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AGOAの失効と今後
2025/10/02/Thu
25年にわたって適用されてきた米国の「アフリカ成長機会法」(AGOA)が、9月30日で失効した。クリントン政権期から続いてきたAGOAは、アフリカに大きな影響を与えてきた。
米国議会の統計によれば、AGOAの枠組みでのアフリカからの輸出額は2024年に80億ドルに達した。受益国としてはまず南アフリカが挙げられ、この枠組みを利用して自動車、金属、化学製品などを米国に輸出している。ケニア、マダガスカル、レソトといった国々も、AGOAを利用して繊維製品を輸出してきた。
アフリカ側は、AGOAの継続をトランプ政権に訴えている。南アフリカのタウ(Parks Tau)商業相は、米国政府に対して継続に向けたロビイングを続けると述べ、ケニアのルト大統領も「援助より貿易」のロジックで継続を訴える意向である。
この先AGOAをどうするか、米国政府からまだ何の公式発表もない。現在、米国政府は与野党対立の余波でシャットダウンの危機に陥っており、そうした発表がある可能性は当面低い。ただ、10月1日付ルモンド紙に掲載されたインタビューのなかで、米国のブロス(Boulos)特使は、AGOAの1年間の延長に前向きの姿勢を示した。
関税措置によって、トランプ政権はAGOAを事実上無効化した。しかし、その後個別の交渉が続いており、実際どのように関税が適用されているのかいないのか、判然としないのが実状である。当面は不透明な状況が続きそうだ。(武内進一)
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カメルーンとエリトリアがパレスチナ国家を承認しない理由
2025/09/24/Wed
2025年9月22日、国連総会が開催されているニューヨークでは、イスラエルとパレスチナの「二国家共存」による和平推進のための国際会議が開催され、前日のイギリス、カナダ、オーストラリア、ポルトガルに加えてフランス、ルクセンブルク、マルタ、アンドラがパレスチナ国家の承認を宣言した。これで国連加盟国の8割以上、常任理事国では米国以外の全ての国がパレスチナ国家を承認したことになる。パレスチナはイスラエルによって国際法に反して占領されている状態で、他国による国家承認は象徴的だとはいえ外交上大きな意味を有する。
アフリカ連合加盟国55か国(西サハラを含む)を見ると、カメルーンとエリトリアを除く53か国がすでにパレスチナ国家を承認している(9月22日付RFI)。承認済の国々の多くは、30年以上前のかなり早いタイミングで承認を行った。1988年にパレスチナ解放機構(PLO)のアラファト議長がパレスチナ国家の独立を宣言したのはアルジェで、アルジェリアはパレスチナの国家承認を行った世界最初の国となった。その後数週間で、植民地支配から解放され独立してからさほど時間が経っていなかった多くのアフリカ諸国が承認を行った。アフリカ諸国の多くは自らの植民地経験をパレスチナの運命と重ねた。アパルトヘイト下の南アフリカでは、民主化後の1995年にパレスチナの承認が行われたが、それはマンデラ大統領による最初の政策の一つだった。
9月21日付のLa Presse(カナダ)や9月22日付のBBCは、そうしたアフリカ諸国の動向の中で、なぜカメルーンとエリトリアがパレスチナ国家未承認なのかを取り上げている。
カメルーンのポール・ビヤ政権は、治安維持面でイスラエルからの手厚い支援を受けてきた。大統領警護特殊部隊や大統領直属の迅速介入部隊(BIR)は、北部国境地域でのボコ・ハラムとの闘いや英語圏地域(北西州・南西州)での分離独立派との戦闘に貢献してきた。アフリカの独裁的政権は外国の支援によって治安維持を図ることがよくあるが、この部隊の創設者はイスラエル人であり、イスラエルはこれらの部隊の軍事訓練や装備・監視技術の提供を担っている。イスラエルとの緊密な関係は米国からの現ビヤ政権への支持の基盤にもなっている。したがって、カメルーンは国連でのパレスチナの権利擁護に関わる決議には棄権をするのが通例で、パレスチナの国家承認もしていない。
