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コロナ禍の記憶と記録 〜当時の執行部が語る5年〜

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新型コロナウイルス感染症の流行拡大から5年を迎えました。いわゆるコロナ禍において本学の教育・研究環境も様変わりし、オンライン授業への移行、留学(派遣・受入)の延期・中止、部活動やサークル活動の制限など、さまざまな対応が求められました。

このたび、2020年度に執行部としてコロナ対応に当たった林佳世子前学長、武田千香理事・副学長、青山亨副学長が当時の対応の背景などを振り返る公開座談会を開催しました。座談会の一部をご紹介します。

《座談会参加者》

  • 林佳世子前学長(以下「林前学長」)
  • 武田千香理事・副学長(当時、社会貢献、学生支援等担当副学長)(以下「武田」)
  • 青山亨副学長(当時、大学院総合国際学研究科長)(以下「青山」)
  • 司会:篠原琢教授(大学文書館副館長)(以下「篠原」)

《日時・場所》

  • 日時 :2025年11月28日(金) 14:20~15:50
  • 場所 :研究講義棟2階 227教室

《基礎資料》

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篠原(司会)  新型コロナウイルス感染症(以下「コロナ」)は2020年1月末から報道が始まり、大学として全面的にオンライン体制へ移行したのは同年4月でした。その過程で作成された文書は、現在、文書館に移されています。しかし、文書だけでは当時の状況が十分に伝わらない部分もあります。 今回の企画は、文書だけでは把握しきれない点について、当時執行部にいらした林先生をはじめ、関係の先生方からお話を伺いたいという思いから始まりました。

まずは、林先生に本日のためにさまざまな写真をご用意いただきましたので、それらを拝見しながら、お話を伺ってまいりたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

林前学長が語る「コロナ対応の経過」

■コロナ初期対応について

林前学長  皆さんこんにちは。お久しぶりでございます、林です。コロナが中国を起点に広がり始めた際、大学として最初に対応したのは、大学院入試で中国から直接来日する受験生の皆さんをどのように扱うか、という点でした。 その後、3月2日から政府の指示で小学校などが休校となり、職員の在宅勤務をどう進めるかという対応が始まりました。

さらに、「これは非常に厳しい状況だ」「新学期の授業は実施できそうにない」という見通しが出てきました。同時に、2月後半から3月にかけては、卒業式や入学式をどうするかという課題が怒涛のように押し寄せてきました。最初に決めたのは、「保護者の方にはご参加いただかず、学生のみで卒業式を実施する」という方針でしたが、間もなく「卒業式そのものが実施できない」という判断に至りました。ただ、卒業式当日には、着物姿の卒業生たちが大勢大学に集まっていて、「さすが東京外大生は言うことを聞いてくれないな」と思ったのが、今となっては懐かしい思い出です。多くの人が集まったことで、当時はSNSで「これで感染が広がったらどうするんだ」といった声もありました。一方で、4月から新生活を始める学生たちのことを思うと、「ここで感染してしまったら」という心配は、大学として当然ありました。卒業式の中止は多くの大学が同じ判断をしていましたし、やむを得ない決断だったと思っています。

2020年3月25日中止になった卒業式当日(林前学長提供)

4月以降をどうするかについては、卒業式の対応を決めた3月9日の段階で、すでに方針を固めていたことが記録から分かります。当初は、「4月20日に授業を開始し、ゴールデンウィークまではオンラインで実施する」という内容を発表しました。その後、青山先生方のご尽力もあり、大学として「Zoomを使って授業を行う」という方針が定まりましたが、当時はまだ「Zoomとは何か」という段階でしたので、教員同士でZoomの練習会や講習会を何度も開催していただきました。第1回は3月19日で、4月20日の授業開始に向けた準備だったと記憶しています。

4月20日からのオンライン授業がどの程度うまくいったかは、学生の皆さんが直接体験された通りですが、研究講義棟は基本的に立ち入り禁止となりました。教務課、教育情報化支援室、そして2020年に設置されたばかりのタフサポ(TUFSアカデミック・サポート・センター)には、本当にお世話になりました。「今日のオンライン授業は問題なかったか」を、毎日、互いに確認し合っていましたね。

研究講義棟は本当に閑散としていて、人影がまったくない日々が続きましたが、大学の事務職員の皆さんや大学執行部は、毎日大学に出て右往左往していました。

閑散とするキャンパス(林前学長提供)

