今日のアフリカ
2025年01月
再交渉後の共同宣言への強い反発
2025/01/31/Fri
今年3月末までに締結が予定される、植民地期のナミビアでおこなわれたジェノサイドの「賠償」に関する共同宣言について、被害者代表らが強い反発を表明した。
ナミビア政府は、先月中旬、植民地期の残虐行為をめぐるナミビアとドイツ両政府間の約10年におよぶ交渉の終了を告げた(「今日のアフリカ」、2024年12月31日)。2015年から交渉されてきた謝罪や「賠償」をめぐる草案は、2021年5月に署名され、共同宣言が出されていた(「今日のアフリカ」、2021年5月29日)。以来、被害を受けた人びとの代表組織などからの反発を受け(「今日のアフリカ」、2021年6月10日)、追加条項の交渉が続いていた。
ジェノサイドの被害者であるヘレロとナマの伝統的指導者らの各組織(OCAとNTLA)は、今月12日と18日にそれぞれ会見をひらき、反発を表明した。両者とも、ジェノサイドの直接の犠牲者の子孫であるにもかかわらず、交渉のプロセスから除外されてきたと主張している。ヘレロの伝統的指導者らで構成されるOCAの専門委員カンドゥンドゥ氏は、12日の集会において、14の地域のすべての首長が共同宣言から距離を置いており、首長らは政府に対して、計画を見直し、国民会議を招集するよう求めていると述べている。一方、ナマの伝統的指導者らで構成されるNTLAの副議長ハンセ氏は、18日の会見において、ナミビア政府が政府間の交渉枠組みを優先して、伝統的指導者らを故意に排除してきたと述べている。
また、NTLAは、ドイツが草案において「賠償」という用語を避け、法的責任を最小限にとどめようとしていることを非難している。同様の点については、ジェノサイド交渉の特使だった故ゼデキア・ンガビルエ氏も、ドイツの植民地支配の影響を受けた他のアフリカ諸国からの法的責任の追及を防ぐために使用を避けていると繰り返し指摘していた。現に、タンザニアはドイツに対して、ナミビアの例を出しながら、20世紀初頭の植民地支配中に起きたマジマジの反乱で殺害された人びとに対する「賠償」を求めていた。加えて、植民地期の残虐行為をジェノサイドと認めるか否かも論点になってきた。ドイツは、ナミビアに対しては、2021年の共同宣言の際にジェノサイドと認めて謝罪したが、タンザニアに対しては、2023年に謝罪したものの認めなかった。
こうした「賠償」や謝罪などの植民地支配の過去をめぐる問題は、ドイツだけでなく、イギリス、フランス、ベルギーなど植民地支配をしてきた諸国が抱えるものである。物議を醸しているナミビアとドイツの共同宣言がどのような結論を迎えるのかによって、同様の問題を抱える諸国に大きな影響が出そうである。(宮本佳和)
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M23がコンゴ東部の主要都市ゴマに侵入
2025/01/28/Tue
27日、反政府武装勢力M23は、東部の主要都市ゴマに侵入した。M23やそれと共闘する「コンゴ川同盟」(AFC)はゴマを制圧したと発表したが、27日時点で事態は混乱しており、完全に制圧したわけではなさそうだ。
これに先立つ26日、国連安保理で緊急会合が開かれ、グテーレス事務総長は、ルワンダ軍にM23への支持を止め、コンゴから撤退するよう要請した。事務総長がルワンダを名指ししたのは、これまでにないことだった。同会合では、米国、英国、フランスも、ルワンダに撤兵を呼びかけた(27日付ルモンド)。
『名前を知らない戦争』の著者スターンズは26日付ファイナンシャルタイムズ紙に論説を寄せ、紛争終結にはルワンダに圧力をかけるしかないと強調した。
M23は2012年にもゴマを制圧したが、この時は国際社会がルワンダに援助停止などの制裁措置をとり、ルワンダが支援を控えたことでM23の崩壊につながった。今回、欧米諸国はルワンダにコンゴから撤兵するよう呼びかけているが、制裁に向けた動きは今のところない。
