太平洋を超えた日米COIL型オンライン授業 〜アメリカの連携大学教員にインタビュー〜
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新型コロナウイルスの感染拡大を受け、オンライン形式による授業が身近になりましたが、本学では、2018年度に採択された文部科学省「大学の世界展開力強化事業(COIL型*)」プロジェクト(多文化主義的感性とコンフリクト耐性を育てる太平洋を超えたCOIL型日米教育実践 通称:TP-COIL)により、感染予防対策とは関係なく、アメリカの連携大学とのオンライン授業を実施してきました。アメリカの多くの大学では基本的に、秋学期も完全オンライン授業です。本事業では、秋学期も引き続き、アメリカの連携大学とのCOIL型オンライン授業を開講していきます。秋・冬学期のCOIL型授業一覧はこちら。
* COIL型:オンラインを活用した国際的な双方向の教育手法(Collaborative Online International Learning)
今回のTUFS Todayでは、本学とオンライン授業を行ったアメリカ側の教員であるカリフォルニア州立大学ノースリッジ校(California State University, Northridge: CSUN)のJunliang Huang先生(以下「ファン先生」)にお話を伺いました。インタビュアーは、TP-COILのコーディネーター 福田彩特任助教(以下「福田」)です。
福田:いつもCOIL型授業でお世話になりありがとうございます。本日は、ファン先生にこのCOIL型授業についてご感想をお伺いできればと思います。ファン先生は、日本研究を専門としていらっしゃって日本語もおできになるので、日本語でインタビューさせていただきます!COIL型授業について伺う前に、まず先生のご専門についてお聞かせいただけますか。
ファン先生:主に日本の戦後文学を研究しています。現在は、アジア太平洋戦争をめぐる文学や戦時下の性暴力の表象に関する研究をおこなっています。授業では、日本と中国の文化・文学・言語などを担当しています。
福田:ファン先生は、学生時代に、東京外大にも勉強にいらしていたのですよね!日本にはどのくらい、いらっしゃったのですか?
ファン先生:1年間です。現在このCOIL型事業の推進責任者でいらっしゃる岩崎稔教授の研究室も、当時よく訪ねていました。その頃のご縁で、このTP-COILの事業も一緒にやることになったのですよ。
福田:人のご縁というのはつながりますね。ありがたいことです。ファン先生のおかげで、本学はCSUNと学生交流協定も結ぶことができました。本来なら今夏から、CSUNと本学との間で、長期交換留学を開始する予定でしたが、コロナ禍で延期になってしまいました・・・。早く状況が好転して実現してほしいですね!それでは、COIL型授業のことをお聞きできればと思います。昨年度も本学との間でCOIL型授業を担当されていますが、どのような授業だったかご紹介いただけますか。
ファン先生:COIL型授業では、2つの授業を担当しました。1つ目は、逆井聡人講師がカウンターパートの授業で、従軍慰安婦問題について討論しました。まずこの問題を扱った映画を観て、その感想を日米の学生で話し合いました。従軍慰安婦の問題は外交問題として着目されがちですが、学生間で意見を述べ合ううちに、もっと人権問題として扱う必要があるのではないかという意見が多く出ていたことを興味深く思いました。オンラインセッション冒頭での東京外大の学生さんの英語での発表も素晴らしかったですね。
2つ目は、福田先生と田代純一講師がカウンターパートの授業で、私がCSUNで担当している戦後日本文学の授業とオンライン接続をして実施しました。東京外大の学生たちには、福島での災害ボランティアのフィールドスタディの報告をしてもらいました。私のクラスでちょうど福島の震災後文学を扱っていましたので、現在の福島の話を聞けたことはCSUNの学生にとって興味深かったようです。2019年10月の台風による洪水の災害の支援活動にも携わった東京外大の学生さんがいて、家屋の床上浸水のために泥水まみれになった写真を洗浄するという仕事について説明してくれたのが印象的でした。家族や友達との思い出の写真を1枚1枚きれいにする仕事というのは、一見小さい仕事のように見えますが、被災者にとっては精神的な救いになるとのことで感動的でした。
福田:2つも授業を担当してくださり、ありがとうございました。福島についてのセッションの際には、本学の学生にたくさんの質問をありがとうございました。福島で活動している農家や僧侶の人たちの話を紹介した後、CSUNの学生さんの中に「福島はすでに全域が荒廃していると思っていたがそうではなく、再活性化の希望が見えた」という感想を話してくれた学生さんがいて印象的でした。
COIL型授業全体を通して、学生たちの反応はいかがでしょうか。
ファン先生:アメリカでは日本のアニメや漫画が人気です。私の日本語や日本文化に関する授業を履修している学生も、サブカルチャーから入って日本に興味を持つ学生が多いようです。アメリカでの日常生活で、こちらの学生たちが日本に住む日本の学生と出会うチャンスがあまりありません。そのため、COIL型授業を通じて、日本に住んでいる日本の大学生とオンラインで出会って話せたこと自体が感激だったようです。
福田:オンライン授業のメリットとしては、どのようなものをお感じになりますか?
