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Africa Today今日のアフリカ

今日のアフリカ

2024年07月

カガメ四選とルワンダの多様な姿

2024/07/19/Fri

 7月15日に実施された大統領選挙では、現職のポール・カガメの圧倒的優位が報じられている。最終的な結果は27日までに公表予定だが、18日現在の暫定数値ではカガメの得票率は99.18%であった。対立候補のフランク・ハビネザ(民主緑の党)とフィリップ・ンパイマナ(無所属)の得票率は、それぞれ0.50%、0.32%であった(18日付ルモンド)。  今回のカガメの大統領当選は、2003年、2010年、2017年に続く4回目である。これまでの得票率はそれぞれ、95.05%、93.08%、98.79%であった。普通では考えられない数字である。  これまでの選挙では、重要な対立候補になると目されれば、そもそも立候補を認められないことが多い。今回も、常々カガメを批判し、収監もされてきたヴィクトワール・インガビレ、ダイアン・ルウィガラといった人物の立候補は認められなかった。  14日付ルモンド紙は、ルワンダで重要な職に就く女性に関する特集記事を組んでいる。ルワンダの下院議員80名のうち49名が女性であり、世界で最も女性議員の比率が高いことは、よく知られている。同記事によれば、女性の進出は議会に限らない。政府スポークスマンのヨランド・マコロは女性だし、その姉妹のイヴォンヌはルワンダ航空のトップを務めている。国内にある11の銀行のうち、6つは女性がトップを務めている。  このように女性を引き上げてきたのは、疑いなくカガメのイニシャティブである。カガメは優秀な女性を抜擢し、チャンスを与えてきた。その一方で、政敵は徹底的に抑圧してきたのである。ちなみに、今回の大統領選挙への立候補が阻止されたインガビレもルウィガラも女性だ。  ジェノサイドの経験、急速な経済復興、PKOへの積極的協力、コンゴ紛争への関与、政敵の徹底的な抑圧、女性の地位向上...。ルワンダの行動をどのような枠組みで矛盾なく説明できるのか。これは、知的なチャレンジである。 (武内進一)

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コンゴ東部紛争とルワンダ、ウガンダ

2024/07/11/Thu

 8日、コンゴ民主共和国に関する国連専門家報告書が公開された。6月4日付けのこの報告書では、ルワンダとウガンダによるコンゴ東部紛争への深い関与の実態が示された。  ルワンダ国軍(RDF)については、事実上M23の作戦をコントロールし、指揮しており、M23の行動の責任はルワンダにあると指摘された。3月末の段階で、東部コンゴのニイラゴンゴ、ルチュル、マシシ県には、M23の兵力を上回る3000~4000人のRDF兵士が存在するとされた。  2023年12月時点と比べてM23の支配領域は70%拡大したが、これにはルワンダ軍が大きな役割を果たしている。加えて、RDFによってルワンダやウガンダ国内のコンゴ人難民キャンプから子供のリクルートが行われているとも述べている。  国連専門家パネルは以前からコンゴ東部紛争へのRDFの関与を指摘しているが、ルワンダ側は一貫してこれを否定している。今回もルワンダ政府スポークスマンのマコロは、ルワンダに対する情報戦の結果だとコメントした(8日付ルモンド)。  この報告書では、ウガンダの役割についても取り上げられている。以前から、M23の部隊がウガンダ領内を頻繁に通過、利用しているとの指摘はあったが、今回はコンゴの新たな反政府武装勢力である「コンゴ川同盟」(Alliance Fleuve Congo:AFC)との関係が述べられている。  AFCはM23と同盟関係にあるが、その指導者のナンガー(Corneille Nangaa)は、チセケディが勝利した2018年末の大統領選挙の際に選挙管理委員長を務めた人物である。彼は現在カンパラに居住しており、ムウェンダ(Andrew Mwenda)というウガンダの公人の支持を受けて、カンパラで幾つかの大使館にM23指導部への制裁解除を働きかけるなどの活動を行った。このムウェンダなる人物は、ムセヴェニの息子カイネルガバ(Muhoozi Kainerugaba)に近いとされる。カイネルガバは、ルワンダとウガンダの接近を取り持った経緯がある。ルワンダとウガンダの関係は緊張と緩和を繰り返してきたが、現段階ではM23の動きを支援する方向で一致している。  ルワンダがこれだけの規模の国軍をコンゴに投入していることには、驚きを禁じ得ない。西側先進国は制裁を含めた相応の対応を検討することになるだろう。そうした反応を予測しながら派兵するルワンダの意図はどこにあるのだろうか?『名前を言わない戦争』(白水社)のなかでスターンズが指摘するように、ルワンダのアグレッシブな行動は経済的な要因だけでは説明できないように思う。 (武内進一)

