南アフリカの提訴にICJが判断示す
2024/01/27/Sat
昨年12月29日、南アフリカは、ガザに攻撃を続けるイスラエルがジェノサイド防止条約に違反しているとして、国際司法裁判所(ICJ)に提訴した。そして緊急措置としてICJに、イスラエルにガザへの攻撃停止を命じるよう求めた。25日、ICJは、この訴えに対する暫定措置を発表した。
ICJはイスラエルに対して、ジェノサイドを防止するためにあらゆる措置を講じること、同国軍がジェノサイドを犯さないよう即刻対処すること、ジェノサイドを引き起こす煽動を抑止し処罰することなど、6項目を命じ、1ヶ月以内にこれら措置の内容とその効果についての報告を求める決定を発出した。この決定は拘束力を有する。
ICJのプレスリリースによれば、6項目はいずれも17人の判事のうち15~16人が賛成しており、圧倒的多数の判事の意見と言える。南アフリカが求めた攻撃停止命令は下らなかったが、膨大な数の民間人の犠牲を伴う軍事作戦に、ICJが強い異議を唱えたと言える。ICJは、ガザで25,700人が死亡し、63,000人が負傷し、170万人が移動を強いられ、36万人の家屋が破壊されたという数字にも言及した。ラマポサ大統領は、「国際的な法の支配にとって決定的な勝利」だと述べた(27日付けファイナンシャルタイムズ)。
南アフリカのICJ提訴に対して、欧米諸国は総じて否定的な態度を取った。米国はこの訴えに「根拠がない」と述べ、フランスは「ジェノサイド概念を政治的目的で濫用した」とコメントし、ドイツは国連ジェノサイド条約の「政治的道具化」だと批判した。
25日の決定に対して、ヨーロッパ委員会はこの決定の完全、即時、実効的な適用を期待すると述べ、トルコ、イラン、スペイン、カタールはICJの決定を賞賛した(27日付ルモンド)。
ICJの暫定措置を、イスラエルに強制的に履行させることはできない。しかしながら、今回の決定は歴史上重要な意義を持つと考える。
ガザの悲惨な人道状況を改善する観点から、今回の暫定措置は実効的な措置と評価できる。強制力がないとはいえ、ICJの決定はガザの状況改善に寄与するだろう。米国やヨーロッパが事実上イスラエルを支援するなか、現行の国際秩序を主導する勢力のなかから、ガザの惨状を止める有効な施策を講じることができなかった。南アフリカという国が、国際機関を使って、そこに風穴を開けたのである。南アは、今回の行動で国際的なモラルハイグラウンドを獲得した。
南アフリカの今回の行動が、完全に利他的なものだったとは言えないだろう。来る選挙で与党ANCの過半数割れが必至と言われるなかで、国内向けのパフォーマンスという側面も否定できない。また、反アパルトヘイト闘争で重要な役割を果たしてきた南ア国内のユダヤ系住民が、難しい立場に追い込まれているとの指摘もある(25日付FT)。今回のICJの決定は、イスラエルに対してのみならず、南アに対しても、今後様々なリパーカッションを与えることになりそうだ。
(武内進一)
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