今日のアフリカ
2025年10月
マダガスカル大統領が国外退避
2025/10/14/Tue
マダガスカルのラジョエリナ大統領は、12日、フランス軍用機でレユニオン島(フランス領)に退避した。事実上のクーデタとみられる。
マダガスカルでは、当初は劣悪な電気、水道サービスへの抗議として、Z世代の若者たちが中心となって、9月末から主要都市で連日デモが行われた。10月に入ると野党勢力や労働組合もそれに合流して大統領の辞任を求めるようになった。
10月11日、Capsatと呼ばれる軍の部隊が、鎮圧活動を拒否すると宣言し、デモ隊側に合流した。Capsatは直訳すれば「管理技術人員業務部隊」となるが、首都郊外に本拠を置き、2009年にも民衆蜂起に加わったことがある。この時には、結果としてラジョエリナ政権の樹立へと至った。
12日になると、Capsatは新たな参謀長としてピクラス(Démosthène Pikulas)将軍を就任させ、軍全体の掌握を宣言した(12日付ルモンド)。治安部門が大統領側から離反したことが明白になったこの日、ラジョリエナはヘリコプターで首都を脱出し、沿岸部からフランス軍用機で国外脱出したとみられる(13日付ルモンド)。
ラジョエリナは13日、Facebookに動画を投稿し、辞任を否定して憲法遵守を訴えた。なお執務を続行中と主張しているが、既に帰国は困難であり、国内に政権が立ちあがればそちらに権力が移行されるだろう。今後は、どのような形で移行政権が形作られるのかが焦点となる。(武内進一)
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マダガスカル、モロッコでZ世代の抗議運動
2025/10/08/Wed
9月下旬から、マダガスカルやモロッコで若者によるデモが激しさを増している。マダガスカルでは、頻繁な断水や停電への不満を発火点として、9月25日から主要都市で連日デモが続いている。ラジョエリナ大統領は抗議活動が始まるとすぐにエネルギー担当相を更迭し、29日には前閣僚の交代を発表した。しかし、運動の勢いは衰えず、10月に入ると若者たちはラジョエリナ大統領の辞任を要求するようになり、野党や労働組合もこれに同調した。大統領は、デモ隊が「国家転覆を企んでいる」と非難するとともに、6日、陸軍のザフィサンボ(Zafisambo)将軍を首相に任命した。軍を利用してデモ隊を鎮圧しようとの意図があるようだ(7日付ルモンド)。
一方、モロッコでは、9月中旬に南部アガジールの公立病院で帝王切開を受けた妊婦が死亡した事件がきっかけとなって、医療制度の不備に対する不満が広がった。オンラインコミュニケーションサービスのディスコード(Discord)を使った呼びかけを通じて、27日から若者が中心となったデモが各地で行われた。その主体は"GenZ 212"と名乗り、医療制度や教育制度の質の悪さに抗議し、首相の辞任を要求している。
マダガスカルもモロッコも、Z世代の若者がデモの中心になっている。アフリカでは、昨年ケニアのルト政権が、Z世代の若者を中心とした抗議行動に屈して、増税案を撤回した。最近では、バングラデシュやネパールでも若者のデモが政治体制を揺るがせている。
これら各国の運動は、相互に影響を受けている。マダガスカルの運動はネパールの動きに刺激された側面があるし(5日付ルモンド)、デモ参加者の動員の手段としてディスコードが使われた点にも共通点がある(4日付ルモンド)。不満の背景に違いがあっても、若者たちを街頭での抗議活動に駆り立てるメカニズムに共通性が見られることは興味深い。(武内進一)
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南アフリカの婚姻後の姓と近代の矛盾
2025/10/04/Sat
南アフリカの憲法裁判所(最高裁判所に相当)が9月10日に下した、夫が希望すれば妻の姓を名乗ることができる権利を認める判決は、論争を巻き起こしている。
この判決は、妻の姓を名乗る法的権利を否定された2組の夫婦が、内務省を相手取って起こした訴訟から生じた。両夫婦は、下級裁判所で法律の違憲性を争い、勝訴したが、憲法裁にもその判断の確認を求めていた。2組の夫婦は、妻の姓を名乗ることを禁じる法律1992年出生死亡登録法第26条(1)が、男女平等を侵害し、家父長的なジェンダー規範を固定化すると主張した。