■秋学期の対面授業の再開に向けて

林前学長  私たちとして、この時期に何より心配していたのは、秋学期以降、対面授業をどのように再開するかという点に尽きていました。どうすれば授業が実施できるのかを毎日のように議論し、「オンラインと対面をどのように組み合わせるか」について、5月・6月にかけてさまざまな検討を行いました。一時は、昼休みを長く確保し、午前中はオンライン授業、昼休みに電車で大学へ移動し、午後は対面授業を受けるという仕組みができないかと考えたこともありましたが、これは実現しませんでした。最終的には、1・2年生の専攻語の授業と教養外国語の一部を対面で実施し、ゼミも対面、それ以外は基本的にオンラインとする形でルールを定め、秋からの授業に備えました。この間、突貫工事で教室内のWi-Fi環境の改善や手洗い場の設置などが行われました。いわゆる「Zoom部屋」と呼ばれるようになる、パーティション付きの部屋も用意しました。アクリル板が品薄だったため、最初は段ボールで手作りしたものを見本にして業者さんが大量生産したのですが、手作り時代のクリップがなぜかそのまま残っていたのを覚えています(笑)。

パーティションの並ぶZoom部屋(林前学長提供)
WiFiがひっ迫しないよう各教室の接続状況を監視するモニターも設置された(林前学長提供)

そして10月になり、学生の皆さんが大学に戻ってきました。本当に嬉しかったですね。ただ、ご家族に高齢者がいる方や基礎疾患のある方など、授業に来られない学生への対応も工夫しました。クラスの中に出席できない学生がいる場合は、教室に配信係を配置し、対象となるすべての授業を配信して、自宅でも受講できるようにしていました。

再開した秋学期のオンライン配信・対面併用の授業

■2021年度留学の復活に向けて ~四大学連合によるワクチン接種~

林前学長  東京外大はやはり留学が命の大学ですので、2020年度は派遣留学が決まっていた学生の皆さんにも全員断念していただかざるを得なかったことが、本当につらい決断でした。2021年度、2年目には「なんとしても留学に行ってもらいたい」という思いが強くありました。そのため、四大学連合を通じて当時の東京医科歯科大学にご協力いただき、学内でのコロナワクチン接種を実施しました。まずは派遣留学が決まっている学生を優先的に接種することができました。ワクチンを接種していないと海外に出られない状況でしたので、留学予定の学生には一日でも早く接種してもらいたいと考えていました。

四大学連合によるワクチン接種(林前学長提供)
事務局棟の1階のエントランスホールにワクチン接種のための受付を設置。受付は事務職員が務めた(林前学長提供)

2020年度中は、コロナ陽性者は一定数出ていましたが、幸い、重篤な状態になった学生はいなかったと記憶しています。ただ、緊急事態宣言が出るたびにクラブ活動が一時中止になったり、濃厚接触者の特定に追われたりと、現場は本当にてんやわんやでした。 2021年度になると、授業は相変わらずオンラインと対面の併用でしたが、基本的には正常化に向かっており、「注意しながら日常を取り戻す」「何か起きたときには柔軟に対応する」という形に移行していったように思います。

101マルチメディアホールもZoom教室として使用された(林前学長提供)

座談会

■オンライン授業の導入について ~「Zoomって何?」~

篠原  3月9日という非常に早い時期に、オンライン化とZoomの導入が決まったとのことですが、今でこそZoomによるオンライン授業は当たり前になりましたが、当時はほとんど誰もZoomを知らなかったわけですよね。それで全授業をオンラインに移行するというのは、今から考えると非常に大胆な決定だったのではないかと想像しますし、技術的な課題も多かったのではないかと思います。当時の学長室会議の様子や、話し合いの雰囲気を覚えていたら教えてください。

