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多文化社会の問題解決へ、東京外国語大学の取組み

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日本が、日本人と日本語だけの世界ではないことは、すでに皆さんよくご存じのことでしょう。外国からきて様々な理由で一時的に日本に滞在している人々、あるいは、外国にルーツをもち日本に定着した人々が増え、日本の多言語、多文化化は急速に進んでいます。東京外国語大学は、こうした日本の中の「世界」、多言語、多文化化する日本に目を向け、2006年に多言語・多文化教育研究センターを設立。さまざまな角度から、「多文化社会・日本」の問題を考えてきました。

今回のTUFS Todayでは多言語・多文化教育研究センターのプロジェクトコーディネーター杉澤経子さんに、「多文化社会コーディネーター養成」を中心に多言語・多文化教育研究センターの活動について、お話しを伺いました。

杉澤プロジェクトコーディネーター

——多言語・多文化教育研究センターとは、どういう活動をしているところなのでしょう?

センターの活動は、大きく分けて(1)教育、(2)研究、(3)社会連携活動の3つの柱からなっています。第一の教育では、本学の学部に、多言語・多文化社会に関するさまざまな授業を提供しています(多言語・多文化総合プログラム)。第二の研究では、多文化社会専門人材に関する専門職としてのあり方や認定制度について、現場の実践者と研究者がそれぞれの専門知を持ち寄って「協働実践型研究」を行っています。

第三の社会連携活動では、多文化社会専門人材養成講座や、言語ボランティアの活動推進、外国につながる子どもたちのための教材作成などの活動を行っています。「外国につながる子どもたちのための教材作成」は、センターが最初に取り組んだ社会連携活動です。在日ブラジル人児童、在日フィリピン人児童、南米スペイン語圏出身児童、ベトナム出身児童、在日タイ語圏児童のためのポルトガル語、フィリピン語、スペイン語、ベトナム語、タイ語による漢字や算数の教材を作成し、誰にでも利用していただけるようインターネット教材として提供しています。

——8月にも大きな活動があったと伺いました。ご紹介いただけますか?

ええ、8月30日に「外国人のための電話とスカイプによる無料法律相談会(通訳付き)」が行われました。これは、関東弁護士会連合会の主催によるもので、毎年、多言語・多文化教育研究センターが通訳面で協力しています。関東弁護士会連合会は、関東圏で活動する13の弁護士会の連合体です。

当日は、センターが開講している「多文化社会専門人材養成講座」のうち「コミュニティ通訳コース」修了者で、スカイプ等を使用した「遠隔通訳」の実践経験のあるメンバー15名が参加しました。通訳言語は、英語、中国語、スペイン語、ポルトガル語、インドネシア語、ベトナム語、ベンガル語、ロシア語、韓国語、タイ語、タガログ語、イタリア語の12言語です。

また、8月7日(木)~10日(日)には、「多文化社会専門人材養成」の一環として 「多文化社会論基礎講座」と「多文化社会コーディネーター養成講座・基礎科目」を 合同で開講しました。この集中講座には全国から35名が参加し、多言語・ 多文化社会に関する講義やワークショップに取組みました。

——多言語・多文化教育研究センターが「多文化社会専門人材養成講座」を行っているのですね!どういう経緯ではじまったものなのでしょうか?

多文化社会専門人材養成講座では、多文化社会コーディネーターとコミュニティ通訳の養成を行ってきました。

日本において、こうした人材へのニーズが高まってきた背景には、1990年代以降のニューカマー外国人の急増があります。日本の各地で、言語・文化・制度の異なりによって起こる様々な問題が報告されるようになり、この解決のため、総務省からは「多文化共生」施策の推進が提起されました。 また、自治体には外国語相談窓口が設置され、弁護士会等の専門機関でも外国人のための相談会が実施されるようになります。

こうした中、専門家のアドバイスを正確に通訳ができる多言語人材や、「多文化共生」施策を企画立案し実施できる専門的力量を持った人材の育成が、課題として浮き上がってきました。

多言語・多文化教育研究センターでは、こうした社会的ニーズに対応すべく、本学オープンアカデミーの講座において、専門職としての「多文化社会コーディネーター」と「コミュニティ通訳」の養成にとりくんできました。

——「多文化社会コーディネーター」、「コミュニティ通訳」とはどのような役割を担っているのでしょうか。

多文化社会コーディネーターは、「言語・文化の違いを超えてすべての人が共に生きることのできる社会の実現に向けてプログラムを構築・展開・推進する専門職」と定義されます。これからの日本では、自治体や政府の諸機関、企業、教育機関など、あらゆる組織において必要とされる人材です。

また、コミュニティ通訳は、「言語的マイノリティーの方々を言語の面で支援することによって、ホスト社会につなげる橋渡し役」といえるでしょう。

多言語・多文化教育研究センターでは、2008年度に「多文化社会コーディネーター養成講座」をスタートし、2010年度からは、「コミュニティ通訳コース」を併設し、開講してきました。

——-どのような方々が受講されているのでしょうか?

