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【リレー講義】 民族と民族問題の諸相 11月4日

【リレー講義】

2学期水曜日4限のリレー講義「民族と民族問題の諸相」のなかで11月4日・11日・25日の3日間、インドネシアについての講義を担当します。なお11月18日は外語祭の準備日のため授業はありません。

全3回のなかでは、東南アジアの多民族国家としてのインドネシアを紹介し、第1週では国民国家インドネシアにおける多民族の共存を、第2週では国民国家インドネシアに対抗する民族、あるいは国家のなかで対立する民族を、第3週では国民国家インドネシアにおける外来少数民族である華人の位置をとりあげます。

3回の授業を通じて、以下の論文が参考になります。
・内堀基光. 1998. 「民族論メモランダム」田辺繁治編著『人類学的認識の冒険―イデオロギーとプラクティス』同文舘.
・加藤剛. 1994. 「民族と言語」綾部恒雄・石井米雄編『もっと知りたいマレーシア』第2版, 弘文堂.
・石川登. 1997. 「民族の語り方―サラワク・マレー人とは誰か―」青木保編『岩波講座文化人類学 第5巻 民族の生成と論理』岩波書店.

第1週の今日の授業では以下の3点をおさえました。
1. 多民族(多文化・多言語・多宗教)国家の一例としてのインドネシアの概要を理解する。
2. インドネシアの多民族性の歴史的背景を理解する。
3. インドネシアにおける多民族共存の実状を理解する。
映像素材としては「南の国のデパートガール」を使いました。

250部の配付資料を準備して227人分のレスポンス・シートの提出がありました。いただいたコメント・質問の中から代表的なものをとりあげて回答していく予定です。


【質問・コメントへの回答】

レスポンス・シートはすべて読ませてもらいました。出された質問・コメントの中から代表的なものを取り上げて、授業の不足を補いたいと思います。(2009-11-19)


質問1

 人造語であるインドネシア語が形成された経緯と経過を教えてください。

回答1

 ムラユ語は東南アジア島嶼部のスマトラ島およびマレー半島を中心に広い地域にわたって使われている言語です(英語ではMalayと呼ぶので、日本ではマレー語の名前で知られています)。インドネシア語は、インドネシアという国民国家において公用語とされているムラユ語のことです。7世紀のシュリーヴィジャヤ王国の碑文にはムラユ語の古い形である古ムラユ語が使われており、ムラユ語が古くから使われていたことがわかります。その後、15世紀にはマラッカ王国の公用語になり、交易における共通語として島嶼部では広く使われるようになりました。

 1928年の青年の誓いでインドネシア語を(将来の独立をめざす)インドネシアの公用語とすることがうたわれた背景には、すでにムラユ語が広く共通語として使われていたという事実があります。1942年に日本がオランダ領東インドを占領したとき、オランダ語に代わってインドネシア語を公用語とし、この決定がインドネシアの独立後にも引き継がれました。インドネシアの憲法ではインドネシア語を公用語とすることが規定されています。

 なお、マレーシアの公用語としてのムラユ語はマレーシア語と呼ばれています。マレーシア語とインドネシア語はいずれもムラユ語に基づく言語であり、兄弟のような関係にあります。いずれにせよ、このように古い歴史をもったムラユ語に基づいていますから、質問された方のように、インドネシア語を「人造語」と呼ぶのは不適当です。


質問2

 インドネシアでは民族についての教育(民族教育)や国家についての教育(愛国教育)はどうなっていますか?

回答2

 現在のインドネシアでは、インドネシア国民(インドネシア語でbangsa)であることの教育がもっとも重要視されています。必ず教えられる国家五原則(パンチャシラ)の中には国家の統一があげられています。しかし、その一方で、インドネシアには、それぞれの地方にさまざまな民族(インドネシア語でsuku-suku bangsa)が住んでおり、それぞれ固有の文化をもっていることも強調されます。これは国是である「多様性の中の統一」に表されています。学校では、とくに小学校の段階では、各地の民族文化についての教育がおこなわれています。このように、国民国家の中の地方的・文化的な下位区分として民族文化が位置づけられています。

 なお、質問の趣旨とはすこしずれますが、大統領を頂点とする政治権力の中枢をマジョリティであるジャワ人が占めているという現実の結果として、ジャワ人の文化が「あたかも国民文化であるかのように」インドネシア全体に広がっているという事実には注目しておきたいと思います。たとえば、バティックを使った公務員の制服、男性への敬称としての「バパック」(本来は「父親」のこと)、女性への敬称としての「イブ」(本来は「母親」のこと)の使用の広がりなどをあげることができます。つまり、国民国家の文化(国民文化)といっても既存の民族文化から離れた中立的なものではないということです。


質問3

 イスラームの断食月の期間中、ムスリムではない人たちはどうしているのですか?

回答3

 断食月の期間中、ムスリムではない人たちは普段のように食事をしています。昼間も営業している食堂も少なくありません。授業中に紹介したビデオ資料では、ミハルスさんが勤務先の食堂で昼食を食べている場面がありましたが、撮影の時期から考えると、断食月中であった可能性があります。ミハルスさんはキリスト教徒なので昼食を食べていても何も問題がなかったわけです。

 ちなみにミハルスが手を使って食事をしていることに注目した人が何人かいました。手を使って食事をするのは南アジアから東南アジアにかけてごく普通の習慣で、特定の宗教や民族と関係があるわけではありません。なお、左手は不浄な手と考えられているので、右手を使うのが正しいマナーです。

          

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