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Africa Today今日のアフリカ

今日のアフリカ

2023年12月

アフリカの多国間主義

2023/12/30/Sat

 12月28日付ルモンド紙には、今年のアフリカを振り返る形で、国際安全保障研究所(ISS)のハンディ(Paul-Simon Handy )研究員と独立研究者のディロ(Félicité Djilo)氏の論説が掲載されている。アフリカの多国間主義に関わる興味深い議論なので、概略を紹介する。  2023年は、AUがG20のメンバーとなり、またエジプトとエチオピアがBRICS+のメンバーとなった。これらはアフリカの外交的成果といえる。しかし、その一方で、懸念すべき傾向も見られる。  第1に、アフリカ大陸全体で紛争が激化している。スーダン、コンゴ民主共和国(DRC)、サヘル地域など、政治的解決に向けた動きが機能していない。さらに、複数の国々で国連平和維持活動が撤収を迫られ、軍事的解決が優先される傾向がある。  第2に、アフリカの多国間主義が危機に瀕している。国連安保理の麻痺が指摘されるが、AUやアフリカの準地域機構も域内の紛争解決に役割を果たせていない。また、クーデタが勃発した国に対する認識の違いが表面化している。ニジェールへの対応について、西アフリカ諸国内でも意見の相違が見られる。クーデタが起こったガボンは、AUからも中部アフリカ経済共同体(CEEAC)からも資格停止処分を受けたのに、軍事政権トップのオリギ=ンゲマは中部アフリカ諸国を歴訪し、アンゴラを除く各国首脳と会談した。  第3に、こうした危機に対して地域大国が有効なリーダーシップを果たしていない。マリとアルジェリアの関係が悪化し、ケニアやアンゴラはDRCの紛争解決に無力をさらけ出した。モザンビークは、北部カーボ・デルガド州の危機に際して、SADCよりもルワンダ軍の受け入れを優先させた。大国の影響力が下がるなかで、ルワンダやトーゴなど小国がレバレッジを増している。  第4に、ウクライナ戦争が始まって2年近くになり、同紛争に対するアフリカの曖昧な態度がいっそう強まっている。アフリカの中にはロシアにシンパシーを示し、国際法上の影響に関心を払わない国がある。アフリカ諸国は西側のダブルスタンダードを批判するが、スーダンやDRCで起きていることには無策だ。2023年にはグローバルサウスに注目が集まり、アフリカもグローバルガバナンスへの参加を要求したが、アフリカがグローバルガバナンスに何を貢献するのか、そこから何を得たいのかは見えてこない。AUは、狭隘な域内主義(provincialisme)から脱し、世界的規模の問題に取り組まなければならない。  アフリカに厳しい論説である。国際政治におけるアフリカのプレゼンスの高まるなかで、それに見合った責任が要求される。まずは、紛争を始めとする域内の課題にどう取り組むかが問われることになるだろう。 (武内進一)

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コンゴの大統領選挙

2023/12/23/Sat

 12月20日、コンゴ民主共和国で大統領選挙を含む総選挙が実施された。日本の6倍以上の巨大な国で、有権者数は4400万人、投票所は7万5000ヵ所を数える。20日の選挙では、予想どおり、相当の混乱が生じた。投票用機材搬入の遅れから投票開始時刻が大幅にずれ込んだり、停電等のトラブルのために投票用機器が動かなかったり、多くのトラブルが報告されている(21日付ルモンド)。投票は、21日も継続して行われた。  今回の選挙では、現職のチセケディが再選を果たすかが最大の注目点である。選挙が1回しか行われず(決選投票がない)、野党候補が統一されていない状況では、チセケディの優勢は動かない。前回の選挙では、前大統領カビラに近い人物で占められた選挙管理委員会が投票を操作し、チセケディを勝利させたというのが定説だが、今回はそうしたどんでん返しは考えにくい。多少のトラブルはあっても、チセケディの再選が発表される可能性が高い。  選挙戦の中で、チセケディはナショナリスティックな論理を多用した。有力な野党候補のカトゥンビについて、「外国から送り込まれた候補者であり、ルワンダとつながっている」と主張した(17日付ルモンド)。また、選挙戦の締めくくりにキンシャサで行われた集会では、「ルワンダが無責任な態度を続けるなら、戦争も辞さない」と発言した(19日付ARIB)。実際、コンゴは中国から攻撃・偵察用戦闘機を購入し、ルワンダ国境に近い南キヴ州に配備している(20日付ルモンド)。  チセケディ政権の下で、コンゴのマクロ経済は成長を続けている。コンゴ産鉱物資源への高い需要を考えれば、経済成長はこれからも継続するだろう。これは政権にとっての追い風だが、経済の成長はルワンダとの緊張をいっそう強める可能性がある。その意味で、不安定性や脆弱性を抱え込んだ成長である。 (武内進一) 

