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今日のアフリカ

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ナミビアの大学授業料廃止発表と「#FeesMustFall」

2025/04/30/Wed

 先月3月末にナミビア初の女性大統領に就任したネトゥンボ・ナンディ=ンダイトゥア氏は、今月24日に行われた初めての一般教書演説で、2026年から大学の授業料を廃止すると発表した。同国では、すでに初等中等教育は国内のすべての公立学校で無償となっている。

 演説では、同国のすべての国公立大学と職業訓練センターにおいて、登録料および授業料を廃止するが、追加資金は「大幅に」増額しないと述べている。そのため、議員や学生団体などから、計画の実現可能性に疑問が投げかけられている。

 同大統領は、大学教育の無償化は段階的に実施され、「当面は学生と家族が負担する費用は、住居費やその他の関連費用のみ」だと述べた。この資金は、すでに一部の公立大学に支給されている補助金と、学生経済支援基金に割り当てられた資金からまかなわれる。

 学生団体の一部は大統領の発表を歓迎したが、実現不可能で計画が曖昧だと批判する団体もあった。その一つ、Affirmative Repositioning Student Command(ARSC)は、BBCの取材の中で「(大統領の発表には)計画はなく、混乱した発表に過ぎず、ナンディ=ンダイトゥア氏にとって高等教育とは何を意味するのか疑問が生じる」と述べている。

 地元紙ウィントフック・オブザーバーの取材に応じた経済学者タナン・フロネヴァルト氏も同様に、追加資金を投入せずに授業料を廃止すれば、学生数に上限が設けられる可能性があり、最終的には低所得世帯の生徒にのみ適用される可能性があると指摘する。

 隣国の南アフリカでは、同様の問題が実際に起こっている。同国では、ここ数年、学生らが公正な教育を求め、高等教育の費用を下げるよう、抗議活動をしている。この運動を受け、政府は2017年に授業料廃止を求める声に応じた。しかし、その恩恵を受けたのはごく少数の学生にとどまり、その後、いわゆる「ミッシング・ミドル」と呼ばれる層、つまり経済的支援を受けるには裕福すぎるとされながらも授業料の支払いに苦労する層が除外されたため、制度が限定的すぎると批判されてきた。

 なぜ南アフリカの学生らは抗議活動をするのか。背景となるのは、アパルトヘイト(人種隔離)政策が実施された同国の歴史と強くかかわる。アパルトヘイト政権は、黒人の若者の成長と将来を制限するために、1953年にバンツー教育法を制定した。この法律にもとづく教育制度は、黒人を低賃金の仕事に留め、高等教育へのアクセスを制限することを目的としていた。1994年にアパルトヘイト政策が撤廃されたものの、今日すべての国民が受けられる教育、特に高等教育は、低所得世帯が負担できる金額をはるかに超える。

 2015年には、ウィットウォーターズランド大学の学生らが、授業料値上げが提案されたことをきっかけに、「#FeesMustFall」運動を開始し、同国の各大学の学生らが次々と抗議活動を展開した。ハッシュタグを付けた「#FeesMustFall」がソーシャルネットワークサービスを通じて拡散され、運動が拡大していった。この抗議は、同国の大学における制度的人種差別の解体を目指してケープタウン大学で始まった「#RhodesMustFall」運動と連動しながら勢いを増し、国際的な注目を集めた。運動の名称にもなったケープタウン大学に設置されていた19世紀の帝国主義者で政治家のセシル・ジョン・ローズの像は撤去され、南アフリカ全土における教育の脱植民地化を求める、より広範な運動へと発展した。

 南アフリカ同様にアパルトヘイト政策が適用されたナミビアでも、この抗議活動が広がっている。2016年1月には抗議に押されるかたちで、ナミビア大学とナミビア科学技術大学が同年の入学登録料を廃止した。その後も学生運動は継続し、授業料以外の費用の財源確保や、大学院生への支援、公平な財政援助の配分といった問題についての請願や集会がひらかれていた。

 今回のナミビアの新大統領による発表は、こうした一連の流れの中に位置付けられるものである。高等教育の機会を広げるという理念はよいが、ARSCが危惧するように具体的な計画をともなわない無謀な政策は、単なる注目を集めるための策略と受け取られても仕方ないだろう。南アフリカにおける2017年の高等教育無償化の発表は、任期満了に際したズマ前大統領によるものだった。その後、このタイミングでの発表の背後にはアフリカ民族会議(ANC)の後継者争いあるのではないかとささやかれていた。

 ケープタウン大学の社会人類学者フランシス・ニャムンジョが指摘するように、学生らによる抗議活動は、歴史的な植民地主義やアパルトヘイトに対する反発にとどまらず、本質的には人間としての闘い、すなわち人びとを「価値あるもの」と「価値のないもの」、「私たち」と「彼ら」と分類するあらゆる制度に対する反発である。けっして政治家のパフォーマンスのために利用されるべきではないだろう。(宮本佳和)

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