2020 新任教員・退任教員紹介
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2020年に新規に赴任された先生方、退任された先生方を紹介します。
新任教員紹介
今年、東京外大のメンバーになった方々からコメントをいただきました。
加藤 久子 / KATO Hisako
世界言語社会教育センター 特任助教
歴史学と社会学を中心にポーランドについて研究しております。本学では博士前期課程ダブルディグリープログラム「公共圏における歴史(HIPS)」のコーディネータを務めます。既に皆様より、HIPSには世界中から学生が集まるって本当?本学の授業料だけで3セメスターも留学できるのはなぜ?など、多くのお問い合わせをいただいております。なぜか。それはぜひご自身の目で確かめてください。
舛方 周一郎 / MASUKATA Shuichiro
世界言語社会教育センター 講師
国際関係論と比較政治学を専門として、現代ブラジル政治を中心に研究してきました。異動に際しては、愛着ある前任校を去るか悩みました。ただ学問のため、次の世のため、日本におけるブラジル研究者のバトンを次世代の研究者に渡すまで、自身がその役割を果たすことが今の時代にブラジル研究に携わる者の使命だと気づき決心がつきました。今後も「その仕事なら舛方がいるよ」と皆様に思ってもらえるように精進してまいります。
川本 智史 / KAWAMOTO Satoshi
世界言語社会教育センター 講師
専門は都市史・建築史で、主に前近代オスマン朝を研究対象としています。現代トルコ語の成立以前に用いられていたオスマン語や、その他のヨーロッパ諸語の文献を通して、都市・建築空間とそこでの人々のいきいきとした活動を描き出すのが醍醐味の分野です。喧噪と魅力に満ちたオスマン社会の諸相を、学生のみなさんに授業やゼミの中でお伝えすることができれば幸いです。
嶋原 耕一 / SHIMAHARA Koichi
世界言語社会教育センター 講師
初めまして、嶋原耕一と申します。2020年4月、世界言語社会教育センターに着任いたしました。日本語教育と多文化共生を専門としております。早く新型コロナウイルスが収束し、学生の皆さんに対面でお会いできることを、楽しみにしています。どうぞよろしくお願いいたします。
大鳥 由香子 / OTORI Yukako
世界言語社会教育センター 講師
専門はアメリカ研究、歴史学です。アメリカ外交とキリスト教史への関心から、米大学院留学中に子どもの歴史、グローバル・ヒストリーへと研究対象をひろげてきました。現在は、アメリカ合衆国への子どもの移住と法制度の展開について、19世紀末から1920年代における変化を中心に論じた研究をまとめています。緑豊かなキャンパスで、みなさんと共に学ぶのを楽しみにしています。
藤井 豪 / FUJII Takeshi
世界言語社会教育センター 講師
4月から外大の一員となった藤井豪です。朝鮮現代史、特に40~50年代の南の政治史/思想史を研究しています。博士課程で韓国に留学し、それ以降二十年近く韓国で学んだり教えたりしてきました。韓国では新聞にコラムを連載したりしていたこともあって民主化の過程にもささやかながら加わっていたのですが、日本へと舞台を移して自分に何ができるのか、これからしっかり模索していきたいと思っています。
山田 洋平 / YAMADA Yohei
世界言語社会教育センター 講師
本年度4月よりモンゴル語の担当として着任いたしました山田洋平です。専門は言語学で、とくに中国のモンゴル系の言語について現地調査を行っています。私が担当するモンゴル語の授業では、学生の皆さんにモンゴルの人々や地域の魅力を積極的に見つけていってもらいたいと思っています。同時に、マイナーな言語を学び研究するというのがどのようなことかも、一緒に考えていきましょう。
山本 恭裕 / YAMAMOTO Kyosuke
世界言語社会教育センター 講師
