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Africa Today今日のアフリカ

今日のアフリカ

2025年09月

カメルーンとエリトリアがパレスチナ国家を承認しない理由

2025/09/24/Wed

 2025年9月22日、国連総会が開催されているニューヨークでは、イスラエルとパレスチナの「二国家共存」による和平推進のための国際会議が開催され、前日のイギリス、カナダ、オーストラリア、ポルトガルに加えてフランス、ルクセンブルク、マルタ、アンドラがパレスチナ国家の承認を宣言した。これで国連加盟国の8割以上、常任理事国では米国以外の全ての国がパレスチナ国家を承認したことになる。パレスチナはイスラエルによって国際法に反して占領されている状態で、他国による国家承認は象徴的だとはいえ外交上大きな意味を有する。  アフリカ連合加盟国55か国(西サハラを含む)を見ると、カメルーンとエリトリアを除く53か国がすでにパレスチナ国家を承認している(9月22日付RFI)。承認済の国々の多くは、30年以上前のかなり早いタイミングで承認を行った。1988年にパレスチナ解放機構(PLO)のアラファト議長がパレスチナ国家の独立を宣言したのはアルジェで、アルジェリアはパレスチナの国家承認を行った世界最初の国となった。その後数週間で、植民地支配から解放され独立してからさほど時間が経っていなかった多くのアフリカ諸国が承認を行った。アフリカ諸国の多くは自らの植民地経験をパレスチナの運命と重ねた。アパルトヘイト下の南アフリカでは、民主化後の1995年にパレスチナの承認が行われたが、それはマンデラ大統領による最初の政策の一つだった。  9月21日付のLa Presse(カナダ)や9月22日付のBBCは、そうしたアフリカ諸国の動向の中で、なぜカメルーンとエリトリアがパレスチナ国家未承認なのかを取り上げている。  カメルーンのポール・ビヤ政権は、治安維持面でイスラエルからの手厚い支援を受けてきた。大統領警護特殊部隊や大統領直属の迅速介入部隊(BIR)は、北部国境地域でのボコ・ハラムとの闘いや英語圏地域(北西州・南西州)での分離独立派との戦闘に貢献してきた。アフリカの独裁的政権は外国の支援によって治安維持を図ることがよくあるが、この部隊の創設者はイスラエル人であり、イスラエルはこれらの部隊の軍事訓練や装備・監視技術の提供を担っている。イスラエルとの緊密な関係は米国からの現ビヤ政権への支持の基盤にもなっている。したがって、カメルーンは国連でのパレスチナの権利擁護に関わる決議には棄権をするのが通例で、パレスチナの国家承認もしていない。  エチオピアとの分離独立紛争を経て1991年に独立したエリトリアには、より複雑な歴史的経緯が背景にある。パレスチナの独立宣言当時、アフリカ統一機構(OAU)本部のあったエチオピア政府はパレスチナを支持したが、その時エリトリアは占領者であるエチオピアと武力闘争をしていた。パレスチナはエチオピアとの関係からエリトリアと相容れない立場になった。イスラエルは、紅海に面したエリトリアと1993年から同盟を結び、同国内に対イラン艦船の監視施設を持つ。さらにエリトリアは、自国が自決権を求めて闘ってきた経緯から、そもそも1993年のオスロ合意が欺瞞的であるとして否定的である。紛争の原因であるイスラエルによる軍事占領体制と入植推進が放置されたままで、名ばかりの自治区を作ってもパレスチナ人にとっての本来の意味での自決権の獲得につながらず無意味であるばかりか、占領状態を固定化することになるとして、「二国家共存」による解決も支持していない。  カメルーンもエリトリアもイスラエルと同盟関係を有する点は同じだが、カメルーンでは、大統領選挙を目前にした現政権にとってのイスラエルの安全保障上の戦略的価値が、エリトリアでは自決を求めてきた闘いの歴史が、パレスチナ国家承認に関わる政治判断の大きな背景になっている。しかし、両国ともに国民感情は親パレスチナであり、また国内に多数のイスラム教徒が暮らしている。すぐにパレスチナを国家承認することはないだろうが、より長期的にはパレスチナ解放を支持する方向に向かわざるをえないのではないだろうか。(大石高典) アフリカからの留学生支援のため、現代アフリカ教育研究支援基金へのご協力を呼びかけています。 

