• アクセス
  • English
  • 東京外国語大学

今日のアフリカ

今日のアフリカ

マリ軍事政権のキダル制圧

2023/12/02/Sat

 11月14日、マリの軍事政権は北部の街キダルを制圧したと発表した。軍事政権はフランス軍や国連平和維持部隊(Minusma)に撤退を命じていたが、北部では撤退後の支配権をめぐって国軍と武装勢力間で衝突が生じていた。キダルはトゥアレグ人武装勢力の拠点で、2013年のフランスによる軍事介入の後も、マリ政府の統治が及ばない状態が続いていた。今回の衝突において、マリ軍はワグネルの助力を得て無人機による空爆を重ね、キダル制圧に成功した。アシミ・ゴイタ政権にとっては重要な軍事的成果であり、内政、外交両面で大きな影響を与えるであろう。
 今回のキダル制圧は、政府とトゥアレグ人世俗派武装勢力(CMA)との和平合意の破綻を意味する。この和平合意はアルジェリア主導で進められたもので、同国のサヘル政策の失敗と言ってもよい。アルジェリアは、今年7月のニジェールのクーデタに際しても和平合意を提案したが、うまく進まなかった。アルジェリアにとってサヘルは裏庭にあたり、フランスが放逐される中で存在感を高めたいところだが、思惑通りには行かなかった(11月23日付ルモンド)。キダル制圧後、ニジェールの軍事政権トップがマリを訪問してゴイタと面会し、協力を確認するなど、マリ、ブルキナファソ、ニジェールで協力関係を深める動きが見られる(11月24日付ルモンド)。
 ゴイタ政権としては、これを足がかりに北部での実効支配を進めたいところであろう。制圧から約一週間後の22日、軍事政権はキダルに新知事(El-Hadj Gamou)を任命した。新知事はトゥアレグ人の中でもimghadグループの出身で、imghadは伝統的にキダルを支配してきたIfoghasに服従してきたグループである。新知事人事には、トゥアレグ人世俗派武装勢力内部の分裂を引き起こす狙いがある(11月27日付ルモンド)。
 一方、当然ながら、イスラム急進主義勢力(GSIM / JNIM)の動きも今後重要な意味を持つ。今回の政府軍によるキダル制圧に際して、GSIMは全く動かなかった。GSIMの指導者イヤド・アグ・ガリはIfoghas出身のトゥアレグ人で、CMAとも繋がりを持ってきたが、今回の戦闘で同盟は見られなかった。
 ゴイタ政権の北部支配が簡単に運ぶとは思えない。北部のトゥアレグ人勢力は、独立以前からマリへの統合に抵抗してきた。10月30日、マリ北部の伝統的首長23人がグテーレス国連事務総長に公開書簡を送り、マリ軍とワグネルが行った虐殺を非難した(11月27日付ルモンド)。北部のトゥアレグ人の間には、バマコの政府に対する根深い不信がある。GSIMは今回CMAに協力しなかったが、こうした不信は、武装勢力への動員を容易にするだろう。
(武内進一)