2019春、新任教員・退任教員紹介
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この春に、新規に赴任された先生方、退任された先生方を紹介します。
新任教員紹介
東京外大のメンバーになった方々からコメントをいただきました。
佐藤 正広 / Masahiro SATO
大学院国際日本学研究院 特任教授
私は、近代日本における統計調査の歴史を研究しています。明治維新後、日本にはなかった「統計」という制度が輸入され、調査が実施されたとき、①日本社会、特に一般民衆がそれをどう受け止め、回答したのか、②また、それによって、できあがった統計データがどのような特質を持つことになったかということが興味の中心です。学部、大学院の授業では統計に限らず日本近現代史の基本的な知識とともに、原資料(近代行政文書)を読解することなどもしてみたいと思っています。皆さん、一緒に楽しく学びましょう!
西島 絵里子 / Eriko NISHIJIMA
世界言語社会教育センター 特任助教
本年度4月より特任助教として着任いたしました西島絵里子と申します。本学での業務として留学生日本語教育センターで留学生対象の日本語教育に携わっております。私が現在取り組んでいる研究テーマは日本語学習者の文章産出及び日本語ライティングの効果的な指導法です。これから本学で学ぶ留学生の日本語学習を精一杯サポートしていきたいと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。
西畑 香里 / Kaori NISHIHATA
世界言語社会教育センター 特任講師
専門は通訳・翻訳学で、特に通訳教授法や通訳者のキャリア開発プロセスについて研究しています。どうすれば通訳者になれるのか、通訳者のキャリア開発プロセス実態調査の結果等もふまえて授業でも紹介していきたいと思います。また、受講生の皆さんが卒業後に関わる可能性が高いビジネスの現場で求められる視点も取り入れ、通訳教育の課題と可能性に取り組んでいきたいと思います。
山内 康宏 / Yasuhiro YAMAUCHI
保健管理センター 特任准教授
この4月より東京外国語大学保健管理センターに着任いたしました。本学学部生・大学院生・研究生・留学生及び教員・職員の皆様が「こころ」と「からだ」の両面から健康で良好な状態を維持・増進できるように努めると共に、大学における安全・衛生環境の向上を目指し、大学生活と教育・研究活動が健康で実りの多いものとなるように任務を遂行していきたい所存です。どうぞ宜しくお願いいたします。
Jagmeddorj ENKHBAYAR / エンフバヤル,ジグメドドルジ
モンゴル語外国語主任教員
SUHARSONO / スハルソノ
インドネシア語外国語主任教員
Sunisa WITTAYAPANYANON / スニサー,ウィッタヤーパンヤーノン
タイ語外国語主任教員
THUZAR HLAING / トゥザライン
ビルマ語外国語主任教員
Shyamsunder PANDEY / パーンデーエ,シャームスンダル
ヒンディー語外国語主任教員
Matthew Kenneth MILLER / ミラー,マシュー ケネス
英語外国語教員
退任教員紹介
この春、定年退職・退任された先生方からのお手紙とオススメの本を紹介します。
伊東 祐郎 先生 / Sukero ITO
退職時:副学長、附属図書館長、大学院国際日本学研究院教授
1992年に本学に着任して以来、あっという間に26年が過ぎ去ってしまいました。この間に世界のグローバル化が想像以上に進展し、日本語教育はもはや留学生やビジネスパースンに限定されたものではなく、外国人児童生徒や生活者としての外国人など、日本語学習者の多様化や拡大化がさらに進んでいます。
このような状況の中で、おすすめしたい一冊が、鈴木孝夫著『日本の感性が世界を変える―言語生態学的文明論―』(新潮社)です。印象的な部分は、外国人が日本語を学ぶとなぜか礼儀正しくなる「タタミゼ(現代フランス語のtatamiser)効果」の不思議を解説した部分です。私も日本語教育に携わっていて日本語学習者の「物腰が低くなる」「優しくなる」といった態度や姿勢の変容を実感していたからです。
