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【模擬授業】 10月18日 西武学園文理高校

【出前授業・模擬授業】

今日はキャンパス見学に来られた西武学園文理高校の2年生のみなさんに模擬授業をおこないました。

時間:11:20-12:50(90分)
場所:研究講義棟100教室
題目:東南アジアのイスラーム

講義のあとで、受講生にアンケートを出してもらいました。多くの方に世界史の授業の延長としてテーマに興味をもってもらえたようです。イスラームに対してもっていた偏見が変わったという答えもあり、このテーマを選んだ意味があったと感じました。また、講義内容のうち、後半の情報量が多すぎたという意見もあったので、もう少し整理して改善してみたいと思います。

アンケートの中でいくつか質問をいただいているので、以下、簡単にお答えしたいと思います。



【質問1】
イスラームでは利子が禁じられているということですが、イスラームでは金融はどのようにして成り立っているのですか?

【回答1】
授業では簡単にしか触れられませんでしたが、同様の質問は複数の方からいただいており、関心をひく話題だったようです。

イスラームでは、自ら汗を流して働くことなく得た利益(「不労所得」と言います)を良くないものとみなしています。利子を取ることは、例えば1万円を人に貸し、3%の利子を取って1万300円を返してもらうとすると、自らの労働なくして300円の利益を得ているわけですから、イスラームの教えに反すると考えられているのです。

なお、このような不労所得を忌避する考えはイスラーム特有のものではなく、かつてはキリスト教でも一般的であった考えです。金貸しが悪者扱いされている『ベニスの商人』を想起してください。

一方、例えば原価1万円で仕入れた商品を1万300円で売って300円の利益を得ることは認められています。これは商業活動という労働に当たるからです。

そこで、イスラーム金融では次のような仕組みが考えだされています(説明のため話は簡略化しています)。

Aさんが自動車販売店のBさんから100万円の値段がついた自動車を買おうとしているとします。Aさんの手元には100万円の現金はありませんが、給料から毎月10万円ずつ支払うことはできるとしましょう。

日本でしたら、Aさんは銀行から100万円を借り、そのお金をBさんに支払って自動車を購入し、銀行には借りたお金を返すことになります。ただし、銀行には利子を付けて返済しなければなりませんから、利子が3%だとすると、毎月10万3000円を10か月かけて返済することになります。結局、銀行には103万円支払うことになります。これが日本のローンの基本的な仕組みです。

一方、イスラーム金融では次のようになります。

まず、銀行がBさんに100万円を支払って自動車を買い取ります。次に、その自動車を103万円でAさんに売ります。このとき銀行はAさんに分割払いで支払うことを認めます。Aさんは毎月10万3000円を10か月かけて銀行に支払って支払いを完了します。

どうでしょうか。このような仕組みがあれば、結果的には、日本のローンと同じことが利子が無しで実行できることになります。

むろん、以上の説明はイスラーム金融の基本を単純化したもので、実際の仕組みはもっと複雑なものになります。関心のある人は、まずは次に紹介する本を読んでみるとよいでしょう。

・小杉泰・長岡慎介『イスラーム銀行―金融と国際経済』(イスラームを知る12)山川出版社,2010.



【質問2】
警察官が集団礼拝に参加している写真を見せてもらいましたが、お祈りの最中に緊急の出動命令が出たらどうなるのでしょうか?また、子どもも礼拝をするのでしょうか?

【回答2】
イスラームではイスラーム法(シャリーア)が日常生活を規定しています。このことから、ムスリムの日常生活は戒律でがんじがらめになっているといった印象を持つ人が多いようです。

しかし、授業でも説明しましたが、イスラームの決まりごとは、人々の日常生活を妨げてまで行うべきことではなく、実際にはきわめて柔軟に運用されています。妊婦や乳幼児の断食が免除されていることは、分かりやすい例でしょう。

ですから、お祈りの最中に出動命令が出た場合、警察官は当然職務を優先します。また、子どもについても、親は子どもの成長を見ながら少しずつ慣れさせていきます。



【質問3】
イスラームが人々をひきつける理由をもっと詳しく知りたいです。

【回答3】
これは大変に難しい質問です。ここでは、ムハンマドが活動した7世紀の中東地域に限って、私見を述べておきます。

当時の中東では、様々な多神教を信仰するグループやユダヤ教やキリスト教のような一神教を信仰するグループが混在していました。

このような中で、一神教は信仰の体系がシンプルであり、ムハンマドのようなカリスマ的な指導者のもとでは、多神教の信者に対して説得力があったと思われます。

一方、7世紀の時点で他の一神教と比較した場合、イスラームの教えは、ユダヤ教に比べて戒律が簡略化されている点、キリスト教に比べて教理が合理化されている点(「処女懐胎」、「イエスの復活」、「三位一体」といった《超自然的な》要素はイスラームにはほとんどありません)で優位性があったように思われます。

別の質問の回答でも触れましたが、宗教的要因以外にも政治的・経済的・文化的な要因がありえると思います。皆さんも考えてみてください。



【質問4】
キリスト教とイスラームはどうして対立しているのでしょうか?