林前学長  オンライン化を決めた理由は、留学生が来日できないことが明らかになっていた点が大きかったと思います。ヨーロッパも中国もロックダウンしていましたから…。学部・大学院の正規生が数十人、日本に入国できないことがはっきりしており、海外にいる学生と日本にいる学生に同じ授業を提供するにはオンラインしかない、という判断でした。技術的には、本当に「Zoomって何?」という時代でしたので、青山先生や中山先生が「できますよ」とおっしゃってくださったことを頼りに、試しながら進めようと思いました。前年度あたりからCOILプロジェクトでZoomを使っているという話は聞いていましたが、学生全員がパソコンを持っているのか、先生方が自宅から授業できるのかなど、不安は多くありました。うまくいくかどうか心配でしたが、「とりあえずゴールデンウィークまでやってみよう」という感じでした。その頃には「GW頃には留学生も来日できるのでは」と2月・3月の段階では思っていたんです。本当に先が読めませんでした。ただ、3月後半になると「どうもそうではなさそうだ」という雰囲気になっていた気がします。武田先生、覚えておられますか。

武田  学長室会議で林先生が「Zoomというものがあるらしいよ、いいらしいよ」とおっしゃったのは、はっきり覚えています。ただ、私自身Zoomを全く知りませんでしたし、オンライン授業の経験もなかったので、個人的には「これは大変なことになった」と思いました。「4月から本当にできるのだろうか」と不安でした。Zoomの講習会があり、実際に使ってみて、掲示板も試して、「うまくいかないね」と教員同士で何度も練習したのを覚えています。

篠原  言っても仕方ない部分もあると思いますが、オンライン授業でも授業として成り立つのか、という議論はありましたか。

林前学長  私は最初、オンデマンド型の教材をもっと多く作っていただくことになるのではと思っていました。リアルタイムよりも、オンデマンド用のビデオを準備しておいた方が安心ではないかと。しかし蓋を開けてみると、やはりリアルタイムの方が授業としての臨場感や説得力があるということで、そちらが主流になりましたね。

篠原  もともと知り合いの学生であれば、オンライン授業も対面授業の変種として捉えられるかもしれません。しかし、新入生を迎える時期でもありますよね。初対面からオンラインで、人間関係が築けるのかという点について、当時何か議論はありましたか。

林前学長  議論というより、「仕方がない」という状況でした。ただ、授業開始前に学部単位や専攻語単位で2回ほどオリエンテーションを行い、Zoomで集まって「お互いに慣れましょう」「自己紹介をしましょう」といった機会を設けましたよね。日本中・世界中がロックダウンで「ステイホーム」と言われていた時代でしたから、多少の無理も受け入れられていたのではないかと思います。

■学生対応について ~コロナによる大学生活・将来計画の狂い~

篠原  武田先生に、学生対応について伺います。

武田  コロナ禍で最も印象に残っているのは、学生相談室の対応です。学生からの相談が非常に増えました。学生相談室は2020年4月8日に一度閉室しましたが、「やはり相談に乗らなければならない」ということで、4月14日から週3回の開室に踏み切りました。ただし対面は難しかったため、遠隔相談での対応となりました。そして7月からは週5日の体制となり、電話かZoomで相談を受けていました。

相談件数は4月から7月にかけて急増し、8月にいったん落ち着いたものの、その後も多くの学生から相談が寄せられました。内容としては、「コロナによって思い描いていた大学生活や将来、進路が見えなくなり、人生計画が狂ってしまった」という、将来への大きな不安が中心でした。コロナは「いずれ終わる」と思っていたものの、長期化が明らかになるにつれ、不安が増すばかりだったようです。

もう一つ、本学ならではの特徴的な相談として、留学に関するものがありました。留学を前提に本学に入学したのに留学できないことが、「非常に大きな衝撃」「人生の大きな誤算」だったという声が多くありました。さらに、いざ留学が再開されると、国によって行ける・行けないの差が生じ、行ける学生はどんどん行く一方で、行けない国の言語を学んでいる学生はなかなか行けない…。そうした“格差”のような状況に悩む学生もいました。就職活動では、特に航空業界や旅行会社が大きな打撃を受けました。そうした業界を志望して東京外大に入学した学生にとって、就職が難しいと分かった時のショックは非常に大きかったようです。

徐々に増えてきた相談としては、人との関わりが減ったことによる悩みがありました。「ステイホーム」が続く中、自宅で悶々と考え込む時間が増え、なかには思い出したくない過去がフラッシュバックする学生もいて、精神的に沈んでしまうケースが多く見られました。 こうした状況を受け、オンラインで夜間も対応可能なメンタルヘルス・カウンセリングサービスを導入しました。