この時期にM23がゴマを制圧した理由として、世界の関心がトランプ政権誕生に集まっているうえに、トランプ政権が自分たちの行動を承認するのではという期待がルワンダ側にあるとの指摘もある(27日付ルモンド)。
ルワンダ側のメディアは、コンゴ軍が、民兵組織ワザレンドゥ、ヨーロッパ人傭兵、ブルンジ軍、南部アフリカ共同体軍と協働し、かつてない脅威をルワンダに与えていると強調している(27日付New Times)。
1月に入ってから40万人が避難民となり、戦闘で国連平和維持部隊、南部アフリカ共同体軍にも合わせて13名の犠牲者が出ている。紛争は、大湖地域全域を不安定化させつつある。(武内進一)
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アフリカの原子力発電所需要
2025/01/19/Sun
近年、原子力発電所設置への意欲を示すアフリカ諸国が続々と現れている。1月初めにはウラニウム産出国のナミビアが、中国の支援を得て原発開発への意欲を示した。12月にはジンバブウェが、原発設置に向けロシアと協力関係を結ぶと表明した。原発への関心がアフリカで高まる現状と背景を分析した15日付ルモンド紙の記事を紹介する。
現在、アフリカ大陸で稼働している原発は、南アフリカに1基あるだけだ。しかし、数年前から、ウガンダ、ガーナ、マリ、ブルキナファソ、ルワンダなどが開発計画を表明している。
2024年4月に世界原子力協会が実施した調査では、アフリカで約30ヵ国が原子力エネルギーの新プログラムを検討、計画、開始したと回答した。その多くは、ロシアのRosatom、中国のCNNCとの協力に基づくものであった。
その大部分は、実現まで時間がかかりそうだ。しかし、例外はエジプトで、Rosatomが北部の町エル・ダバア(El Dabaa)に4つの原子炉を建設した。建設費は290億ドルで、そのうち85%はロシアの貸付けで賄われた。原子炉は、2030年に稼働する予定である。
原発への高い関心の背景は、もちろん電化の必要に迫られているためである。現在アフリカの人口の約半分は、電気がない暮らしをしている。
一方、原発建設がそう簡単でないのは、建築費が巨額だからである。エジプトの原発建設費は、ブルキナファソやマリのGDPを上回る。この両国はRosatomと核開発・インフラ協定を結んだが、エジプトに行ったような貸付をロシアが他の国に行うのかは不明である。
技術面の革新として、小規模組立原子炉(Small Modular Reactor:SMR)が注目されている。300メガワット程度の能力で、安価に設置できる可能性がある。ただ、建設は簡単でなく、研究者は多くの国では設置まであと20~30年かかるだろうと予想している。
ただし、進捗が顕著な国もある。ガーナは、2016年から核安全省を設置した。ルワンダは、2026年に実験用原子炉建設を目指している。両国とも、SMR設置に向けてアメリカ企業と署名した(15日付ルモンド)。
アフリカの原発開発というと、ロシアや中国が友好国の歓心を買うために売り込んでいるイメージがあったが、事実はもっと複雑なようだ。脱炭素の中で原発回帰の流れが世界的に強まるなか、アフリカだけがそこから無縁であるはずはない。日本としても、安全性に関わる議論を喚起し、関連する情報や技術の提供を考える必要があろう。(武内進一)
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マリ軍事政権と鉱山開発企業との緊張
2025/01/18/Sat
1月11日、マリ政府は、カナダのバリック・ゴールド社が操業するルロ・グンコト(Loulo-Gounkoto)金鉱山に軍を派遣し、3トンの金を差し押さえた。これを受けて同社は、同鉱山での操業を停止し、従業員8000人を一時休業にすると発表した。
マリ軍事政権と多国籍鉱山開発企業との紛争について、17日付ルモンド紙の記事が比較的手際よくまとめているので紹介する。
ルロ・グンコト鉱山には、アフリカ最大、世界有数の金鉱脈がある。2023年には19トンの金を産出し、マリの年間総生産量(65トン)の3分の1を占めた。バリック・ゴールド社はここで2018年から操業している。
