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大学から高校の教育現場へ(英語教育・世界史教育)

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東京外国語大学の言語文化学部では、中学、高校の外国語、国際社会学部では中学の社会科、高校の地理歴史科の一種免許状の取得が可能です。実際、難関を乗り越えて、中学・高校の英語の先生、高校の世界史の先生になっている卒業生も数多くいます。こうした卒業生のみなさんに声をかけ、2014年に「東京外国語大学校友教員の会」(略称「TUFS校友教員の会」)が発足しました。まだまだスタートしたばかりの本会ですが、全国で活躍する本学卒の中学・高校の先生方と教員をめざす本学学生の参加をえて、互いに有益な会への発展を目指しています。

今回のTUFS Todayでは「TUFS校友教員の会」の活動をご紹介します。またそれに関連し、本学が高校世界史の先生方を対象に実施している「世界史セミナー」をご紹介します。こちらはすでに7回開催し、夏の行事として定着してきました。本学の中等教育への貢献に注目ください。

東京外国語大学校友教員の会(略称「TUFS校友教員の会」)

上述のように、本学を卒業して、英語を中心に、中学・高校で教鞭をとられている方々は全国に大勢いらっしゃいます。そうした先生方を組織して、2014年度に「東京外国語大学校友教員の会」(略称「TUFS校友教員の会」)がスタートしました。

第1回は2014年7月26日(土)。オープンキャンパスの日に合わせて「第1回TUFS校友教員懇談会」を開催しました。本学根岸教授が本学の教員養成の現状や、現在のスタッフの英語教育研究の一端について講演しました。初回にもかかわらず、約20名の参加をえました。

続く第2回は2014年11月24日、秋の外語祭期間中に実施。これには教員志望の本学学部生・大学院生も参加しました。本会では、桐朋中学校・高等学校の田中敦英先生から「『これからの英語教師』で育った英語教師の、これまでとこれから」と、東京学芸大学附属高等学校の瀬戸口亜希先生から「コリア科卒の英語教師」のお話をいただきました。参加者は50名を超えました。

第3回は今年の7月12日に開催しました。本会では、本学から井之川睦美先生と川口裕司先生がそれぞれ「English Learning Center」と「TUFS言語モジュール」を中心に、外国語教育の最近の取り組みを紹介しました。また、東京都立国際高等学校の平田大悟先生に「都立高校での12年間」と題する講演をしていただきました。

今後は夏のオープンキャンパスの日と秋の外語祭期間中という年2回のペースで、懇談会を開催する予定です。なるべく多くの卒業生・在学生に教職に関する情報交換の場をご提供できるようになればと願っております。

「TUFS校友教員の会」メーリスにご登録ください

「TUFS校友教員の会」は東京外国語大学の卒業生で、専任・非常勤を問わず小・中・高の教壇に立っておられる方々、また、教員免許状の取得を目指す現役学生(卒業生を含む)を対象としています。教科は外国語科(英語、ほか)だけでなく、国語科、社会科の教員(および志望者)の方々も参加もお待ちしています。

まずは「TUFS校友教員の会」のメーリング・リストに加わっていただければ幸いです。ぜひ下記までご連絡ください。

連絡先:alumni[at]tufs.ac.jp([at]を@に変えて送信ください)

世界史セミナー

本学が高校の教育現場と結んでおこなっているもう一つの活動が「世界史セミナー」の開催です。本学の海外事情研究所が主催し、高校世界史の先生方の参加を呼びかけています。本学では世界諸地域の歴史研究が活発に行われていることから、こうした歴史研究の最前線をお伝えし、世界史の教育に活かしていただきたい、というのがその趣旨です。

今年は7月27日~28日の間に実施され、160名の参加者をえました。

参加いただいた先生方からの声をご紹介します。

東京都立立川国際中等教育学校 塚原先生

2回目から毎年来ています。明後日全国歴史教育研究協議会のシンポジウムで小中高大の歴史教育で大学との連携についてパネルディスカッションを行う予定です。昨日午前中に行われた高大の歴史教育の連携に関するお話しを聴いて大変参考になりましたし、自分が日頃思っていることを参加者の皆さんも同様に感じていたということがわかりましたので、今後に役立てていきたいと思います。

