今年3月末までに締結が予定される、植民地期のナミビアでおこなわれたジェノサイドの「賠償」に関する共同宣言について、被害者代表らが強い反発を表明した。
ナミビア政府は、先月中旬、植民地期の残虐行為をめぐるナミビアとドイツ両政府間の約10年におよぶ交渉の終了を告げた(「今日のアフリカ」、2024年12月31日)。2015年から交渉されてきた謝罪や「賠償」をめぐる草案は、2021年5月に署名され、共同宣言が出されていた(「今日のアフリカ」、2021年5月29日)。以来、被害を受けた人びとの代表組織などからの反発を受け(「今日のアフリカ」、2021年6月10日)、追加条項の交渉が続いていた。
ジェノサイドの被害者であるヘレロとナマの伝統的指導者らの各組織(OCAとNTLA)は、今月12日と18日にそれぞれ会見をひらき、反発を表明した。両者とも、ジェノサイドの直接の犠牲者の子孫であるにもかかわらず、交渉のプロセスから除外されてきたと主張している。ヘレロの伝統的指導者らで構成されるOCAの専門委員カンドゥンドゥ氏は、12日の集会において、14の地域のすべての首長が共同宣言から距離を置いており、首長らは政府に対して、計画を見直し、国民会議を招集するよう求めていると述べている。一方、ナマの伝統的指導者らで構成されるNTLAの副議長ハンセ氏は、18日の会見において、ナミビア政府が政府間の交渉枠組みを優先して、伝統的指導者らを故意に排除してきたと述べている。
また、NTLAは、ドイツが草案において「賠償」という用語を避け、法的責任を最小限にとどめようとしていることを非難している。同様の点については、ジェノサイド交渉の特使だった故ゼデキア・ンガビルエ氏も、ドイツの植民地支配の影響を受けた他のアフリカ諸国からの法的責任の追及を防ぐために使用を避けていると繰り返し指摘していた。現に、タンザニアはドイツに対して、ナミビアの例を出しながら、20世紀初頭の植民地支配中に起きたマジマジの反乱で殺害された人びとに対する「賠償」を求めていた。加えて、植民地期の残虐行為をジェノサイドと認めるか否かも論点になってきた。ドイツは、ナミビアに対しては、2021年の共同宣言の際にジェノサイドと認めて謝罪したが、タンザニアに対しては、2023年に謝罪したものの認めなかった。
こうした「賠償」や謝罪などの植民地支配の過去をめぐる問題は、ドイツだけでなく、イギリス、フランス、ベルギーなど植民地支配をしてきた諸国が抱えるものである。物議を醸しているナミビアとドイツの共同宣言がどのような結論を迎えるのかによって、同様の問題を抱える諸国に大きな影響が出そうである。(宮本佳和)
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