昨今アフリカ諸国で、同性愛やトランスジェンダーなどLGBT+をめぐる論争が盛んに行われるようになった。それは時として、西側諸国との緊張関係を表面化させている。
最近の例を幾つか挙げよう。今年1月、セネガルのカトリック司教は、同性愛者への祝福を拒否した。昨年末にローマ法王が同性愛者への祝福を決めたが、これを拒絶した形である(1月19日付ルモンド)。2月には、ガーナ議会がLGBTを犯罪と見なす法律を採択した(2月28日付ルモンド)。一方、6月にはナミビアで、植民地期に制定された反同性愛法を廃止する動きがあった(6月21日付ルモンド)。
ナミビアのような例はあるものの、アフリカではLGBTに対して厳しい対応を取る国が多い。こうしたなか、6月29日付ルモンド紙の解説記事は、LGBTへの対応が地球規模の地政学と結びつく傾向を持ち始めたと指摘している。同性愛嫌悪が西側に反対する道具として利用され、世界的規模でバックラッシュが起きているという分析で、特にグローバルサウスを念頭に置いている。以下、記事の概略である。
2011年に国連人権理事会で「人間の権利、性的指向、ジェンダーのアイデンティティ」に関する決議が採択され、それ以降同性婚や#metoo運動など、性的マイノリティや反女性差別に向けた運動が活発化した。しかし昨今、それがネガティブな反作用を引き起こし、LGBT+の問題が西側に対するルサンチマンを結晶化させる傾向がある。性的少数者の問題に反植民地的視角が結びつけられ、同性愛嫌いが西側に反対する文化的な要求となっている。
2014年にウガンダが反同性愛法を採択したとき、世銀は新たなプロジェクトを止め、米国はAGOA(アフリカ成長機会法)からウガンダを排除した。しかし、その後、力関係は逆転した。近年ではこうしたアプローチへの反発を考慮して、制裁を通じて圧力をかけることは少なくなっている。
反LGBT+の動きを先導する国のひとつがロシアである。ロシアは以前から、同性愛をめぐる議論を対外政策の道具として利用してきた。ロシア・ウクライナ戦争によって、LGBT+への戦いは、ロシアと西側との「文明的紛争」の一要素として提示されるようになった。...以上が記事の概要である。
この記事が指摘するのは、「反LGBT+」というスタンスが、グローバルサウスで反西側の動員に有効に機能するという構図である。そのスタンスは、マスキュリニティや伝統、尊厳といった感情と結びついている。西側の内部にも、そうしたバックラッシュに親和的なグループもあり、単純に西側とグローバルサウスを分けるクライテリアにはならないだろうが、フェミニズム、LGBT+の権利、堕胎の権利など、以前は「社会」の領域の問題と考えられていたトピックが公共の政治、さらには地政学と結びつくようになった、というこの記事の指摘は重要だ。
(武内進一)