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Africa Today今日のアフリカ

今日のアフリカ

2024年12月

10年にわたるジェノサイド交渉の閉幕と波紋

2024/12/31/Tue

 ナミビア内閣は、12日、植民地期の残虐行為をめぐるナミビアとドイツ両政府間の約10年におよぶ交渉の終了を告げた。  2015年から交渉されてきた謝罪や賠償をめぐる草案は、2021年5月に署名され、共同宣言が出された(「今日のアフリカ」2021年5月29日)。以来、被害を受けた人びとの代表組織などからの反発を受け(「今日のアフリカ」2021年6月10日)、追加条項の交渉が続いていた。  閣議決定を受け、内務副大臣のルシア・ウィトブーイ 氏は、19日、再交渉された共同宣言の内容と今後の方針を説明した。まず、開発などの支援プログラムとしてドイツが提示した金額に関しては、当初の11億ユーロに加えて、被害を受けたコミュニティのニーズに応じて追加資金が決定される。実施期間は、30年から23年に短縮された。加えて、共同宣言に沿ったプロジェクトを実施するための独立組織、特別目的事業体(SPV)の設立が承認された。SPVには、ナミビアとドイツ両政府が理事会にそれぞれ代表者を置き、被害を受けたコミュニティが実施組織の管理と運営において決定的な役割を果たすとされる。プログラムはこのコミュニティが居住するとされる7つの特定地域で開始されると同時に、ボツワナと南アフリカに暮らすディアスポラのコミュニティまで拡大される。  しかし、受益者が誰なのかいまだ不透明である。まず、プロジェクトの実施において決定的な役割を果たすとされる7つのコミュニティの代表とは誰か。政府は代表として7つの各地域に首長フォーラムを設置しているが、ジェノサイドの被害者であるヘレロとナマの伝統的権威の一部は交渉当初から参加を拒否している。新たに加わった、ボツワナと南アフリカのディアスポラのコミュニティがどのような構成になるかも不明である。ヨーロッパなど他の国に居住するディアスポラは除外されるのだろうか。  ウィトブーイ 氏の会見以降、被害を受けた人びとの代表組織が会見をおこなったり、活動家らが論説を寄稿したりしているが、総じて否定的である。特に、ヘレロの伝統的指導者らで構成される首長会議(OCA)は、水面下でおこなわれる交渉への不満を繰り返し述べ、議論の場から除外されたまま進められてきた共同宣言の内容を白紙に戻すことを要求し、追加条項に関する説明会へのボイコットを表明している。政府とともに交渉をおこなってきた団体(ONCD)が、ヘレロやナマの伝統的指導者らで構成されていることを考慮に入れると、被害を受けたコミュニティが一枚岩ではないことが見えてくるだろう。交渉の幕が閉じられたものの、和解はましてや交渉の行き着く先も依然として見えてこない。(宮本佳和) 東京外国語大学現代アフリカ地域研究センターでは、アフリカの留学生誘致のためのクラウドファンディングを、11月20日~1月10日の間、実施しています。ご協力よろしくお願いします。

