャワ文字のアルファシラバリーとしての特徴は、ジャワ文字の起源であるインドのブラーフミー文字に由来するものです。

          

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