BBCが伝えるところによると、憲法裁は、「多くのアフリカ文化において、女性は結婚後も出生時の姓を保持し、子どもが母親の姓を名乗ることも多かった」と指摘し、「ヨーロッパの植民者やキリスト教宣教師の到来、そして西洋的価値観の押し付け」によりこの慣習が変化したとした。そしてこの「妻が夫の姓を名乗る慣習は、ローマ・オランダ法に存在しており、この形で南アフリカの慣習法に導入された」と指摘している。
9月19日付けのThe Conversationに法学者のアンソニー・ディアラ氏(西ケープタウン大学)の見解が掲載されたため紹介しよう。南アフリカでは制定法と慣習法が並存しているが、慣習の有効性を制定法が規定するため、両者の関係は不平等である。裁判官が西洋的な観点から慣習を解釈するため、両者の間に緊張が生じ、慣習法を遵守する人々を苛立たせるケースも少なくない。憲法裁の判決は、男女平等の促進を目指す正当な目的があるものの、慣習と憲法上の権利との闘いに新たな一章を開いているという。
南アフリカでは、ローマ・オランダ法、英国のコモン・ロー、慣習法、宗教上の属人法といった、異なる法体系が共存している。アパルトヘイト(人種隔離)政策撤廃後の1996年に採択された憲法は、これらの法体系に同等の地位を与えることで、法の多元性を認めている。そのため、今回の判決は、理論上は慣習法に従って生活するアフリカ人には適用されるべきではないが、現実はそれほど単純ではない。
事実、南アフリカ伝統的指導者らは、今回の判決は伝統的な社会に西洋的な考え方を押し付けていると批判している。姓が血統、アイデンティティ、そして指導者の継承の基盤であるという彼らの主張は、婚姻姓が植民地時代に輸入されたものであることを度外視しており、彼らが西洋的な教育、テクノロジー、そして現金収入などの植民地主義(そしてグローバリゼーション)による変化を受け入れてきたことを考えると、婚姻後の姓はアフリカの慣習法へと変化したのか、植民地時代の変化は慣習法とみなされるべきか、といった問いが出てくるだろう。ディアラ氏の見解は、多元的法体制における慣習法のとらえ難さと、近代と伝統という単純な二分法では現実を把握できないことを示している。
周知のとおり(日本を含め)個人が姓を名乗ることが近代的な現象であることを考えると、今回の判決は、単に表面化するジェンダー平等の議論だけでなく、南アフリカやアフリカを越えて、姓という近代の賜物を手にした社会が抱える矛盾を映し出しているといえるだろう。(宮本佳和)
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AGOAの失効と今後
2025/10/02/Thu
25年にわたって適用されてきた米国の「アフリカ成長機会法」(AGOA)が、9月30日で失効した。クリントン政権期から続いてきたAGOAは、アフリカに大きな影響を与えてきた。
米国議会の統計によれば、AGOAの枠組みでのアフリカからの輸出額は2024年に80億ドルに達した。受益国としてはまず南アフリカが挙げられ、この枠組みを利用して自動車、金属、化学製品などを米国に輸出している。ケニア、マダガスカル、レソトといった国々も、AGOAを利用して繊維製品を輸出してきた。
アフリカ側は、AGOAの継続をトランプ政権に訴えている。南アフリカのタウ(Parks Tau)商業相は、米国政府に対して継続に向けたロビイングを続けると述べ、ケニアのルト大統領も「援助より貿易」のロジックで継続を訴える意向である。
この先AGOAをどうするか、米国政府からまだ何の公式発表もない。現在、米国政府は与野党対立の余波でシャットダウンの危機に陥っており、そうした発表がある可能性は当面低い。ただ、10月1日付ルモンド紙に掲載されたインタビューのなかで、米国のブロス(Boulos)特使は、AGOAの1年間の延長に前向きの姿勢を示した。
関税措置によって、トランプ政権はAGOAを事実上無効化した。しかし、その後個別の交渉が続いており、実際どのように関税が適用されているのかいないのか、判然としないのが実状である。当面は不透明な状況が続きそうだ。(武内進一)
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