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座談会:サステイナブルなキャンパスを

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新型コロナウイルス感染症のパンデミックから3年が経ち、キャンパス内での授業や課外活動が本格的に始動する一方で、オンラインの活用も積極的に行われています。これからのキャンパスが果たすべき役割や、そのキャンパスに対する、教員や職員、学生や卒業生などの関わり方は、どのように変化してきているのでしょうか。3名の在学生と運営現場の職員が座談しました。

座談会参加者  ※学年やプロフィール・役職名は座談会を実施した2022年度当時

  • 大谷 圭介(おおたに けいすけ)理事(総務、財務、施設等担当)、事務局長
  • 門平 滋(かどひら しげる)人事労務課 障害者雇用推進室 専門職員
  • 鮎川 裕子(あゆかわ ゆうこ)施設企画課建築係長
  • 高橋 さくら(たかはし さくら)さん 国際社会学部4年
    (2021年9月~2022年6月までスペインに留学。広報マネジメント・オフィスの学生記者として、学生の視点で大学の取り組みや学生・教員のインタビュー取材を行う)
  • 勝又 海斗(かつまた かいと)さん 国際日本学部3年
    (キャンパス美化の一環として、2021年度春に学長提案で設立した学生・教職員合同サークル「ガーデニング部」に設立当初から参加)
  • 高橋 明花(たかはし はるか)さん 国際日本学部3年
    (フィンランドに留学中。2021年度春学期科目「環境・エネルギー問題の動向と展望」の履修学生が中心となり活動を開始した環境系の学生団体「たふえね」代表)

感染の広がりと学生生活

大谷理事(以下「大谷」) ようやく皆さんと、こうして顔を合わせて話すことができるようになったのはうれしいですね。高橋明花さんはフィンランドからの参加とはいえ、時差を越えてのオンライン授業や打ち合わせも、本学では当たり前になってきたかもしれません。

高橋さくらさん(以下「さくら」) 私は、1年目にアイルランドへ短期留学に出かけたのですが、そこでパンデミックが起き、帰国後の2020年の春からは、授業も、所属サークルのESS(英語研究会)の活動も、すべてがオンラインとなりました。日常的な活動はできても、新歓などの勧誘はほとんどできませんでしたね。

勝又さん(以下「勝又」) 私は、その春に本学へ入学したのですが、まず入学式がなくなり、そのままオンライン授業だけの1年間を、ずっと静岡の実家で過ごしていました。翌年の春にキャンパスの国際交流会館に入寮するまで、授業以外の活動は何もできず、大学生である感覚はまったく持てませんでした。

高橋明花さん(以下「明花」) 私も同じ春に入学しました。私もやはり仙台の実家でオンライン授業を受けていたのですが、そもそも学生生活の何を失っているかさえ気づけていなかったかもしれません。国際日本学部は半数近くが留学生なのですが、一緒に授業を受けている留学生たちのそれぞれの母語が何語かさえ分かりませんでしたし、授業は基本的に英語で行われるので日本語を話す機会もありませんでした。

オンライン化とキャンパス整備

大谷 あの未曾有の事態には、どう対応すればよいかと、大学側もとにかく戸惑っていた時期でした。ただ、全面オンラインで学生がいなくなった2020年度春のキャンパスは、施設や設備を整備する機会にもなったようですね。

鮎川係長(以下「鮎川」) 教室も、換気しやすいよう窓に網戸を設置したり、扉にガラスを入れて中の様子が分かるようにしたり。研究講義棟へは、就職活動や会話を伴うオンライン授業の受講などに利用してもらえるように、「TUFS BOX(たふぼっくす)」というプライベートブースも設置しています。

勝又 試してみたいと思いながら、いつも人気があって満室なので、私はまだ利用できていませんね。

明花 世界中が混乱していたあの時期に、本学のオンライン授業の開始は、かなり早かったのではないでしょうか。そういった、学ぶ環境の整備を迅速に行ってもらっている気がします。

さくら 学内だと、オンライン授業に適した環境が少なかったので、ブースの設置はありがたかったですし、ハイブリッド化への移行においても、他の大学に先行して環境を整えてもらっている印象があります。

オンラインと学内コミュニケーション

明花 私が所属する国際日本学部は、2019年4月に新設されたばかりの学部です。まだ国際日本学部の学生像も持てていませんでしたし、他の学部と違って学部間をまたいだ言語や地域の専攻があるわけでもないので、オンラインだけだと授業での交流しかないので、他の学生とのコミュニケーションが難しいと感じました。

さくら たしかに、新しい学部なので、他学部の人たちからは、どんな雰囲気なのかが伝わりにくいかもしれないですね。

明花 そのようなこともあり、私たちの学部では、SNSなどで積極的に発信活動をする学生も多くいます。最近では、『TUFS Japaneque』という国際日本学部の学生が中心のサークルが、日本の文化や習慣などを、英語と日本語の双方で分かりやすく解説して発信することで、日本のブランドイメージを向上させていこうと活動していて、とてもおもしろいですよ。

