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アフリカを学ぶ、アフリカから学ぶ

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アフリカは、ヨーロッパ、アメリカ大陸などがすっぽり入るほどの広大な地域です。自然のポテンシャルと人々のバイタリティ…。実際のアフリカに触れると、その多様性と力強さにだれもが驚きます。

そして、この地域は現在、急激な変化の中にあり、新しい地平がひらけつつあります。私たちは、往々にして欧米を手本とする視点だけから世界を認識してきましたが、今、グローバル経済のうねりの中でそうした価値観は再考を迫られています。そして、その表舞台に新しい価値観を運んで来ようとしているのがアフリカです。

奴隷貿易や植民地支配という暗黒の歴史を乗り越え、近年には、南アフリカのアパルトヘイト撤廃・民主化のほか、シエラレオネ、リベリア、モザンビークなど、複数の国々が紛争を終結させ、国の再建に取り組み始めました。最近は新しい市場としての注目度も高まっています。

国際社会学部のアフリカ地域専攻、誕生

こうしたアフリカを学ぶため、昨年2012年4月、東京外国語大学国際社会学部に「アフリカ地域専攻」が生まれました(定員15名)。

私たち日本人にとって、アフリカは、学べば学ぶほど、そこから学ぶことがいかに多いかに気づかされる相手です。生や死と率直に向き合いながら、たくましく、明るく生きる姿。その中で生まれる人と人のつながり。“今”を生きるアフリカは、一人ひとりの「人間の力」の鍛えてくれる存在です。同時に、多様なアフリカへの学びは、新しい国際社会の在り方を多面的な価値観でとらえる絶好の機会となるでしょう。

アフリカ地域専攻での教育

アフリカ地域専攻では、アフリカにおける言語使用の重層的状況を考慮しつつ、さまざまなトピックスをとりいれた実践力重視の独自のカリキュラムを用意しています。

まず言語については英語(必修)に加え、フランス語、ポルトガル語、アラビア語の中から1言語を選択必修で学びます。3年次からは、アフリカで比較的利用範囲の広いスワヒリ語も学びます。

1・2年次には、地域基礎科目での学習を通じて、主に自然地理や歴史を中心に、現代のアフリカ諸国の在り方との関連について基礎固めをします。植民地支配による地域差が深く関係するので、旧イギリス領、旧フランス領などの特色についても考察します。

3年次以後は、それぞれの関心で分国やテーマを選んで学びます。アフリカは地域的多様性のみならず、専門テーマも多岐にわたります。貧困撲滅、紛争と平和、農業・食糧問題、国際協力などが、卒業研究のテーマになりえるでしょう。

モハメド・オマル・アブディンさんインタビュー:アフリカ研究の先輩

2012年に本学に国際社会学部アフリカ地域専攻が誕生する以前から、本学外国語学部でアフリカを専攻し、大学院平和構築・紛争予防コースで研究をすすめてきた先輩がいます。モハメド・オマル・アブディンさんです。アブディンさんは、スーダンの首都ハルツーム出身。目が見えないながら、白い杖を頼りに、学内をスタスタ闊歩している姿をご存じの在学生の皆さんも多いでしょう。

本学外国語学部(当時)日本語専攻に入学して日本語・日本文化を学び、その後、アフリカ研究の船田クラーセン先生のゼミで卒業論文を執筆、大学院は平和構築・紛争予防コースに進みました。現在は、博士論文執筆中とのこと。あと一歩で完成です。

本学入学以前は、ハルツーム大学法学部入学―日本に留学し、福井県立盲学校―筑波技術短期大学情報処理学科卒という経歴の持ち主です。今年の5月に出版された『わが盲想』(ポプラ社)という彼の著作では、「笑いと涙」のオブラードにくるみながら、スーダンでの日々、そして努力と才能で切り開いてきた日本での暮らしが語られています。ハンティキャップをハンティキャップと思わせない、その類まれなパワフルさに圧倒されること請け合いです(是非、ご一読ください!)。

そして、現在、彼が進めている研究は、母国スーダンを扱ったPeace and Conflict Studies (平和構築・紛争予防研究)。彼に、話をききました。

——東京外大へ進学を希望した理由は?