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マリでイスラム急進主義勢力の攻撃広がる

2025/09/20/Sat

 19日付ルモンド紙の報道によれば、マリ西部でアルカイーダ系のイスラム急進主義勢力GSIMが、この数週間、外国企業、特に中国企業を狙った攻撃を繰り返している。6月に外国企業の生産設備を狙うと予告した後、7つの外国企業の工場が襲撃され、うち6つが中国企業であった。GSIMは外国企業に対して安全保障と引き換えにみかじめ料の支払いを求め、マリ政府の信用失墜を狙っている。  最近GSIMは、西部のカイ(Kayes)、中部のセグー(Segou)、南部のブグニ(Bougouni)などで、中国企業の砂糖工場や英国企業が開発するリチウム鉱山が襲撃された。  中国企業が多く攻撃されているのは、中国に対する恨みからではなく、マリ経済にダメージを与えるための合理的戦略だという。カイ周辺は金採掘が盛んで、セネガルとマリを繋ぐ経済回廊をなしている。GSIMにとって戦略的価値が高い地域である。  GSIMの攻撃で、これまでに少なくとも11人の中国人が誘拐された。中国政府は人数を公表していないが、軍事政権と密接に連携して誘拐された自国民救出に努力している。  マリにとって、中国は最大の経済パートナーである。2009~2024年のマリに対する中国の民間投資額は16億ドルで、中国政府は2000年以来137のプロジェクトで18億ドルを投資した。軍事政権登場後、中国はいっそうの関係強化に動いている。  軍事政権の登場とともに、マリはフランスに背を向けた。それとともに、中国、トルコ、ロシアといった国々がマリに接近した。ロシアは軍事協力が中心で、マリが不安定化すればその影響力が拡大する可能性がある。中国はマリの不安定化を望んでおらず、商業的利益のために安定を望んでいる。マリをめぐる中国とロシアの利害は、必ずしも一致していない。以上、19日付ルモンド紙の分析である。  マリでは、7月10日に軍事政権トップのアシミ・ゴイタを2030年まで政権トップとする法律が制定され(7月11日付ルモンド)、8月にはマラ(Moussa Mara)、マイガ(Choguel Kokalla Maiga)という二人の元首相が、それぞれ1日、19日に逮捕された。10日には、政権転覆を画策したとして、「少なくとも20人」の軍人が逮捕された(8月11日付ルモンド)。軍事政権は従来に増して強権化しているが、その足もとは相当に脆いようだ。(武内進一) アフリカからの留学生支援のため、現代アフリカ教育研究支援基金へのご協力を呼びかけています。 

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カメルーンにおけるカカオ栽培の拡大と「森林減少フリー製品規則」(EUDR)

2025/09/16/Tue

 カカオの価格が上昇し、世界的にチョコレートの値段が上がっている。世界のカカオの70%以上を供給している西アフリカ、とりわけコートジボワールとガーナでの悪天候と病気による収量減少が、主な要因だと考えられている。多国籍カカオ企業は、生産が不調な西アフリカからカメルーンなど中部アフリカへと事業をシフトさせている。カメルーンにおける生産量は、31万トン(2023~2024年実績)で世界第5位だが、政府は毎年64万トンの生産を目標にしている。  価格上昇の農民経済への影響は、生産国によって異なる。カメルーンではカカオ取引の制度が自由主義的なので、国際価格と連動して国内価格の高騰が著しい。最近2年間で、1Kgあたりの取引価格は1500FCFAから5000FCFAにまで上昇した。9月から大雨季を迎えるカメルーンでは、2025年から2026年のカカオの収穫シーズンが始まっている。価格は昨シーズンに比べると少し安くなっているとはいえ高止まりしており、カカオ開発公社(SODECAO)は、カカオ買取価格が大幅に下がる材料はなく、当面高いままだろうと予想している。  この「茶色の金(l'or brun)」で儲けようと、多くの若者がカカオ栽培に参入している(RFI、9月2日付)。国際価格が上昇すると、カカオ畑の開墾熱が高まる現象はこれまでもたびたび観察されてきた。今年はカカオの苗が不足状況となり、種苗生産が追い付いていない。そのため種苗業者では、他の作物の種苗生産のためのリソースを割いてカカオの種苗が生産されるに至っているところさえある。  中南米の熱帯林地域を原産とするカカオは、直射日光を好まず庇陰樹を必要とする。そのために、在来植生を皆伐することなく育てられる。そのため、生物多様性を過度に毀損せずに地域住民に現金収入をもたらす森林農業が可能であるという意味で、これまで熱帯林保全と地域経済の両立の文脈で一定の評価をされてきた。しかし、カカオ栽培の急激な拡大が、熱帯林の減少や劣化をもたらしているという指摘もある(Mighty-Eartth、7月28日公開報告書)。  野放図なカカオ栽培拡大に歯止めをかけるかもしれないと期待されているのが、EUが2025年12月30日から発効予定の「森林減少フリー製品規則」(EUDR)である。この規制は、該当製品の生産にあたって土地の権利、環境保全、労働・人権尊重、先住民からの同意の取得を含む7つの主要原則の遵守を要求する。この規則には、ウシ、コーヒー、アブラヤシ、ゴム、大豆、木材とともに、カカオが含まれている。カカオをEU域内に輸出するには、そのカカオが2020年以降の森林減少に寄与する形で生産されていないことを確認するためのトレーサビリティの証明が必要になる。  カメルーン産カカオの輸出先の7割はEUだ。期限までに基準をクリアするため、カカオ畑の位置を地理的に特定し、生産者を登録する作業が急ピッチで進められ、政府によればすでに全カカオ生産農家の「99%」と目される24,800人の生産者の登録が完了した(RFI、7月21日付)。既に、カメルーン・コーヒーおよびカカオ業界団体(CICC)は、アクセス無料で利用できるオンラインプラットフォームを整備して、輸出業者がカカオの生産地情報の詳細について確認できる態勢を整えた。トレーサビリティの質を担保するにはまだ課題が多い。データを扱う省庁間の連携を困難にする縦割り行政の問題、土地の権利を持たないカカオ農家にどのように持続的な栽培への投資をおこなえるのかという問題、カカオ畑と市場流通の間を複雑に取り持っている中間業者のビジネスの捕捉の難しさなどである。今後、カカオ栽培の持続性向上をめぐって、「森林減少フリー製品規則」がどのように機能するかが注目される。(大石高典) アフリカからの留学生支援のため、現代アフリカ教育研究支援基金へのご協力を呼びかけています。