エチオピアとの分離独立紛争を経て1991年に独立したエリトリアには、より複雑な歴史的経緯が背景にある。パレスチナの独立宣言当時、アフリカ統一機構(OAU)本部のあったエチオピア政府はパレスチナを支持したが、その時エリトリアは占領者であるエチオピアと武力闘争をしていた。パレスチナはエチオピアとの関係からエリトリアと相容れない立場になった。イスラエルは、紅海に面したエリトリアと1993年から同盟を結び、同国内に対イラン艦船の監視施設を持つ。さらにエリトリアは、自国が自決権を求めて闘ってきた経緯から、そもそも1993年のオスロ合意が欺瞞的であるとして否定的である。紛争の原因であるイスラエルによる軍事占領体制と入植推進が放置されたままで、名ばかりの自治区を作ってもパレスチナ人にとっての本来の意味での自決権の獲得につながらず無意味であるばかりか、占領状態を固定化することになるとして、「二国家共存」による解決も支持していない。
カメルーンもエリトリアもイスラエルと同盟関係を有する点は同じだが、カメルーンでは、大統領選挙を目前にした現政権にとってのイスラエルの安全保障上の戦略的価値が、エリトリアでは自決を求めてきた闘いの歴史が、パレスチナ国家承認に関わる政治判断の大きな背景になっている。しかし、両国ともに国民感情は親パレスチナであり、また国内に多数のイスラム教徒が暮らしている。すぐにパレスチナを国家承認することはないだろうが、より長期的にはパレスチナ解放を支持する方向に向かわざるをえないのではないだろうか。(大石高典)
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マリでイスラム急進主義勢力の攻撃広がる
2025/09/20/Sat
19日付ルモンド紙の報道によれば、マリ西部でアルカイーダ系のイスラム急進主義勢力GSIMが、この数週間、外国企業、特に中国企業を狙った攻撃を繰り返している。6月に外国企業の生産設備を狙うと予告した後、7つの外国企業の工場が襲撃され、うち6つが中国企業であった。GSIMは外国企業に対して安全保障と引き換えにみかじめ料の支払いを求め、マリ政府の信用失墜を狙っている。
最近GSIMは、西部のカイ(Kayes)、中部のセグー(Segou)、南部のブグニ(Bougouni)などで、中国企業の砂糖工場や英国企業が開発するリチウム鉱山が襲撃された。
中国企業が多く攻撃されているのは、中国に対する恨みからではなく、マリ経済にダメージを与えるための合理的戦略だという。カイ周辺は金採掘が盛んで、セネガルとマリを繋ぐ経済回廊をなしている。GSIMにとって戦略的価値が高い地域である。
GSIMの攻撃で、これまでに少なくとも11人の中国人が誘拐された。中国政府は人数を公表していないが、軍事政権と密接に連携して誘拐された自国民救出に努力している。
マリにとって、中国は最大の経済パートナーである。2009~2024年のマリに対する中国の民間投資額は16億ドルで、中国政府は2000年以来137のプロジェクトで18億ドルを投資した。軍事政権登場後、中国はいっそうの関係強化に動いている。
軍事政権の登場とともに、マリはフランスに背を向けた。それとともに、中国、トルコ、ロシアといった国々がマリに接近した。ロシアは軍事協力が中心で、マリが不安定化すればその影響力が拡大する可能性がある。中国はマリの不安定化を望んでおらず、商業的利益のために安定を望んでいる。マリをめぐる中国とロシアの利害は、必ずしも一致していない。以上、19日付ルモンド紙の分析である。
マリでは、7月10日に軍事政権トップのアシミ・ゴイタを2030年まで政権トップとする法律が制定され(7月11日付ルモンド)、8月にはマラ(Moussa Mara)、マイガ(Choguel Kokalla Maiga)という二人の元首相が、それぞれ1日、19日に逮捕された。10日には、政権転覆を画策したとして、「少なくとも20人」の軍人が逮捕された(8月11日付ルモンド)。軍事政権は従来に増して強権化しているが、その足もとは相当に脆いようだ。(武内進一)
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カメルーンにおけるカカオ栽培の拡大と「森林減少フリー製品規則」(EUDR)
2025/09/16/Tue
カカオの価格が上昇し、世界的にチョコレートの値段が上がっている。世界のカカオの70%以上を供給している西アフリカ、とりわけコートジボワールとガーナでの悪天候と病気による収量減少が、主な要因だと考えられている。多国籍カカオ企業は、生産が不調な西アフリカからカメルーンなど中部アフリカへと事業をシフトさせている。カメルーンにおける生産量は、31万トン(2023~2024年実績)で世界第5位だが、政府は毎年64万トンの生産を目標にしている。