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サイクロン「チド」が顕在化させた脱植民地化問題

2024/12/28/Sat

 サイクロン「チド」は、12月14日にフランス海外県マイヨット島を直撃して甚大な被害を与え、その後モザンビーク北部に上陸してそこでも多数の犠牲者を出した。マイヨット島の被害の規模は容易に判明せず、当初は数千人の犠牲者という情報も流れたが、そこまでは大きくないようである。今後、より詳細な調査がなされるだろう。  このサイクロンは、マイヨットの歴史とそれに由来する社会問題に改めて光を当てた。マイヨット島は、コモロのアンジュアン島から70キロしか離れていない。コモロを構成する3つの主要な島とマイヨットは、古来から密接な社会関係を築いてきた。しかし、1974年の国民投票でマイヨットの住民はフランス領となることを選択し、残る3島が翌年コモロとして独立した。国連は、この国民投票を認めていない。フランスは今日に至るまで、コモロの領土一体性を犯したとして、20回以上も国連総会で批判されている(12月20日付ルモンド)。  今回、サイクロン襲来から間を置かず、12月19日にマクロン大統領がマイヨットを訪問した。大統領として迅速な対応に見えるが、その後フランスの災害対応は厳しい批判を受けている。  大きな問題は、救援物資搬入の遅れである。アンジュアン島から救援物資を積んだ船がマイヨット島に向かったのは、サイクロン襲来から1週間後の21日が最初だった。マイヨット島側の許可が遅れたためである。フランスおよびEUの行政手続きの煩雑さのため、援助物資搬入が大幅に遅れた(23日付ルモンド)。  こうした煩雑な行政手続きの背景に、移民問題がある。マイヨットではコモロから来る「不法移民」に神経をとがらせてきた。この島の人口32万人のうち、半分以上は外国人とされる。所得水準が高いマイヨットには、コモロから多くの移民が押し寄せる。フランス海外県にとって、そのほとんどは「不法」である。17日には、フランスのルタイヨー内相が、マイヨットの再建には移民問題の解決が必要だと述べて、現地で反発を招いた(20日付ルモンド)。  フランスは、2023年4月以来、「ウアンブシュ」(Wuambushu)作戦と呼ばれる不法移民取り締まり作戦を展開し、2万人をコモロに強制送還したとされる。しかし、コモロ側の協力は得られず、送還されても多くはまたマイヨットに舞い戻っている(26日付ルモンド)。  「チド」襲来のあと、コモロからの「不法移民」が急増している。クワサ・クワサと呼ばれる小舟でマイヨットに渡るのだが、サイクロンのために、マイヨット沿岸でこうした違法船舶の取り締まりに使われていたレーダーが機能しなくなったためである。クワサ・クワサへの乗船希望者が急増し、200ユーロだった乗船料は400~450ユーロに急騰した(26日付ルモンド)。  災害は常に社会問題を顕在化させるが、「チド」の場合、それが脱植民地化に深く関わることが今日的である。マイヨットのような海外県のあり方は、今後ますます難しくなっていくだろう。(武内進一) 東京外国語大学現代アフリカ地域研究センターでは、11月20日~1月10日の間、クラウドファンディングを実施しています。ご協力よろしくお願いします。

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依然アフリカで活動するワグネル

2024/12/17/Tue

 プリゴジンの死後、ロシア・アフリカ関係がどのように再編されつつあるのか、なお不明点が多い。11日付ルモンド紙の記事は、その一端を明らかにしている。  中央アフリカ、マリ、ブルキナファソ、ニジェールといった国々に対しては、2023年8月にプリゴジンが事故死した後、国防副大臣のエフクロフやロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)のアヴェリヤノフが訪問を繰り返し、関係再構築に取り組んできた。  中央アフリカやマリでは、プリゴジンを崇拝する人々がおり、ワグネルのメンバーが依然として活動している。先日も、中央アフリカでワグネル創設に関わったプリゴジンとウトキンの銅像が建てられたことが報道された。両国ではそれぞれ、1500人、2500人程度のワグネル兵が活動しており、プリゴジンの死後も兵力に変化がない。こうした兵員は、ロシア政府の承認を受けつつ、半自律的な活動を行っているとみられる。  中央アフリカで、ワグネルは金やダイヤモンド採掘、木材輸出などの事業を行いながら、トゥアデラ大統領の警備に関わっている。中央アフリカで強い影響力を持っている人物に、ドミトリ・シティがいる。フランス語が達者で、プリゴジンとも深い関係にあった(2023年1月28日付ルモンド)。ロシア文化会館など文化広報事業を行い、トゥアデラ政権高官と深い関係を持ちながら、幾つものビジネスを経営している。  マリでは、ワグネルの兵員がアシミ・ゴイタ軍事政権と協力して軍事作戦に従事している。並行して鉱物採掘事業も行っており、ワグネルが2022年に設立した鉱業企業Mariko Miningは11月7日に英国の制裁対象となった。  2023年11月、プリゴジンの息子パヴェル(26歳)が父親の相続人に指名され、彼が創りあげた企業グループコンコルドのトップに就任した。パヴェルは、中央アフリカのシティ、またマリ軍部などともつながりがある。もっとも、ある程度の自律性があるとはいえ、パヴェルはクレムリンのコントロール下にある(12月11日付ルモンド)。  以上から推測されるのは、ロシアがワグネルを完全に政府のコントロール下には置かずに、一定の自律性を与えていることだ。これがどの程度一貫した戦略なのかは不明である。ロシア政府といっても、プーチン、国防省、GRU、FSB(ロシア連邦保安庁)、SVR(ロシア対外情報庁)など、複数の政府機関がアフリカ諸国との関係構築に動いている。  米国の非営利団体でロシア、特にワグネルに関する情報を公開しているAll Eyes on Wagnerは、プーチンの論理は「分断統治」であり、いろいろな人物を競わせて、第二のプリゴジンが出てこないようにする戦略をとっていると分析している。ロシア側から様々な機関がアフリカ側にアプローチするなかで、ワグネルの活動がうまくいっているところでは、そのままにしているということだろう。今のところ、それに対するプーチンやGRUのグリップは効いているようだ。  マリのようにワグネルが戦闘で敗北を喫するなどして、その機能に疑問符が付されると、「アフリカ部隊」に置き換えられて、より国防省直轄という形をとる可能性が強まるのであろう。(武内進一) 東京外国語大学現代アフリカ地域研究センターでは、11月20日~1月10日の間、クラウドファンディングを実施しています。ご協力よろしくお願いします。

