今日のアフリカ
2025年08月
カメルーン大統領選挙2025:選挙戦前のつばぜり合い
2025/08/15/Fri
中部アフリカのカメルーンでは、2025年10月12日に大統領選挙が予定されている。7月13日には、1982年から連続7期にわたって大統領・国家元首を務めている92歳の現職ポール・ビヤがSNS「x」で立候補の表明をし、話題を呼んだ。1960年の独立以来2代目の大統領であるビヤは、現在世界最高齢の現職の国家元首だが、もし8期目に再選されれば、任期を全うする頃にはほぼ100歳になる。
ビヤ政権のカメルーンは、中央アフリカ、チャド、コンゴ共和国など武力紛争を経験してきた周辺諸国に比べると長期間の政治的安定を実現してきたが、汚職の蔓延による統治能力の低さや、2017年以降現在まで継続し、解決の見込みが立っていない英語圏地域と中央政府の間の国内紛争("anglophone crisis")など、内政上大きな問題を抱えている。
また、ビヤの健康が大統領の任に耐えられる状況なのかも、たびたび話題に上ってきたところである。2024年秋には、ほぼ一ヶ月にわたって公的な場に姿を現すことがなかったために、一部で死亡説が流れ、大統領府が慌てて打ち消したこともあった。
7月26日にカメルーン選挙管理委員会(ELECAM)による発表があり、大統領選の公認候補者のリストが発表された。立候補を届け出た83人のうち、13人が正式な候補として認められた。
ここで注目されたのは、前回2018年の大統領選挙で14%の得票を得て、ビヤに続く第2位だったモーリス・カムトが候補に認められるかであった。ビヤへの有力な対抗馬と考えられてきたカムトは、7月中旬に立候補の登録をしたが、今回選挙管理委員会は「同一政党から複数の候補が立候補登録をしている」という理由でカムトの立候補を却下した。正式な候補として認められなかった場合、72時間以内に憲法評議会に異議申し立てを行うことができる。カムトは、異議申し立てを行ったが、憲法評議会は8月5日にカムトの訴えを却下したため、彼は10月の大統領選挙に出られないことが確定した(8月5日付ルモンド)。カムトの選挙からの排除をめぐって、ヒューマン・ライツ・ウォッチなど国際NGOからは今回の選挙への信頼性を疑問視する声があり、また野党支持者などからの反発による政情不安を懸念する声が出ている。
有力な対立候補が選挙に出られなくなったことで、現職のビヤがより有利な状況に立ったと言えるが、一方で野党候補の中で連携を模索する動きが活発化している(8月14日付RFI)。本格的な選挙戦期間は9月下旬からだが、それまでに野党間で政策や候補の一本化などの調整が可能なのかどうかが注目される。そこでも、人気のあるカムトがどのように動くのかが一つの鍵になりそうだ。(大石高典)
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米国の「不法移民」送還と入国制限
2025/08/09/Sat
5日、ルワンダ政府報道官は、ルワンダが米国との間で、250人の強制送還者受入れで合意したと発表した。合意は6月になされ、米国はすでに10人の追放予定者リストを提出しているた(8月5日付New Times)。ルワンダは同様の協定を英国とも結んだが、2024年のスターマー労働党政権発足に伴って、英国側が履行を取りやめた経緯がある。
トランプ政権は、アフリカ各国に「不法移民」の受入れを迫っている。既に7月、南スーダンとエスワティニに強制送還したし、7月9日にアフリカ5ヵ国(セネガル、ギニアビサウ、リベリア、ガボン、モーリタニア)の元首をホワイトハウスに招いて昼食会を催した際にも、「不法移民」の受入れを打診した(7月10日付ルモンド)。
一方で、トランプ政権は、アフリカ諸国からのビザ発給に厳しい制限を加えている。6月以来、チャド、コンゴ共和国(ブラザヴィル)、赤道ギニア、エリトリア、リビア、ソマリア、スーダン、シエラレオネ、トーゴ、ブルンジといった国々について、ビザ発給停止を表明している。
8月5日には、ザンビアとマラウイからの観光、商用ビザ発給に際して、最大15,000ドルの供託金を要求すると米国国務省が発表した。7日には、ジンバブウェの米国大使館が、ビザ発給を一時停止すると発表した。
ザンビアとマラウイへの措置について、米国国務省側は、オーバーステイの比率が多いとの理由づけをしている(8日付ルモンド)。2024年8月に米国国土安全保障省の報告によれば、2023年のオーバーステイの比率はザンビアが11.11%、マラウイが14.32%であった。しかし、両国とも滞在者の総数が少ないので、オーバーステイ者の絶対数は多くない。2021年に、ザンビア人は398人、マラウイ人は388人であった。同じ年、コロンビアのオーバーステイ比率は4.33%だが、その絶対数は4万人以上に達する。同じアフリカでも、2023年のケニア人のオーバーステイは1600人(比率は7.88%)だった。