■コロナの課外活動と学生支援について ~感染者・濃厚接触者の届出~

武田  課外活動は一度すべて停止しました。6月1日からオンラインでの活動を許可し、夏頃から徐々に対面での活動も認めましたが、その後は毎日、誰が活動しているかを必ず届け出てもらいました。そこで感染者が出ると、「どこまでが濃厚接触者か」「何日前まで活動していた人に連絡し、休ませる必要があるか」といった対応を行いました。また、届け出を怠った場合は一週間の活動停止とし、活動するメンバーには体温を測って報告してもらいました。37度以上は活動不可、というルールでした。振り返ってみると、この時期にさまざまなガイドラインが整備されたことが分かります。学生相談では遠隔相談のガイドラインが作られ、オンライン授業における障害のある学生への対応ガイドラインも整備されました。課外活動についても施設利用ガイドラインや、利用時のセルフチェックリストなどが作成され、とにかくガイドラインが次々と生まれた時期でした。

2020年度には、政府による「学びの継続のための学生支援緊急給付金」に加え、本学独自の無利子の緊急奨学金制度も設けました。経済支援以外にも、東京外語会のご支援を受けてフードパントリーを4回実施し、生協の食券5,000円分を2回にわたって配布しました。さらに、100円朝食や100円弁当など、食の支援も多岐にわたり実施しました。

東京外語会をはじめ多くの大学関係者・地域の方から支援を受けてフードパントリーを実施した。(林前学長提供)

■留学について ~「留学あっての本学」~

篠原  先ほど少しお話がありましたが、当時、海外にいた派遣留学生、4月から受け入れる予定だった留学生、そして一部の外国籍教員など、海外にいる学生・教員をどのように把握していたのでしょうか。これも緊急対応だったと思いますが、その際の緊張感はいかがでしたか。

林前学長  留学生については、留学生課が日々奔走してくれて、メールを通じて「どこに誰がいて、今安全かどうか」「来日が再開した時期にはビザの状況はどうか」「いつ日本に入国できそうか」などを把握していました。 日本から海外に派遣されていた学生については、全員に帰国指示が出ていたため、派遣留学を切り上げて帰国せざるを得ませんでした。本当にかわいそうでしたが、JASSOの奨学金は止まり、飛行機も飛ばなくなり、どうしようもありませんでした。こちらはトビタセンター(留学支援共同利用センター)が毎日リストを更新し、一人ひとりと連絡を取りながら対応していました。大学としての判断においては、留学生が来日できないという状況が非常に大きなことでした。大学院生はもちろん、国際日本学部の留学生の多くが来日できないことが分かっていましたから。留学生と日本人が共に学ぶ大学であるゆえに、やるべきこと、避けられないことがたくさんあったと思います。

篠原  その危機感は、大学の性格にも関わる本質的なものでしたよね。産業界もそれに応じて変わっていくかもしれないという課題もありました。最初の段階では、私たちも「ゴールデンウィーク明けにはなんとかなるのでは」「夏までの我慢だ」と根拠なく考えていた記憶がありますが、より本質的で長期的な対策が必要だという議論は、いつ頃から始まったのでしょうか。

林前学長  「留学あっての本学だ」ということを、このプロセスの中で改めて皆が実感しました。それが叶わなかった学年があることは、今でも申し訳なく思っています。私たち大人にとっては人生の中の「一年」ですが、大学1年生という時間は一生に一度しかありませんし、2年生も同じです。学生さんたちはその一度きりの日々を生きているのだから、「その年にやるべきことを何とか実現させてあげたい」という思いが常にありました。2020年の秋から対面授業をどうしても復活させたいと思ったのも、授業そのものはオンラインでうまくできるかもしれませんが、「人と会えないまま大学生活を終えるなんてありえない」というのが、皆の共通の思いだったからです。その思いが、秋に向けたさまざまな対応の基盤になっていたように思います。

■zoom採用の背景について ~「旗振り役」の立場から~

篠原  青山先生に、情報関係の対応について伺います。

青山  東京外大では『教育白書』を毎年発行しておりまして、私が教育担当の副学長になった際の『教育白書』2023年版では、コロナを振り返る特集編を作ろうと提案し、その中に自分の経験をもとに記事を書きました。基本的に私がお話しする内容は、その特集に記したことと重なりますので、それを振り返りながらお話ししたいと思います。

