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今日のアフリカ

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アフリカへのStarlink進出の動向

2025/08/26/Tue

 Starlink(スターリンク)はアメリカの実業家イーロン・マスク氏が率いるSpaceX社が開発した衛星通信ネットワークサービスで、低高度を軌道する数千機の衛星群を活用することで、高速かつ遅延の少ないブロードバンドのインターネット接続の提供を売りにしている。このサービスは、接続が速いだけでなく、比較的安価で持ち運び可能な通信キットさえあれば、少ない電力消費で地球上どこでも接続ができる。

 こういったStarlinkの特徴は、面積が広く通信インフラの整備が行き届いていない地域が多いために、これまでインターネット普及率が低かったアフリカに変化をもたらしている。2019年に始まったStarlink事業は、2023年1月にナイジェリアに参入したのを皮切りに、同じ年の3月にはルワンダ、7月にはケニアと、アフリカ各国の市場への参入を果たし、2025年8月現在で19か国(上記2か国に加え、シェラネオネ、ガーナ、ベナン、ニジェール、チャド、コンゴ民主共和国、南スーダン、ソマリア、ケニア、ブルンジ、ザンビア、マラウィ、モザンビーク、ボツワナ、レソト)でサービスが合法的に利用可能になっている。

 公共インフラの未整備な農村地域で、Starlinkは威力を発揮している。例えばルワンダでは、ICT担当大臣のイニシアティブで農村地域の50の学校にStarlinkを導入してオンライン学習が可能な環境を整えた。これまで学校教育が不十分だった地域で児童の学修に成果を上げている。Starlinkの便益を受けているのは、企業、NGOや地域住民だけではない。ナイジェリアやマリの紛争地域では、武装勢力がStarlinkを使ってインターネットを利用しているという(Le Monde、7月5日付)。

 Starlinkに参入を許していない国の中には、マスク氏自身の出身国である南アフリカが含まれる。南アフリカは、かつてのアパルトヘイト政策下で極めて不利益な立場に置かれてきた黒人に経済的な参加の機会を与える趣旨の黒人経済力強化政策(BEE)を取っている。国内で事業を行うためには、事業者は黒人によって30%以上の株式が所有されていなければならないが、SpaceX社はこの条件をクリアできていない。

 最近になって、30%の株式相当額を黒人に譲渡する代わりに同等の金額を南ア国内に投資することで事業を認める案が検討されている(Business Insider Africa, 8月20日付)。SpaceX社は農村地域にある5,000 以上の学校に無償でインターネット接続を提供することを提案に含めているという。南アフリカは、第二次トランプ政権から、黒人優遇の「人種差別的な政策」を取っているとたびたび非難されてきた。所有権規則を緩和する施策の検討には、アメリカとの関係改善を企図するラマポーザ政権の方針があるとする見方もある。

 Starlinkのように、より広い範囲で人々の手に届くインターネット接続を可能にするICT技術の開発・導入が進めば、都市=農村間の情報格差など、アフリカにおける情報環境を一変させる可能性を秘めている。(大石高典)

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