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Africa Today今日のアフリカ

今日のアフリカ

2023年10月

アフリカとイスラエル

2023/10/29/Sun

 イスラエルとハマスの戦争は世界に大きな影を落とし、国連においても分断が目立っている。10月17日付ルモンドに掲載されたフランス国際問題研究所(IFRI)のベンジャマン・オジェ研究員のインタビューは、アフリカとイスラエルの関係について興味深い論点を提示している。以下、概要をまとめる。  アフリカ大陸には、現在までイスラエルを承認していない国が6ヵ国(アルジェリア、チュニジア、マリ、ニジェール、モーリタニア、ジブチ)ある。その他はイスラエルを承認しているが、外交的、商業的な関係を深めつつも、イスラエルのパレスチナへの対応は倫理にもとると考える国が多い。ナイジェリアや南アフリカは、そうした態度をとっている。南アフリカにとって、イスラエルとの経済関係はそれなりに重要だが、政権与党ANCの態度は従来と変わらず、親パレスチナである。カメルーン、ケニア、ガーナ、トーゴ、コンゴ民主共和国、ザンビアは、伝統的にイスラエルに近い立場をとっている。しかし、アフリカ全体で見れば少数派である。  アフリカ連合(AU)は、ハマスを明確に非難していない。アフリカの重要国と異なる対応をとることはできない。AUでのイスラエルのオブザーバー資格は、アルジェリア、南ア、ナイジェリアの反対で凍結されたままだ。一方、パレスチナのオブザーバー資格は長く認められてきた。  今回の紛争に際してイスラエル支持を打ち出したのは、上記の六ヵ国だけだ。ルワンダのように、イスラエルに近いとみられていた国も沈黙している。ルワンダは1994年のジェノサイドとカガメの登場以降、イスラエルとの関係を深めてきたが、アフリカの大国に背を向けてまで立場表明をしようと思っていない。  イスラエルのアフリカへの浸透は進んでいない。ネタニエフ政権はアフリカ諸国と関係を深める野心を表明しているが、政治的実践は乏しい。同政権の下で、アフリカに新たに開設された大使館は、ガーナ(2011年)、ルワンダ(2019年)の二つだけだ。アフリカにおけるイスラエルの影響力は、依然として限られている。  とはいえ、46ヵ国がイスラエルとの外交関係を結んだ事実は重い。アフリカ諸国にとって、イスラエルとの関係改善が米国との関係強化につながることが大きい。トランプ政権下、スーダンがイスラエルと関係を結んだのはその一例である。2020年にアブラハム合意で関係を公式化したモロッコは、文脈が違う。イスラエルに大きなモロッコ人コミュニティがあり、もともと関係が深かった。チャドは2月にテルアビブに大使館を開設したが、これは軍事物資調達の目的が大きい。カメルーンは、ビヤ大統領が1999年に創設した「即応介入部隊」(BIR)の訓練をイスラエル国防軍の退役兵に任せている。フランスだけに安全保障を依存しない、という考えから来ているようだ。  現在のイスラエル・ハマス戦争が激しくなれば、イスラエルとの関係を見直す動きにつながるかもしれない。ただし、それはムスリム人口が多い国に関してであって、サハラ以南ではパレスチナ問題はそれほど自分事ではない。  以上である。植民地化の経験を持つアフリカ諸国は、もともとパレスチナへの連帯感が強い。独立後半世紀以上が経過する中で、イスラエルの浸透もある程度は進んだが、親イスラエルを標榜する国はまだ少数派に留まっている。 (武内進一)

