多文化共生の観点から社会課題解決への糸口を探す
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渋谷区のハロウィーンでの路上飲酒等の社会課題について、本学の学びがどのように貢献できるのか。
2023年秋、一般社団法人LeaL・株式会社ディレクションズと共に、東京外国語大学学際研究共創センター(TReNDセンター)が計3回のワークショップと11月10日のSocial Innovation week2023(以下、「SIW」)での発表を行いました。
今回のTUFS Todayでは、東京外国語大学から参加した学生のうち2名が、本企画に携わった一般社団法人LeaLや中山俊秀副学長と座談会を行い、イベントや付随することについて意見を持ち合いました。
座談会参加者
- 中山俊秀(なかやまとしひで)副学長
- 楢崎匡(ならさきまさし)さん (一般社団法人LeaL代表理事)
- 小池拓也(こいけたくや)さん (一般社団法人LeaL)
- 鳥居萌瑛子(とりいもえこ)さん (一般社団法人LeaL)
- 重留理愛(しげとめりお)さん 国際日本学部4年
- 山本芽依(やまもとめい)さん 国際日本学部2年、本座談会取材担当
- 和泉悦子(いずみえつこ)課長補佐(総務企画部研究協力課)
- 久納弘明(ひさのうひろあき)大学院研究支援係長(総務企画部研究協力課)
開催経緯---お互いに歩み寄ること
山本: 2023年11月に、本学学際研究共創センターの主催で「渋谷センター街での海外観光客への聞き取りフィールドワーク」「渋谷区・センター街関係者への聞き取りワークショップ」「前2回のまとめワークショップ」の計3回のワークショップがおこなわれ、参加学生がその内容をソーシャルイノベーションの祭典「SOCIAL INNOVATION WEEK 2023」(主催:一般社団法人渋谷未来デザイン、2023年11月6日(月)〜11月12日(日))で発表しました。本学学生へ、実際に起こっている社会課題に対して、言語や文化的な違いから生じる問題を切り口とした課題設定・解決の視座を身につけてもらうことをコンセプトに開催したと伺いました。今日は、このワークショップについて、皆さんと振り返りたいと思います。早速ですが、今回のワークショップはどのような経緯で開催することになったのでしょうか。
楢崎: まず、中山先生との出会いをお話ししますね。渋谷区の複合施設「渋谷スクランブルスクエア」にある会員制の共創施設「渋谷キューズ(SHIBUYA QWS、以下「QWS」)」で以前、東京外大がワークショップを開催していて、僕も大学時代に言語学をやっていたので、親近感を勝手に持ち見学に行ったのが中山先生との出会いでした。
中山: そのとき、たくさんの人と名刺交換をしたのですが、楢崎さんは実際にその後に声をかけてくれたんですよね。学問の楽しさを、学内外のより多くの人と共有したいと思っていました。そうした時に、大学の中でただ待っているのではなく、自分たちから出て発信しなければならないと思い、QWSでワークショップを行いました。なので、そこに来てくださって、さらにもう一歩踏み込んで声をかけていただけたのは我々としてはとても嬉しかったです。
楢崎: 人文系の研究内容というのは、みんなに知ってもらおう、関心を持ってもらおうとすると意外と難しいんですよね。理系は研究対象としているもの自体、天体や昆虫など一般の人も漠然と関心があるものなんですよね。人文系は何をどう共有したらいいのかわからないところがある。そのようなことを考えていた時に東京外大のワークショップを知り、つながったら何か起こるかもしれないと参加しました。
中山: お互いに一歩踏み出すところからはじまる。何か始まったからにはとにかく面白がってみるっていうのが重要ですね。
フィールドワークを通して---結局現場に答えがある
山本: 大学で勉強している中でも、人文系の研究は社会と共有しづらいなと思います。ちなみに、今回のワークショップはいわゆる人文系のものでしたが、共有したい気づきや結果があればぜひ教えてください。
楢崎: やはり、短い時間ではありましたが、フィールドワークで現地を見るというのがとても良かったと思います。あとは、ワークショップ2回目では渋谷区の方だったり、渋谷区職員の方やセンター街振興組合の方など実際に携わっている立場の方たちの意見をきちんと聞けたというのはすごくおもしろかったと思います。外野でああだこうだ言っていても解決しないというか。やっぱり現場に答えはあったんだなと。
小池: 課題解決型のワークショップって、文献で調査して、そのまま机の上で議論が始まって、それで終わってしまうのが多いんですよ。そんな中で、現場の声を自分で集めて、専門性を持った人と話ができて、それを踏まえてみんなで考えられたのは、自分たちもいい経験だったと思います。
中山: 現場を直接見たり、さまざまな関係者の話を聞くことができてよかったのは、今回の課題とされていた路上飲酒も実はいろんな要因が絡まって簡単に解決できないやっかいな問題になっている、ということを実感できたことですね。はたから見ると、禁止して取り締まればよいのではと簡単に考えてしまいますが、現場の方々の話を聞くとそんなに簡単には取り締まれないことがよくわかります。取り締まりには人が必要。そうなると夜中まで働いてもらう人の超過勤務はどうなるの?とか、役所の人に危険な仕事をやらせていいの?とか、それに付随する管理する側のさまざまな課題が発生します。こうした背景の話はやはり当事者の方々に聞いてはじめて分かりますね。