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大エチオピア・ルネッサンスダム(GERD)の完成

2025/09/14/Sun

 9月9日、アビィ首相は、大エチオピア・ルネッサンスダム(GERD)の完成を正式に表明した。ナイル川全水量の85%を供給する青ナイルをせき止め、着工から14年を経て完成した。アフリカ最大級の発電力を持つこのダムは、ほぼエチオピア国民の税金で建設された。当初、世界銀行が融資を拒否し、エチオピアは隣国ジブチの支援を受けてダム建設を進めた(8月28日付ルモンド)。  ダムの完成はエチオピアにとって国家的偉業だが、ナイル川の下流に位置するエジプトは、自国の水資源が脅かされるとして反発している。エジプトは、1959年に結ばれた協定を根拠として、エチオピアのダム建設を一方的だと非難するが、エチオピアは同協定は既に時代遅れだと反駁している。エチオピアは、2024年10月、ナイル川下流に位置するブルンジ、ルワンダ、ケニア、南スーダン、ウガンダとともに、ナイル川水域協力枠組協定(Nile River Basin Cooperation Framewrok Agreement)を発効させた。  エジプトとエチオピアの緊張には、両国間の、さらにはナイル川流域における北アフリカとサブサハラアフリカ諸国とのパワーバランスの変化が反映されている。1959年当時、エジプトの国力は圧倒的で、上流域の国々(多くはなお植民地体制下にあった)のことを考えずにナイル川の水を利用できた。GERDの竣工は、そうした時代がもはや過去のものとなったことを示している。(武内進一) アフリカからの留学生支援のため、現代アフリカ教育研究支援基金へのご協力を呼びかけています。 

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ルワンダ軍墓地面積の急拡大

2025/09/13/Sat

 国際人権NGOのヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は、9月4日、SNSで衛星画像を公開し、ルワンダ国軍(RDF)兵士が埋葬された墓地の面積が急速に広がっていることを示した(10日付ルモンド)。  ルワンダはコンゴ民主共和国東部に国軍を派兵していると言われ、国連の報告書でもその点が指摘されてきた。2025年1~2月にゴマ、ブカヴをM23が制圧した際には、RDF兵士6000人が参加したとされる。しかし、ルワンダ政府は一貫してこれを否定している。  HRWは、ルワンダの首都キガリの空港近くにあるRDFの墓地を2017年1月から2025年7月までの間に14回撮影した衛星画像の分析から、今年に入って新規の墓地が急増していることを示した。  2022年1月27日から2025年7月3日の間に1,171の新規の墓地が建てられたが、その40%は2024年12月15日以降に建てられたものだという。2017年~2021年半ばの間、新規の墓地は週あたり1.7基のペースで建造されたが、2022年初頭にM23が再興すると週あたりの建造数は6基に増えた。2024年12月15日から2025年4月9日の間、週あたり22基と顕著に増加した。  今年初めのM23による制圧地域拡大に際しては激しい戦闘となり、両陣営に大きな被害が出たと言われている。HRWが公開した画像は、ルワンダ国軍の関与とそれに伴う戦死者の増加を示す一つの証拠と言えそうだ。(武内進一) アフリカからの留学生支援のため、現代アフリカ教育研究支援基金へのご協力を呼びかけています。 

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