鈴木は日本語に秘められた意外な力を西欧文明と対比させつつ、「情緒と融和」を基調とした日本の感性が、人間を、世界を変える力を秘めているという文明論を展開しています。現代社会の深刻化する危機を救うのは、「日本らしさ」であることを気づかせてくれる一冊です。
東京外国語大学での26年間は多くの出会いと学びの機会に恵まれた充実した期間でした。本学のますますのご発展を心より祈念しております。ありがとうございました。
おすすめの一冊
鈴木孝夫著『日本の感性が世界を変える―言語生態学的文明論―』(新潮社)
岡田 和行 先生 / Kazuyuki OKADA
退職時:大学院総合国際学研究院 教授
私は1981年4月、本学外国語学部に助手として採用されましたので、勤続38年の長きにわたってお世話になったことになります。この間、所属はモンゴル語学科、総合文化講座、大学院総合国際学研究院と変遷し、キャンパスも北区西ヶ原から府中市朝日町に移転し、主要な研究対象国であったモンゴル人民共和国も1990年の民主化を経て社会主義体制を放棄し、市場経済に基づく民主主義国家モンゴルへと変貌しました。
今思い返せば、社会主義時代の1975年から2年間、最初の政府奨学金留学生としてモンゴル国立大学に留学できたことが、その後の私の運命を決定づけたと言えます。親元を離れるのも海外へ行くのも初めてだった私が当時のモンゴルの過酷な環境に耐え、帰国後何とか研究者としての道を歩みはじめることができたのも、日本とモンゴルの恩師や先輩たち、友人たちのおかげだと痛感しています。今ではビザなしで自由にモンゴルに行けるようになり、インターネットを通じて膨大な量の情報も入手できるようになりましたが、学生のみなさんにはぜひとも現地に長期滞在し、幅広い交流の輪を広げながら、貴重な経験を積んでいただきたいと思います。
おすすめの一冊
田中克彦著『草原の革命家たち』(中公新書、中央公論社)
残念ながら絶版ですが、モンゴル文学を専攻する私にとって、歴史と文学、世界文学から見たモンゴル文学について深く考えさせられた記念碑的な本です。
川島 郁夫 先生 / Ikuo KAWASHIMA
退職時:大学院総合国際学研究院 教授
自分の母校でもあり、21年間教鞭を執った勤務地でもある外語大を退職するとなると、どうしても思い出話が多くなってしまいます。47年前私が受験した時には、東外大は外国語学部だけの1学部制、キャンパスは北区の西ヶ原にあり、今日の専攻言語(当時の呼称は語科)もまだ14言語しかないという時代でした。その母校に1998年に赴任した時には、専攻言語は倍近い26を数え、圧倒的多数を占める女子学生がキャンパスを闊歩するという、自分の在学中の記憶とのギャップの大きさに驚かされたものです。2000年に府中キャンパスに移転した後も、大学は組織も教育体制も毎年のように変化し続け、私などはその目まぐるしさについて行くのがやっとだったといってもいいほどです。こうした変化の速さは時代の要求の反映でしょうから、これに応えてゆくのが教員・学生双方に課せられた使命なのかもしれません。
そんな中で、皆さんには是非外大の独自性…異文化との触れ合いと自己の再認識の探求という、他大にはない独自の目標を持ち続けていって欲しいと思います。外大の存在価値はこの一言に尽きると信じる先輩の贈る言葉です。
おすすめの一冊
R.F.ジョンストン著(入江曜子・春名徹訳)『紫禁城の黄昏』(岩波文庫)
中国最後の皇帝の日常を・中国や日本のような東洋言語圏以外の地域文化的背景を持つ人物の目を通して克明に綴った記録。虚飾を排した筆致が心に迫る。
髙島 英幸 先生 / Hideyuki TAKASHIMA
退職時:大学院総合国際学研究院 教授
