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この春、定年退職される先生方より、みなさんへメッセージ

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2024年3月、東京外国語大学を定年退職される先生方からみなさんへメッセージをいただきましたのでお届けします。あわせておすすめの一冊も伺いましたのでご紹介します。

根岸 雅史(ねぎし まさし)先生

大学院総合国際学研究院 教授

1988年4月の赴任から2024年3月まで、合計36年間外語大に勤務しました。学生として過ごした4年間も加えるとちょうど40年間外語大にお世話になったことになります。

自分が入学したときには、このようなことになるとは夢にも思いませんでした。赴任以来一貫して「英語教育学」関連の授業を中心に教えてきたわけですが、この間に出会った学生のみなさんからは本当にたくさんのことを学びました。特に卒論のテーマは多様で、私自身が思いもつかないものばかりでした。「英語教育学」という分野が故に、つい最近まで中高生であった学生の発想はとても興味深く、感心させられました。学部ゼミでも大学院の指導学生でも、私たち教師は選ばれる立場ですが、今となっては、彼らに選んでもらったことにとても感謝しています。

また、たくさんの同僚にも恵まれました。ともすれば、楽な道を選択しそうになる私の背中を押し続けてもらいました。様々なプロジェクトにお声がけいただき、自分一人ではとても目を向けることがなかったであろう研究に出会い、経験を積むことができました。

本当に幸せな40年間を送らせてもらった外語大に感謝!

おすすめの一冊

Hughes, A., & Hughes, J. (2020). Testing for Language Teachers (3rd ed.). Cambridge: Cambridge University Press.

私は1984年に英国レディング大学に留学し、本書の著者のArthur Hughesの授業から大きな刺激をもらいました。1989年に出版された初版は自分が受けた授業そのものでした。2回の改訂を経た今も本書は言語教育に関わる教師のため必読書として読み継がれています。

水野 善文(みずの よしふみ)先生

大学院総合国際学研究院 教授

2000年4月に着任して、瞬く間に24年の歳月が流れてしまいました。着任早々の夏休み、学生時代のほろ苦い思い出が染み込んだ西ヶ原キャンパスから、この府中キャンパスへの移転が、私にとっても心機一転、教員としての意欲をかき立てる契機となりました。まるで昨日のことのようです。そして、今のところ辛い思いばかりが回想されるこの府中キャンパスですが、いつの日にかきっと、教員時代の甘美な思い出に染まることでしょう。

そんなひとつとして、年に二回ほど教員冥利に尽きるとしみじみ感じさせてもらえたことがあります。モジュール制導入(2004年度)以降、春・秋学期の始業前に、ヒンディー専攻学生全員を対象に施していた履修指導・生活相談のための個人面談でのことです。4年生にもなると、「○○先生ゼミで〜〜というテーマの卒論執筆中です」とか「・・・に内定もらいました」という話の、もっぱら聴き役です。1年生のころには物怖じしていたあの学生が、何と逞しく成長したことよ、と目を細めるばかりでした。

これからも、本学での学び、交友、留学体験等々が確実に人間を大きく逞しく育ててくれるでしょう。遠巻きからではありますが終生見守らせてください。よろしくお願い致します。併せて、これまで賜わりましたご恩に厚く感謝申し上げます。ありがとうございました。

おすすめの一冊

上村勝彦訳『バガヴァッド・ギーター』 (岩波文庫 赤 68-1),岩波書店, 1992年。

行動に出る前に、あらぬ結果を詮索して逡巡していては生きる意味がない。どんな結果になるかは全て神に委ねて、今自分がなすべきことは、即実行しなさい、と説く。インド版「今でしょ!」。あなたも勇気が貰えます。

八木 久美子(やぎ くみこ)先生

大学院総合国際学研究院 教授

1993年の6月に着任して、約30年勤めさせていただきました。私自身、東京外国語大学のアラビア語学科を卒業していますので、ほんとうに長いあいだ、外語大にはお世話になりました。着任したころは、自分が学生だったときに教えて頂いた先生方が何人もいらっしゃったのですが、いつの間にか、かつて教えた学生が同僚に加わるようになりました。

難解な文法で初学者を悩ませるアラビア語、なんとも理解しにくいところのあるイスラムという宗教に関する授業が、私にとっていつも充実したものでありえたのは、打てば響くように反応し、水が砂にしみこむように知識を吸収してくれた学生の皆さんのおかげです。ありがとう。

私にとって一番苦しかったのは、大の苦手である大学の運営に、学部長として深くかかわらなければならなかったときでした。それでもなんとかやりおえられたのは、そばで支えてくださった先生方、そして鉄壁の守りで周囲を固めてくださった事務の方々のおかげです。心より感謝いたします。

おすすめの一冊

アーサー・クラインマン著、皆藤章監訳『ケアのたましい』福村出版、2021年

医療人類学者である筆者が病んでいく妻の姿を前に、夫として、学者として書いた本です。私の専門である宗教学とは直接には関係しませんが、人間性を突き詰めるという点で、どこかつながっていると感じさせます。

