今日のアフリカ
2025年04月
コートジボワール最大野党党首を選挙人名簿から排除
2025/04/27/Sun
4月22日、経済首都アビジャンの裁判所は、最大野党PDCIのティアン(Tidjane Thiam)党首について、選挙登録時にフランス市民だったとの理由で選挙人名簿から排除する決定を下した。この決定は上告できない。これにより、10月25日の大統領選挙にPDCI公認で出馬予定だったティアンは、立候補資格を失うことになる。
ティアンはアビジャン生まれだが、フランスとコートジボワールの二重国籍保持者だった。しかし、大統領選挙への立候補資格を確実にするため、この3月にフランス国籍を返上していた。
事件の発端は、ティアンの国籍をめぐって、選挙人名簿からの排除を求める申し立てが独立選挙委員会(CEI)に起こされたことである。1961年に制定されたコートジボワールの国籍法第48条は、「他の国籍を取得するとコートジボワール国籍を喪失する」と規定している。これを引き合いに出して、ティアンはフランス国籍を取得した1987年にコートジボワール国籍を失ったという申し立てであった。
CEIがこれを却下したため裁判所に提訴され、その判決が22日に下された。当然ながらティアンはこれに猛反発し、与党関係者がライバルを排除するために司法を利用したと非難している(23日付ルモンド)。
コートジボワールの歴史を知る者にとって、これは不吉なニュースである。1990年代、独立以降大統領の座にあったウフエ=ボワニの死後、その後継者争いの中で、当時PDCI党首で大統領を務めたベディエは、「コートジボワール人性」(イボワリテ)という概念を打ち出し、北部出身のワタラ(現大統領)の大統領立候補資格を剥奪した。2000~2010年代にこの国が経験した混乱と内戦は、それが重要なきっかけになった。
この決定に反発するPDCIはデモを組織したが、参加者は多くなかった(24日付ルモンド)。ティアンは現在フランスに居住しており、大衆の支持は厚くないのかもしれない。
しかし、こうした形で有力野党の候補者を排除するやり方は、コートジボワール政治を蝕むであろう。既に83歳と高齢のワタラがすんなり4回目の大統領選挙に勝利するのか、全く定かではない。(武内進一)
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勃発から2年のスーダン内戦とチャドへの影響
2025/04/19/Sat
4月15日で、スーダン内戦勃発から2年が経過した。この日からロンドンで、内戦の早期和平を目指して、19ヵ国を招いて国際会議が開催された。会議には、ブルハーンの軍事政権側も、ヘメティのRSF側も招待されなかった。軍事政権側は、UAE、ケニア、チャドといったRSFへの支援が疑われる国々が招待されたことを批判した。
同じ15日、RSFは独自の政府樹立を宣言した。おおよそ首都ハルツーム以東を押さえた軍事政権側と、ダールフールを中心に西部から南部を押さえたRSF側が、それぞれ政府を樹立して対峙する状況になっている。
スーダン内戦は周辺国を巻き込んだ地域紛争の様相を呈しているが、チャドは特にその影響を受けている。内戦開始以来130万人の難民がスーダンから流入し(16日付ルモンド)、東部国境付近には数十万の難民を受け入れた町もある。
チャド内政には不穏な動きが見られる。13~14日にかけて、マハマト・デビィ大統領は、治安、国防関係の高官約10名を罷免した。また10日には、大統領のイトコで、大統領警護隊トップや軍参謀長を務めたマハマト・イトノ(Abdelrahim Bahar Mahamat Itno)将軍が罷免されている。
デビィ大統領をはじめチャドの権力中枢はザガワ(Zaghawa)人が占めているが、彼らの多くはスーダン内戦でRSFを支援するデビィ大統領に批判的である。RSFはダールフールのアラブ系住民が中心を占め、彼らは内戦のなかでザガワ人をはじめとする非アラブ系住民に激しい暴力を行使し続けている。イトノ将軍も最近、ザガワコミュニティの会合で、デビィ大統領を厳しく批判していた(15日付ルモンド)。
今回の軍高官解任劇は、チャドの権力中枢における緊張の高まりを示している。これまでもチャドは、ザガワ人内部の対立による政治不安を繰り返してきた。若い権力者のマハマト・デビィ大統領は、この危機にどう対応するだろうか。(武内進一)
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南アフリカに対するトランプ政権の「いじめ」
2025/04/13/Sun
南アフリカに対して、トランプ政権が度を超した介入を行っている。3月30日付ニューヨーク・タイムズの報道によれば、"Mission South Africa"と命名されたプロジェクトで、プレトリアの空きオフィスをアフリカーナー「難民」の一時居住のために整備している。8200人以上の難民申請を受け、アサイラムを与える100人のアフリカーナーを選定したという。
その翌日に発表された「相互関税」でも、南アに対して31%の高関税が課された。
トランプ政権は、南アについて、白人農民に対するジェノサイドがあり、白人農民から土地を取り上げ、同盟国のイスラエルをジェノサイドでICJに訴えたと非難している。このうち3番目は事実だが、それ以外は嘘である。
「白人農民に対するジェノサイド」は、南ア国内で白人至上主義団体が述べていたもので、その主張をイーロン・マスクやトランプが広げた経緯がある。この議論は、今年2月南アの司法によって「全く事実ではない」と否定されている。