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コンゴ民主共和国東部の外国部隊

2023/10/28/Sat

 10月9日、コンゴ民主共和国政府のムヤヤ(Patrick Muyaya)報道官は、東アフリカ共同体地域軍(EACRF)の任期更新をしないこと、12月8日から撤退させることを公式に発表した。東部ではEACRFを非難し撤退を求める動きが強まっており、19日には複数のNGOが共同で、ゴマのEACRF司令部に対して、撤退を要求する文書を提出した(26日付ルモンド)。  EACRFは、2021年12月以来コンゴ東部で再び広がったM23の活動への対応として、ケニアのルト大統領のイニシャティブで展開が始まった。ケニア、アンゴラによる外交的仲介によって、M23は2022年12月にはキブンバやブナガナなどの要所から撤退し、EACRFがM23とコンゴ軍との緩衝として展開するはずだった。  しかし、M23の撤退は一時的なものだった。3月に停戦合意が公式に結ばれたのだが、この10月初めから戦闘が再開し、特にキチャンガ周辺で激しさを増している。北キヴの戦略的重要地キチャンガは、当初M23に制圧されたが、4月以来EACが押さえてきた。しかし、10月初め現地民兵の手に渡り、その後新たにM23が制圧したという。この状況のなかで、東部の市民団体は「EACはいつものように何もしない」と非難を強めている。  コンゴ東部には、EACRFの他にも、国連PKOのMONUSCOが展開している。MONUSCOに対する撤退要求も強く、チセケディ大統領は9月20日の国連総会演説で、今年末から撤退を開始させると述べた。一方、「南部アフリカ開発共同体」(SADC)も派兵を表明している。SADCは5月に派兵の準備があると表明したが、その日程は公式に明らかにされていない。さらに、アンゴラも、M23対応で500人の兵士を派兵すると議会で決定している。  外国軍を展開させれば事態が好転するわけではないが、それを追い出した後に展望が開けるわけではない。アフリカでは、コンゴの他にマリでも似たようなジレンマに直面している。国際的な平和協力のあり方が、岐路に立っていると言えよう。 (武内進一)

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ガボン―新政権の周辺国外交

2023/10/21/Sat

 8月30日のクーデタでガボンに軍事政権が誕生したが、そのトップであるオリギ=ンゲマが、活発な周辺諸国外交を見せている。早くも9月19日に赤道ギニアの首都マレボを訪問し、10月1日にはコンゴ共和国、12日にはコンゴ民主共和国、16日にはルワンダを訪れ、それぞれ首脳と会談した。  訪問先は、いずれも地域機構の「中部アフリカ経済共同体」(ECCAS)加盟国である。アフリカでクーデタが起きると、AU(アフリカ連合)やECOWAS(西アフリカ経済共同体)といった地域機構が、当該国を資格停止処分にすることが普通であり、ECOWASのように厳しい制裁を科すこともある。ガボンもクーデタ後、AUから8月31日、ECCASから9月4日に資格停止処分を受けた。オリギ=ンゲマはECCAS首脳と会談し、早期の正式メンバー復帰を訴えたものと思われる。  一方で、クーデタから間がないにもかかわらず、周辺国を頻繁に訪問するオリギ=ンゲマの姿勢から、ガボンの軍事政権が国内的には一応の安定を確保していることがわかる。訪問を受け入れた周辺国も、ガボン新政権に厳しく対応してはいない。コンゴ共和国を訪問した際には、コンゴのガコソ(Jean-Claude Gakosso)外相が記者会見し、「流血がなかったのは重要なことだ。住民が歓喜しているのも見た」とポジティブなコメントを述べた(10月2日付ルモンド)。  ガボンの軍事政権は民政移管までのプロセスをまだ明らかにしていないが、周辺諸国首脳に説明をしにいったのであろう。民政移管プロセスに周辺国の理解が得られれば、比較的早期に国際的な舞台に復帰できるだろう。  補足だが、オリギ=ンゲマがコンゴ共和国を訪れた際には、アリ・ボンゴの父オマール・ボンゴとその妻エディット・ルーシーの息子(オマール・ドゥニ・ジュニア・ボンゴ)が、根回しで重要な役割を果たした。エディット・ルーシーはコンゴ共和国大統領サスー=ンゲソの長女で、医学を学んでいたが、1989年にオマール・ボンゴのもとに嫁いだ。彼女は、2009年に45歳の若さで他界し、3ヶ月後にオマールもその後を追った。今回、オリギ=ンゲマは、エディット・ルーシーの墓参りをしたと報じられている(10月2日付ルモンド)。 (武内進一)