言語学が専門です。私の興味は人間の言語の多様性の解明と、それが人間の言語、文化、こころの本質についてどの様な示唆を与えてくれるかということです。フィリピンやパプア・ニューギニアのあまり、または全く研究されていない言語の研究を通してこうした課題に取り組んでいます。学部・大学院ではフィリピン語と言語学の授業等を担当しています。言語の奥深さと面白さをみなさんと一緒に発見していければ嬉しいです。
安達 真弓 / ADACHI Mayumi
アジア・アフリカ言語文化研究所 助教
私の専門分野は言語学で、研究対象としている言語はベトナム語です。博士論文はベトナム語の指示詞(これ・それ・あれ)の使い分けについて執筆しました。また、「在日ベトナム人がベトナム語と日本語をどのように使い分けて生活しているのか」というテーマにも興味があります。今後は個人として研究を進めるだけではなく、共同研究を組織することにも力を入れたいと考えています。
河合 文 / KAWAI Aya
アジア・アフリカ言語文化研究所 助教
マレーシア半島部のバテッという集団を対象に研究を行ってきした。バテッは森を移動しながら狩猟採集生活を送ってきた人びとですが、森林の減少をうけて徒歩や筏での移動に加えバイクや車でも移動するようになっています。こうした移動性の変化とともに、彼らの社会関係がどう再編されているかというのが現在の関心です。東京外国語大学で様々な方と交流し学びを深め、研究成果を発信していきたいと思います。
村橋 勲 / MURAHASHI Isao
現代アフリカ地域研究センター 特定研究員
4月から現代アフリカ地域研究センターに特任研究員として着任しました。専門は文化人類学で、エチオピア、南スーダン、ウガンダでフィールドワークをしてきました。平和と紛争、難民、ローカルな社会構造に関する研究をしています。東外大では、クラウドファンディングによるアフリカからの留学生の招致や、アフリカの研究者を招いたセミナーの開催といった取り組みに努めています。よろしくお願いします。
村津 蘭 / MURATSU Ran
現代アフリカ地域研究センター 特定研究員
はじめまして。 文化人類学(宗教・映像)、地域研究を専門としています。フィールドは西アフリカのベナンで宗教がテーマです。ペンテコステ・カリスマ系教会の霊的存在や、妖術師、憑依といった現象に関心があり、テクストや理論を基盤とする従来のアプローチだけではなく、フィクションの手法を用いたり、民族誌映画を制作したりと人類学の様々な方法を検討しています。東京外国語大学でアフリカだけでなく様々な地域と関わる方とお話したいと思っています。よろしくお願いいたします。
村上 明香 / MURAKAMI Asuka
南アジア研究センター 特定研究員
本年度4月より南アジア研究センター特定研究員として着任いたしました村上明香と申します。専門はウルドゥー文学とインド・イスラーム文化です。本学では、南アジア研究センターの運営のほかに、一年生のウルドゥー語の授業も担当しています。皆さんに南アジア、そしてウルドゥー語に興味をもってもらえるよう、精一杯サポートしていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
他にも多くの先生方が新しく東京外大の一員に加わりました。
- 大西 拓一郎(大学院国際日本学研究院 教授(クロアポ))
- 山口 昌也(大学院国際日本学研究院 准教授(クロアポ))
- 鈴木 美伸(世界言語社会教育センター 特定教員)
- 王 煒彤(世界言語社会教育センター 特定教員)
- BARSHAI Natallia(世界言語社会教育センター 特任教授)
- 林 美珠(世界言語社会教育センター 特任講師)
- Cahyaningrum Dewojati(世界言語社会教育センター 特任教授)
- KEP Sokunthearath(世界言語社会教育センター 特任教授)
- HUSSIEN Khaldoon(世界言語社会教育センター 特任講師)
- KOBERNYK Nadiya(世界言語社会教育センター 特任講師)
退任教員紹介
昨年度、定年退職・退任された先生方からのメッセージとオススメの本を紹介します。