価格上昇の農民経済への影響は、生産国によって異なる。カメルーンではカカオ取引の制度が自由主義的なので、国際価格と連動して国内価格の高騰が著しい。最近2年間で、1Kgあたりの取引価格は1500FCFAから5000FCFAにまで上昇した。9月から大雨季を迎えるカメルーンでは、2025年から2026年のカカオの収穫シーズンが始まっている。価格は昨シーズンに比べると少し安くなっているとはいえ高止まりしており、カカオ開発公社(SODECAO)は、カカオ買取価格が大幅に下がる材料はなく、当面高いままだろうと予想している。
この「茶色の金(l'or brun)」で儲けようと、多くの若者がカカオ栽培に参入している(RFI、9月2日付)。国際価格が上昇すると、カカオ畑の開墾熱が高まる現象はこれまでもたびたび観察されてきた。今年はカカオの苗が不足状況となり、種苗生産が追い付いていない。そのため種苗業者では、他の作物の種苗生産のためのリソースを割いてカカオの種苗が生産されるに至っているところさえある。
中南米の熱帯林地域を原産とするカカオは、直射日光を好まず庇陰樹を必要とする。そのために、在来植生を皆伐することなく育てられる。そのため、生物多様性を過度に毀損せずに地域住民に現金収入をもたらす森林農業が可能であるという意味で、これまで熱帯林保全と地域経済の両立の文脈で一定の評価をされてきた。しかし、カカオ栽培の急激な拡大が、熱帯林の減少や劣化をもたらしているという指摘もある(Mighty-Eartth、7月28日公開報告書)。
野放図なカカオ栽培拡大に歯止めをかけるかもしれないと期待されているのが、EUが2025年12月30日から発効予定の「森林減少フリー製品規則」(EUDR)である。この規制は、該当製品の生産にあたって土地の権利、環境保全、労働・人権尊重、先住民からの同意の取得を含む7つの主要原則の遵守を要求する。この規則には、ウシ、コーヒー、アブラヤシ、ゴム、大豆、木材とともに、カカオが含まれている。カカオをEU域内に輸出するには、そのカカオが2020年以降の森林減少に寄与する形で生産されていないことを確認するためのトレーサビリティの証明が必要になる。
カメルーン産カカオの輸出先の7割はEUだ。期限までに基準をクリアするため、カカオ畑の位置を地理的に特定し、生産者を登録する作業が急ピッチで進められ、政府によればすでに全カカオ生産農家の「99%」と目される24,800人の生産者の登録が完了した(RFI、7月21日付)。既に、カメルーン・コーヒーおよびカカオ業界団体(CICC)は、アクセス無料で利用できるオンラインプラットフォームを整備して、輸出業者がカカオの生産地情報の詳細について確認できる態勢を整えた。トレーサビリティの質を担保するにはまだ課題が多い。データを扱う省庁間の連携を困難にする縦割り行政の問題、土地の権利を持たないカカオ農家にどのように持続的な栽培への投資をおこなえるのかという問題、カカオ畑と市場流通の間を複雑に取り持っている中間業者のビジネスの捕捉の難しさなどである。今後、カカオ栽培の持続性向上をめぐって、「森林減少フリー製品規則」がどのように機能するかが注目される。(大石高典)
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大エチオピア・ルネッサンスダム(GERD)の完成
2025/09/14/Sun
9月9日、アビィ首相は、大エチオピア・ルネッサンスダム(GERD)の完成を正式に表明した。ナイル川全水量の85%を供給する青ナイルをせき止め、着工から14年を経て完成した。アフリカ最大級の発電力を持つこのダムは、ほぼエチオピア国民の税金で建設された。当初、世界銀行が融資を拒否し、エチオピアは隣国ジブチの支援を受けてダム建設を進めた(8月28日付ルモンド)。
ダムの完成はエチオピアにとって国家的偉業だが、ナイル川の下流に位置するエジプトは、自国の水資源が脅かされるとして反発している。エジプトは、1959年に結ばれた協定を根拠として、エチオピアのダム建設を一方的だと非難するが、エチオピアは同協定は既に時代遅れだと反駁している。エチオピアは、2024年10月、ナイル川下流に位置するブルンジ、ルワンダ、ケニア、南スーダン、ウガンダとともに、ナイル川水域協力枠組協定(Nile River Basin Cooperation Framewrok Agreement)を発効させた。
