プリゴジンの死後、ロシア・アフリカ関係がどのように再編されつつあるのか、なお不明点が多い。11日付ルモンド紙の記事は、その一端を明らかにしている。
中央アフリカ、マリ、ブルキナファソ、ニジェールといった国々に対しては、2023年8月にプリゴジンが事故死した後、国防副大臣のエフクロフやロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)のアヴェリヤノフが訪問を繰り返し、関係再構築に取り組んできた。
中央アフリカやマリでは、プリゴジンを崇拝する人々がおり、ワグネルのメンバーが依然として活動している。先日も、中央アフリカでワグネル創設に関わったプリゴジンとウトキンの銅像が建てられたことが報道された。両国ではそれぞれ、1500人、2500人程度のワグネル兵が活動しており、プリゴジンの死後も兵力に変化がない。こうした兵員は、ロシア政府の承認を受けつつ、半自律的な活動を行っているとみられる。
中央アフリカで、ワグネルは金やダイヤモンド採掘、木材輸出などの事業を行いながら、トゥアデラ大統領の警備に関わっている。中央アフリカで強い影響力を持っている人物に、ドミトリ・シティがいる。フランス語が達者で、プリゴジンとも深い関係にあった(2023年1月28日付ルモンド)。ロシア文化会館など文化広報事業を行い、トゥアデラ政権高官と深い関係を持ちながら、幾つものビジネスを経営している。
マリでは、ワグネルの兵員がアシミ・ゴイタ軍事政権と協力して軍事作戦に従事している。並行して鉱物採掘事業も行っており、ワグネルが2022年に設立した鉱業企業Mariko Miningは11月7日に英国の制裁対象となった。
2023年11月、プリゴジンの息子パヴェル(26歳)が父親の相続人に指名され、彼が創りあげた企業グループコンコルドのトップに就任した。パヴェルは、中央アフリカのシティ、またマリ軍部などともつながりがある。もっとも、ある程度の自律性があるとはいえ、パヴェルはクレムリンのコントロール下にある(12月11日付ルモンド)。
以上から推測されるのは、ロシアがワグネルを完全に政府のコントロール下には置かずに、一定の自律性を与えていることだ。これがどの程度一貫した戦略なのかは不明である。ロシア政府といっても、プーチン、国防省、GRU、FSB(ロシア連邦保安庁)、SVR(ロシア対外情報庁)など、複数の政府機関がアフリカ諸国との関係構築に動いている。
米国の非営利団体でロシア、特にワグネルに関する情報を公開しているAll Eyes on Wagnerは、プーチンの論理は「分断統治」であり、いろいろな人物を競わせて、第二のプリゴジンが出てこないようにする戦略をとっていると分析している。ロシア側から様々な機関がアフリカ側にアプローチするなかで、ワグネルの活動がうまくいっているところでは、そのままにしているということだろう。今のところ、それに対するプーチンやGRUのグリップは効いているようだ。
マリのようにワグネルが戦闘で敗北を喫するなどして、その機能に疑問符が付されると、「アフリカ部隊」に置き換えられて、より国防省直轄という形をとる可能性が強まるのであろう。(武内進一)
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