フランスはサヘルの軍事的プレゼンスを維持すべきだとの議論
2020/01/31/Fri
1月26日付ルモンド紙は、著名な人類学者オリヴィエ・ドゥ・サルダン(Jean-Pierre Olivier de Sardan)の論説を掲載した。ニジェールを専門とする彼は、汚職の研究などで広く知られている。彼の議論は、フランスはサヘルから撤退すべきでないというものだ。以下、その内容を紹介する。
フランスはサヘルで3つの過ちをした。第1に、サルコジが主導したカダフィへの戦争(2011年)である。カダフィ政権が倒れた後、フランス諜報部はカダフィ政権に雇われていたトゥアレグ人部隊に対して、武器をもってマリ北部に戻ることを認めた。彼らがジハディストと戦うことを期待したためである。しかし、リビアから戻った武装勢力はジハディストと同盟し、マリ北部を占領してしまった。
第2に、2013年に軍事介入「ヤマネコ作戦」(Operation Serval)によってマリ北部を解放した際、フランス軍がマリ軍に対してキダルへの入城を拒否したことである。これによりマリ社会に、フランス軍がトゥアレグ独立派勢力と共謀しているという考えを植え付けることとなった。第3に、加えて植民地化に関わる問題が清算されていない。フランス移住に際してのビザ取得が難しくなり、マリ側は不満を募らせている。
フランスがこうした過ちを犯したことは確かだが、フランスがサヘルに軍事的プレゼンスを有しているのは、ヨーロッパの鼻先にあるサヘル地域にアフガニスタンのような状況をつくりださないためだ。もしサヘルがジハディストに支配されれば、ヨーロッパに向けた移民、難民の数は一層増えるだろう。
頼りにならない国連PKO部隊(MINUSMA)、兵力を削減したがっている米国、熱意のないヨーロッパ諸国の間にあって、フランスだけがサヘル諸国の軍隊を支援できる。確かに、フランス軍が直面している状況は深刻だし、マリ、ブルキナファソ、ニジェールの国軍はいずれも当てにならない。しかし、フランスが撤退すれば、すぐにこの地域はジハディストの手に落ちるだろう。
今後フランスがなすべき方策は3つある。第1に、フランス軍は、マリ、ブルキナファソ、ニジェールの軍隊ともっと統合されるべきだ。第2に、これまでフランス軍は、マリ北部で、トゥアレグやアラブの民兵(政府系、独立派ともに)と協働してきたが、これを止めるべきだ。第3に、サヘル諸国の主権を尊重し、その主導の下に介入すべきだ。
政治的解決を主張する者もいるが、ジハディストが犯した虐殺などの行為や彼らがイスラム国を設立すると明確に主張している以上、軍事行動は必要だ。残念ながら、現状にサヘル諸国だけでは対応できず、旧宗主国のみがその力を持っている。
1月13日の本欄で紹介したIRD研究部長の意見とは全く逆に、オリヴィエ・ドゥ・サルダンはフランスがサヘルで軍事介入を続けるべきだと論じる。しかし、フランス軍とアフリカ諸国軍の統合を主張するなど、彼の議論も相当にラジカルだ。仏政府は現在の介入方針を当面は続けるようだが、きわめて難しい判断を迫られていることだけは確かである。
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