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今日のアフリカ

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ナミビア・ドイツ合作ミュージカルの初演

2025/10/31/Fri

 10月17日と18日に、ナミビア首都の国立劇場でナミビア・ドイツ合作ミュージカル「歌の人びと―語られざる物語をひも解く」が初演された。両国のアーティストらが参加し、それぞれの民謡、子守唄、ポピュラー音楽などが織りこまれたこの作品は、ナミビアの架空の村オムスとベルリンの博物館を舞台に、植民地期の凄惨な歴史、アイデンティティ、世代間のトラウマ、癒し、そして和解といったセンシティブなテーマを探求する。

 ミュージカル全体を通して示されるのは、音楽が感情の架け橋になることである。物語では、音楽家を目指す若い女性アニロス、義務と叶わぬ夢とのあいだで葛藤する父親ツァウダゴ、過去のトラウマに苦しむ祖母オウマ、そして父の死後に届いた手紙をきっかけにナミビアとの個人的な繋がりを発見するドイツ人ヘルマンの合計4名の主人公の人生が描かれる。彼らの人生は、ベルリンの博物館に残されていた聖なる遺物を、本来の場所ナミビアへ返還するという行為を通して交差する。4名の出会いによって呼び起された記憶と痛みは、言葉ではなく歌で沈黙をやぶることによって和らいでいく。

 この初演は、ウィントフックとベルリンの姉妹都市提携25周年を記念した文化交流イベントの一環として行われ、ゲストとしてベルリン市長カイ・ヴェグナー氏をはじめ、40名以上のドイツ人が参加した。11月にはベルリンとブレーメンでも公演が予定されている。スポンサーおよびパートナーには、ベルリン・ロト財団、フンボルトフォーラム、ゲーテ・インスティトゥート、ドイツ連邦外務省が含まれる。

 父親ツァウダゴを演じるエルソン・ヒンドゥンドゥ氏は、今年6月に同劇場でオーケストラの指揮をとり、2023年にはナミビア人作曲者として初のオペラ作品「ヒヤングア首長」を作曲していた。植民者との出会いや裏切り、虐殺のテーマを扱ったこのオペラも、両国の首都で公演されていた。

 ドイツ本国や、ナミビア国内に暮らすドイツ系移民の子孫のあいだで、植民地期の残虐行為について沈黙が保たれる中で、こうした内容の作品が両国で公演されることの意義は大きいだろう。(宮本佳和)

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