軍事政権は、マリの「主権回復」を主張してきた。その論理に基づいてフランスとの関係を断絶したが、同時に、金鉱山からさらなる利益を引き出そうとしてきた。マリの金鉱山は、その大部分が外国企業によって開発されてきた。
2022年末、マリ政府は鉱業部門の監査を実施し、その結果として、3000~6000億CFAフラン(4億5000万~9億ユーロ)の得られるべき利益を得ていないと経済金融省が発表した。2023年8月には、新たな鉱業法が発布された。これにより、外国企業に様々な税金が引き上げられ、国家が鉱山の3割を所有すると決められた。また企業は、利潤をマリの銀行口座に入金するよう義務づけられた。
この法律改正をめぐっては、外国投資を阻害するという主張と、鉱山企業に有利な制度が続いてきた状況下でのバランスの回復であって正当なものだとの主張がぶつかってきた。「一次産品のアフリカ諸国の取り分をめぐっては、基本的な問題がある。公正な分配ができていない。鉱業・石油部門で、企業はしばしば国家よりずっと多くの利潤を得ている」と、フランスの業界筋は述べている。
バリック・ゴールド社は、新鉱業法は軍事政権の懲罰的措置だとして、それに準じた支払いを拒絶してきた。同社は2024年半ば、マリ政府に3億7000万ユーロの支払いを提案したが、交渉はまとまらなかった。11月末には同社のマリ人従業員4名が逮捕され、現在もなお拘留されている。12月初めには、マリ裁判所は同社のブリストウ(Mark Bristow)社長の逮捕状を発行した。
新鉱業法の制定には、二人の人物が決定的な役割を演じた。マム・トゥレ(Mamou Touré) とサンバ・トゥレ(Samba Touré)である。同姓だが、血縁関係はない。両者は、イヴェンタス・マイニング(Iventus Mining)社の幹部だが、マリの新鉱業法制定に関与し、多くの勧告をした。彼らは、軍事政権トップのアシミ・ゴイタの側近サヌ(Alousséni Sanou)経済金融相に近いとされる。
イヴェンタス・マイニング社を創設する前、二人はランドゴールド・リソース(Randgold Resource)社で働いていた。同社は2018年にバリック・ゴールド社に買収されたが、その時の社長がブリストウで、二人はブリストウ社長との確執のため退職したという。今回の背景として、こうした個人的確執も指摘されている。
マリ政府との紛争を受けて、バリック・ゴールド社は、世界銀行の付属機関である国際紛争解決センター(ICSID)に仲裁を申し立てた。一般に、企業は投資国との紛争を回避しようとするので、仲裁機関への付託は異例である。この措置に伴う資金、評判リスクのために、ルロ・グンコト鉱山への新たな投資は非常に難しくなったと予想されている。
マリ政府は、自らこの鉱山を開発したいようだが、他のパートナーを探す可能性もある。その筆頭に挙げられるのが、ロシアである。ワグネルがマリで鉱山企業を二つ設立し、現在も操業している。
以上が記事の概要である。この事件は、サヘル諸国の軍事政権を支える論理を考える上でも興味深い。バリック・ゴールド社の社員を拘束するなどの措置が、軍事政権の横暴であることは疑いない。しかし、一方で、鉱山開発企業とアフリカ政府との間に公正な利益分配がなされてきたのかは疑問である。アフリカで広く鉱山開発企業への反発や圧力が強まっている現状は、この疑問を裏書きする。軍事政権がこぞって「主権」を掲げる背景には経済ナショナリズムと同じ論理があり、そこに一定の正当性を見る人々は少なくない。(武内進一)
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M23のマシシ制圧
2025/01/14/Tue
1月4日、コンゴ民主共和国東部紛争において、反政府武装勢力M23が主要都市のマシシを制圧した。マシシはキヴ湖畔のゴマから約70キロに位置し、ルワンダ系住民が多く居住する地域である。M23は、2021年11月頃から活動を活発化させてきた。ウガンダ国境から活動を拡大させてきたので、東部コンゴの広範囲を制圧していることになる。コンゴ政府や国連は、ルワンダ軍の支援を指摘している。
