学長対談
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多文化共生を理念とする大学として
強く進んでいく
学長 立石 博高 対談
ゲスト:林 佳世子 副学長
立石博高学長(以下、学長) 早いもので私が学長に就任してから6年が経ち、この3月末で任期満了を迎えます。林佳世子先生には、私が学長に就任した際に副学長に就任していただき、その2年後には理事にもなっていただきました。6年間、全面的に支えていただきました。林先生が学長候補者となった際に、「本学が多文化共生を理念とする大学として強く進んでいく」と第一におっしゃっていました。私の学長任期中には「これまで培ってきた日本を含む世界諸地域の知識・経験をもとに、多面的な大学連携を推進する『ネットワーク中核大学』として、高等教育全体のグローバル化を牽引し、地球社会における人々の共存・共生に寄与する」という目標を立てました。そうした根幹を継承していただけるということで本当にうれしく思っています。今現在、大学を取り巻く状況が大きく変わってきています。そうした中で、本学のトップとして、どのような形で舵を取っていこうと思っているか、まず抱負をお伺いしたいと思います。
林佳世子次期学長(以下、林) 6年間、本当におつかれさまでした。私も副学長として、また理事として、6年間、立石学長の体制の一翼を担ってこられたことをうれしく思っております。立石先生の方針を引き継いでやっていきたいと思っておりますので、これからもどうぞご支援よろしくお願いいたします。
大学の舵取りをしていく立場になって、力を入れて取り組もうと思っていることは2点あります。1点目は、東京外大の魅力を今以上に輝かせていくということです。つまり、学生や卒業生にとっても、教職員にとっても、誇りの持てる大学であるということです。それは社会的な評価などにも関わってくると思います。本学に関わる方々が、心から誇りの持てる大学であるということを維持し、さらに高めていくということが重要だと思っております。2点目としては、教育研究環境の改善です。教職員にとって職場としての東京外大の環境を良くしていく、働きやすい環境にしていくということは非常に重要だと考えています。これら2点は、少し観点は違いますが、特に重視していきたいと考えています。
多言語多文化社会を支え、
その共生に寄与す
学長 1点目について伺います。本学が持っている資産をさらに豊かにしていく。どのようなものを守っていかなくてはならないのか、そして、それらをさらにどう発展させると本学の魅力が増していくのか、そのあたりのお考えを少し具体的に教えてください。
林 本学の特色は、多言語多文化社会を支え、そしてその共生に寄与するという点だと思います。グローバル化の下、世界は今、単純化、一様化していく傾向にあります。しかし、多くの言語を教え、多くの文化を研究している本学は、世界の多様性を基礎にしています。多様性があれば、コンフリクトもあり、矛盾もあり、対立もある。そういった中で、共感をはぐくみ、共生を実現していく。それが本学の研究の一致した方向性であり、教育の目的だと思います。現在の不寛容な風潮の世界の中で、本学の役割は非常に重要だと思っています。本学の教員は、広い意味で多文化共生に寄与する研究をそれぞれ立場で行っています。それを全体として統合して、見えるような形にしていくというのが大事ではないかと思います。東京外大と言えば、多文化共生に寄与する大学なのだということを、日本社会や実業界にも分かってもらえるような取り組みをしたいと思います。また、可視化だけではなく、その方向での研究をさらにプロモートしていくということが重要だと考えています。
学長 研究の社会還元ということが求められています。まさに本学の研究そのものが社会貢献です。そのような面を前面に出していくということですね。私のときには社会・国際貢献情報センターを立ち上げましたが、さらに発展させたセンターをお考えと伺いました。
林 はい。現在、社会・国際貢献情報センターと多言語・多文化教育研究センターがありますが、その統合を視野に「多言語多文化共生センター」(仮称)を発足させることを予定しています。
学長 さらに根幹として位置付けるというわけですね。
林 そうですね。すべての教員がそこに何らかの形で関われるような仕組みにならないかと思っています。そのような形で本学の研究を可視化していきたいと思っています。また、教育面で大きな課題と考えているのは、教育の手法の革新です。IT化、ICT化の進む時代の中で、教育のやり方そのものを変えていかなければいけないと思います。本学で学ぶ学生がすでに小・中・高校で新しい手法を体験している中で、大学が旧態依然たるというわけにはいきません。主たる対象は言語教育です。世界の80近い言語を教えている本学として、言語を教える際に、個々人のニーズや達成度にどのように合わせていくか。今までのやり方とはちょっと発想を変えなければならないと思っています。数年の間に大きな転換が迫っていると思うので、その点にはかなり注力したいと思っています。
周りを思いやれるような
職場になるといい
学長 抱負の第2の点についてです。私が学長に就任した際に、「対話と共創」、共につくり出す、創造する、という言葉を掲げました。そして、教員と職員が共に大学を作っていく「教職協働」ということも掲げ、取り組んでまいりました。林先生は、働く環境の改善という点では、具体的にどんなことを構想されているのでしょうか。
