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2025年度 字幕翻訳インターンシップ報告 TP-Bridge × 日本映像翻訳アカデミー:言語を越えて社会課題に向き合う

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東京外国語大学が実施する大学の世界展開力強化事業「太平洋を《架橋》するブリッジ・パーソン養成プログラム(TP-Bridge)」では、日本映像翻訳アカデミー株式会社(JVTA)との共催により、字幕翻訳インターンシップを毎年実施しています。2025年度は国内外から約50名の学生が参加し、3か月半にわたってドキュメンタリー作品の字幕翻訳に取り組むとともに、上映会の広報活動やトークセッションの企画・運営にも主体的に携わりました。

成果発表として、2025年7月6日(日)にはTUFS Cinemaにおいて、SDGsを考える映画特集として映画『自然と未来~オーストリアとブータンからの学び~』と『イスラームの変革者~女性イマームの誕生~』の上映会とトークセッションを開催しました。また、7月3日(木)〜13日(日)には、上記2作品に加え『A Story of Dementia and a Message of Hope』を含む3作品が、WATCH2025というオンラインイベントとしてオンデマンド配信されました。

インターン生4名にインタビューを行い、字幕翻訳を通じて得た学びや気づきについて語っていただきました。

インタビュイー :

  • Jenny Venturaさん(カリフォルニア州立大学ノースリッジ校 コンピュータサイエンス学部 4年、以下「Venturaさん」)
  • 水野有彩さん(東京外国語大学 国際社会学部ドイツ語4年、以下「水野さん」)
  • 近藤絢乃さん(東京外国語大学 国際社会学部英語4年、以下「近藤さん」)
  • 村上梨緒さん(東京外国語大学大学院 総合国際学研究科 世界言語社会専攻 言語文化コース 博士前期課程1年、以下「村上さん」)

参加の動機と期待

———まずは、今回のインターンシップに応募したきっかけや、期待していたことを教えてください。

二人で本を読んでいる挿絵

Venturaさん このインターンシップについて聞いた時、翻訳業界についてより深く学び、言語スキルをさらに磨く良い機会になることを期待していました。挑戦的な内容になるだろうと予想していましたが、それでも挑戦してみたいと思いました。

水野さん 今回のインターンシップには、留学先のドイツから参加しました。留学中に多文化理解や環境問題について考える機会が多くあり多くあり、自分なりにもっと深めてみたいと思っていました。そんな中で、SDGsに関連したドキュメンタリー映画の字幕制作を通じて社会課題への洞察を深め、その成果を社会に発信するという今回の活動に関心を持ち、参加を決めました。

ひらめいた挿絵

近藤さん もともと字幕翻訳に関心があり、募集要項にあった「プロの指導を受けられる」という募集要項の言葉に惹かれ応募しました。加えて映画の題材であるイスラームにおけるジェンダーにも関心があったため、翻訳作業を通して知見や理解を深められるのではないかと期待していました。

村上さん 休学することになり、その時間を有効に活かしたいと思っていたところで募集を見つけました。映像翻訳者の方とつながりがあったこともあり、以前から映像翻訳に興味を持っていました。実践的に学べる機会だと思い、参加を決めました。近藤さんと同じくイスラームとジェンダーの関係について興味があり、インターンを通じて研究への新たな視点を得られるのではないかと思った点も応募した理由の1つです。

TUFS Cinema上映会の様子

印象に残った経験・苦労した点

———実際に参加してみて、印象に残った経験や苦労した点はありましたか?

Venturaさん 私にとって最も難しかったのは、直訳に頼るのではなく、自分なりの解釈を加えて翻訳することでした。訳文が本来の意味を十分に伝えられているか、また文章の流れが自然かどうか、常に不安を感じていました。そんな中でも特に印象に残っているのは、完成した字幕を実際に目にした瞬間です。

水野さん 同感です。訳者が原文のニュアンスをどれだけ正確に理解しているかによって、視聴者が受け取る印象は大きく変わります。字幕という限られた形式で情報を正確かつ分かりやすく伝えるためには、発言を逐語的に訳すだけでは不十分であり、背景知識を踏まえた「立体的な表現」が求められます。それを実現することは非常に難しく、同時に最も重要な点だと感じました。

近藤さん 私は字幕翻訳に加えて、上映会の企画・運営にも携わりました。中でも印象に残っているのは、上映後のトークセッションに向けた質問構成の作業です。来場者が映画の内容をより深く理解し、さらに関心を広げられるような問いを意識して作成しましたが、それはまさに異文化について知り、考えるという、SDGsの根幹にもつながる重要なプロセスだったと感じています。