南アフリカ農村部に犯罪が多く、特に2000年代前半に農場襲撃が頻発したことは事実だが、これは白人も黒人も被害を受けている。それ以降、農場襲撃件数は減少しているし、特定のグループが標的にされているわけではない(4月12日付ファイナンシャルタイムズ)。
アパルトヘイト廃絶後も、南アの土地の過半を白人が所有している状況は変わらない。トランプ政権は南アフリカの土地収用法を批判するが、この法律は公共事業などに際しての土地収用の手続きを定めたもので、どの国にもある内容だ。白人農民の土地が黒人に奪われているという状況は、現在の南アフリカには全く存在しない。
一方、アフリカーナーのなかに、トランプの発言を歓迎するグループがいることは間違いない。アパルトヘイト廃絶後の立場の変化を受け入れず、米国にロビー活動を続けてきたグループが南アには存在する。「8200人以上の難民申請」の真偽はともかく、この機に米国に移住したいと考えるアフリカーナーがいても不思議ではない。
トランプ政権は、南ア国内の人種対立を煽り、分断を深めている。こうした行動を取る最大の要因は、南アがイスラエルをICJに訴えたことにあるだろう。南アが生意気で、目障りだという「いじめ」の論理である。
アメリカは、世界の「いじめっ子」になった。世界最大の軍事、経済大国が「いじめっ子」になり、国際政治経済を攪乱している。不幸なことだが、その前提を受け入れて対応策を考えるしかない。(武内進一)
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コンゴ民主共和国東部紛争和平プロセスの複線化
2025/04/12/Sat
コンゴ民主共和国東部紛争の和平プロセスが、複線化、複雑化の様相を呈している。アフリカ連合(AU)から指名されたアンゴラのロウレンソ大統領が仲介の任に当たってきたが、3月24日にその役目を返上した。
仲介役としてロウレンソは、2024年12月15日にチセケディとカガメの会談、2025年3月18日にコンゴ政府とM23の会談を設定したが、最後になって、前者はカガメが、後者はM23が来訪をキャンセルした。
一方同じ3月18日には、カタールのドーハでチセケディとカガメが会談した。カタールは両国との経済関係を梃子に2人を対話させ、一定の外交的成功を収めた。
しかし、アンゴラはカタールの動きに不満を抱いている。アフリカ外交の原則は、「アフリカの問題は、アフリカ域内で解決する」ことだ。カタールの動きは、アフリカの域内外交をないがしろにしているとの不満が燻っている。
ロウレンソの下で、東アフリカ共同体(EAC)と南部アフリカ開発共同体(SADC)とが並行して和平プロセスに関与する格好となっていた。しかし、2月8日のAUサミットで、この二つを一本化することが合意され、それを主導する5人の元国家元首が選出された。エチオピアのゼウデ(Sahle-Work Zewde)、中央アフリカのサンバ=パンザ(Catherine Samba-Panza)、ケニヤのケニヤッタ(Uhuru Kenyatta)、ナイジェリアのオバサンジョ(Olusegun Obasanjo)、南アフリカのモトランテ(Kgalema Motlanthe)の5人である。
また、ロウレンソの後任として、トーゴのフォール・ニャシンベ大統領の名前が挙がっている。
とはいえ、5人がどのような役割分担とロードマップで和平プロセスに関与するのか、フォール・ニャシンベの役割は何か、カタールの和平プロセスとの関係はどうなるのか、など不明点は依然として多い。カガメとチセケディが一度会っただけで紛争が終結するほど、簡単な話ではないだろう。(武内進一)
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トランプ政権がレソトに50%の関税
2025/04/09/Wed
米国のトランプ政権は4月2日に「相互関税」を発表したが、そのなかで南部アフリカの小国レソトに50%もの関税を賦課した。レソトについて、トランプは3月、USAIDの事業を批判する文脈で「誰も名前を聞いたことのない国だ」と揶揄していた。
レソトは周囲を南アフリカに囲まれた国だが、米国向けのアパレル輸出を行うアジア系企業の工場が立地している。この産業部門には約36,000人が就業しているが、うち12,000~15,000人が中国、台湾、バングラデシュ企業の工場で働き、Levi's、Calvin Kleinなどのブランド名で米国向けの商品を生産している。これらの商品は、AGOA(アフリカ成長機会法)の優先枠を利用して輸出されてきた。
レソトが対米貿易黒字国であったため、50%もの「相互関税」を引き起こしたとみられる。レソトのアパレル産業を支える企業の親会社はアジアにあるので、高関税を受けて撤退する恐れがある。
「レソトは米国からの輸入品に99%の関税をかけている」との米国の主張に対して、レソト外相は、「はっきりさせておきたいが、それは正しくない。我々はSACU(南部アフリカ関税同盟)のメンバーで、共通の関税率7.5%を適用している」と述べた(4月8日付ルモンド)。
トランプ政権による「相互関税率」算出のいい加減さは既に指摘されているが、レソトの事例はこの新政策の不条理と不正義を示すよい例だ。米国はアフリカの産業育成の観点からAGOAを制定したのであり、レソトはその成功例のひとつであった。成功したが故に50%もの関税を要求されたわけである。自国が推進した政策を否定するトランプ政権が、世界に混乱をまき散らしている。(武内進一)
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