マシシの陥落を受けて、米国国務省報道官は6日、M23が停戦合意を破っていると批判した。M23を支援しているルワンダに圧力をかける動きであった。
一方、ルワンダのンドゥフンギレヘ(Nduhungirehe)外相は、7日、国際社会のダブルスタンダードを批判した。これは、ルワンダばかり批判して、コンゴ側の問題を指摘しない、という意味である。
コンゴ東部ではルワンダ系住民(特にトゥチ人)が迫害されており、マシシ地区の多くの土地はFDLR(フトゥ系の武装組織。1994年のジェノサイドに加担した人々が含まれる)が占拠しているが、これについては批判しない。EUは、ヨーロッパからコンゴにやってくる傭兵について口をつぐんでいる。誰も、コンゴ政府とM23が直接対話する必要に言及しない。こうした主張であった(8日付New Times)。カガメ大統領も同様の主張を繰り返した。
M23が勢力を拡大するなかで、同じ議論が続いている。コンゴは、M23がルワンダの傀儡だとして直接対話を拒否している。ルワンダは、M23はコンゴ人であり、コンゴが自ら対話して解決すべきだと主張している。また、コンゴ東部におけるFDLRの存在こそ根本的な問題だ、とも繰り返している。
M23の中心は、コンゴのルワンダ系住民である。その意味で、対話を拒否するチセケディ政権の態度には問題がある。しかし、それは、ルワンダが東部コンゴに派兵し、介入を続ける理由にはならない。
年明けの戦闘で10万人が避難を余儀なくされているという。同じ議論がいつまで繰り返されるのだろうか。(武内進一)
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コートジボワールの仏軍基地返還
2025/01/05/Sun
12月31日、コートジボワールのワタラ大統領は年末の演説で、アビジャン市ポール・ブエのフランス軍基地が、1月末までに返還されると述べた。第43海兵隊キャンプ (BIMA)のことである。
これはコートジボワール側からの一方的な通告ではなかった。ワタラは演説で、これが「協議の上で組織された撤退」であり、コートジボワール軍の「効率的近代化」に資するものだと強調した。
西アフリカではフランス軍に対する一方的な撤退要求が相次いでいるが、コートジボワールはそれらと分けて考える必要がある。今回の決定は、フランスとコートジボワールが協議の上で取られたものであり、第43BIMAの縮小は、仏大統領顧問のボケル(Jean-Marie Bockel)が2024年11月にマクロン大統領に提出した報告書でも言及されていた。この基地は返還されるが、コートジボワールのフランス軍がすべて撤退するわけではない。
フェリックス・ウフエ=ボワニ大学のバンガ(Arthur Banga)教授によれば、この決定に関して国民の意見は割れており、与党とPDCIの大部分は好ましく思っていない。サヘル地域でイスラム急進主義勢力の勢力が拡大し、テロの脅威が増しているためである(2日付ルモンド)。
この決定については、今年10月の大統領選挙への出馬が取り沙汰されているワタラが、フランスと一定の距離を取った方が有利と判断した可能性があるとの見立てがある(2日付ファイナンシャルタイムズ)。
フランス側としても、兵力削減に動くべきだとの判断があったはずである。ワタラ政権のコートジボワールは西アフリカで最も親仏的な国だが、反仏意識や「主権」を求める感情は、この国も含め、仏語圏アフリカ諸国全体で広まっている。こうした状況下、フランスとしては、軍の維持に固執するよりも、兵員削減に動く方が友好的な外交関係の維持に資すると判断したのであろう。(武内進一)
新年あけましておめでとうございます。東京外国語大学現代アフリカ地域研究センターでは、アフリカ人留学生招致のために、2025年1月10日までクラウドファンディングを実施しています。何とぞ、ご協力よろしくお願いします。
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