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日米学生コラボCOIL授業「開発援助」~教員・参加学生にインタビュー~

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東京外国語大学では、2018年度に採択された文部科学省 大学の世界展開力強化事業(米国等とのCOIL型)「多文化主義的感性とコンフリクト耐性を育てる太平洋を超えたCOIL型日米教育実践(通称:TP-COIL)」により、アメリカの大学等と連携し、COIL型*授業をはじめとする幅広い活動機会を提供してきました。

*COIL型:オンラインを活用した国際的な双方向の教育手法(Collaborative Online International Learning)

その活動の一環で、2021年度冬学期に、2022年2月6日(日)~2月8日(火)の日程で、「開発援助」に関する授業を実施しました(授業題目名:「開発援助」それは世界を救うことか、それともコミュニティに変化をもたらすことか ~「開発」の最終目的地は日本のような国か)。授業の中では、日本、アメリカの双方の大学をオンライン接続し、ディスカッションや共同作業を繰り返しました。

今回は、授業を企画したキム・ガル・ヨンジュン先生、平野将人先生、本事業のコーディネーターの福田彩特任助教に加えて、授業に参加した米国学生1名と本学学生1名の2名に活動の詳細や感想をインタビューしましたのでお届けします。今年度は同様の授業を夏学期に開講しますので、学生の皆さん、ぜひ履修の参考にしてください。

2022年度夏学期のシラバス
2022 年度 世界教養プログラム:地球社会と共生2B「「開発援助」それは世界を救うことか、それともコミュニティに変化をもたらすことか~「開発」の最終目的地は日本のような国か」

国や大学の壁を越えて参加~担当講師にインタビュー

まずは、この授業を企画した先生方に、授業の内容や、どのようなことに重点をおいて授業を組み立てたか、を伺いました。

キム・ガル・ヨンジュン先生(以下「キム先生」)

アショカ財団イノベーターズ・フォー・ザ・パブリック(ワシントンDC & 東京):戦略プランニング・アナリスト、東アジア・ダイヤモンド・インテグレーター。国際開発分野において、日本、米国、ナイジェリア、ウガンダ、ネパール、カンボジア、ドイツ、英国、韓国にて、国連機関、政府機関、国際NGO、地元NGO/NPO等で仕事をした豊富な経験を持つ。

平野 将人先生(以下「平野先生」)

一般社団法人銀座環境会議(千葉):代表理事。民間企業での勤務経験に加え、カンボジア、ラオスにてNGOで15年以上、国際開発現場に携わった豊富な経験を持つ。

---「Development」をテーマにされたとのことですが、どのような考え方で授業を組み立てたのでしょうか。

キム先生 東京外大で提供されている数少ない「開発」に関する授業の1つであることを考えると、教育、保健衛生、ジェンダー、環境、コミュニティ参加など、さまざまなテーマをカバーして開発の基礎情報を充実させたいと考えていました。しかし、広く浅いものにはしたくなかったので、特定の分野の専門家を招いて彼らの仕事について学生に学んでもらうことにしました。マラウィ、アメリカ、韓国、日本とさまざまな国を拠点に、各分野の専門家がこのCOILのスタイルの授業と非常によく合うビデオプレゼンテーションを準備してくださいました。

平野先生  ‘Development’という言葉は、「開発」、「発達」、「発展」と訳すことができますが、この3つの言葉にもそれぞれ対応する英単語があります。つまり、‘Development’ を定義すること自体が複雑で難しいということを意味します。一方、’Development’に興味を持っている人は、開発プロジェクトがどのようなものかは容易に想像できると思います。しかし、開発プログラムに従事しているいわゆるディベロップメント・ワーカーが、開発とは何かという具体的な信念を持たずに仕事に従事している可能性もあり、また、信念を持っていたとしてもそれぞれで異なる可能性は大いにあると思います。そのため私は、「開発とは何か」 という、どちらかというと漠然とした問いをじっくりと考えることができるような材料を学生たちに提供したいと思っていました。

---具体的に授業はどのような内容・組み立てでしたか?何を重要視しましたか?

キム先生 私たちが取り上げたテーマは、国際連合の「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標、SDGs)」とほぼ同じくらい広範なものでした。グローバルな問題に焦点を当てながらも、日本のローカルな問題と世界的な問題が密接に結びついているという世界とのつながりを理解してもらいたいとも考えていました。そこで、今回は、日本の文化や社会に興味を持っているアメリカの大学生にも日本のことを学習してもらうため、日本に関するテーマ、たとえば日本のジェンダー、国際関係などのトピックも取り上げました。この授業はCOIL(Collaborative Online International Learning)形式により完全オンラインで行ったので、日本とアメリカの学生に、国や大学の壁を超えて参加してもらえるという独自の利点がありました。参加した日米の学生ができる限りお互いに交流できるようにしたかったので、ビジネスチャットツール(Slack)のダッシュボードを通じて他の学生の投稿について自分の考えを述べるように促し、リアルタイムセッション中にはウェブ会議ツール(Zoom)のブレークアウトルーム機能(少人数ごとにグループに分ける機能)を用いてディスカッションも行いました。

