6月20日と21日、ナミビア国立劇場でユース・オーケストラ・フェスティバルが開催された。「音楽を通したものがたり」をテーマに、8歳から28歳までの100名を超える若い音楽家が集まった。
若い音楽家らは、ドイツ大使館が主催するベルリン交響楽団の指導を受け、指揮は著名なドイツ人指揮者クリスチャン・ルートヴィヒ氏と、気鋭のナミビア人指揮者エルソン・ヒンドゥンドゥ氏がとった。
プログラムでは、ルートヴィヒ氏が指揮する、「山の魔王の宮殿にて」、「ホーダウン(ロデオより)」など、時代を超えた名曲が並んだ。また、ヒンドゥンドゥ氏が作曲した「オチハンバレレ―ナミビアのおとぎ話」が初演された。この作品のテーマは、コミュニティ、愛、裏切り、そして許しである。
オチハンバレレとは、ヘレロ語でおとぎ話のことを指す。このおとぎ話は、親が子どもを寝かしつけるときに語ったり、家の外でおこした火を囲みながら年配者らが子どもたちに語ったりするものである。物語にはさまざまな野生動物や家畜などが登場する。講演でも野生動物にふんした子どもたちが舞台をかけめぐり、ナレーションとオーケストラの音色が混ざり合いながら、コンヴィヴィアルな空気を作り出した。
ヒンドゥンドゥ氏は、地元紙ナミビアンのインタビューでこの作品の経緯を語っている。「祖父母やオジたちと火を囲んで、オチハンバレレをたくさん聞いていたんです。[・・・]これらは私たちのアイデンティティと文化を思い出させてくれる貴重な思い出です」と回想し、村で過ごした幼少期からインスピレーションを得たことを語った。ナミビアの都市部ではこうした口承による物語が衰退しつつあるため、音楽を通してその美しさと文化的価値を復活させようとしたという。
「ナミビアの物語を引き出し、私たちが何者であるかを思い出させてくれるような作品を作曲したかったのです」と同紙インタビューで同氏が続けるように、この作品はユース・オーケストラの子どもたちが、自分たちで物語を書き、この作品の土台を築いたという。ヒンドゥンドゥ氏は、「子どもたちがこの作品の青写真を作ってくれたんです。彼らの想像力の豊かさに驚きました。私たちは彼らを刺激しましたが、物語は彼らのものです。この作品は彼らの想像力の上に成り立っています」と、子どもたちとの協働によって「オチハンバレレ」が出来上がったことを指摘している。そして、インタビューの最後では、「私たちが国民として団結し、手を繋げば、私たちは無敵です。観客のみなさまがナミビアに誇りを感じ、音楽を通して私たちの物語の奥深さを感じ取っていただければ幸いです」と締めくくっている。
ヒンドゥンドゥ氏は合唱指揮者で、約10年前にナミビアの青少年合唱団のソリストとして頭角をあらわし、その後ナミビアと南アフリカで専門的な音楽の訓練を受けた。以来、合唱、吹奏楽、弦楽四重奏、交響楽団、そして現在は舞台のための作品を作曲している。2023年には、ナミビア人作曲者として初のオペラ作品「ヒヤングア首長」を作曲し、ナミビアとドイツの首都で公演し、盛況のうちに終わっている。ドイツ語とヘレロ語でうたわれたこのオペラは、首長の息子を主人公に、恋愛、実存的危機、植民者との出会い、キリスト教への改宗と裏切り、虐殺のテーマを扱ったチャレンジングな作品である。
近年のジェノサイド交渉をめぐる国内での対立や、ナミビア国内のドイツ系入植者とジェノサイド被害者の子孫らが分断している現状を考えると、音楽を通してナミビアを一つにしようとするヒンドゥンドゥ氏の作品は、暗たんとする状況のなかの新たな光のようである。(宮本佳和)
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