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フランス軍撤退とニジェールの孤立

2023/10/15/Sun

 10日、ニジェールのフランス軍が撤退を開始した。軍事政権はベナン経由の移動を許さず、フランス軍はチャドに移動した。チャドには首都ンジャメナの他、アベシェやファイヤラルジョにもフランス軍が展開しており、反仏感情の高まりの兆候も指摘されている。フランス軍としては、細心の注意を払ってのオペレーションとなる(11日付ルモンド)。  一方、米国は、10日、正式に7月の軍による権力掌握をクーデタだと認め、経済援助4億4200万ドルを取り消した。軍事介入の可能性を早々に打ち出したEcowasを支持するフランスとは対照的に、アメリカはこの間、ニジェールの政権転覆を「クーデタ」と呼ばず、水面下で話し合いによる解決の可能性を探ってきた。米国もまたニジェールに軍事基地があり、サヘルのイスラム急進主義勢力に対応するため、ニジェールとの関係を重要視してきたからである。今年3月、ブリンケン国務長官はニジェールを訪問している。今回米国が政変を「クーデタ」だと認め、巨額の経済援助を取り消したことは、軍事政権には痛手である。  また、軍事介入にいち早く反対を表明し、仲介に動いていたアルジェリアの動きも失敗に終わった。同国は外相をニアメに派遣し、6ヶ月で民政移管する計画を提示していたのだが、軍事政権側はこれを拒否し、アルジェリアは仲介から手を引いた。アルジェリアは米国と連携してこの動きを進めていたから、両国の動きは表裏一体とも言える(11日付ルモンド)。  クーデタ以来、ニジェールではイスラム急進主義勢力による攻撃が増加傾向にあり、経済制裁や援助停止によって人々の生活はさらに困窮するだろう。当面は、マリ、ブルキナファソとの連携を強める方向に進むしかないが、とても持続可能な方向とは思えない。事態のさらなる転回は必至である。 (武内進一)

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イスラエル・パレスチナ紛争とアフリカ

2023/10/11/Wed

イスラエルとハマスの武力衝突を受けて、アフリカ諸国の対応が分かれている。アフリカ連合(AU)のムサ・ファキ・マハマト委員長は、7日、両者の衝突のエスカレーションを止めるよう呼びかけた。  9日付ルモンド紙は、アフリカ各国の対応を伝えている。ケニアはイスラエル支持を鮮明に打ち出した。ルト大統領はテロリズムは容認できないと述べ、外相副大臣のシンゴエイ(Korir Sing'Oei)は、ケニアは「卑劣なテロ攻撃を非難する。イスラエルは反撃する権利がある」とX(旧ツイッター)に投稿した。トーゴもハマスのテロ攻撃を非難し、人質解放を求めた。  こうした意見が目を引くのは、アフリカ諸国は伝統的にパレスチナ寄りだったからである。今回も、北アフリカのアラブ諸国では、チュニジアがパレスチナ人民を完全に支持すると表明したし、アルジェリアも明確にパレスチナ支持の立場である。サハラ以南アフリカでも、南アフリカがパレスチナ支持の姿勢を打ち出している。  過去数年、AUにおいてイスラエルのオブザーバー資格を認めるかどうかが、大きな議論となってきた。2021年7月ムサ・ファキ・マハマト委員長がそれを認める方針を打ち出したが、南アフリカやアルジェリアがこれに反発。2022年2月のAU首脳サミットに附議されることになった。しかし、分裂を恐れて同サミットでは本格的に議論されず、この問題を検討する委員会が設置されることとなった(2022年2月6日付ルモンド)。今日まで問題は決着していない。  トランプ政権下の米国がイスラエルとアラブ諸国の国交正常化を進め、モロッコやスーダンが同国との国交を回復するなかで、アフリカ大陸に対するイスラエルの影響力は強まっている。しかし、南アフリカのように歴史的経緯からパレスチナとの強い関係を維持し、イスラエルの影響力拡大を食い止めようとする動きもある。加えて、モロッコのように国交正常化を果たした国でも、国民の間には批判的な意見が強く、公然とイスラエル支持を打ち出す国はなお少ないのが現状である。 (武内進一)

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