林 具体的なことはこれからという段階ですが、風通しを良くしていくということに尽きると思っています。教職員の雇用形態は以前より複雑化しています。そうした中ですべて一様にはできないわけですが、それぞれが抱えている問題を共有できる場をつくっていきたいと思っています。特に「女性の働きやすい環境」ということが言われますが、女性が働きやすいというのは、イコールみんなが働きやすい環境だと思いますので、具体的な改善に取り組んでいきたいと思います。そしてそれは教育の改善にも直結すると思います。たくさんの課題がありますが、問題点を汲み上げて手が付けられるところから始めていきたいと思います。
学長 林先生は、本学では2人目の「女性学長」でもあります。
林 そうですね。本学は女子学生の多い大学です。女性の学長がいるということも、1つのロールモデルですので、そのような役割を果たせればと思っています。
海外との協働教育についても
踏み込んでいきたい
学長 大きく2つのことについて話していただきましたが、私の学長任期の6年間、林先生に協力していただいて、本学のプレゼンス向上に大きく貢献しました。特に、スーパーグローバル大学構想の採択、とりわけ留学支援の仕組みを制度化したことがとても大きかったと思います。
林 私が副学長を務めた間に注力したことの1つは、留学をきちんと教育の中に位置付けるということでした。本学の学生の多くは、長期の留学をしていますが、従来は大学としてそれを十分に把握ができていませんでした。また、サポートも十分ではなかったのではないかと思います。
学長 休学留学や自由留学という形で留学している学生もたくさんいますね。
林 はい。かつては、留学の状況を完全には把握できていませんでした。現在は、留学支援共同利用センターを通じて、学生が海外にいても大学とつながっているという体制ができたのではないかと思います。それと、短期でもよいので留学したいという学生のために、短期留学の可能性を増やしてきました。海外への留学、海外からの留学生の受け入れは、本学にとっては要になる事業ですので、引き続き進めていきたいと思います。 また、単に協定校との間での学生の交換留学だけではなく、協働教育についても踏み込んでいきたいと思っています。今春にスタートする国際日本学部では、ダブルディグリー制度*1を取り入れます。同様のことが他でもできないか、可能性を広げていけないか、というのが夢ですね
*1:ダブルディグリー制度とは、海外協定校との間の単位互換制度を利用し、一定期間の留学などを通してそれぞれの学修プログラムを修了させることにより、双方の大学の学位を授与する制度。
特色を際立たせていくための
努力をしたい
学長 学生の視野が本当の意味で広がっていきますね。今、話が少し出ましたが、新たに国際日本学部をこの4月からスタートさせることになりました。
林 国際日本学部は本学にとって、2つの意味で新しい試みだと思います。1つは、日本語未習の学生も含む留学生と日本人学生が、日本学のカリキュラムでともに学び4年間を過ごすという点です。もう1つは、国際日本学部の教育の多くは英語で行われる点です。東京外大の中で主たる教育言語が英語という学部が実現します。
学長 言語文化学部と国際社会学部についてはいかがでしょうか。
林 言語文化学部、国際社会学部は、発足以来7年が経ちました。それぞれの特色は、受験生にも浸透してきたと思います。引き続きそれぞれの特色ある教育をサポートしていくことが大切だと思っています。どのような専門性を持った学生を育てるかという議論をさらに進め、引き続き各学部の特色を際立たせていくための努力をしていきたいと思います。
2つの足場があることで
世界がよく見える
学長 林先生は本学では長くトルコ語を教えられ、また西アジア、とりわけオスマン帝国の研究を続けてこられました。学長になりますと、なかなか研究の時間が取れませんが、これまでの研究を活かして考えていることはありますか。
林 そうですね。何とか時間を見つけて、研究成果もだしていきたいと思います。私自身は、トルコや西アジアの歴史を研究し、日本という足場と研究対象としている地域という2つ足場を持っていると感じています。そして2つの足場があることで、世界がよく見えると思ってきました。そういう点でも自分のフィールドは引き続き、大切にしていきたいと思います。
学長 私はスペインの歴史・地域研究をやってきました。学長という立場でもそうですが、外との具体的な関係があるということは強いですよね。抽象的に国際化だとかグローバル化というのではない。
林 東京外大の教員の皆さんも同様だと思いますが、そのような複数の足場があるということが世界をきちんと理解するための基本だと思います。その点は忘れずにいたいと思います。
学長 そういう中で、全体の舵取りをしながら、多言語多文化共生に資する本学のプレゼンスを強く社会にも示していきたいですね。私は「Interculturality」という標語を常に掲げてきましたが、林先生にもインターカルチュラルキャンパス実現にも取り組んでいただけたら嬉しく思います。本日はありがとうございました。
林 頑張りたいと思います。どうもありがとうございました。
立石 博高(たていし ひろたか)
1951年、神奈川県生まれ。専門は、歴史学(スペイン近現代史)。1976年東京外国語大学スペイン語学科卒業。1978年東京都立大学大学院修士課程修了、博士課程中退。東京都立大学、同志社大学を経て、1992年より東京外国語大学外国語学部助教授。教授、大学院地域文化研究科長、附属図書館長、副学長を歴任。2013年、学長に就任。2019年3月末任期満了予定。
林 佳世子(はやし かよこ)
1958年、山口県生まれ。専門は、西アジア史、オスマン朝史。1981年お茶の水女子大学文教育学部卒業。1984年同大大学院修士課程修了、1988年東京大学大学院博士課程退学。東京大学東洋文化研究所助手を経て、1993年東京外国語大学外国語学部講師。助教授、教授、学長特別補佐、副学長、理事を歴任。2019年4月、学長に就任予定。