講義についても、普段はある意味ルーチンワーク的に授業を教えていますので、こういった新しい研究成果の話を聴き知的な刺激を受けらるのはとても楽しいです。ここで学んだことをそのまま高校の現場で話すことはないにしても、教員自身が「学ぶ」ということを忘れないためにも、とても有意義な機会です。

成田高等学校 深田先生

ここ数年参加しています。新しい視点で見たり、いままでにない世界史の見方を考えるきっかけになっているので、毎年楽しみにしています。

今年の内容は、どんなものだったのでしょうか?ここでは、要旨をご紹介します。

講義1 飯塚正人「なぜいまISなのか-近現代イスラーム(思想)史から考える-」

いまや世界の注目の的となっているIS。彼らの出現と急成長の背景には多元的・複合的なものがあり、今世紀に限ってみても、2003年のイラク戦争や2011年以降のいわゆる「アラブの春」、特にシリア内戦とイラク情勢を抜きにしては語れない。しかしながら、ここではもっと長いタイムスパン、すなわち19世紀に遡る近現代イスラーム(思想)史の観点から、なぜいま、時代錯誤にしか見えないISのイスラームが一部のムスリムをこれほどまで強烈に引きつけるのかを考えてみる必要がある。19世紀に入って西欧諸国がムスリム諸国を圧倒し始めたとき、ムスリムのうちのある者は西欧流の政教分離に基づく国民国家の建設を目指し、またある者は過去のイスラーム解釈を再検討して近代にふさわしいイスラームを産み出そうとした。しかるに、この2つの試みが必ずしも成功しないなか、1970年代以降はいわゆる「イスラム原理主義」が高揚する。ムスリム自身が何をイスラームと考えるのか、あまりに多様な主張が乱立する時代だからこそ、人は「原理主義」のわかりやすさに引きつけられるのだろう。思想史的に見れば、ISはこうした流れのなかで生まれた鬼子に他ならず、だからこそ根が深いのである。

講義2 金井光太朗「合衆国独立再考」

「代表なければ課税なし」、自由・平等・幸福の追求、アメリカ合衆国の独立は非常に分かりやすく説明されている。しかし、その解釈はその後の合衆国の発展から構築され正当化されたものであろう。まず、本国の統治はどのようなものであり、アメリカ人はなぜ反抗したのであろうか。また、当時主権国家として独立することは万国公法が支配する国際社会に参加するのであり、政府は国民が求めることをただ執行するのでは済まない。広大な西方の土地も他者を排除し自由に開拓するわけにはいかなかった。「万国」の認める枠内で、イギリス帝国、スペイン帝国、先住民、アフリカ系奴隷との関係を作ってゆかなければならない。そうした制約を脱して合衆国が目指した独立を実現しアメリカ的自由を達成したのが、モンロー・ドクトリンなのであった。西半球ではアメリカ的自由が正当価値となり、アメリカの世紀、20世紀にはグローバル・スタンダードとなった。

講義3 小田原琳「「記憶の日」と「追憶の日」-戦後イタリアにおける歴史認識と記憶の分断-」

イタリアでは2000年代に、第二次世界大戦にかかわるふたつの記念日が制定された。「記憶の日」(1月27日)は、アウシュヴィッツの解放と、イタリアにおけるユダヤ人迫害の歴史、迫害に抵抗したひとびとを記念するものである。一方「追憶の日」(2月10日)は、第二次大戦後のイストリア、フィウメ、ダルマツィア(旧ユーゴスヴィア)からのイタリア人の脱出と、共産党勢力によるイタリア人虐殺事件の「記憶を保存する」記念日にあたる。記念日とは、どのようなできごとを、だれを、だれが記念するかという意図において、国家と国民の歴史的な自己認識を顕在化させる。このふたつの記念日には、イタリアの20世紀前半の帝国主義、人種主義、ファシズム、戦争の経験と、それらの過去をめぐる歴史認識の問題が凝縮されているといえよう。本講義では、このふたつの記念日が言及する事件や制定の背景の検討を通じて、今日のイタリアにおける過去との向き合い方を考察した。