市川 雅教 先生 / ICHIKAWA Masanori
退職時:大学院総合国際学研究院 教授
3月末日で長年にわたり勤務した東京外国語大学を定年退職しました。担当していた科目が統計学で言語や地域に関係がなく、その上に文科系の大学における数少ない理科系の科目だったので、自分が場違いな存在であるという気持ちを抱き続けていたように思います。振り返ってみると、授業を通して多くの学生さんと出会うことができたのはとても幸せなことでしたが、今では外大で教員をしていたことが遠い昔のことのように感じられます。新型コロナウイルスにより大学も大きな困難に直面していますが、学生や教職員そして関係する方々が力を合わせて乗り越えていくことを願っています。
おすすめの一冊
高木貞治著『定本 解析概論』(岩波書店)
世界的な数学者による「解析概論」は1938年に出版され、理工系の学生に読みつがれている名著です。本書は改訂第三版をもとに組版ソフトを用いて組み直したもので、数学に関心を持つ外大生に一読をすすめたいと思います。
岩崎 務 先生 / IWASAKI Tsutomu
退職時:大学院総合国際学研究院 教授
退職にあたって、一冊の本を薦めるとのこと、西洋古典文学を学んできた者として、やはり、ホメロスの『イリアス』(上・下、松平千秋訳、岩波文庫)をあげたいと思います。戦場で誉れを得ようとする英雄たちの活躍の光と影を描いた物語ですが、今に通ずる人間の生と死の諸相を豊かに読み取ることができる不朽の古典です。学生たちには日本語訳を読むことも相当な忍耐を要したようですが、年齢を重ねてまた手に取れば、必ずや味わいが深くなっている本です。
ローマ皇帝アウグストゥスが座右の銘としていたと伝えられるラテン語の格言で、festina lenteという言葉があり、折々に紹介をしてきました。文字通りには「ゆっくり急げ」という矛盾した意味を表わし、人によって解し方が違ったりしますが、日本語の「急がば回れ」に似ているのかもしれません。現在、私たちを取り巻いている状況では、とりわけ若い人たちがもどかしい思いをしているのではないかと思います。早くに目標を達成したい、結果を得たいという気持ちは大切ですが、「ゆっくり」回ったほうがより良い結果をもたらすこともあります。今は、この言葉をもう一度考えたいと思います。
おすすめの一冊
ホメロス著、松平千秋訳『イリアス(上・下)』(岩波文庫)
栗田 博之 先生 / KURITA Hiroyuki
退職時:大学院総合国際学研究院 教授
1994年の着任以来、文化人類学担当の教員として、東京外国語大学で26年間の教員生活を勤め上げることが出来ました。アジア・アフリカ言語文化研究所では設立当初より文化人類学が研究の柱の一つとなってきましたが、着任当時の外国語学部では文化人類学の認知度はそれ程高くありませんでした。ですが、現在では文化人類学を専門とする教員の数も増え、ようやく文化人類学を専攻しようとする学生を受け入れる体制が整ってきたように思います。また、ゼミや卒論ゼミを通じてしか直に学生と接することが出来ない状態が長く続きましたが、奇しくも、オセアニア地域専攻が新たに設置され、ニューギニアをフィールドとする文化人類学者として、オセアニア地域専攻の授業をお手伝いする中で、フレッシュな1年生と接する機会も増えました。これまでの授業を通じて文化人類学の真髄の一端でも学生の皆さんにお伝えすることが出来たとすれば本望です。東京外国語大学の益々のご発展をお祈り申し上げます。
おすすめの一冊
クロード・レヴィ=ストロース著『今日のトーテミズム』(みすず書房)
文化人類学的な思考法のトレーニングに最適な一冊。
佐々木 孝弘 先生 / SASAKI Takahiro
退職時:大学院総合国際学研究院 教授
1995年4月に本学に着任してから25年間教員として勤務することができました。小学校時代は学校へ行くことが嫌いでほとんど「不登校」の状態になりかけていた私が、前任の千葉大学およびそれ以前の非常勤講師時代を含めると33年の長きにわたって大学で教えることができたのは、ひとえに先輩や同僚の教員の皆さんや事務の方々に支えられてきたからに他なりません。また、学部・大学院で接した数多くの学生の皆さんからも多くのことを学ばせていただきました。ほんとうにありがとうございました。