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ガーナ大統領選でNDCのマハマが勝利

2024/12/15/Sun

 12月9日、選挙管理委員長は7日に実施されたガーナ大統領選挙で、ジョン・ドラマニ・マハマ(NDC)が勝利したと発表した。マハマが56.55%の得票で対立候補のマハムドゥ・バウミア(NPP)が41.61%であったから、マハマの大勝といえる。全土の16州のうち、アシャンティ州、東部州、北東州以外でマハマが最大の得票を獲得した。  バウミアは、「世界の投資家コミュニティが、ガーナが平和で民主的な国であると信じることが重要だ。これは我々の重要な資産だ」と述べて敗北を認めた。下院選挙においても、NDCが議会の3分の2の議席を獲得して勝利した。  マハマとNDCはいずれも大勝したわけだが、政権運営には課題が山積している。ガーナは2022年にデフォルトに陥り、厳しい経済運営を迫られてきた。新政権にとっても、財政問題が喫緊の課題となる。  マハマは、選挙運動のなかで、前政権下で打ち出された増税路線を見直すと訴えた。しかし、昨年IMFとの間で合意した30億ドルの緊縮プログラムとどのように整合性を取るのかが問われる(12月13日付Africa Confidential)。  マハマは、父親がエンクルマ政権期に活躍した、二世政治家である。1991~95年に日本大使館で勤務した経験がある。2012~17年には大統領を務めた。この時期ガーナでは石油開発が進展し、それとともに財政支出と債務が拡大したと言われる。前政権期の遺産とも言える債務問題にどう対応するのか、注目される。(武内進一) 東京外国語大学現代アフリカ地域研究センターでは、11月20日~1月10日の間、クラウドファンディングを実施しています。ご協力よろしくお願いします。

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ベルギー政府の混血児政策に「人道に反する罪」適用

2024/12/08/Sun

 12月2日、ブリュッセル控訴審は、独立前のコンゴ民主共和国出身の混血児を両親から引き離した行為が「人道に反する罪を構成する」として、ベルギー国に対して、5人の原告に5万ユーロずつ支払うよう命じた。初審の判決を覆す内容であった。原告側のイルシュ(Michèle Hirsch)弁護士は、「植民地の犯罪が人道に反する罪とされた初めての判例」だと評価した。  この裁判では、コンゴ人の母とベルギー人の父との間に生まれた女性5人が、ベルギー国家を訴えていた。判決は、ベルギー国が「その出自だけのために」混血児を標的としたと述べる。子供たちは3歳~7歳で家族から離され、宗教施設に預けられ、しばしば名前や誕生日も変えられた。15,000~20,000人が同様の仕打ちにあったと見られる(2日付ファイナンシャルタイムズ)。  イルシュ弁護士によれば、当時の政治指導者や宗教指導者は、混血児を「恥辱であり、罪深い子供」だと見なしていた。混血児は、白人至上主義を掘り崩し、黒人の反乱を指導する可能性があるという意味で、二重の危険性を孕むと見なされた。  一審では、こうした行為が行われた当時に「人道に反する罪」の概念がなかったことを理由に同概念の適用を認めなかったが、控訴審はこれを覆した(2日付ルモンド)。  過去の非人道的行為を今日的観点から評価し、謝罪のみならず賠償や補償を与えるという流れは、今後も続いていくだろう。(武内進一) 東京外国語大学現代アフリカ地域研究センターでは、11月20日~1月10日の間、クラウドファンディングを実施しています。ご協力よろしくお願いします。