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ワグネルの再編―ロシアの「アフリカ部隊」

2023/12/18/Mon

 去る8月プリゴジンが飛行機墜落で不慮の死を遂げてから、アフリカにおけるワグネルの活動がどうなるか、様々な憶測を呼んできた。15日付ルモンド紙は、ロシアが「アフリカ部隊」(Africa Corps)という名称でアフリカにおける軍事作戦の再編を試みていると報じた。  「アフリカ部隊」の名称は、ロシア国防省に近い軍事筋のブロガーが11月20日にTelegramに投稿して以降、使われるようになったと言われる。その背景には、エフクロフ(Iounous-bek Evkourov)国防次官の動きがあり、同次官は8月22-24日(プリゴジン墜落死と符合)、9月17日にリビア東部のベンガジを訪問し、ハフタル将軍と面会している。また、12月2日にはまたもベンガジを訪問し、その足でマリ、ブルキナファソ、ニジェールも訪れている。エフクロフは、ワグネルをロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)に組み込んで再編するようプーチンから命を受けているとされ、その動静が注目を浴びている。  米国政府筋は、この「アフリカ部隊」がワグネルの活動や人員を引き継ぐと見ている。ただし、再編が順調に進んでいるわけではなさそうだ。ロシア国防省はワグネルの元戦闘員をアフリカでの作戦にリクルートしようとしたが、総じてうまく行かなかった。Telegramには、アフリカでの給与やボーナスに言及して新兵募集の知らせが投稿されており、新兵のリクルートには苦労していると見られる。  マリでは、2021年末以来ワグネルが活動を行い、1500~2500人が現在活動しているとみられる。中央アフリカの活動も、同程度の歴史がある。一方、ブルキナファソとニジェールでの活動展開は、これからのようだ。マリ、ブルキナファソ、ニジェールの三国で立ち上げた「サヘル諸国同盟」(AES)は、ロシアとの協力枠組みとして機能することが想定されている。  ロシアの対アフリカ展開は、プリゴジンの死後、第二局面に入った。その動きは決してスムーズとは言えないものの、サヘルの三国、リビア、中央アフリカ、そしてスーダン東部(ダルフール)というネットワークは確認できる。それなりの存在感だと評価すべきだろう。 (武内進一)

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コンゴ東部紛争の民兵組織

2023/12/15/Fri

 13日付ルモンド紙は、コンゴ東部紛争の民兵組織ワザレンド(wazalendo)に関する記事を掲載した。ワザレンドはスワヒリ語で「愛国者」を意味する。ルワンダから支援を受けているといわれるM23への対抗勢力として、注目を浴びるようになった。  ワザレンドがメディアに登場したのは、ここ二ヶ月程度のことに過ぎない。M23との戦闘を主導する勢力として報じられるようになった。この背景には、昨年9月に展開を開始した東アフリカ共同体地域軍(EACRF)の撤退に伴う情勢変化がある。EACRFはM23が制圧していた地点を引き継いで平和維持に当たっていたが、M23が活動を停止せず、地域住民やコンゴ政府側からの不満が高まっていた。結局チセケディ政権は、EACRFが成果を上げていないとして10月にその任期を更新しない決定をし、12月には部隊の撤収が始まった。撤収後の主導権をめぐってM23と政府側との衝突が激化するなかで、ワザレンドは政府軍と協働してM23と戦っている。  記事によれば、ワザレンドとは、従来マイマイなどの名称で呼ばれていた多数の武装勢力を糾合したもののようだ。ただし、そうした武装勢力の糾合は、政府が働きかけたものである。2022年11月、チセケディは国営テレビで演説し、M23に対抗して自警団グループを立ち上げるよう国民に呼びかけた(2022年11月4日付ルモンド)。また、コンゴ軍と民兵組織の協働も、2023年9月3日の政令で、国軍内に民兵の存在を制度化することによって、公式化された。ワザレンドは、来週に予定されている大統領選挙でチセケディに投票するよう呼びかけているという。  コンゴ軍は20年前の東部戦争の際にも、ルワンダのフトゥ人を中心とする武装勢力(FDLR)と協働するなど、従来から民兵組織との関係が取り沙汰されてきた。チセケディ政権はその公式化に動いたのである。国連平和維持活動を担うMONUSCOも撤退へと動くなか、チセケディ政権の論理としては、ルワンダが支援する勢力に自前で対抗する、ということになる。ルワンダを敵として愛国心を煽り、民兵を動員する手法は、相当に危うい。 (武内進一)