【回答4】
同様の質問を複数の方からいただきました。この問題は大変に複雑なので、ここでは二つのポイントに絞って考えてみたいと思います。

宗教という観点からみると、キリスト教とイスラームは、いずれもユダヤ教に起源をもつ唯一神を信仰している宗教です。一神教では、神の言葉を聞き取る人(預言者)が現れて人々に神のメッセージを伝えます。

ただし、ユダヤ教、キリスト教、イスラームのなかで、キリスト教だけは、神が自身の子を救世主として人々に遣わした(イエス・キリストのこと)と考えている点が特徴的です。

ムスリムはイエスを預言者としては認めていますが、救世主である神の子だとは認めていません。一方、キリスト教徒はムハンマドを預言者として認めていません。このように、同じ神を信じているはずなのに、神と預言者についての解釈に大きな違いがあるところに、キリスト教とイスラームの間の教理的な対立の根本的な原因があります。

しかし、歴史を振り返ってみるとキリスト教徒とムスリムが常に対立していたわけではありません。むしろ、平和裏に共存している時代・地域の方が一般的だと言えるでしょう。

現在、私たちがよく耳にするキリスト教とイスラームの対立というのは、宗教的というよりは政治的な理由が大きいと思われます。

授業でも説明したように、19世紀以降、中東の諸地域(つまりイスラーム勢力)はヨーロッパの勢力(つまりキリスト教勢力)によって押さえつけられてきました(1798-1901年のナポレオンのエジプト遠征は時代の変化を象徴する事件でした)。

現在焦点となっているイスラエルとパレスチナの対立も、もとを正せば、欧米勢力(キリスト教勢力)の支援によってパレスチナ人(イスラーム勢力)の土地だったところにイスラエルが建国されたという事情があります。

このように見てくると、イスラエルを支持するグループとパレスチナを支持するグループの政治的対立が、キリスト教とイスラームの対立という形をとってきたのだと考えることができます。

むろん、現実の問題にはさらに複雑な要因がからんでいますが、いずれにしても、キリスト教とイスラームの対立を宗教の違いからだけでは理解できないことを指摘しておきたいと思います。



【質問5】
ラトゥ・キドゥルの神話をもって知りたいです。

【回答5】
ラトゥ・キドゥルの話に関心をもっていただき、うれしく思います。ニャイ・ロロ・キドゥルの別名でも知られるラトゥ・キドゥルは、ジャワの文化と社会に深く結びついた神話群を構成しています。

ラトゥ・キドゥルについては以下の論文で詳しく書いているので、そちらを参考にしてください。イスラームを受け入れた社会において、イスラーム以前の伝統がイスラームとどのように折り合いをつけていったのかという観点からラトゥ・キドゥルの神話を分析しています。タイトルをクリックするとPDFで本文を読むことができます。

・青山 亨「南海の女王ラトゥ・キドゥル : 一九世紀ジャワにおけるイスラームをめぐる文化的表象のせめぎ合い」『総合文化研究』no.8, p.35-58,2005.



【質問6】
インドネシアで販売されている味の素の商品が紹介されていましたが、他にも進出している会社はあるのでしょうか?

【回答6】
インドネシアは日系企業が幅広く展開している国の一つで、2012年に1266社が進出していると言われます(帝国データバンク調べ)。これはアジアでは中国、タイについで第3位の数です。なかでも自動車・バイク関連の企業が多いようです。

代表的な企業をでは、自動車のトヨタ、電器のパナソニック、洗剤の花王、食品の日清食品、興味深いところでは学習熟の公文などをあげることができます。詳しくはJETROのサイトを参照してください。

インドネシアは親日的な国として知られていますが、それでも異文化摩擦のリスクは常に意識しておく必要があります。2001年には味の素の製品がハラール(ムスリムに許されている)かどうかをめぐって騒動がおこるという事件がありました。騒動は収まりましたが、イスラームについての理解が重要であることに改めて気づかされるできごとでした。詳細は以下の記事が参考になります。

インドネシア「豚酵母」事件―企業の海外進出と文化摩擦― 「公民・地理の視点」2001年版(教育出版社)




          

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