COVID-19の感染拡大が続く中での退職になりました。人と人の間の距離の保ちかたや関わりかたが変化していくのを歴史家のひとりとして興味深く観察しています。このパンデミックが終息するまでにおそらく数年の時間を要するものと考えますが、ポスト・コロナ後の状況の中でも大学が果たすべき責任を見失うことなく、本学がさらなる発展を遂げるようお祈りします。
おすすめの一冊
樋口映美編『歴史のなかの人びと――出会い・喚起・共感――』(彩流社)
歴史研究の基本は史料をどのように扱うかという問題です。本書は、歴史の題材となる文書や画像、オーラル史料、史跡での展示などを過去を明らかにするために歴史家がどのように利用するのかについての14のエッセイを収録したものです。ひとつのエッセイが8,000字以内で書かれていますので、20分ほどの空き時間があればどなたでも読むことができるものです。一読をお薦めします。
早津 恵美子 先生 / HAYATSU Emiko
退職時:大学院国際日本学研究院 教授
30年間お世話になりおかげさまで無事に定年退職を迎えることができましたこと、ありがたく思います。4月からは名古屋外国語大学で新たな生活を始めております。
東京外大での30年の間には、大学が独立大学法人になるという大きな変化があり、また本学でも、学部や大学院の変革、教員組織の再編成をはじめ大小さまざまな変化がありました。変化が起こるたびに、どんどん忙しくなるし教育環境も研究環境も前より悪くなってしまったのではないか、などと思うことが少なからずありました。しかし今思うと、おかしな方向にばかり進んできたのではなく、それらのかなりのものは、生じるべくして生じた変化の方向だったようにも思います。そしてまた、そのような変化を経てもなお、東京外国語大学として変わっていない本質があるのだとも思います。いろいろな“試練”の中で自然に変わってきたものと変わらなかったもの、どんな時代になっても変えてはいけないもの、変えようと思っても変えられないものがあり、総体としての東京外国語大学は、それぞれの時代における独自の存在として歩み続けこれからも進んでいくのだと思います。退職・再就職の時期に直面したコロナ禍の中で、日々の授業の方法を変える新たなチャレンジを求められている今、教育の本質として守るべきものは何なのか、そのようなことも考えさせられています。
おすすめの一冊
エリザベス・キューブラー=ロス著(1969)、鈴木晶訳(1998)『死ぬ瞬間-死とその過程について(新版)』(中公文庫)
終末期医療にとりくんだ精神科医である著者が末期癌の患者200名との対話を経て心の変容過程をまとめた本です。私はこの8ケ月の間に、尊敬していた恩師・友人4人が亡くなりました。告知を受け闘いつつ静かに最期を迎えられました。この本をあらためて読み、生と死、死への精神的準備についてこれまでとは別のことにも気づけたように思います。
藤森 弘子 先生 / FUJIMORI Hiroko
退職時:大学院国際日本学研究院 教授
私は1996年に東京外国語大学に着任し、24年間主に日本語教育研究に従事させていただきました。留学生日本語教育センター所属でしたが、2015年に学内の教員組織が改組され、大学院国際日本学研究院に変わり、「国際日本学」というより幅広い研究分野から日本語教育を捉えられるようになりました。2019年度に発足した国際日本学部は、日本語が母語の学生、日本語・英語が堪能な留学生、日本語は余り流暢ではないが英語が堪能な留学生といった多様な人材が集まり、多文化共生を目指した教育が行われています。大学院国際日本専攻では日本語教授法や教育実習を担当していましたが、日本語教員養成課程が今後より充実されることを期待しています。私のもう一つの専門は日本語教材開発で、アカデミックな日本語教育共通評価指標として「AJ Can-doリスト」を共同で開発させていただき、それに準拠した『大学生の日本語 初級 ともだち』(2017外語大出版会)を共著で出版しました。今後の目標は多言語多文化共生の実現に欠かせない、共通語としての日本語使用者のための「親しくなるための日本語」を構築することです。