人生はタスクの連続である(Life is a succession of tasks.)。昭和に生まれ、平成16年(2004年)に英語教育学特化コースの教員として本学に赴任し、令和元年となる2019年に退職となった。昭和54年(1979年)に鹿児島大学に就職、兵庫教育大学、本学と計40年間、日々、課題解決(タスク)の連続であった。この間、研究・教育生活を常に支えてくれたのが「チーム髙島」の元学生・大学院生達である。英語教育学を通しての彼ら(彼女たち)との出会いを大切にしてきた。両親の教えに間違いはなかった。
おすすめの一冊
新井紀子著『AI VS. 教科書が読めないこどもたち』(東洋経済新報社)
本書は、AI(人工知能)が自律してさらに能力の高いAIを作ることができるようになる地点(シンギュラリティ)は来ないと断言し、AIの可能性と限界を具体的に指摘する。AIは「意味」を理解せず、統計と確率による手法で課題解決を行う数学的手法でしか与えられた課題を解決できない。しかし、アルファ碁、自動作曲やチェス、画像処理など、統計的手法の延長である「ディープラーニング(深層学習)」により、その数学的正確さと速さにより、多くの職種をAIが奪うと警告する。筆者は,日本の国立情報学研究所が中心となっておこなったプロジェクト「ロボットは東大に入れるか」で研究・開発されたAIの「東ロボくん」に言及する。センター入試を「受験」させた結果と中高生の乏しい読解力から、現在の日本の喫緊の課題は、AIの能力(記憶力)が及ばない職種の探索と読解力の育成であると説く。今後、5Gの世界では、<商品という「モノ売り」>から、<その商品で可能な体験・経験の価値を売る「コト売り」>への転換が迫られる。その中で世界の教育における緊急の課題は、AIにできることと人間にしかできないことを見極め、「推論」(読解力)、柔軟性など、人間にしかない力を涵養することであると語られている。
立石 博高 先生 / Hirotaka TATEISHI
退職時:学長
1992年4月に本学に着任し、21年間の教員生活を送った後、2013年4月から6年間、学長を務めました。合わせて27年という長い期間で、ときには辛いこともありましたが、無事に勤め上げられたのは、先輩や同僚の方々からのご支援とご協力のおかげでした。あらためて感謝申し上げます。
さて、この間に大学を取り巻く環境は大きく変化しましたが、明日を担う若者たちに知的成長の機会を提供するという基本的指針に揺らぎがあってはならないと思います。そのためには教える側にもまた、時流に流されてはいけないが時流を無視してもいけない、つまり時流のはらむ矛盾を押さえて、その矛盾に対処する姿勢がつねに求められると思います。これまで東京外国語大学はそうした「外国研究」の大学でしたし、これからもそうあり続けることを願ってやみません。
おすすめの一冊
セルバンテス著(牛島信明訳)『ドン・キホーテ』(全6巻、岩波文庫)
本書を読むことで、「中庸な理想や、独善的なうぬぼれや、俗悪な小分別」から遠ざかる術を得られると思うからです。ときに私たちは、時流に流されがちな人々の「正気」を打ち砕くために遍歴の騎士の「狂気」をもつことが必要なのではないでしょうか。
鶴田 知佳子 先生 / Chikako TSURUTA
退職時:大学院総合国際学研究院 教授
2004年に国際コミュニケーション特化コース(その後国際コミュニケーション・通訳特化コース)を立ち上げるときに東京外国語大学に赴任しました。4年のときに大学院一年の授業を先取り履修することで、当時の大学院言語応用専攻国際コミュニケーション専攻を短縮終了できるコースです。
赴任してから15年、いろいろと環境が変わる中でとにもかくにも、本学で学部および大学院両方において、学生が自分の専門として通訳・翻訳を勉強できる環境を整えるべく、私なりにできることをすすめてきました。大学の方針変更にはとまどうこともありましたが、一生懸命にまなびたい意欲を示す優秀な学生の期待にこたえるべく努力を傾け、結果として修士95名、学士25名合計120名を私のゼミ生として社会に送り出すことができました。うち半分近くが通訳翻訳の道にすすんでいて、卒業生たちは私の誇りです。なかでも、私のあとに来てくださる西畑香里先生をはじめ、通訳をおしえることができる人材を育てることができたのを特に誇りに思っております。
