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今日のアフリカ

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マリ北部で高まる緊張

2023/09/13/Wed

 9月11日、北部の武装勢力連合CMA(アザワド運動連合)は、首都バマコの軍事政権と「戦争状態」にあると声明で発表した。同声明では、「アザワドの全住民に対して、祖国を守り、アザワド国の領域全体の制圧を再び獲得するために、戦争努力に貢献する」よう呼びかけた(12日付ルモンド)。
 マリでは、2011年にリビアのカダフィ政権が崩壊して以降、同政権が傭兵としていたトゥアレグ人などの武装勢力が帰国して北部で反乱を起こした。当時のトゥーレ政権はこの反乱鎮圧に失敗し、不満を持った軍内勢力がクーデタを起こした(2012年3月)。バマコが混乱しているうちに、トゥアレグ人を中心とするこの武装勢力は、アルカイダ系のイスラム急進主義勢力(ジハディスト)と融合する形でマリ北部を制圧した。
 その後、むしろジハディストが主導権を握る形になり、首都バマコに向けて進軍する構えを見せた。これに危機感を募らせたフランスが2013年1月に軍事介入し、イスラム急進主義勢力の封じ込めに成功した。その後、2015年5月、イスラム急進主義勢力と切り離して、世俗主義武装勢力との間で和平合意(アルジェ合意)が結ばれた。CMAはこの和平合意の主要署名主体である。
 マリ北部では、2021年6月のクーデタで成立したアシミ・ゴイタ政権の下でフランスとの関係が悪化し、2022年2月にフランス軍が撤収した。同政権は、国連PKO(Minusuma)に対しても撤収を要求し、現在その作業が進められている。これに伴って、北部情勢が緊張の度合いを増している。
 8月上旬以降、北部の重要都市トンブクトゥが武装勢力に包囲され、食料などの調達が困難になっている。その他にも、トゥンブクトゥからガオにかけてのニジェール川沿いで、8月以降、武装勢力の攻撃が頻繁に報道されている。9月7日には、ニジェール川を航行する船舶への攻撃と、ガオ地方の軍拠点への攻撃で、64人(民間人49人、兵士15人)が死亡した(9月8日付ルモンド)。
 CMAは、アルジェ合意署名後も具体的な進展が見られないことに、以前から不満を募らせていた。国連が間に入る形で紛争が回避されてきたのだが、その撤収によって緊張が顕在化した。特に、Minusma撤収に伴って、利用されてきた軍事施設がマリ軍に引き渡されることに、CMAなどが反発を強めている(8月15日付ルモンド)。
 フランス軍やMinusmaの撤収に伴い、マリ北部の治安悪化が予想されていたが、現実になりつつある。マリ軍とそれに協力するワグネル、CMAなど世俗主義勢力、そしてイスラム急進主義勢力という、三つ巴で緊張が高まっており、先行きが懸念される。
(武内進一)