勝又 私も注目し、ときどき読んでいますが、日本に生まれ暮らしていると当たり前に感じていることに、意外な魅力や秘密があったりして、気づかされることも多いんですよ。

さくら なるほど、そういう活動って、国際日本学部ならではかもしれませんね。

大谷 学生が主体となってそのような動きがあるのはすばらしいことですね。学内だけでも、お互いに知らないことも多いことに驚きますね。

学内の雰囲気

大谷 学内の人の交流を図り、目に楽しい環境づくりを目指す狙いで、この時期に始まった課外活動として、ガーデニング部がありますね。

門平専門職員(以下「門平」) 学生と教職員が合同で花壇を整備して、キャンパス内を少しでも彩っていこう、という狙いです。所管部署としては、花壇の下ごしらえをしたり、園芸初心者の学生でも育てやすいように、すでに苗になっているポットを用意したりしています。

勝又 私は、まさに植物については何も知らないまま、おもしろそうだなという気持ちだけで、ガーデニング部の活動に加わりました。主に本部管理棟前のピオニーガーデンの整備をしているのですが、花の選定や育成計画などは、学生の裁量に委ねられています。園芸について詳しいメンバーに教えてもらいながら、協力して進めています。多くの学生に楽しんでもらえるようにSNSでも発信していますし、自分自身も楽しんで活動しています。

門平 授業の合間などの限られた時間に学生が活動できるように土の下ごしらえなどの周辺のサポートをしていますが、通りかかった近隣の人から「あら、きれいなお花ね」と声をかけられると、私たちも励みになりますね。

みんなの居場所としてのキャンパス

大谷 もともと門や塀さえもない、オープンな本学のキャンパスですが、新型コロナの感染対策のために関係者以外の出入りを制限していました。ようやく、学生や教職員だけでなく、地域の人や、留学や共同研究で訪れる人など、いろいろな行き交いも戻り始めました。そうすると、キャンパスって何だろうと、あらためて考えたくなります。

明花 フィンランドに来てから、留学先の大学と分けて、所属大学を呼ぶのに「ホームユニバーシティ」という言葉があることを知りました。その場合のホームというのは、居心地よく帰れる場所といった意味で使われているのですが、そういった、みんなで共有できる物理的な場所として、キャンパスがあるんじゃないか、という気がします。

大谷 なるほど、教室だけでなく、課外活動の施設や花壇の整備なども、そのためにある、と捉えることはできそうですね。高橋明花さんが、積極的に取り組んでいるカーボンニュートラルに向けた取り組みも、そういった活動の一つということになりそうです。

明花 キャンパスにおける温暖化防止策はいろいろあるでしょうけれど、重要なのは、そういった取り組みを、目に見えるようにしていくことだと思うんです。学内の目につく場所へ節電を呼びかけるステッカーを貼ったり、水打ちをイベントとして行ったりする活動は、そういった意図で行っています。

鮎川 学内の各棟に太陽光パネルの追加設置を順次進めているのですが、たしかに、それだけではなかなか皆さんに気づいてもらいにくいですね。

門平 食堂のモニターへは、発電量をリアルタイムで表示させ、学生や教職員にも状況を知ってもらえるよう努めていますが、もっと積極的な可視化ができるといいかもしれません。

明花 私は、「たふえね」という環境系サークルで活動しているのですが、そういったハード面での整備と、節電や省エネといったソフト面での意識啓発との、双方が欠かせないと考えています。

鮎川 施設企画課でも、照明のLED化やこまめなスイッチオフの呼びかけなどの取り組みをしていますが、やはり、学内にいる誰もがしっかりとした意識を持つことが、何より大切なのだろうと思いますね。

門平 芝刈りや草刈りも、これまではガソリンエンジンを使った機械でやってきたのですが、電動に変えました。燃料補給に比べてずっと手軽に充電できますし、こまめな手入れが可能になりました。騒音も小さくなり周囲への迷惑もそれほど掛けなくなったと思います。

より快適な環境づくりのための問題意識

大谷 よりよいキャンパスづくりということでは、「#大学に生理用品を」というプロジェクトも、その一つと言えそうです。

さくら 広報マネジメント・オフィスの学生取材班を対象に学生広報企画コンペを行った際に、私が応募した提案です。数年前に、慶應義塾大学生の知り合いが行った取り組みに刺激されました。学生取材班のプロジェクトとして立ち上げ、研究講義棟内の、女子トイレだけでなく男子トイレや誰でもトイレにも生理用品を置くことで、テーマを可視化させて、アンケートを取りました。

大谷 その集計結果を見せてもらいましたが、200名以上の回答があり、概ね肯定的な反応でしたね。実施のためにはカンパもしたいという回答も何通かあったのは、特に印象的でした。単にサービスを受益するのではなく、むしろその実現のために主体的に関わろうという姿勢をうれしく感じましたね。

さくら 振り返ってみると、いつか女子トイレに誰かが生理用品を置いて、自由にお使いください、というメモが添えられていたことがありました。そういった個人の創意、あるいは善意のようなものを、みんなで確かな仕組みにしていけたら素敵だと思いましたね。