母国では法律を学んでいましたが、来日してから日本語やコンピュータを学び、様々な進歩した技術を使って自力で色々学ぶ術を得ることが出来ました。そして、日本について政治・経済や文学など、もっと分野を広げて研究したい気持ちが強くなったんです。それに東外大は、自分と同じような留学生も多く学んでいると知り、受験しました。

——日本語専攻を卒業後、本学大学院への進学されたわけですが、そのきっかけをご紹介ください。

学部に在学中の2005年に母国スーダンは和平合意を果たし、南北対立紛争に終止符は打たれました。でも、これまで長く続いた紛争の状況を見てきた中で、紛争が続いたり終わったりするのは、背後にうごめく様々な勢力の利害関係の産物だと思いました。「和平合意」や「民主化」の実態やその影響に疑問を感じた私は、母国に平和がきたと手放しで安心はできませんでした。そのため、このまま日本にとどまって、東外大で母国の紛争問題をテーマに研究を続けようと決めました。それから修士、現在の博士課程と、もう10年もたってしまいました。目が不自由なので、読んだり書いたり時間がかかりますが、とはいえ、そろそろ博士論文を完成させたいなと思っています。

——博士論文の中身を少し、ご紹介くださいますか?

博士論文のテーマは、スーダン北部圏の諸勢力間の権力闘争が、スーダンの南北問題に与えて影響を明らかにすることです。2005年の南北和平合意、2011年の南スーダン共和国の分離独立と、あたかも平和に向けっているように見えますが、実際はそうではありません。そもそも、、和平合意も分離も、北部圏内の権力闘争の道具として利用されているにすぎず、国際社会による民主化を名目にした介入は、かえって、スーダンの真の民主化を阻害している面もあるのです。地域の状況はより複雑なのです。その問題を明らかにすることで、従来の紛争解決手法に批判的な検討をくわえたいと思っています。

——アブディンさんの今後のビジョンを終えてください。

国際社会に対して、より効果的な紛争問題解決への提案やメッセージを発したいと考えています。ここ日本は、欧米をはじめとする国際社会に対して幅広いネットワークと影響力で発信することが出来る良い環境だと考えています。いつかはスーダンに帰って国のために役立ちたいと思いますが、まだ自由に研究をできる状況ではありません。とくに、スーダン人には・・。外国人研究者にはできても、同国人にはできないことがいろいろあります。

この他やりたいことの中には、日本で次の本を出すこともあります!最近、私自身の日本での生活体験をジョーク混じりにつづったエッセイ本を出しましたが、自分らしい“ゆるゆる”としたかんじの視点で、今後は社会問題をテーマにした本も出してみたいなと思っています。堅苦しく論じるのは苦手なので、自分らしいスタイルで!

——日本の人に伝えたいことはありますか?

これからの世界にとって、アフリカはとても重要です。東京外国語大学にアフリカ地域研究のコースができたことは、とてもうれしいことですが、まだまだ小さい!アフリカは、ヨーロッパ全部やアジア全部に匹敵する研究対象です。是非、もっと多くの先生、多くの学生で教育や研究をやってもらいたいと思います。

それは、日本のためにもなると思います。日本の若者は、ちょっと小さくまとまりすぎ!夢が小さい!アフリカの人をみてください。みんな、もっともっと、たくましい。是非、日本の若者にはアフリカに行って、タフネスを身につけてほしいです。アフリカの人は、今は貧しく、教育も十分ではありませんが、日本のような恵まれた環境におかれたら、一人ひとりは、大きな力をもっているのです。そのことをきちんと理解し、上から目線でなく、正しくアフリカをみてほしいと思います。そうすることは、きっと日本の若者がタフになるためにも、役立つだろうと思います。


そうなのです。目が見えないというハンディを軽々乗り越えている(ように見える)アブディンさんはさずがに稀有な例とはいえ、彼と話すと、彼を生んだアフリカのタフネスはひしひし伝わってきます。
アブディンさんのスーダン研究が、日本の若者へのメッセージとなり、そして、今なお続く地域紛争の理解と解決へ新しい視座を開くことを期待しています。

最後に、本学国際社会学部で「アフリカ地域研究」を担当する坂井真紀子先生からのメッセージです。

これまで、貧困や停滞というマイナスのイメージで語られてきたアフリカは、今、最もダイナミックに変化している地域です。最近は、経済成長や市場の可能性といったポジティブな側面が注目を集めています。日本との関係も進化していきそうです。グローバル化が加速する今日、良くも悪くも様々な事象は国際情勢の中でより複雑化していくでしょう。
私がアフリカに興味を持ち始めた時は、まさかこんな変化がアフリカに訪れるとは予想していませんでした。
いまやアフリカの視点なしに、世界を理解することは不可能です。そして、地に足をつけて人びとの生活の営みから世界の複雑さを理解する、そうした視点がますます大切になる時代です。これから、アフリカ地域研究には、どんどん新しい課題が生まれるでしょう。
変わりゆく世界の情勢の中で、アフリカの多様性とバイタリティに学ぶことは、私たちの未来をともに見つめなおすことにつながります。ぜひ、興味を持って注目してみてください。

東京外国語大学国際社会学部アフリカ地域専攻に、ご期待ください。

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