エジプトとエチオピアの緊張には、両国間の、さらにはナイル川流域における北アフリカとサブサハラアフリカ諸国とのパワーバランスの変化が反映されている。1959年当時、エジプトの国力は圧倒的で、上流域の国々(多くはなお植民地体制下にあった)のことを考えずにナイル川の水を利用できた。GERDの竣工は、そうした時代がもはや過去のものとなったことを示している。(武内進一)
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ルワンダ軍墓地面積の急拡大
2025/09/13/Sat
国際人権NGOのヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は、9月4日、SNSで衛星画像を公開し、ルワンダ国軍(RDF)兵士が埋葬された墓地の面積が急速に広がっていることを示した(10日付ルモンド)。
ルワンダはコンゴ民主共和国東部に国軍を派兵していると言われ、国連の報告書でもその点が指摘されてきた。2025年1~2月にゴマ、ブカヴをM23が制圧した際には、RDF兵士6000人が参加したとされる。しかし、ルワンダ政府は一貫してこれを否定している。
HRWは、ルワンダの首都キガリの空港近くにあるRDFの墓地を2017年1月から2025年7月までの間に14回撮影した衛星画像の分析から、今年に入って新規の墓地が急増していることを示した。
2022年1月27日から2025年7月3日の間に1,171の新規の墓地が建てられたが、その40%は2024年12月15日以降に建てられたものだという。2017年~2021年半ばの間、新規の墓地は週あたり1.7基のペースで建造されたが、2022年初頭にM23が再興すると週あたりの建造数は6基に増えた。2024年12月15日から2025年4月9日の間、週あたり22基と顕著に増加した。
今年初めのM23による制圧地域拡大に際しては激しい戦闘となり、両陣営に大きな被害が出たと言われている。HRWが公開した画像は、ルワンダ国軍の関与とそれに伴う戦死者の増加を示す一つの証拠と言えそうだ。(武内進一)
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ヘレロの故最高首長の生涯とナミビアの8月
2025/08/31/Sun
ナミビアの106年にわたる長く残酷な植民地支配の歴史において、8月は重要な月である。特に、8月11日と26日は、コミュニティから国家までさまざまなレベルで植民地支配の歴史をふりかえり、亡くなった人びとを追悼する日になっている。
25日付の地元紙ニューエラが、ナミビア独立の立役者であるヘレロの故最高首長ホセア・クタコ氏(1870-1970年)の生涯をふりかえりながら、これらの日について特集を組んだため、補足を加えながら紹介しよう。
ナミビアは、1884年からドイツ、1920年から南アフリカによる植民地支配を受けた。特に、1904年から1908年にかけてドイツ軍が先住民のヘレロとナマの人びとを組織的に絶滅させようとした出来事は、ホロコーストに先立つ20世紀最初のジェノサイドとして知られる。生き残った人びとは、その後、南アフリカのアパルトヘイト政策を受け、1990年にようやく独立を迎えた。
1904年8月11日は、それまでヘレロとの交渉を続けていたドイツ軍が戦略を変え、積極的な包囲攻撃を開始した日である。この戦いは、ウォーターバーグの戦いとして知られ、約3千から5千人のヘレロが殺害されたとされる。生き残った人びとは近隣の砂漠へ逃れるしかなく、飲料水のある水場で毒殺された。捕らえられた人びとは、ナミビア国内に設立された強制収容所に収容され、強制労働、レイプ、医学実験などにさらされた。当時のヘレロの人口の約8割(約6万5千人)が亡くなったとされる。クタコ氏は、こうしたドイツ軍の猛攻の中で戦い、強制収容所での収監を経験し、生き延びた一人だった。ヘレロは、ジェノサイドがおこなわれた場所を数年に一度の頻度で訪れ、戦いで亡くなった祖先を追悼する。ウォーターバーグ付近もその一つである。
もう一つの重要な日は8月26日である。この日は、国家レベルでは、南アフリカからの独立を目指して最初の戦いが始まった日として、国民の祝日になっている。コミュニティレベルでは、ドイツのジェノサイドから逃れ、ボツワナに亡命したヘレロの初代最高首長サミュエル・マハレロ氏が、ナミビアの故郷で再埋葬された日でもある。ヘレロの人びとは、この日(の前後)に再埋葬地で毎年墓参りをおこなう。