講義4 吉田ゆり子「日本近世社会とキリシタン」

「鎖国」体制が敷かれた理由の一つがキリスト教の禁止であったことはよく知られている。しかし、九州における「潜伏キリシタン」の存在とそれに対する幕府の弾圧、あるいは大塩平八郎により摘発され、文政11(1828)年に幕府評定所で審議された水野軍記と豊田貢や周辺の人々を巻き込んだ「邪宗門一件」、明治2(1869)年長崎五島でのキリシタン弾圧に対する列強からの抗議等にみられるように、近世を通じてキリシタンに関わる事件は起きた。幕府は、キリシタン禁止という一貫した建て前をとるものの、200年以上の時間の経過とともに、社会の実態と幕府の認識も変化していった。さらに、幕末、居留地でのキリスト教信仰を容認するに至る経緯の中で、ロシア使節プチャーチンとの折衝の中でキリスト教信仰についての認識が現れてくる。今回の講義では、こうしたキリスト教の問題を、「鎖国」に至る過程のみならず、近世を通した視点からとらえなおし、日本社会のキリシタンの実態を解きあかすとともに、幕府の対応、また幕末維新期の諸外国の対応を改めて検討した。

講義5 小松久男「イスラーム世界と日本を結んだ男-アブデュルレシト・イブラヒム(1857-1944)」

最近イスラーム世界の動向が日本のメディアに報じられない日はない。こうした中で、イスラーム世界を理解する必要が指摘されているが、イスラーム世界を歴史的に遠く離れた世界と考える傾向はなお根強いように思われる。しかし、日本の近現代史はイスラーム世界のそれと交錯する面をもっていた。今回はその具体的な事例を、ロシア生まれのタタール人イスラーム教徒アブデュルレシト・イブラヒムの活動を通して考えてみたい。1909年に初来日した彼は、日露戦争に勝利した日本を列強による支配からの解放を望むイスラーム世界の盟友と認め、日本のアジア主義者たちと親交を結んだ。以後、彼の活動は戦前日本の対イスラーム政策と密接に関わることになる。

講義6 菊池陽子「歴史をいかに伝えるか-ラオスにおける歴史認識の変化と記念日、記念碑-」

ラオス人民民主共和国(以下、ラオス)は、1975年12月2日に成立した。1975年、インドシナの政治状況が大きく変化する中で、カンボジア、ベトナムに続いて、最後に成立した社会主義政権がラオスだった。社会主義国家の建設を目指したラオスの現政権は、ソ連のペレストロイカ、東欧諸国の民主化、ソ連の解体、アセアン10の成立など、ラオスを取り巻く国際環境の変化に対応して、現在、数少ない社会主義政権として存在している。現政権はラオス人民革命党による闘争の歴史に支配の正当性を求めてきたが、国際環境の変化に応じて、正当性を維持するためにいかにラオスの歴史を語るかという歴史の語り方を変化させてきた。本講義では、その変化を紹介するとともに、そうした現政権の歴史認識を国民にいかに発信しているかを記念日や記念碑から考察した。

最後に、大川正彦海外事情研究所長からのコメントをお届けします。

これまでも世界史セミナーに可能であれば参加してきたが、今回は海外事情研究所所長という意気込みで(?)参加させていただいた。いつもながら感ずるのは、そこに参加される先生方の熱い情熱と、それを促す日々の教育実践で出会っているだろう高校生たちの姿だ。

海外事情研究所所長としての挨拶では、こうした先生方の熱意にも圧されながら、わたしは、わたしじしんの日々の教育での実践というか、挫折と失敗の話を少しばかりした。お昼の懇親会の席で、二人の先生からお声をかけていただいた。お一人からは、「外大では、高校でのアクティヴ・ラーニングを考慮した入試を考えていますか?」と尋ねられた。“教育の場で悩むのであれば、入試のありかたから考え直してみてはどうか?”というヒントとして受け止めた。もうお一人からは、世界史が好きな高校生はどんな高校生か、をご自身の体験から教えていただいた。本を読むのが好きで、“今日はどんなお話?”と、聞くのが好きな人たちだという。よほど面白いお話をされる先生なのだろう、ぼくもまた聞いてみたいものだ、と思った。

同僚の授業を聞くのも貴重な体験だった。同僚や高校の先生方との会話から学ぶものは多い。来年もまた参加させてもらうべく、こちらはこちらで日々の実践を積み重ね、またいろいろとお尋ねしたいと思っている。


高校の教育と大学の教育を正しく接続していくことは、現在の日本の教育の課題でもあります。本学の以上の取組は小さな一歩ではありますが、大きなうねりをつくる可能性を秘めていると確信します。どうぞご注目ください。

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