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今日のアフリカ

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南アフリカに対するトランプ政権の「いじめ」

2025/04/13/Sun

 南アフリカに対して、トランプ政権が度を超した介入を行っている。3月30日付ニューヨーク・タイムズの報道によれば、"Mission South Africa"と命名されたプロジェクトで、プレトリアの空きオフィスをアフリカーナー「難民」の一時居住のために整備している。8200人以上の難民申請を受け、アサイラムを与える100人のアフリカーナーを選定したという。

 その翌日に発表された「相互関税」でも、南アに対して31%の高関税が課された。

 トランプ政権は、南アについて、白人農民に対するジェノサイドがあり、白人農民から土地を取り上げ、同盟国のイスラエルをジェノサイドでICJに訴えたと非難している。このうち3番目は事実だが、それ以外は嘘である。

 「白人農民に対するジェノサイド」は、南ア国内で白人至上主義団体が述べていたもので、その主張をイーロン・マスクやトランプが広げた経緯がある。この議論は、今年2月南アの司法によって「全く事実ではない」と否定されている。

 南アフリカ農村部に犯罪が多く、特に2000年代前半に農場襲撃が頻発したことは事実だが、これは白人も黒人も被害を受けている。それ以降、農場襲撃件数は減少しているし、特定のグループが標的にされているわけではない(4月12日付ファイナンシャルタイムズ)。

 アパルトヘイト廃絶後も、南アの土地の過半を白人が所有している状況は変わらない。トランプ政権は南アフリカの土地収用法を批判するが、この法律は公共事業などに際しての土地収用の手続きを定めたもので、どの国にもある内容だ。白人農民の土地が黒人に奪われているという状況は、現在の南アフリカには全く存在しない。

 一方、アフリカーナーのなかに、トランプの発言を歓迎するグループがいることは間違いない。アパルトヘイト廃絶後の立場の変化を受け入れず、米国にロビー活動を続けてきたグループが南アには存在する。「8200人以上の難民申請」の真偽はともかく、この機に米国に移住したいと考えるアフリカーナーがいても不思議ではない。

 トランプ政権は、南ア国内の人種対立を煽り、分断を深めている。こうした行動を取る最大の要因は、南アがイスラエルをICJに訴えたことにあるだろう。南アが生意気で、目障りだという「いじめ」の論理である。

 アメリカは、世界の「いじめっ子」になった。世界最大の軍事、経済大国が「いじめっ子」になり、国際政治経済を攪乱している。不幸なことだが、その前提を受け入れて対応策を考えるしかない。(武内進一)

アフリカからの留学生支援のため、現代アフリカ教育研究支援基金へのご協力を呼びかけています