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サヘル諸国で鉱業企業への圧力

2024/12/07/Sat

 12月6日、マリで金鉱を採掘するカナダのバリック・ゴールド社の社長(南アフリカ人)、また採掘サイトのマリ人責任者などに逮捕状が出された。資金を不法に持ち出した嫌疑がかけられている(6日付ルモンド)。最近、サヘル諸国では、様々な形で鉱産物採掘企業への政治的圧力が強まっている。  11月8日、マリの首都バマコで、オーストラリアの金鉱山開発企業レゾリュート・マイニング社の英国人幹部3名が拘束された。レゾリュート社は、租税支払いをめぐって政府と係争中であったが、幹部の逮捕を受けて1億6000万ドルの支払いに同意し、3人は25日に解放された。バリック・ゴールド社も9月に幹部4人が拘束されている。  マリ、ブルキナファソ、ニジェールでは、軍事政権の発足以降、天然資源に対する主権を強調する主張が強まり、政府が鉱業企業への出資割合を引き上げたり、国有化したりといった動きが目立っている。  マリは昨年鉱業法を改定し、企業からの納税額を増やそうとしている。同国鉱業部門に展開する企業は、政府との再交渉を求められている。その中で、バリック・ゴールド社やレゾリュート社のような大手は厳しい条件を突きつけられている(11月13日付ルモンド)。  ブルキナファソも、この7月に鉱山法を改定し、最近金鉱山を2つ国有化した(11月25日付けルモンド)。  ニジェールでは、政府とフランス企業オラノ(旧アレヴァ)社がウラン採掘をめぐる確執を続けている。昨年7月のクーデタ以降、軍事政権はフランス企業のオラノ社に厳しい政策を取るようになった。この6月には、最大のウラン埋蔵地イムラレンにおけるオラノ社の開発権を剥奪した。  12月4日には、オラノ社が、ニジェールの子会社であるソマイール社に対する操業上のコントロールを失ったとの声明を発表する事態となった。現在ニジェールは隣国ベナンとの対立を抱え、ベナンの港湾を経由してウラン輸出ができない状態が続いている。このため、オラノ社は、多数株式を保有するソマイール社のウラン生産を停止すると発表したのだが、その後もニジェール側の指示で操業が続けられている。  ニジェール軍事政権は、天然資源に対する主権は自分たちのものだとして、ウラン生産を続ける姿勢である。  こうしたサヘル三国の動きには、イスラム急進主義勢力による国内治安悪化に目立った成果を上げられない軍事政権の暴挙という側面が確かにある。しかし、鉱業部門への政府による規制強化や契約の見直しがアフリカで広がっていることに注意すべきだろう。  セネガルのジョマイ・ファイ政権は、発足以降、石油・ガス開発の契約見直しに繰り返し言及している。コンゴ民主共和国のチセケディ政権も、前政権で結ばれた鉱山開発の見直しを行ってきた。  主権意識の高まりは軍事政権に限られない。自分たちの天然資源が不当に搾取されているという認識は、その感情と結びついている。(武内進一) 東京外国語大学現代アフリカ地域研究センターでは、11月20日~1月10日の間、クラウドファンディングを実施しています。ご協力よろしくお願いします。