吉田 ゆり子(よしだ ゆりこ)先生

大学院総合国際学研究院 教授

感謝の気持ちをこめて

1991年4月1日に着任以来、たいへん長い間、お世話になりました。

大学で授業をした経験のないまま、1歳になったばかりの子供の世話に追われながら、東京外国語大学での勤務が始まりました。教師として未熟な私を励ましてくれた学生さんたち、同僚の先生方、そして事務方(じむかた)と呼ばれていた職員の皆さんに、感謝しています。「先生、応援しています」と温かい言葉をかけてくれた留学生、「最後まで諦めるな、諦めずにきたから今の自分がいる」と言ってくれた学生さんの力強さ。さまざまな場面と言葉に支えられながら、在職を続けることができました。研究と教育の面においても、日本の歴史、しかも16~19世紀を対象とする近世史研究の成果を、東京外国語大学で教育に還元するには、いくつもの工夫が必要でした。ようやく2005年頃から、「日本地域研究」という講義で一つのスタイルをつくることができ、2015年から「日本の文化遺産」というリレー講義を開設し、歴史的な遺産を継承する意義を学生たちに考えてもらう機会を得ました。退職を迎え、これまで培ってきた視点や研究蓄積を、さらに前に進めることができるという大きな希望を持っています。これも、学生の皆さんをはじめ、多くの方々から受けた恩恵だと、心より感謝しています。ありがとうございました。

おすすめの一冊

『いずみさん、とっておいてはどうですか』平凡社、高野文子と昭和のくらし博物館、2022年

東京都豊島区で、昭和30年代に少女時代を過ごした歴史研究者山口啓二・静子先生の長女いずみさんと次女わかばさん姉妹があそんだ人形やおもちゃや、いずみさんの日記をもとに、当時の生活を紹介した本です。あまりに当たり前の日常は、記録されず失われていってしまいます。普通の人々の暮らしや営みの歴史を残していくこと、「とっておいてはどうですか」、が実現してくれるのだと気づかされました。

吉本 秀之(よしもと ひでゆき)先生

大学院総合国際学研究院 教授

1988年7月1日、自然科学概論担当の一般教育講師として着任しました。昭和は、64年1月7日までですから、昭和の終わる半年前に着任したことになります。たぶん、着任の1週間後ぐらいに最初の講義を行ったと思います。大きな教室に学生が3人来てくれていました。そのひとりに科学史を勉強したいと目を輝かせていた学生がいました。彼女が私の出身大学院に進学したただ一人の学生となりました。

学部教員としては、外国語学部で23年9ヶ月、2012年以降言語文化学部で12年間教育に当たってきました。ゼミには、いろんな学生が参加してくれました。私自身の12年間の学生/院生時代には出会ったことのない突破力のある学生にびっくりしました。外語という枠を、あるいは日本社会という枠をも突破して外で活躍することができる力をもった学生たちでした。

2015年度から4年間、総合国際学研究院副院長の職を務めたりしましたが、大学教育大綱化以前の「一般教育」は「一国一城の主」という位置付けであり、直属の上司のいない教員/研究者人生をおくることができて、たいへんラッキーだったと思っています。

大学自体は真冬の厳しい時代を迎えていますが、「耐えて」いかれんことを祈願しています。

おすすめの一冊

畑村洋太郎『失敗学のすすめ』講談社、2000  (文庫版:講談社文庫、2005)

この世にいきるすべての方に読んでもらいたい本です。1点に絞り、紹介します。重大な事故(例えば、2024年1月2日に羽田空港で起きたJAL A350型機と海上保安庁DH8C型機の衝突事故)が起きた場合、同様の事故を将来にわたって防ぐためには「原因の究明と責任の追及は切り離すべき」ということです。日本のように刑事責任の追及(警察の捜査)が中心になってしまうと、どうしても原因が隠れてしまいがちです。免責して、当事者に原因究明に100%協力してもらうことが将来の事故を防ぐことに繋がります。

谷口 龍子(たにぐち りゅうこ)先生

大学院国際日本学研究院 准教授

2009年10月に着任して以来、14年半、同僚の先生方、職員のみなさまに助けられ、また学生の皆さんと充実した毎日を過ごせたことに感謝申し上げます。

外語大で得られた知見のおかげで、自分にとって幸せな今後の研究の方向を見つけることもできました。他方で、教員、学生ともにダイバーシティの環境において、他者を想像することの難しさを痛感し、多言語多文化共存が容易ではないことも実感しました。

外語大での経験はすべて私にとってかけがえのない貴重な体験となっています。

あらゆる言語や文化の共存を図る外語大の特色を守り、またぜひ社会に向けて発信していただきたいと願っています。

おすすめの一冊

『朗読者』新潮文庫、ベルンハルト・シュリンク(松永美穂訳)

1995年にドイツで出版された大ヒット作品ですのでご存知の方も多いかもしれません。

15才の少年が母親ほど年の離れた女性と恋に落ちるところから始まりますが、ナチスの犯罪、戦後の歴史教育に絡めて、人の尊厳とは何かという問いを投げかけ、他者を理解することの難しさを見せつけられる内容です。

一読するだけでなく、何度も読み返すことでこの作品の重層的なテーマが見えてきます。


本学での長年にわたる教育研究業務に感謝申しあげます。益々、お元気でご活躍されますことをお祈りしております。

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