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COP28とアフリカ

2023/12/14/Thu

 COP28が12月12日に閉幕した。化石燃料からの脱却が合意されたものの、具体的な成果は乏しいという認識が広がっている。9月に気候変動サミット、11月にはプラスチックごみ国際会議をホストしたケニアを筆頭に、アフリカ諸国はこの会議に強い意気込みで臨んだが、総じて成果は乏しかったようだ。  13日付ルモンドによれば、アフリカ諸国の重点課題は、気候変動の適応策に向けた資金の獲得であった。適応対策の重要性は合意文書に盛り込まれたものの、グローバルな目標達成を可能にする資金提供の具体策はなかった。リスクやインパクトの評価、極端な気候の予測システム導入、2030年までの国家適応計画策定などは、いずれも資金的裏付けを欠く内容のないものとなった。  2022年、アフリカは適応策の実施に必要な額の15~30%しか資金を調達できなかった。その一方で債務支払いが増加し、歳入を大きく上回るペースで債務が拡大している。  こうした状況の中で、化石燃料産出国からは、そこからの「脱却」を迫られることへの拒否感が示された。コンゴ共和国の環境大臣は、「代替的資金提供のないまま、石油からの脱却を要請されている」と不満を示したし、セネガルの代表は同国で新たに発見されたガス田利用の重要性に言及した。多くの国が「公正な移行」を強調し、脱化石燃料の動きを牽制した。  気候変動の適応策とは、そのネガティブな影響を最小限に留めるための対策を講じることである。アフリカでは近年、旱魃や洪水などの自然災害が頻発しており、東アフリカではまさに今、広大な地域が洪水の被害を受けている。今後アフリカ開発を考える際には、個々の案件を気候変動の適応策、緩和策と紐付けることが求められるであろう。 (武内進一)

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マリ軍事政権のキダル制圧

2023/12/02/Sat

 11月14日、マリの軍事政権は北部の街キダルを制圧したと発表した。軍事政権はフランス軍や国連平和維持部隊(Minusma)に撤退を命じていたが、北部では撤退後の支配権をめぐって国軍と武装勢力間で衝突が生じていた。キダルはトゥアレグ人武装勢力の拠点で、2013年のフランスによる軍事介入の後も、マリ政府の統治が及ばない状態が続いていた。今回の衝突において、マリ軍はワグネルの助力を得て無人機による空爆を重ね、キダル制圧に成功した。アシミ・ゴイタ政権にとっては重要な軍事的成果であり、内政、外交両面で大きな影響を与えるであろう。  今回のキダル制圧は、政府とトゥアレグ人世俗派武装勢力(CMA)との和平合意の破綻を意味する。この和平合意はアルジェリア主導で進められたもので、同国のサヘル政策の失敗と言ってもよい。アルジェリアは、今年7月のニジェールのクーデタに際しても和平合意を提案したが、うまく進まなかった。アルジェリアにとってサヘルは裏庭にあたり、フランスが放逐される中で存在感を高めたいところだが、思惑通りには行かなかった(11月23日付ルモンド)。キダル制圧後、ニジェールの軍事政権トップがマリを訪問してゴイタと面会し、協力を確認するなど、マリ、ブルキナファソ、ニジェールで協力関係を深める動きが見られる(11月24日付ルモンド)。  ゴイタ政権としては、これを足がかりに北部での実効支配を進めたいところであろう。制圧から約一週間後の22日、軍事政権はキダルに新知事(El-Hadj Gamou)を任命した。新知事はトゥアレグ人の中でもimghadグループの出身で、imghadは伝統的にキダルを支配してきたIfoghasに服従してきたグループである。新知事人事には、トゥアレグ人世俗派武装勢力内部の分裂を引き起こす狙いがある(11月27日付ルモンド)。  一方、当然ながら、イスラム急進主義勢力(GSIM / JNIM)の動きも今後重要な意味を持つ。今回の政府軍によるキダル制圧に際して、GSIMは全く動かなかった。GSIMの指導者イヤド・アグ・ガリはIfoghas出身のトゥアレグ人で、CMAとも繋がりを持ってきたが、今回の戦闘で同盟は見られなかった。  ゴイタ政権の北部支配が簡単に運ぶとは思えない。北部のトゥアレグ人勢力は、独立以前からマリへの統合に抵抗してきた。10月30日、マリ北部の伝統的首長23人がグテーレス国連事務総長に公開書簡を送り、マリ軍とワグネルが行った虐殺を非難した(11月27日付ルモンド)。北部のトゥアレグ人の間には、バマコの政府に対する根深い不信がある。GSIMは今回CMAに協力しなかったが、こうした不信は、武装勢力への動員を容易にするだろう。 (武内進一)

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