平野先生 講義の準備では、歴史的な出来事と現在の状況とのつながりを明確にすることを重視しました。私が主に担当した講義の性質上、歴史の授業のような要素を含む内容でした。過去の重要な出来事がすべて現在の状況に関係していることを明らかにするために歴史から学ぶことで、世界がなぜこのような形で今あるのか、何を変えなければならないのかを深く理解できることになると思ったからです。私が講義の中でもう一つ重要視したのは、少し強く言うと、学生がうまく変化のための行動を起こせるように彼らを促そうとしたことです。彼らが 「自分たちの世界」 を開発するために何ができるかについて、具体例を用いて説明しました。

---授業を実際に行われて、どのような感想をお持ちになりましたか。事前に想定していたより良かったことはありましたか?

キム先生 学生たちの授業での取り組みやトピックに対する姿勢に大変感心しました。彼らは課題を完成させるだけでなく、他の学生たちとのディスカッションにも熱心に取り組みました。そして何よりも、世界と開発に深く興味を持ち、貧困と不平等によって基本的なニーズを満たすという普遍的な人権から多くの人々がどれほど遠ざかっているかということを認識し心を痛めていました。私は15年間開発に携わって働いてきたのですが、いつの間にか現実に対して麻痺しているところがありました。しかし東京外大の学生はこの開発の課題に対する私の情熱を再燃させてくれました。そういう意味ではこの授業で何か大きなことを学んだのは私だと認めざるを得ません。

平野先生 学生たちがこの世界をより良くし他の人を助けるという情熱を持って一生懸命勉強しているのは印象的でした。この授業は英語で行われたのですが、当初はネイティブを含めて英語が得意な人ばかりが発言することになるのではないかと少し心配していました。それがまったくなかったとは言いませんし、それは自然なことで誰かの落ち度ということではまったくありませんが、英語が上手な人に比べて流暢でない人も頑張って発言しており、クラスにはそれを励ます雰囲気がありました。

---このようなCOIL型の教育活動を行われ、どのような感想をお持ちになりましたか。

キム先生 COIL形式にすることで、本授業ではアメリカの学生に授業に一緒に参加してもらうことができました。そしてアメリカの学生は、日本の学生の視点に新たな視点を加えるという重要な役割を果たしました。私たち個人は皆個人差がありますが、日本の学生は日本の教育を受けていることが多く一定のことは広く共有されているため、違った観点からのアメリカの学生の意見は議論の幅を広げることに大いに役立ったと思っています。

平野先生 キム先生が言ったように、それぞれの国のステレオタイプを押し付けないように気をつけながら、日本の若者とアメリカの若者について話し合いました。たとえば、なぜ日本の若者は、路上での環境問題に対するデモに、関心を持っていたとしても参加するのを避けるのかということについてです。ご存じのとおり、今回授業に参加したアメリカの学生は多かれ少なかれ日本に関心を持っています。ですので、このような議論は彼らにとっておもしろいだけでなく、日本の学生にとっては彼らの「日本人らしさ」に光を当てるいい機会になりました。

どのようなことが学べた?~参加学生にインタビュー

カリフォルニア大学リバーサイド校4年(受講当時)
ジュリオ・バエサ(Julio Baeza)さん

---なぜ、この授業に参加しようと思いましたか?

今は日本語と日本文学を学んでいて、卒業後は海外で英語を教える仕事がしたいと思っています。UCRの教授からこの授業のことを聞いて、この授業に出席したいと思いました。なぜ興味を惹かれたかというと、日本人の学生と交流して、グローバルな出来事や話題について自分の既存の視点と違うものを学べるからです。世界や外国での出来事についてより深い理解ができるようにもなると思いました。また、開発とは何を意味するのか、そして他の人々にとって開発は何を意味するのかを学びたいと思いました。私にとっては開発とはより良く改善する手段です。構造的なことだけでなく、人生も含めてです。人は、人生を発展させたり、より良くするために努力できます。

---この授業で、どのようなことを学べたと実感していますか?

この授業は本当に興味深かったです。開発というものが何を意味するのかより理解できるようになっただけでなく、他の人が開発についてどのように考えているかも理解できるようになりました。この授業を受けてはじめの頃は開発についてざっくりとした考えしか持っていなかったですし、開発ということについてそれほど深く考えたことがありませんでした。しかし授業を受けて、自分がこの目で見てきたこと以上に多くの開発が存在することに気付きました。東京外大の学生と交流できて本当に素晴らしい時間を過ごせました。私たちがディスカッションしている話題について全員がたくさんの意見を持っていましたし、現在日本で起こっている問題に関して私がより深い理解を得るために助けてもくれました。それだけでなく、日本社会がどのように機能しているのかについてもより理解を深めることができました。私が直面した一つの挑戦は、他のクラスメイトに比べて、開発とは何かについて自分があまりにも無知だと感じたことでした。これを乗り越えるために、授業外でもリサーチを行わなければなりませんでした。開発についてより理解するため、開発が途上国の人々の暮らしを改善することに今までどのように役立ってきたのかについて情報を得るためのリサーチです。私たちはこうした国々の開発を助けなければならないですが、一方で、彼らの開発をコントロールしすぎてはいけないのです。私たちは彼らがどのように自国を発展させたいのか選んでもらい、それを達成するための援助をしなければなりません。

---この授業で学んだことを、将来どのように活かしていきたいですか?