4月から東京女子大学に移り通訳をおしえることになりますが、また皆様とお会いできる機会があればと思っております。
おすすめの一冊
米原万里著『不実な美女か貞淑な醜女か』(徳間書店)
通訳者のエッセイは数多あるも、1994年出版のこの一冊にまさるものはない。通訳の現場で、話し手の思いや考えを伝える奮闘がユーモラスに描かれている。
林 和宏 先生 / Kazuhiro HAYASHI
退職時:大学院総合国際学研究院 准教授
東京外国語大学に、最初で最後のメッセージを、今、世の中に排外・排他の空気が重苦しく感じられるこのときに、送らなければならないとするならば、ただ一つ、次のことを切に願ってやまない。外国を学び知ることはその外国の地と人を愛することに他ならない、本学において普通に経験するこの事実を、掛け替えのない真実として絶えず心に反芻し、排外・排他主義を撥ね返す盾にしてほしい。昔も今も大学に最もふさわしい言葉であってほしい自由を用いて言い換えるならば、国の内と外に分けることを強いる力に対して、敵味方を自分で決める自由を、どこよりも漲らせ広く世の中に浸透させることこそは、敢えて言えば、東京外国語大学の存在理由そのものであり使命でさえあるだろう。この自由の旗がいつまでも高く掲げられんことを。
おすすめの一冊(ならぬ一行)
萩原朔太郎著『青猫』
「佛は月影を踏み行きながら/かれのやさしい心にたづねた。」と結ばれる詩「思想は一つの意匠であるか」のその末行を、清らかな言葉を探しているひとへ。
藤井 守男 先生 / Morio FUJII
退職時:大学院総合国際学研究院 教授
東京外国語大学で、ペルシア語やペルシア文学の分野の教鞭をとることの最大の喜びとメリットは、イラン国内からはもちろん、北米のPhDも含む、多士済々なイラン人教員との出会いでした。特に、助手時代に最初期のペルシア語学科をともに過ごしたサルカーラーティー先生は思い出深い先生で、西暦1000年代初頭のペルシア語の民族叙事詩『王書』の世界的研究者であった先生からは、若き日の私は、研究ばかりでなく、人生の深い指針を得たような気がします。
学生の皆さんもネイティブの先生との折角の機会を有益に活用していただけたら、外語大での学習がさらに充実したものになるかと思います。
おすすめの一冊
小林秀雄著『本居宣長・上下』(新潮社)
中世期イランの文学に見られる寓意的修辞性と、まさに正反対の学びの世界を照らし出した知的営為として座右の書であった。
おすすめの一言:「過去は、自問自答の形でしか、蘇りはしないだろう。」(小林秀雄著『本居宣長』中の言葉)
渡邊 啓貴 先生 / Hirotaka WATANABE
退職時:大学院総合国際学研究院 教授
四半世紀務めた私自身の母校である本学を退職するにあたっては感無量の思いがあります。私のゼミ出身の学生は250人近くに至りました。先日私の退職を契機に久しぶりにゼミの集まりを持ちました。官庁・企業・メディア・研究者など道は様々ですが、それぞれの分野でみんな頑張っていることを確認し、うれしく思いました。
本学は外国語教育研究の日本で中心の学校として開校されましたが、時代の流れの中で、外国語教育・外国(地域)研究にとどまらず、国際社会全般に広い見識を持つ学生の教育に努めていかねばならなくなりました。 時代の要請にこたえられる大学として本学が発展していくことを願ってやみません。
おすすめの一冊
ジェームズ・ジョル著(池田清訳)『第一次世界大戦の起源』(みすず書房、講談社学術文庫)
私の研究上の関心は現代国際社会をグローバルな視野から理解し、その中で日本の外交と政治社会をどのように考えていくのかということにあります。その意味では、現代の出発点というべき第一次世界大戦はひとつの歴史的契機となる事件でした。21世紀の今日のグローバルな課題が歴史上初めて提示されたのが、この大戦でした。その意味から同書は本学の学生にとってふさわしい書物だと思います。
このほか、次の先生方が永年勤続退職されています。
坂本 惠 先生 / Megumi SAKAMOTO
退職時:大学院国際日本学研究院 教授
鈴木 茂 先生 / Shigeru SUZUKI
退職時:大学院総合国際学研究院 教授