おすすめの一冊
滝浦真人著『日本語は親しさを伝えられるか』(岩波書店)
現代日本語が堅苦しい原因は明治期の国語統一政策により、親しく交わるための言葉を育まなかったからだとし、今後は親しさのコミュニケーションへの変容が望まれるとしています。多文化共生に重要な示唆がある本です。
宮城 徹 先生 / MIYAGI Toru
退職時:大学院国際日本学研究院 教授
2019~2020年は、COVID-19 によって人類にとって大きな転換点となりました。このコラムをお読みになっている方のほとんど、そしてこれを書いている私にとっては、これまでの生活様式も価値観も全てが見直しを迫られるような大きな地球規模の出来事は初めてと言って良いでしょう。そんな嵐の中で、私は本学を去ることになりました。長い間お付き合いいただき、そしてたくさんの教えをいただき、ありがとうございました。
個人的には、これからどのくらい続くかわからない老年期の旅が始まります。教育に携わる機会は減りますが、今後、大きく世界が揺れ動くことを覚悟して、地球市民が連帯して生きていくために私なりの努力を続けたいという意志表明だけはしておきたいと思います。
自分にとって役に立った本が、みなさんのお役に立つとは思えませんから、この場で推薦する本は特にありません。しかし人間にとっての言語の重要性を考えれば、読書(たとえ本というものが紙媒体でなくなったとしても)は、人間が人間であり続けるための必要な行為であることは確かです。それは人との出会いに似ています。そんな貴重な行為は、他人に惑わされることなく、自ら楽しんで一生にわたって続ける、そんな心づもりが良いのではないでしょうか。
またどこかでお会いしましょう。
高島 淳 先生 / TAKASHIMA Jun
退職時:アジア・アフリカ言語文化研究所 教授
28年間アジア・アフリカ言語文化研究所に在所していたので、学生の皆さんとはほとんど接点を持って来なかった。しかし、外語大をインターネットに最初に繋いだのは私の仕事なので、目に見えないところで皆様のために貢献してきたと言えるだろう。1992年に着任してすぐに、AA研のメインフレームコンピュータの更新でUnixサブシステムを導入させて、当時は自前で構築しなければいけなかったネットワーク接続環境を立ち上げたのだった。宗教学者の私がこんなことにまで手を出すようになったのも、インド学のためのサンスクリット語のデータ処理やナーガリー文字の処理からで、カンナダ語やマラヤーラム語の辞書などを提供できたのもそのおかげだ。
昔の予想としては、人文系の研究者でもすぐに皆がプログラミングくらいできるように変わっていくだろうと思っていた。プログラミング言語も言語にすぎないのに、何故、あってはならない理系・文系分断の理系側に置かれるのか理解できない。外語大で言語のエキスパートを目指すなら、自然言語に加えて、何か一つのプログラミング言語のマスターを最低限の目標にしてもらいたい。
おすすめの一冊
J.R.R.Tolkien The Lord of the Rings: Kindle
人工言語といえばプログラミング言語だけでなく、トールキンの作り出した「シンダール」(エルフ語の一つ)のような言葉もある。『指輪物語』は是非、英語で、補遺のところまで読み通して、文献学者の仕事を味わってほしい。第2次大戦中に書かれ、人間の内なるものでもある悪との闘いを描いたこの書物は、ウィルスとの闘いの最中に読むにふさわしいだろう。私は高3の夏休みに読み通して以来、3回くらい読み直しているが、またもう一度と考えている。
深澤 秀夫 先生 / FUKAZAWA Hideo
退職時:アジア・アフリカ言語文化研究所 教授