開発は建物を建てるなどの建築的な側面だけには限らず、誰かがより良い自分を求める時にも必要となることだと思います。卒業後、私は海外で英語を教えるつもりです。教師として、生徒の成長を助けることに力を注がなければなりません。教育面だけでなく、彼らの人生の成長を助けなければなりません。生徒が成功のために邁進することや、彼ら自身が何者であるかを見つけていくことを手伝いたいと思います。また、自分を磨き、大人になった時に待っている世界のために、準備をしてほしいと思っています。

東京外国語大学 国際社会学部3年(受講当時)
老松 京香(オイマツ キョウカ)さん

---なぜ、この授業に参加しようと思いましたか?

開発に関するより幅広い知識・視点を持ちたいという想いから、この授業への参加を決めました。私は卒業後イギリスの大学院に進み、開発学や人の移動について学びたいと考えています。そのため、学部生のうちに開発に関する知識を身に着けておきたいという気持ちがありました。授業を通しては、開発学の基礎知識や基本理論だけでなく、現場での実践的な視点(たとえば、開発プロジェクトを運営するとはどういうことか等)を学べることを期待していました。また、「開発」という言葉の捉え方はその人のバックグラウンドによっても異なるため、アメリカの学生と意見・体験を共有できるCOIL型授業は、非常に有意義な機会になると考えていました。

---この授業で、どのようなことを学べたと実感していますか?

あらゆる角度から「開発」を考え直すことができました。私は受講前、開発とは「弱い立場にある人々が自分の望みを叶えることを助ける道具」だと捉えていましたが、この授業を受けたことで、開発には必ずしも好意的な側面だけが存在しているのではないと考えるようになりました。今の私にとっての開発とは「柔軟性のある道具」です。開発を通して、一人ひとりが自身の能力を最大限引き出すことができるようになる一方、開発のせいで現地の人々が不利益を被ることもあるからです。開発学の基礎理論を学べる授業は他にもありますが、これほど多様な実務経験者の方から現場での体験談をお聞きできるのは、この授業ならではのことだと思います。実務家の方々の活躍分野も、水・衛生、ジェンダー、環境保全、ソーシャルビジネス…と多岐にわたっている点が魅力的でした。また、ディスカッションや映画鑑賞など、オンライン開催ながらも他の受講生と積極的に交流する機会があったことが印象に残っています。特にアメリカの学生との意見交換を通じては、市民社会の働きやジェンダー観などにおける日米間の差異が明らかになり、開発の観点から改めて日本のことを見つめ直すきっかけにもなりました。私が1年生の時にこのような授業を受けたかったと思いました。

---この授業で学んだことを、将来どのように活かしていきたいですか?

将来は開発・人道支援の分野で働きたいと考えています。実務家の方々からのレクチャーや、参加学生とのディスカッションを通して学んだ「開発の二面性」については、今後も常に自問自答し続けていこうと思います。

新たな気づきを~福田コーディネーターにインタビュー

2018年度から始まった本事業も、2022年度の今年度がプロジェクト最終年度となります。本プロジェクトのコーディネーターの福田彩特任助教に事業について伺いました。

---今回の授業を通して、COIL型の教育活動で新たな気づき等がありましたら、教えてください。

COIL型の手法を活かし、開発というテーマでその分野で長きにわたる実務経験をお持ちのお二人の専門家をお招きして、日米の学生が共同で学習する機会を提供できて有意義だったと思います。開発援助を考えるときに、この分野ではアメリカも日本も「提供者」として似た立場にいる一方、それぞれの国内でも多様な社会課題を抱えています。この授業では課題としてさまざまな切り口を、海外の専門家が収録してくださった講義のビデオで学生に学んでもらいました。それを基盤として、キム先生、平野先生のもと、開発とは何か、どうあれば人々は幸せなのかという普遍的で哲学的ともいえる問いについて授業を通して日米の学生で意見交換しながら考えてもらえるような機会となったので、改めてCOIL型手法の有用さを感じました。

---COIL事業は、昨年度(2021年度)4年度目を迎え、今年度(2022年度)は最終年度になります。授業や活動はますます充実したものになっていますが、今年度はどのようなことを計画していますか?

新型コロナウイルス感染症の世界的拡大の影響で、オンラインでの授業の手法が定着してきたように思います。そのような中、少しずつ実渡航を伴う留学も再開してきています。しかしコロナ感染拡大前のように留学ができる状態になるまでにはもう少し時間がかかりそうです。その間、学生の機会の損失を埋めることはできませんがなるべく補填できるように、今年度も今まで培ってきたオンライン教育を拡充して安定的に提供できればと思っています。コロナ禍の影響がすっかりおさまった後でも、経済的事情や健康的事情などで実渡航を伴う留学が叶わない学生が海外の学生との共同の学習ができるよう、この手法が定着していくことを望みます。

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