ファン先生:やはり国際交流の機会の裾野を広げてくれることは素晴らしいですね。CSUNには、割と貧しい家庭の学生も多くいます。一族の中で初めて大学に来ているという学生もいて、そのような家庭には、勉強なんかは早く終えて早く働いた方が良いという価値観があることがあります。そのため、アルバイトで忙しく、学期中は授業とバイト、休みの日はバイトをたくさんしてあとは自宅で休む、という学生も多くいます。そういった学生には、休みの期間に短期留学や旅行をしたりする経済力はありませんし、もしかするとどこか遠くに出かけるという発想自体があまりないかもしれません。経済的困難を抱えていたり、時間のない学生でも、「オンライン」という手法では簡単に授業内で国際交流をすることができます。このことは、本当にオンライン授業のメリットだと思います。
福田:アメリカは日本と比べて授業料がとても高いので、裕福な家庭の学生さんがある程度いるものと思っていましたが、経済的困難を抱えている学生さんも多いのですね。オンラインは国際交流に本当に活用できますね。
ファン先生:そのほか、オンラインという形式自体について思うことなのですが、議論の際は、対面での授業より、学生がある程度冷静になれるかもしれないと感じました。以前対面で授業をしていた際に、日本文化に関する授業で、広島の原爆のシーンが登場する『この世界の片隅に』という映画を学生にみせました。そうしたら、その後の学生間の討論がヒートアップしてしまって大変でした。原爆の被害者である民衆を気の毒に思う学生と、日本の真珠湾攻撃により太平洋戦争が激化したのだから、原爆のことも自業自得の面があるのではないかと言う学生とがいて、意見が対立しました。映画を観た直後だと言うこともあって双方が瞬間的に思ったことを発言し合い、涙を見せる学生もいるほど感情的な言い合いになってしまいました。オンラインになると、物理的な「距離」がありますから、ここまで感情的に言い合いをせずに、冷静に事象について意見を述べ合えるのではないかと感じました。
福田:確かに、物理的に隣に相手いた方が議論がヒートアップするということはあるかもしれませんね。ということは、対面であまり活発に意見を言わない学生にとっては、オンラインになるとさらに発言のハードルが高くなってしまうのかもしれません。この点は調査の余地がありますね。興味深い観点をありがとうございます。最後に、本学の学生に向けて、ひと言お願いします。
ファン先生:秋学期にまた、逆井先生の授業とCOIL型授業を行う予定です。何を題材にするかはこれから逆井先生と相談して詰めていきますが、CSUNでは秋学期も全面オンライン授業ですので、アメリカの学生たちは、国際的なオンライン授業で東京外大の学生さんと交流できることを、いつも以上に期待しているかもしれません。COIL型授業で皆さんにお会いできることを、楽しみにしています!