クタコ氏は、マハレロ氏が亡命する際に護衛し、再埋葬の指揮および墓参りの開始について宣言したことで知られる。こうしたヘレロ内部の統一に加え、彼はナミビア独立に向けて人びとがアパルトヘイト政策によってカテゴライズされた部族の枠組みをこえて団結して戦うことをうながしたことでも知られる。クタコ氏は、故初代大統領サム・ヌヨマ氏をはじめとする多くの将来の指導者らを指導し、1950年代と1960年代に南アの不当な統治について国連に請願書を提出し、国際的な注目を集め、独立へと導いた。こうした功績から、ニューヨークの国連本部には民族自決と人権への貢献を称えるクタコ氏の胸像が設置され、ナミビア国内では国際空港や首都の大通りが彼の名前にちなんで名づけられている。
毎年8月はさまざまなレベルで、それぞれの英雄や祖先への追悼を通して、植民地支配の歴史が語られる。誰を記憶し、追悼するかは、その社会におけるポリティクスが垣間見える。(宮本佳和)
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ナミビア先住民から愛されたドイツ系移民死去
2025/08/28/Thu
ナミビアの僻地カオコランドに40年以上暮らし、キャンプ場運営や学校の設立などの支援を通して地域の人びとと交流を続けたドイツ系移民のマリウス・シュタイナー氏が、22日、首都で亡くなった。63歳だった。
シュタイナー氏は、カオコランドに暮らす人びとのあいだで「ヘモングル(古いシャツ(を着た男性))」という名前で知られる。同氏は、44年にわたり奥地の山岳地帯で暮らし、同地域で話されるヘレロ語を習得し、彼らの習慣を受け入れ、地域の人びとと親交を深めてきた。
地元紙エロンゴによると、シュタイナー氏は1980年代初頭、ナミビアとアンゴラの国境紛争の最中、地質学者である父親とともにカオコランドに移住した。当初は同地域に豊富な宝石のもとになる鉱物を採掘して売っていたが、観光客が突然、眠る場所を求めて来たことをきっかけに、接客業に転向した。提供していた部屋が徐々に増え、キャンプ場を設立した。
シュタイナー氏は、観光客をキャンプ場で温かく迎えるだけでなく、同地域に暮らす先住民のヒンバやヘレロの人びとと親密な関係を築いていたことでも知られる。同氏はビジネスを通して地域の人びとを雇用し、現金収入の機会を提供していただけでなく、学校や教会、そして診療所の設立を支援し、地域の発展にも尽力した。
妹のジャネット氏は、同紙のインタビューに対し、ヒンバへの敬意がシュタイナー氏の人生のあらゆる側面を形作っていたと語っている。また、長年の友人であるシュルツ氏は、シュタイナー氏を「物静かな伝説の人物」と評し、「ヒンバと広大なカオコランドのために心を躍らせる」人物だったと語っている。
葬儀は30日にシュタイナー氏のキャンプ場でとりおこなわれ、先住民のヒンバやヘレロも参列する予定である。(宮本佳和)
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アフリカへのStarlink進出の動向
2025/08/26/Tue
Starlink(スターリンク)はアメリカの実業家イーロン・マスク氏が率いるSpaceX社が開発した衛星通信ネットワークサービスで、低高度を軌道する数千機の衛星群を活用することで、高速かつ遅延の少ないブロードバンドのインターネット接続の提供を売りにしている。このサービスは、接続が速いだけでなく、比較的安価で持ち運び可能な通信キットさえあれば、少ない電力消費で地球上どこでも接続ができる。
こういったStarlinkの特徴は、面積が広く通信インフラの整備が行き届いていない地域が多いために、これまでインターネット普及率が低かったアフリカに変化をもたらしている。2019年に始まったStarlink事業は、2023年1月にナイジェリアに参入したのを皮切りに、同じ年の3月にはルワンダ、7月にはケニアと、アフリカ各国の市場への参入を果たし、2025年8月現在で19か国(上記2か国に加え、シェラネオネ、ガーナ、ベナン、ニジェール、チャド、コンゴ民主共和国、南スーダン、ソマリア、ケニア、ブルンジ、ザンビア、マラウィ、モザンビーク、ボツワナ、レソト)でサービスが合法的に利用可能になっている。
公共インフラの未整備な農村地域で、Starlinkは威力を発揮している。例えばルワンダでは、ICT担当大臣のイニシアティブで農村地域の50の学校にStarlinkを導入してオンライン学習が可能な環境を整えた。これまで学校教育が不十分だった地域で児童の学修に成果を上げている。Starlinkの便益を受けているのは、企業、NGOや地域住民だけではない。ナイジェリアやマリの紛争地域では、武装勢力がStarlinkを使ってインターネットを利用しているという(Le Monde、7月5日付)。