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バイデン米大統領、アンゴラ訪問

2024/12/04/Wed

 12月2日、米国のバイデン大統領が4日までの日程でアンゴラを訪問した。任期終了間近のレームダック期の訪問である。それでも、米国大統領としては、2015年にオバマがケニアを訪問して以来のアフリカ行きとなる。  今回の訪問では、コンゴ民主共和国とザンビアに跨がる産銅地域(カッパーベルト)と大西洋岸のロビト港を結ぶ、ロビト回廊計画に焦点が当たっている。ここには20世紀初頭に英国が建設した鉄道が通り、2015年に中国の出資で改修された後、2022年にはスイスのTrafigura社、ポルトガルの建設企業Mota-Engil社、ベルギーの鉄道企業Vecturis社のコンソーシアムにコンセッションが与えられた。米国はここに30億ドル以上を出資し、大幅に改修する計画である(12月2日付ルモンド)。  アンゴラはアフリカでナイジェリアに次ぐ産油国だが、長く中国の強い影響下にあった。米国はここにテコ入れして、中国に対抗にしたい思惑がある。コンゴ民主共和国のコバルトなど、重要な資源が中国企業の手に抑えられているという危機感がある。  アンゴラも先週、ロシアのダイヤモンド企業Alrosaを退去させるなど、米国寄りの姿勢を強めている。一方中国は、今年に入ってザンビアとタンザニアのダルエスサラーム港を結ぶタンザン鉄道に10億ドル以上出資して改修工事を行うなど、カッパーベルトの資源アクセスには力点を置いている(2日付ファイナンシャルタイムズ)。  米国民主党政権でエネルギー担当の特別顧問を務めたエイモス・ホクスタインは、米国は冷戦後アフリカ進出に出遅れたと述べている(上記FT)。今回の訪問が、米国の変化を示すものだろうか。今回は、レームダック期の大統領によるアンゴラ一カ国だけの訪問であり、これが米国の対アフリカ政策積極化を示すのかどうかは、なお判然としない。(武内進一) 東京外国語大学現代アフリカ地域研究センターでは、11月20日~1月10日の間、クラウドファンディングを実施しています。ご協力よろしくお願いします。

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チャドがフランスとの軍事協定破棄を通告

2024/12/01/Sun

 28日、チャドのクラマラー(Abderaman Koulamallah)外相は、「フランスとの国防関連協力協定を終わらせる」と発表した。フランスは現在チャドに軍事基地を持ち、約1000人の兵士を駐留させているが、この声明はこれに対する事実上の撤退要求となる。ちょうどこの日チャドを訪問していたフランスのバロ(Jean-Noel Barrot)外相との会談後、わずか数時間のタイミングであった。  クラマラー外相は、この決定が「フランスとの関係断絶ではない」と明言している。声明では、「フランスは最も重要なパートナーだが、チャドは成長し、成熟したこと、またチャドは主権国家であって、主権を求めることをフランスは理解しなければならない」と述べた。  サヘル地域では近年、マリ、ブルキナファソ、ニジェールと、反仏を掲げる軍事政権が次々に誕生し、フランス軍の撤退が続いていた。しかし、そのなかでチャドは、親仏、親西側の立場を維持してきた。長く政権を掌握したイドリス・デビィ・イトノが2021年4月に武装勢力に殺害された後、息子のマハマトが非合法的手段で政権を継承した際、フランスはこれを認め、チャド寄りの姿勢を明確にした。  一方、チャドは最近、外交関係の多角化を図ってきた。今年1月には、マハマトがプーチンの招待でロシアを訪問し(1月23日付ルモンド)、ハンガリーのオルバン首相の息子が秘密裏にチャドを訪れる(1月27日付ルモンド)といった動きがあった。その他、トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)といった国々とも関係深化を図り、軍事支援などを受けるようになった。  クラマラー外相は、この決断が「熟慮の結果取られた」ものであり、チャド・フランス関係の「歴史的転換」だと認めている。「チャドは完全なる主権を表明し、国家的優先事項にしたがって戦略的パートナーシップを再定義すべき時期」になったというのがチャド側の主張である。  この決定はフランスにとって、甚大な衝撃となる。ちょうど25日、ボケル(Jean-Marie Bockel)大統領個人特使が、フランスのアフリカにおける軍事基地の再編に関する提言をマクロン大統領に提出したところだった(11月26日付ルモンド)。フランスは現在、セネガル、コートジボワール、ガボン、チャド、ジブチに軍事基地を持っており、このうちジブチ以外について縮小の方針が打ち出されると見られていた。  今回のチャドの発表により、フランス軍基地再編計画は見直しを余儀なくされよう。折しも、セネガルのジョマイ・ファイ大統領が、インタビューの中で、フランスとの関係を重視しつつも軍事基地の存在に疑問を呈し、フランス兵には遠からず退去してもらうとの見解を表明した。「我々は米国、中国、トルコなどと軍事基地なしで協力関係を結んでいる。・・・フランスだってそれができるでしょう」(11月28日付ルモンド)というわけだ。  フランスとアフリカの関係が、大きく変化しつつあることを実感させる動きである。アフリカ側が繰り返す「主権」という言葉について、改めて考える必要がある。(武内進一) 東京外国語大学現代アフリカ地域研究センターでは、11月20日~1月10日の間、クラウドファンディングを実施しています。ご協力よろしくお願いします。

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