福田:ファン先生、お忙しいところ、本当にありがとうございました!これからもどうぞよろしくお願いいたします。
今からでもまだ間に合う!
秋学期・冬学期のCOIL型授業予定一覧
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【秋学期】「戦争とジェンダー・セクシュアリティ/War and gender, sexuality」
担当講師:金富子教授
422017 ジェンダー論B/19422002 ジェンダー論2 火曜2限
カウンターパート:
カリフォルニア州立大学ノースリッジ校(CSUN) 担当講師 Khanum Shaikh准教授
※授業外の時間帯で、11/13(金)のみにCSUNとオンライン討論を実施予定です。 -
【秋学期】「(仮)Pandemic and Literature: Reading Yosano Akiko in the age of Pandemics」
担当講師:セン・ラージ・ラキ助教
413118 日本文化研究B (日本文学1) 木曜3限
カウンターパート:
カリフォルニア大学リバーサイド校 (UCR) 担当講師 Anne McKnight准教授 -
【秋学期】「[COIL]インストラクショナルデザインと異文化間能力/[COIL] Instructional Design and Intercultural Competence」
担当講師:福田彩特任助教
180020 地球社会と共生2B/19180029 多文化社会2 木曜5限
カウンターパート:
カリフォルニア大学アーバイン校(UCI) 担当講師 Fernando Rodriguez助教
国際基督教大学(ICU)担当講師 Insung Jung教授
青山学院大学 担当講師 安西弥生講師 -
【冬学期】「[COIL] The Pacific War revisited」
担当講師:春名展生准教授
19180266 日本の現在を知る2/180253 世界の中の日本B
カウンターパート:
カリフォルニア大学リバーサイド校(UCR) 担当講師 John Kim准教授
青山学院大学 担当講師 Chelsea Szendi Schieder准教授 -
【冬学期】「[COIL] 平和をデザインする:日本流の「人間の安全保障」とグローバルな紛争/[COIL] Designing the Peace: Japan’s Policy on Human Security and Global Affairs」
担当講師:吉崎知典講師
180231 世界の中の日本B/19180111 日本の現在を知る2
カウンターパート:
サンディエゴ州立大学(SDSU) -
【冬学期】「[COIL] 震災から10年の被災地で学ぶ ~福島でのボランティア型フィールドワーク~/[COIL] Volunteer Fieldwork in Fukushima – Learning in the Disaster-stricken area: 10 Years after the Earthquake -」
担当講師:田代純一講師、福田彩特任助教
180240 就業体験/19180244 就業体験2
カウンターパート:
カリフォルニア州立大学ノースリッジ校(CSUN)
※本就業体験科目は昨年は現地に訪問しての実施でしたが、今年はオンラインになる確率が高いです。
これに加えて、ファン先生がインタビューの中でご紹介くださったように、逆井聡人講師のゼミも、CSUNのファン先生とオンライン接続する予定です!
ご質問などおありの方は、TP-COIL事務局までいつでもお問い合わせください。
もっと知りたい方は・・
TP-COILは、COIL型授業、インターンシップ、留学を通して、文化の多様性(エスニシティやジェンダー)に関する感受性を育み、かつ意見の相違や多様性に対応できる能動的な資質を培うことを目的としたプロジェクトです。TP-COIL事務局ではCOIL型授業やインターンシップ情報についてお届けしています。ご質問等ありましたらいつでもご連絡をお待ちしています。
TP-COIL事務局
Email:tenkai-coil@tufs.ac.jp
http://www.tufs.ac.jp/tp-coil/
TP-COILのアメリカのパートナー大学
カリフォルニア大学 ロサンゼルス校
カリフォルニア大学 リバーサイド校
カリフォルニア大学 アーバイン校
カリフォルニア州立大学ノースリッジ校
カリフォルニア大学
カリフォルニア大学 サンタバーバラ校
南カリフォルニア大学
ニューヨーク州立大学 オルバニー校
ニューヨーク州立大学 ストニーブルック校
サンディエゴ州立大学