1993年の4月に、当時はまだ全国共同利用の人文科学・社会科学系付置研究所だったアジア・アフリカ言語文化研究所に入所してから、はや27年の歳月が過ぎてゆきました。AA研と言う研究環境に恵まれたおかげで、1981年から始めたマダガスカル北西部の農村における社会人類学的な臨地調査をその後も継続的に行う事ができただけではなく、前任校時代には虻蜂取らずになる事を恐れて手をつけられずにいた文献資料を用いたマダガスカルの法制史や植民地史の研究にも取り組む事ができました。この間の私のささやかな、しかし本人にとっては充溢感のある研究を支えて下さった関係の旧所員および現所員、外語大執行部と教員のみなさま、そして多くの常勤・非常勤の事務職員のみなさまに、この場をお借りして深く感謝申し上げたいと思います。ありがとうございました。
この3月末で東京外国語大学を一旦退職いたしましたが、40年近くの臨地調査の間に溜まったノートやらテープやらデジタル音源やらのマダガスカル北西部方言の言語関連資料をなるべく多くの方に利用して頂けるよう整理・整形した上、電子媒体等により公開する作業に取り組むべく、4月からもアジア・アフリカ言語文化研究所においてフェローとして、在籍させて頂く事になりました。今後ともよろしくご指導、ご交誼のほどをお願い申し上げます。
おすすめの一冊
奥野彦六郎著『沖縄の人事法制史』(至言社)1977年 絶版 付属図書館未所蔵
1925年~1928年の間、那覇地方裁判所判事を務めた奥野彦六郎(1895年~1955年)が、1931年に司法省調査課から『司法研究報告書 第14輯3 沖縄人事法制史と現行人事法改正管見』として出版した研究成果物の復刻版です。那覇地裁在任中から奥野が地道に読解と探求を進めた琉球王国法制史料の最初の成果物であると共に、彼の四冊の著作の中で最も読まれる事の少ない全590頁におよぶ大著です。モルガンに代表される19世紀西欧の社会進化論とは一線を画し、奥野は人類史における最初の「社会団体」を「部落」と捉え、むしろ家や門中の概念と組織は「統治態様」が国家統一へと「変遷」する中で、国家が個人を掌握し統治するために「部落」から派生したものであるとの考えに基づいて、各村落の「内法」から琉球王国の戸籍と裁判制度に至る歴史的過程を検証しました。このような法制史研究の成果を掌中にした奥野は、当時の大日本帝国の民法を省察し、人事法は財産並びに扶養等との関係のみを詳細に規定すれば良く、国家が戸主権を男子に定めた上財産の戸主所有を認める事等の不合理を厳しく指摘しました。そこには、獅子吼する事なき温厚篤実な法曹人の彼方を見通す鋭い眼差しが看取されます。
他にも以下の方々が退職されました。
- 今福 龍太(大学院総合国際学研究院 教授)
- 温品 廉三(世界言語社会教育センター 講師)
- 波塚 奈穂(世界言語社会教育センター 特任助教)
- 鈴木 真弥(南アジア研究センター 特定研究員)
- PUYO Baptiste(世界言語社会教育センター 特任講師)
- SALKINDER Maria(世界言語社会教育センター 特任講師)
- 梁 菲(世界言語社会教育センター 特任教授)
- SUHARSONO(世界言語社会教育センター 特任教授)
- THAMMAVONG Soulikanh(世界言語社会教育センター 特任准教授)
- VAN Sovathana(世界言語社会教育センター 特任教授)
- SOLIMAN Alaaeldin(世界言語社会教育センター 特任教授)
- 濱野 アーラ(世界言語社会教育センター 特任講師)
- 前川 喜久雄(大学院国際日本学研究院 教授(クロアポ))
- 朝日 祥之(大学院国際日本学研究院 准教授(クロアポ))
- 日下部 尚徳(世界言語社会教育センター 准教授)
- 金子 麻子(世界言語社会教育センター 特定教員)
- 鈴木 健太(世界言語社会教育センター 特任助教)
- 大槻 知世(アジア・アフリカ言語文化研究所 特定研究員)
- 松波 康男(現代アフリカ地域研究センター 特定研究員)
- 桐越 仁美(現代アフリカ地域研究センター 特定研究員)
- 鄭 基仁(世界言語社会教育センター 特任准教授)