学外から多くの方が受講されています。「多文化共生」施策を担当する自治体職員の方、外国語相談窓口に配置された外国語相談員の方、自治体が国際化政策を推進する団体として設置した「国際交流協会」の職員の方、外国につながる子どもの教育を担当している小・中・高等学校の先生方、地域で日本語支援を行っているボランティア団体のスタッフ、さらに留学生を担当する大学教員の方々などです。

多文化社会コーディネーターコースは、これまでに全7期133人、コミュニティ通訳コースは、全4期75人(10言語)の方が受講しました。

——受講された皆さんは、その後、どのように活躍されているのでしょうか?

それぞれの職場で、受講されたことを活かしているとの声をたくさん聞きます。ただ、短期の講座を修了しただけでは、専門的な実践力が身に付く、ということはいえません。そこで、センターでは、講座修了者の方々が参加できる「協働実践研究会」を設けたり、多文化社会実践研究・全国フォーラムにおいて実践研究発表の機会を提供しています。さらに我々のセンターの研究雑誌『多言語多文化―実践と研究』に実践研究論文の投稿をお願いし、専門的力量を高めていただくためのプログラムを組んでいます。

実際にセンターが行っている全国フォーラムでは、多くの「多文化社会コーディネーターコース」修了者が実践研究の成果を発表して下さっています。

センターの活動のなかから、多くの専門的な多文化社会コーディネーターが生まれているといっていいかと思います。

——コミュニティ通訳コース修了者の方も、いろいろな場面で活躍されているそうですね。

はい、コミュニティ通訳コース修了者に関しては、弁護士会との連携により「コミュニティ通訳紹介制度」を立ち上げて、2010年秋から法律相談における通訳活動を実践しています。現在は、センターの「言語ボランティア登録制度」に登録いただいている方も加わり、18言語の通訳者が法律相談の現場で活躍しています。言語ボランティア登録制度は、必要に応じてボランティアに応じてくださる本学のOBやOG、現役の大学院生を登録するもので、今日現在、24言語、164人の方が参加しています。

——18言語への通訳ですか!まさに、東京外語大らしい活動ですね。

はい、現場では多言語通訳へのニーズは非常に高いものがあります。まさしく本学がコミュニティ通訳の養成にかかわる意義は「多言語」にあると言えますね。

ただ、課題は、特に少数言語においてマッチングが難しいということです。通訳を求める人は全国に散在している一方で、実践で活動できる通訳者の数は、多くはありません。

こうした状況を改善するために、センターでは、「遠隔通訳システム」の構築を目指しています。2013年度に関東弁護士会連合会と協働で研究会を立ち上げて活動をしているところです。これまでに、様々な形で実践を行ってきましたが、最初にご紹介した「外国人のための電話とスカイプによる無料法律相談会」もその一環です。

弁護士会との連携による電話・スカイプを活用した相談会

——今後に向け、どういう課題があるのでしょう?

「多文化社会コーディネーター」、「コミュニティ通訳」とも、今後グローバル化が進む日本社会において欠かせない人材となっていくことは、間違いありません。そうなっていくと、その専門的力量を証明する仕組みとして「認定制度」が必要になります。

センターでは、現在、この「認定制度」研究を進めています。その設立にむけ、いろいろな形で声をあげていこうとしています。

——最後に、今後への抱負をお願いします。

2020年のオリンピックに向けて、政府は外国人労働者の受け入れに舵を切ってきています。今後日本社会の多文化化はさらに進んでいくと思われます。多文化社会の問題に対応できる人材の養成と認定、そしてその輩出は、27の専門言語の教育をし、言語・文化に関する専門教育を行っている東京外大だからこそできる社会貢献活動ではないかと思います。 皆さんと力をあわせ、その実現に向かっていきたいと思います。

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