村上さん 字幕ならではの制約を守りながら、意味を的確に伝える翻訳には苦労しました。また、複数人で作業を進めるため、語彙や口調を統一する必要があり、その調整にも時間を要しました。印象的だったのは、翻訳・広報・トークセッションの企画を通じて、観客に伝えることを意識して取り組んでいたはずが、気づけば自分自身の中でもSDGsや作品に関連する社会課題への関心が高まっていたことです。

水野さん やはり、字幕に伴う制約には皆が苦労していたと思います。自分の担当箇所については、まるで専門家のように深く理解する必要がありましたが、同時に内容が重なる他のメンバーとの協働も欠かせませんでした。語彙や表現、口調の制限を受け入れつつ、自分の知識と字幕の制約を照らし合わせながら、より良い表現を模索する作業は非常に難しくもやりがいのあるものでした。一人では限界を感じる場面もありましたが、チームメンバーから次々に寄せられるアイデアに何度も助けられました。

得られた力と今後への影響

———このインターンシップを通じて得た力や知識は? 今後の進路にどう影響しそうですか?

Venturaさん このインターンシップを通じて、プロフェッショナルな環境における翻訳業務の仕組みを学び、日本語への理解も深まりました。私はコンピュータサイエンスを専攻していますが、日本語の学習も続けており、将来のキャリアについて模索しているところでした。今回、実際に翻訳の仕事を体験したことで、翻訳という分野を真剣に将来の選択肢として考えられるようになりました。

水野さん 自分では最善だと判断して選んだ字幕の言い回しが、他の人にはうまく伝わらなかったり、まったく異なる視点から新たなアイデアをもらったりする場面が多くありました。そうした経験を通じて、自分なりの「正解」に固執せず、一歩引いた立場で意見交換を行い、さまざまな考え方と照らし合わせながら柔軟にアイデアを改善する力を養うことができました。結果として、より良い結論にたどり着くための経験と技術を得られたと感じています。

近藤さん 映画を通じてどのような知識が得られるのか、またどのように関心を広げていけるのかを考え、企画するという貴重な経験を得ることができました。多様な関心を持つ学生同士で意見を交わしながらアイデアを練り上げていく過程では、物事を捉える視点の豊かさにも気づかされました。

村上さん 翻訳・広報・企画といった複数の業務に携わったことで、マルチタスクをこなす力や、メンバーとの綿密な連携を図る力を身につけることができたと実感しています。特に、これまでの学生生活とは異なり、学年や大学の垣根を越えた協働を経験できたことは、非常に貴重な学びとなりました。

これから参加する学生へのメッセージ

———最後に、これから参加を考えている学生にメッセージをお願いします。

Venturaさん 私は、思い切って挑戦してみる価値があると思います。たとえ失敗を恐れる気持ちがあっても、その都度向き合い、乗り越えていくことで確実に成長につながります。実際に参加してみれば、多くの学びが得られるはずですし、翻訳の仕事が自分にとって本当に楽しいと感じられるかもしれません。

水野さん このインターンシップには、社会問題や国際社会への関心が高い学生が多く参加しており、それぞれの専門知識を生かしながら協働することで、非常に多くの学びを得ることができました。ぜひ、Give it a try !(思い切って挑戦)してみることをおすすめします。

近藤さん 字幕翻訳に関心のある方はもちろん、社会問題に関心のある方にとっても、多くの学びが得られる貴重な機会だと思います。活動を終えたときの達成感も大きく、充実した経験になるはずです。ぜひ参加してみてください。

村上さん 映像翻訳だけでなく、社会問題についても学ぶことができるインターンシップであり、参加を通じて映像に関連するニュースへの関心が高まりました。日本映像翻訳アカデミーの方々から丁寧なフィードバックをいただけるため、英語力や翻訳に自信がない方でも安心して挑戦していただきたいです。

謝辞

字幕翻訳インターンシップの実施にあたり、日本映像翻訳アカデミー株式会社の桜井徹二さまをはじめ、ご関係者の皆さまには、インターンシップにおけるご尽力、またインターン生への丁寧なご指導に心より御礼申し上げます。
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TP-Bridgeでは、2026年度以降も同様のインターンシップを予定しています。その他にもオンラインプログラム、オンキャンパスプログラム、海外研修など多彩な学びの機会を提供しています。詳細は TP-Bridgeウェブサイトにてご案内していますので、ぜひご覧ください!
https://www.tufs.ac.jp/tp-bridge/

TP-Bridgeに関するお問い合わせ :

世界展開力強化事業(米国) TP-Bridge事務局
tenkai-bridge-coordinator[at]tufs.ac.jp([at]を@に変えて送信ください)

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