鮎川 すばらしい提案だと感じました。その後、学長のリーダーシップで施設企画課を中心に実現に向けて調整し、今年度の春から正式に設置されましたが、学生の声をすぐに反映できたのも良いことですね。夏学期は、週1回ほどの補充を基本としていましたが、屋内運動場では、清掃のたびに補充しないと足りないほどで、多くの人に利用されているんだと感じます。

大谷 維持費がかかることなので、財務担当理事としては苦しいところですが、施設等担当理事でもある者としては、なんとか恒常化していきたい取り組みではありますね。

左:2021年11月プロジェクト時の設置の様子、右:現在の様子

誰もが学びやすく働きやすい環境づくり

大谷 よりよい環境という意味では、子育てのしやすさも重要な観点です。土地の有効活用の一環で、キャンパス内の一部を学校法人正和学園に貸与する形で、今年度9月にキャンパス内保育所が開設されました。

さくら すごく安心できる仕組みですよね。

勝又 私が入寮していた国際学生会館の隣に建設されていたので、入居者に対して事前に通知があり知りました。

明花 フィンランドでは、もともと学生の年齢層の幅が広いですし、子連れで授業を受ける人もよくいます。ベビーカーを押してキャンパスを歩いていたり、赤ちゃんの泣き声が教室で聞こえたりしても当たり前といった感じです。本学もそのような環境になると良いですね。

大谷 本学でも、教職員だけでなく、大学院などでは子育て中の学生もいますから、利用者の幅も広そうです。また、学会が開かれるとき、
子連れで参加したい研究者もいますから、そういった場合の託児などへも対応できるようにしていければと思います。

ハイブリッド開催の外語祭

大谷 ようやく多くの活動で対面での実施が可能となってきた今年、対面とオンラインのハイブリッドで開催される「外語祭」は、単なるイベントを超えた、大きな意味がありそうです。

さくら 学生にとっては、3年ぶりに本当の外語祭が開かれる、という感じではないでしょうか。もちろん、オンラインならではの工夫がされたワークショップなどは、これからも並行して行っていけると良いのですが、キャンパスでリアルにいろいろな人たちが集うという意味では、やっと外語祭が帰ってきたと思っています。

勝又 外語祭と言えば、「専攻地域料理店」が有名ですが、これも3年ぶりの復活だそうですね。

さくら 今年は、通算100回目の外語祭なんですよね! 私は1年生の時に専攻地域料理店を経験しているのですが、円形広場をくるっと一回り、1年生がそれぞれの専攻地域の名物料理を提供して、大変な賑わいになります。

大谷 私は、この4月に本学に赴任しましたので、実は専攻地域料理店は初めてです。

門平 料理のレベルは年々上がってきていますね。府中キャンパスに移転する前の西ヶ原キャンパス(東京都北区)の頃は、敷地も狭かったので、教室内に料理店を出していてまるで高校の文化祭のようでした。熱気は、府中キャンパスになっても変わりません。

大谷 もう一つの目玉企画は、「語劇」です。

門平 こちらは、さらに起源が古く、120年余りの伝統があります。専攻語で演じられる演劇ですが、今年は28言語の劇が上演され、YouTubeでオンデマンドの動画配信もされるようです。

サステイナブルなキャンパスづくり

大谷 建学150周年を目前にし、キャンパスも新しい時代を迎えることになります。ただ、学生たちによるキャンパスづくりの取り組みも、卒業してしまうとそこで途切れてしまいがちではありますね。

明花 サステイナブルということの捉え方次第かもしれませんね。今、留学先で学んでいるのは、持続可能性は、理工系としての捉え方だけでなく、本学のように、人文社会系としての捉え方もあるということです。カルチュラル・サステイナビリティというその考え方によれば、多文化それぞれのアプローチによる持続可能性があることになります。ですから、本学独自の持続可能な、学びを循環させる仕組みを作っていけば、学生が変わっても活動は回っていくんじゃないでしょうか。

大谷 ただ続けるのではなく、循環させていくということですね。

明花 そういう具合に回していくためには、いろんな立場の人たちに関わってもらうことが必要なように感じます。

大谷 なるほど、学内の人も学外の人も巻き込んでいくことがポイントなのかもしれませんね。長めの時間軸で考えると、学生たちもいつかは卒業生になりますので、同窓生とのつながりや連携も重要ということになりますね。

さくら 同窓生組織である東京外語会を通じて、大学生活や就職活動などもっといろんな面で相談に乗ってもらったりアドバイスをいただいたりすることで、先輩たちの経験や知恵を継承していくことになるのかもしれません。

勝又 東京外語会による100円朝食など、分かりやすい支援もありがたいですね。

明花 グラウンドの人工芝化プロジェクトなども、目的がはっきりした基金で、多くの卒業生が支援できる素敵な仕組みだと思います。

大谷 皆さんも、卒業しても本学とのつながりを持ち続け、さまざまな形で大学を支援してくださいね。

(「東京外国語大学 統合レポート2022」掲載)

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