まず、東京外大として特に大きな特徴だと感じたのは、留学生の存在です。2020年になると、海外からの留学生が日本に入国できそうにないという状況が次第に明らかになってきました。東京外大は派遣も受入もある大学ですが、とりわけ受入留学生が来日できない中で教育をどう維持するかを考えた結果、授業はオンラインで行うという結論に至りました。いずれ対面に戻るだろうという見通しはありましたが、対面が可能になる時期を待っていたら授業開始がいつになるか分からない。であれば、対面再開のタイミングが明確になるまでは、まずオンライン授業を確立しようという発想だったと思います。私の記憶では、オンライン移行が決定した3月9日は月曜日でした。その前の週に政府から矢継ぎ早にさまざまな方針が出され、その対応として週明けの3月9日に臨時の大学執行部会議が開かれ、そこでオンライン授業への移行が決まりました。

「なぜZoomだったのか」という点ですが、今ではZoomを知らない人の方が珍しい時代になりましたが、当時はZoomを知っている人はほとんどいませんでした。私自身、オンラインで音声と映像を使った通信の経験としてはSkypeがありました。Skypeは比較的知られていましたが、送る側・受ける側の双方がアプリを導入しなければならず、使い勝手が悪いという印象がありました。もう一つ、Polycomというシステムも当時は知られていました。大学の世界展開力事業でアメリカの大学と遠隔授業を行う際に使われていたのですが、Zoomと見た目は似ていても、数十万円する高額な設備を双方の大学に設置し、その設備のある部屋に集まらないと授業ができない仕組みでした。実用性という点では難しいものがありました。

そうした中で、2020年の前年あたりから欧米で「Zoomというものがあるらしい」という話を耳にしていました。パソコンがネットにつながっていればすぐに使えるという点が大きく、「これならできそうだ」という判断で「Zoomでやりましょう」と決めました。もちろん、やってみないと分からない部分もありましたが、選択肢が限られていたこともあり、「これでいくしかない」ということで3月9日に決定したのだと思います。私も多少の情報を持っていましたし、現在研究担当の中山副学長も詳しかったので、このあたりのメンバーが中心となってZoom導入を進めました。

■コロナのレガシー ~オンライン体制の整備~

青山  今回の一つのレガシーと言えるのは、オンライン体制を整えたことだと思います。もちろん、将来起こり得る次のパンデミックに備えるという意味もありますが、平常時であっても、合理的配慮が必要で授業に出られない学生や、海外に滞在していて日本の授業に参加できない学生、逆に海外にいる教員が日本の学生に授業を行う場合など、このハイブリッド体制は非常に有効です。遠隔地とのオンラインでのやり取りという発想自体は以前からありましたが、コロナの経験がなければ、これほどの規模で一気に進むことはなかったと思います。

武田  Zoomが当たり前になったことが一つのレガシーだとすれば、海外から授業を配信してもらえるようになり、それが普通になったこともまた大きなレガシーだと思います。私はポルトガル語専攻の教員ですが、2020年の秋からはリオデジャネイロ州立大学から授業を配信してもらうようになりました。現在はダブルディグリー・プログラムも実現していますが、それも当時築いた信頼関係があったからこそ発展させることができました。海外との授業のやり取りが可能になったことは、コロナが深刻な禍であったにもかかわらず、その経験をプラスに転じられた側面だと思います。あれほど苦しい思いをしたのだから、その遺産は生かすべきだと私も感じています。

■コロナ期間中一番厳しい状況について

篠原  この二年半の間で、最も厳しい状況というのは、どのような時、どのような問題だったのでしょうか。

林前学長  当初は、先が見えず、どうなるのか分からないという状況が本当に大変でした。また、2020年度は春学期の終わりまで全面オンラインとすることになりましたが、成績評価などについて「やはり難しい」という声が多く上がりました。その対応策がすぐには思い浮かばず、「できるかどうか分からないけれど、やってほしい」とお願いするしかなかったのは、とても辛かった記憶があります。

篠原  ありがとうございました。2020年当時、中学2年生だった人、小学6年生だった人、大学1年生だった人など、世代ごとに異なる経験をしています。この世代的な経験がボディブローのように効いて、社会にどのような変化をもたらしていくのかは、今後5年、さらにその先を見据えて、皆で考えていかなければならない課題だと思います。それでは、林先生、武田先生、青山先生、本日はどうもありがとうございました。ご参加いただいた皆さんにも、心より御礼申し上げます。

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TEL 042-330-5842
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