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【リレー講義】 民族と民族問題の諸相 11月25日

【リレー講義】

リレー講義「民族と民族問題の諸相」の中のインドネシア第3回である今日の授業では、国民国家インドネシアにおける外来少数民族である華人をテーマとして取り上げました。 今週の授業では以下の3点をおさえました。 1. 「華人」、「華僑」、移民政策などをめぐる基本概念を理解する。 2. オランダ植民地期からインドネシア独立後にいたる華人をめぐる状況の変化を理解する。 3. 民主改革期以降の華人をめぐる状況の変化とその意味を理解する。

【質問・コメントへの回答】

3回の講義を終了しました。聞いていただいた受講生には感謝します。今回は3回分あったので多民族国家としてのインドネシアの光と影の両面を多角的に理解してもらえるよう努力しました。それでも、授業時間内には十分に説明出来なかったことがたくさんのあります。レスポンス・シートで出された質問・コメントの中から代表的なものを取り上げて、不足を補いたいと思います。(2009-11-25)遅くなりましたが、期末レポートに間に合うよう回答をのせました。(2010-01-28)


質問1

 なぜ東南アジアに華人が多いのでしょうか?

回答1

 華人は北米やオーストラリアにも多く住んでいますが、もっとも集中しているのは東南アジア諸国(とくにインドネシア、タイ、マレーシア)です。その理由は、簡単に言うと、東南アジアの地理的要因と歴史的要因の組み合わせによると思われます。つまり、中国に比較的近いために歴史的に中国との交流があったこと、そして、近代に入って欧米によって植民地化(タイは除く)されたために華人労働力の需要があったことが理由にあげられるでしょう。


質問2

 インドネシアの華人移住の歴史は長いので、華人かプリブミ(土着のエスニックグループに属する人びと)との区別が外からはつかない人も多いのではないでしょうか?

回答2

 そのとおりです。新来のトトックに対して、プラナカンと呼ばれる人びとは、最初に移住してから数世代が経っており、プリブミとの通婚も進んでいるので、外見的にはプリブミと区別がつかない人が多いのは事実です。プラナカンは、現地の言葉を母語としていますし、イスラームに入信している人も少なくありません。

 逆に、プリブミと見られていても、祖先に華人がいる人も少なくないと思われます。興味深いことに、ジャワの王家であるマタラム王朝の伝承には、王の妃の一人として中国人の王女を迎えたことが語られています。これが歴史的事実かどうかは別としても、王家の系譜の中でさえ華人との通婚の可能性が認められていたことを示している点で興味深いものがあります。


質問3

 華人に対する差別には、国内的な問題だけではなく、冷戦体制も関係があったのではないでしょうか?

回答3

 少なくともスハルト政権期においては、当時の冷戦体制が華人に対する差別の背景にあったことは確かです。スハルト政権の公式見解では、1965年の9月30日事件は、中国共産党の影響下にあったインドネシア共産党につなる一部の軍人のクーデターから始まったとされました。冷戦体制のなかで共産党政権下の中国を脅威とする当時の雰囲気は、スハルト政権による華人に対する制度的差別の口実になりました。


質問4

 なぜインドネシアでは異民族間の軋轢が少ないのでしょうか?

回答4

 最初に言っておくべきことは、異民族が一つの国家に住んでいても、ただちに軋轢が生じるわけではありません。また、軋轢があっても、ただちに暴力的な紛争になるわけでもありません。政治的、経済的な条件が変化する中で軋轢が生じるし、軋轢にもいろいろなレベルがあると考えた方がよいでしょう。

 質問に対する適切な回答は困難ですが、一つ言えることは、インドネシアの場合、異民族間の「住み分け」の伝統が長い歴史の中で作られてきたことが、軋轢の少なさにつながっているように思われることです。たとえば、インドネシアでも、カリマンタンではダヤク人とマドゥラ人との間で紛争がおこっています。これは、森林を生業との場とするダヤク人が住み着いてたところへ、政府の移民政策によってマドゥラ人が移住してきたことが原因です。異民族間の住み分けが崩れると、新しい均衡が作られるまでは、軋轢が続くのように思われます。


質問5

 インドネシア人にとって、国民意識と民族としてのアイデンティティのどちらの帰属意識が強いのでしょうか?

回答5

 アイデンティティの問題は主観的な要素がはいってくるので、一律に説明することは困難です。ただし、アイデンティティは状況によって変化するものであり、多重なものでありえることに注意しておく必要があります。同じインドネシア人が、国内では「ジャワ人」と感じていても、国外では「インドネシア人」と感じることはありえるでしょう。この場合、ジャワ人であり、インドネシア人であることは、矛盾したアイデンティティではないわけです。あえて言えば、出身地域で同じ民族に囲まれて生活している限りは、インドネシア人である前に、その民族に対する帰属意識の方が表面に出てくるように思われます。


質問6

 インドネシアの歴史について分かりやすい本を教えてください。

回答6

 スハルト体制以後まで記した日本語のインドネシア通史があればよいのですが、見あたらないようです。そのなかで、インドネシアの高校で使われている教科書の日本語版『インドネシアの歴史』(明石書店、2008年)は、インドネシアの視点で書かれており、教えられる点があります。

          

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