Starlinkに参入を許していない国の中には、マスク氏自身の出身国である南アフリカが含まれる。南アフリカは、かつてのアパルトヘイト政策下で極めて不利益な立場に置かれてきた黒人に経済的な参加の機会を与える趣旨の黒人経済力強化政策(BEE)を取っている。国内で事業を行うためには、事業者は黒人によって30%以上の株式が所有されていなければならないが、SpaceX社はこの条件をクリアできていない。
最近になって、30%の株式相当額を黒人に譲渡する代わりに同等の金額を南ア国内に投資することで事業を認める案が検討されている(Business Insider Africa, 8月20日付)。SpaceX社は農村地域にある5,000 以上の学校に無償でインターネット接続を提供することを提案に含めているという。南アフリカは、第二次トランプ政権から、黒人優遇の「人種差別的な政策」を取っているとたびたび非難されてきた。所有権規則を緩和する施策の検討には、アメリカとの関係改善を企図するラマポーザ政権の方針があるとする見方もある。
Starlinkのように、より広い範囲で人々の手に届くインターネット接続を可能にするICT技術の開発・導入が進めば、都市=農村間の情報格差など、アフリカにおける情報環境を一変させる可能性を秘めている。(大石高典)
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カメルーン大統領選挙2025:選挙戦前のつばぜり合い
2025/08/15/Fri
中部アフリカのカメルーンでは、2025年10月12日に大統領選挙が予定されている。7月13日には、1982年から連続7期にわたって大統領・国家元首を務めている92歳の現職ポール・ビヤがSNS「x」で立候補の表明をし、話題を呼んだ。1960年の独立以来2代目の大統領であるビヤは、現在世界最高齢の現職の国家元首だが、もし8期目に再選されれば、任期を全うする頃にはほぼ100歳になる。
ビヤ政権のカメルーンは、中央アフリカ、チャド、コンゴ共和国など武力紛争を経験してきた周辺諸国に比べると長期間の政治的安定を実現してきたが、汚職の蔓延による統治能力の低さや、2017年以降現在まで継続し、解決の見込みが立っていない英語圏地域と中央政府の間の国内紛争("anglophone crisis")など、内政上大きな問題を抱えている。
また、ビヤの健康が大統領の任に耐えられる状況なのかも、たびたび話題に上ってきたところである。2024年秋には、ほぼ一ヶ月にわたって公的な場に姿を現すことがなかったために、一部で死亡説が流れ、大統領府が慌てて打ち消したこともあった。
7月26日にカメルーン選挙管理委員会(ELECAM)による発表があり、大統領選の公認候補者のリストが発表された。立候補を届け出た83人のうち、13人が正式な候補として認められた。
ここで注目されたのは、前回2018年の大統領選挙で14%の得票を得て、ビヤに続く第2位だったモーリス・カムトが候補に認められるかであった。ビヤへの有力な対抗馬と考えられてきたカムトは、7月中旬に立候補の登録をしたが、今回選挙管理委員会は「同一政党から複数の候補が立候補登録をしている」という理由でカムトの立候補を却下した。正式な候補として認められなかった場合、72時間以内に憲法評議会に異議申し立てを行うことができる。カムトは、異議申し立てを行ったが、憲法評議会は8月5日にカムトの訴えを却下したため、彼は10月の大統領選挙に出られないことが確定した(8月5日付ルモンド)。カムトの選挙からの排除をめぐって、ヒューマン・ライツ・ウォッチなど国際NGOからは今回の選挙への信頼性を疑問視する声があり、また野党支持者などからの反発による政情不安を懸念する声が出ている。
有力な対立候補が選挙に出られなくなったことで、現職のビヤがより有利な状況に立ったと言えるが、一方で野党候補の中で連携を模索する動きが活発化している(8月14日付RFI)。本格的な選挙戦期間は9月下旬からだが、それまでに野党間で政策や候補の一本化などの調整が可能なのかどうかが注目される。そこでも、人気のあるカムトがどのように動くのかが一つの鍵になりそうだ。(大石高典)
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