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LGBT+と地政学

2024/07/10/Wed

 昨今アフリカ諸国で、同性愛やトランスジェンダーなどLGBT+をめぐる論争が盛んに行われるようになった。それは時として、西側諸国との緊張関係を表面化させている。  最近の例を幾つか挙げよう。今年1月、セネガルのカトリック司教は、同性愛者への祝福を拒否した。昨年末にローマ法王が同性愛者への祝福を決めたが、これを拒絶した形である(1月19日付ルモンド)。2月には、ガーナ議会がLGBTを犯罪と見なす法律を採択した(2月28日付ルモンド)。一方、6月にはナミビアで、植民地期に制定された反同性愛法を廃止する動きがあった(6月21日付ルモンド)。  ナミビアのような例はあるものの、アフリカではLGBTに対して厳しい対応を取る国が多い。こうしたなか、6月29日付ルモンド紙の解説記事は、LGBTへの対応が地球規模の地政学と結びつく傾向を持ち始めたと指摘している。同性愛嫌悪が西側に反対する道具として利用され、世界的規模でバックラッシュが起きているという分析で、特にグローバルサウスを念頭に置いている。以下、記事の概略である。  2011年に国連人権理事会で「人間の権利、性的指向、ジェンダーのアイデンティティ」に関する決議が採択され、それ以降同性婚や#metoo運動など、性的マイノリティや反女性差別に向けた運動が活発化した。しかし昨今、それがネガティブな反作用を引き起こし、LGBT+の問題が西側に対するルサンチマンを結晶化させる傾向がある。性的少数者の問題に反植民地的視角が結びつけられ、同性愛嫌いが西側に反対する文化的な要求となっている。  2014年にウガンダが反同性愛法を採択したとき、世銀は新たなプロジェクトを止め、米国はAGOA(アフリカ成長機会法)からウガンダを排除した。しかし、その後、力関係は逆転した。近年ではこうしたアプローチへの反発を考慮して、制裁を通じて圧力をかけることは少なくなっている。  反LGBT+の動きを先導する国のひとつがロシアである。ロシアは以前から、同性愛をめぐる議論を対外政策の道具として利用してきた。ロシア・ウクライナ戦争によって、LGBT+への戦いは、ロシアと西側との「文明的紛争」の一要素として提示されるようになった。...以上が記事の概要である。  この記事が指摘するのは、「反LGBT+」というスタンスが、グローバルサウスで反西側の動員に有効に機能するという構図である。そのスタンスは、マスキュリニティや伝統、尊厳といった感情と結びついている。西側の内部にも、そうしたバックラッシュに親和的なグループもあり、単純に西側とグローバルサウスを分けるクライテリアにはならないだろうが、フェミニズム、LGBT+の権利、堕胎の権利など、以前は「社会」の領域の問題と考えられていたトピックが公共の政治、さらには地政学と結びつくようになった、というこの記事の指摘は重要だ。 (武内進一) 

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ケニアの増税法案取り下げをめぐって

2024/07/07/Sun

ケニアでは、6月25日、大幅な増税法案に反対するデモ隊が警官隊・国軍と衝突し、多数の死傷者を出した。ケニア人権委員会は死者数を39人としている。結局、26日にルト大統領が法案に署名しない旨演説し、増税を撤回した。  この動きをめぐっては、すでに日本でもキニュア・キティンジ氏が詳細な分析を発表している。法案の内容や法案提出プロセスの稚拙さは、否定できない。  少し長い目で見ると、これは2010年代以降に膨らんだ政府債務をどのように処理するのか、という問題に他ならない。増税が取りやめになったことは庶民には喜ばしいが、債務問題は依然として残っている。前政権時に多額の借入によって道路、鉄道などを建設した結果である。  2000年代の資源高と好景気の後、アフリカ諸国は総じて財政支出を拡大した。ユーロ債を発行する国が増えたのもこの時期である。しかし、2010年代半ばから資源価格が落ち込み、それにコロナ禍とロシア・ウクライナ戦争などの影響が加わったことで、債務危機に陥る国が出てきた。ザンビア、ガーナ、エチオピアでは、債務不履行(デフォルト)宣言を余儀なくされた。。  増税しない選択をしたケニアは、他の方法で借入金を返済するしかない。脆弱な貧困層の負担を抑えつつ、債務返済の資金作りをするという難題にルト政権は取り組まねばならない。 (武内進一)

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