ジンバブウェのビザ発給停止について、米国国務省側は、「不法移民」の受入れを拒否したことを背景要因に挙げている(8日付ルモンド)。
トランプ政権はアフリカ諸国に対して、アメリカの利益になることを何かしろ、そうでなければ何も与えない、という論理で臨んでいる。むき出しの現実主義外交は、どのような世界を生み出すのだろうか。(武内進一)
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チャド湖の拡大
2025/08/03/Sun
チャド湖の拡大が報じられている。チャド湖は、ナイジェリア、ニジェール、チャド、カメルーンの4ヵ国と国境を接し、アフリカではヴィクトリア湖、タンガニーカ湖、マラウイ湖に次ぐ大湖である。
チャド湖は縮小を続けたことで知られるが、近年の多雨を受けて水面が上昇している(7月31日付ルモンド)。1960年代には29,000平方キロあったチャド湖は縮小を続け、1990年代には10分の1に縮小して消失が懸念される事態となった。しかし、近年は逆に、海水温上昇の影響を受けてサヘル地域の降雨量が増加し、ナイジェリア、ニジェール、チャド、マリなどで毎年のように洪水被害が報じられている。
チャド湖は水深が浅く、水量の変化が面積の変化に反映しやすい。近年の湖水面積の拡大は、牧畜民の放牧地を縮小させ、土地をめぐる農耕民との対立を激化させている。さらに、船を使って攻撃するボコハラムの活動活発化が報じられている。
サヘル地域では、近年の気候変動の影響が様々な形で政治経済に及んでいる。チャド湖は4ヵ国に跨がり、ボコハラムをはじめとする武装勢力の活動が盛んであることから、注意深く観察することが必要である。(武内進一)
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米国とサヘル諸国との接近
2025/08/02/Sat
マリ、ブルキナファソ、ニジェールのサヘル3国は、いずれも軍事政権が支配し、旧宗主国のフランスとは敵対関係にある。一方、米国はこれら3国に対して、違うアプローチを取っている。1日付けルモンドは、最近の米国とサヘル3国の外交関係について報じている。
7月初め、ホワイトハウスの高官アタラー(Rudolph Atallah)が、バマコを3日間訪問した。彼は、国家安全保障会議でテロとの戦いに関する担当副局長を務めている。両国の軍事的、経済的協力を促進する目的での訪問で、マリのジョップ外相に対して、「マリが我々とともに仕事をすると決めれば、それは可能だ」と約束した。
7月22日には、スティーヴンス(William B. Stevens)西アフリカ担当国務副長官がやはりバマコを訪問し、マリとの軍事的、経済的協力について協議した。テロリストグループの資金源を断つ必要性を強調するとともに、マリへの投資促進のために「米国商工会議所」の設立に言及した。ジョップ外相はこれを「ウィン・ウィン」だと評価した。
スティーヴンスはまた、5月27日にワガドゥグを訪問してブルキナファソ外相と面会しており、サヘルに米国が復帰する意向を示したという。
公式な外交関係の再構築も進められている。7月24日には、元ブルキナファソ国防相のクリバリ(Kassoum Coulibaly)が米国大使に着任し、トランプ大統領に信任状を提出した。ブルキナファソの米国大使は2年間空席のポストで、外交関係改善の意欲がうかがえる。
また、5月には、ニジェールのフィッツギボン(Kathleen FitzGibbon)米国大使が正式に信任状を提出した。大使は2023年に着任していたが、クーデタを受けて信任状提出を見合わせていた。
それに先立つ、4月末、ニジェールのラミヌ・ゼイン(Ali Mahamane Lamine Zeine)首相が米国を訪問し、アフリカ担当副国務長官のフィトレル(Troy Fitrell)と面談している。
サヘル3国がロシアに接近していることは事実だが、それと同時に、米国との関係改善の動きが進んでいることは重要だ。フランスとの緊張関係だけに注目していると事態を見誤る。この地域は孤立していないし、トランプ政権もアフリカへの関心を維持している。(武内進一)
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