• アクセス
  • English
  • 東京外国語大学

今日のアフリカ

今日のアフリカ

マリ軍事政権と鉱山開発企業との緊張

2025/01/18/Sat

 1月11日、マリ政府は、カナダのバリック・ゴールド社が操業するルロ・グンコト(Loulo-Gounkoto)金鉱山に軍を派遣し、3トンの金を差し押さえた。これを受けて同社は、同鉱山での操業を停止し、従業員8000人を一時休業にすると発表した。

 マリ軍事政権と多国籍鉱山開発企業との紛争について、17日付ルモンド紙の記事が比較的手際よくまとめているので紹介する。

 ルロ・グンコト鉱山には、アフリカ最大、世界有数の金鉱脈がある。2023年には19トンの金を産出し、マリの年間総生産量(65トン)の3分の1を占めた。バリック・ゴールド社はここで2018年から操業している。

 軍事政権は、マリの「主権回復」を主張してきた。その論理に基づいてフランスとの関係を断絶したが、同時に、金鉱山からさらなる利益を引き出そうとしてきた。マリの金鉱山は、その大部分が外国企業によって開発されてきた。

 2022年末、マリ政府は鉱業部門の監査を実施し、その結果として、3000~6000億CFAフラン(4億5000万~9億ユーロ)の得られるべき利益を得ていないと経済金融省が発表した。2023年8月には、新たな鉱業法が発布された。これにより、外国企業に様々な税金が引き上げられ、国家が鉱山の3割を所有すると決められた。また企業は、利潤をマリの銀行口座に入金するよう義務づけられた。

 この法律改正をめぐっては、外国投資を阻害するという主張と、鉱山企業に有利な制度が続いてきた状況下でのバランスの回復であって正当なものだとの主張がぶつかってきた。「一次産品のアフリカ諸国の取り分をめぐっては、基本的な問題がある。公正な分配ができていない。鉱業・石油部門で、企業はしばしば国家よりずっと多くの利潤を得ている」と、フランスの業界筋は述べている。

 バリック・ゴールド社は、新鉱業法は軍事政権の懲罰的措置だとして、それに準じた支払いを拒絶してきた。同社は2024年半ば、マリ政府に3億7000万ユーロの支払いを提案したが、交渉はまとまらなかった。11月末には同社のマリ人従業員4名が逮捕され、現在もなお拘留されている。12月初めには、マリ裁判所は同社のブリストウ(Mark Bristow)社長の逮捕状を発行した。

 新鉱業法の制定には、二人の人物が決定的な役割を演じた。マム・トゥレ(Mamou Touré) とサンバ・トゥレ(Samba Touré)である。同姓だが、血縁関係はない。両者は、イヴェンタス・マイニング(Iventus Mining)社の幹部だが、マリの新鉱業法制定に関与し、多くの勧告をした。彼らは、軍事政権トップのアシミ・ゴイタの側近サヌ(Alousséni Sanou)経済金融相に近いとされる。

 イヴェンタス・マイニング社を創設する前、二人はランドゴールド・リソース(Randgold Resource)社で働いていた。同社は2018年にバリック・ゴールド社に買収されたが、その時の社長がブリストウで、二人はブリストウ社長との確執のため退職したという。今回の背景として、こうした個人的確執も指摘されている。

 マリ政府との紛争を受けて、バリック・ゴールド社は、世界銀行の付属機関である国際紛争解決センター(ICSID)に仲裁を申し立てた。一般に、企業は投資国との紛争を回避しようとするので、仲裁機関への付託は異例である。この措置に伴う資金、評判リスクのために、ルロ・グンコト鉱山への新たな投資は非常に難しくなったと予想されている。

 マリ政府は、自らこの鉱山を開発したいようだが、他のパートナーを探す可能性もある。その筆頭に挙げられるのが、ロシアである。ワグネルがマリで鉱山企業を二つ設立し、現在も操業している。

 以上が記事の概要である。この事件は、サヘル諸国の軍事政権を支える論理を考える上でも興味深い。バリック・ゴールド社の社員を拘束するなどの措置が、軍事政権の横暴であることは疑いない。しかし、一方で、鉱山開発企業とアフリカ政府との間に公正な利益分配がなされてきたのかは疑問である。アフリカで広く鉱山開発企業への反発や圧力が強まっている現状は、この疑問を裏書きする。軍事政権がこぞって「主権」を掲げる背景には経済ナショナリズムと同じ論理があり、そこに一定の正当性を見る人々は少なくない。(武内進一)

クラウドファンディングへのご協力ありがとうございました。引き続き、現代アフリカ教育研究支援基金へのご協力を呼びかけています。