重留: フィールドワークにいくことで、社会問題はいろんな要因が絡んでいて、現状を知った上で当事者の方々に話を聞くことができました。渋谷での路上飲酒問題においても要因が複数あって、それぞれどう絡んでいるのか、現場に行ったことで、頭の中での整理がしやすかったですね。
東京外大生の長所---相手の立場に立てる
小池: 今回のワークショップを通じて、東京外大の学生は、物事をちょっと立ち止まってクリティカルに考える能力が高いと感じました。そして、相手の立場に立って考える力がすごく高いなと思います。いろんなお話を聞いて、どっちかに寄ってしまいそうな瞬間って結構あると思うんですが、「この案で良さそうだよね」とまとまりかけたところで、「そこにはこういう観点があります」と投げてくれることがよくあった気がします。学部生でこの視点を持てるのはすごいというのを本当に思いました。
重留: 私の学部では普段の授業で留学生と関わることが多くて、日常的に相手のバックグラウンドを意識していて、今回のワークショップでも普段の考え方を活かせられたのもよかったです。
東京外大生こそ海外にこだわらないで
和泉: たとえば、原発の事故とかすごく大きい問題になると、「みんなの問題」だとみんな思うと思います。そこに住んでいる福島の人だけの問題じゃなくて、日本全体でなんとかしなきゃって。渋谷のゴミ問題は、渋谷区の人の問題と思ってもおかしくない規模ですよね。でも実は、この問題を解決する人たちは地域の人たちだけではなく、そこに店を出している人、遊びにきているだけの来街者、外国人観光客の方など、みんなにとっての問題なんじゃないかと思います。そういった地域を最初に設定できたのは良かったと思います。こういった、実は多くの文化が集まっている渋谷で、海外の文化を日々学んでいる東京外大生が、自分たちの役割を見出して、東京外大で学んだ知識を問題解決に活かせるということを確認できたのはよかったです。
中山: このワークショップを通じて、学生さんたちに、大学での自分たちの学びと社会がつながっていることを感じてほしいと思っていました。特に、今回は、自分たちを取り巻く身近な場所での関係者の生の声を聞くことで、その身近な社会での困りごとに自分ごととして関わり始めるきっかけとなってくれるといいなと思いましたね。
山本: 正直、外大生として国際的な分野ばかり勉強している身からすると、渋谷の路上飲酒の問題のような国内の問題にどれだけ貢献できるのか、というところで疑問がありました。でも、非日本語話者へのインタビューのときには自分の語学力を活かせたし、解決策を考えるときには、いろんな国の人のバックグラウンドを考えるという、大学生活の経験で培った想像力を活かせた気がします。
中山: 東京外大は国際的な視点や国際性が特色だから、「外に目を向けることにこだわらなきゃ」みたいなイメージがあるけれども、外大生が持っている「他者」に向き合う力、自分が馴染んだ日常から視点を変えて物事を観察し捉え直してみる力はあらゆるところで生きる。渋谷でも活かせるし生きる。今回のワークを通してそのことを体感できたのが大きな収穫だったと思います。
将来のために大学生の今すべきこと---「しんどいこと」は続かない
山本: 話は変わりますが、将来、社会課題を解決できる人材になるために大学生活ですべきことはありますか。
楢崎: 結局、自分が好きなもの何かをやったときに「これ好きかも」、「これ楽しい」っていう瞬間をとにかくしっかり覚えておいてほしくて。それが自分のやりたいことにつながっていくので、何やるにしても「これおもろいな」と思ったら、ぜひ心に留めておいてほしいですね。
小池: 社会にこれから出て、課題の解決に向けてっていうお話だったんですけど、問題意識・使命感って長続きしないんですよ。おそらく解決している自分が好きだったりしないと続かないと思います。しんどいことは人間やれないようにできてるんじゃないかな。解決したいと思う気持ちはすごいから、それを長続きさせるような、楽しんでやれる所を探すのが重要なんじゃないのかなって思いますね。
「好き・やりたい」を周りに言う
山本: やりたいことを実現するためにはどんなプロセスを踏んだらいいですか?
楢崎: 言語化するのは難しいのですが、最初は「人に言う」。「「楽しい」「好き」」を周りに言うとよいと思います。一人でできることは限られていますが、口に出すと、周りの人に自分の好きなこと、やりたいことを伝えることができる。ある時に何かのきっかけで何かがきたときに「あの人が好きだと言っていた内容じゃないか」と言うところから展開していけます。他者からの意見を聴くことで自分のアイデアを客観視できるという点も重要です。学生の皆さんには、ぜひやりたいことがあったら、口に出すところから始めてもらいたいです。
取材後記
今回のワークショップで驚いたのが、中山先生や楢崎さんをはじめとした大人の方々が学生と対等に関わってくださった上、どんなに拙いアイデアも必ず一度受け止めてくれたことです。こういった環境づくりをしていただいたおかげで、個々人の心理的安全性が高められ、学生も臆せず発言でき、より活発な話し合いができたのだと実感しています。
今後、話し合いの場をいただく際には、今回学んだ経験を活かし、対等な関係を築くための謙虚さと、発言者の意見を受け入れる柔軟性を持って臨みたいと思います。
取材担当 山本芽依(国際日本学部2年)
本記事は取材担当学生により準備されましたが、文責は、東京外国語大学にあります。ご意見は、広報マネジメント・オフィス(koho@tufs.ac.jp)にお寄せください。