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カメルーンにおけるカカオ栽培の拡大と「森林減少フリー製品規則」(EUDR)

2025/09/16/Tue

 カカオの価格が上昇し、世界的にチョコレートの値段が上がっている。世界のカカオの70%以上を供給している西アフリカ、とりわけコートジボワールとガーナでの悪天候と病気による収量減少が、主な要因だと考えられている。多国籍カカオ企業は、生産が不調な西アフリカからカメルーンなど中部アフリカへと事業をシフトさせている。カメルーンにおける生産量は、31万トン(2023~2024年実績)で世界第5位だが、政府は毎年64万トンの生産を目標にしている。

 価格上昇の農民経済への影響は、生産国によって異なる。カメルーンではカカオ取引の制度が自由主義的なので、国際価格と連動して国内価格の高騰が著しい。最近2年間で、1Kgあたりの取引価格は1500FCFAから5000FCFAにまで上昇した。9月から大雨季を迎えるカメルーンでは、2025年から2026年のカカオの収穫シーズンが始まっている。価格は昨シーズンに比べると少し安くなっているとはいえ高止まりしており、カカオ開発公社(SODECAO)は、カカオ買取価格が大幅に下がる材料はなく、当面高いままだろうと予想している。

 この「茶色の金(l'or brun)」で儲けようと、多くの若者がカカオ栽培に参入している(RFI、9月2日付)。国際価格が上昇すると、カカオ畑の開墾熱が高まる現象はこれまでもたびたび観察されてきた。今年はカカオの苗が不足状況となり、種苗生産が追い付いていない。そのため種苗業者では、他の作物の種苗生産のためのリソースを割いてカカオの種苗が生産されるに至っているところさえある。

 中南米の熱帯林地域を原産とするカカオは、直射日光を好まず庇陰樹を必要とする。そのために、在来植生を皆伐することなく育てられる。そのため、生物多様性を過度に毀損せずに地域住民に現金収入をもたらす森林農業が可能であるという意味で、これまで熱帯林保全と地域経済の両立の文脈で一定の評価をされてきた。しかし、カカオ栽培の急激な拡大が、熱帯林の減少や劣化をもたらしているという指摘もある(Mighty-Eartth、7月28日公開報告書)。

 野放図なカカオ栽培拡大に歯止めをかけるかもしれないと期待されているのが、EUが2025年12月30日から発効予定の「森林減少フリー製品規則」(EUDR)である。この規制は、該当製品の生産にあたって土地の権利、環境保全、労働・人権尊重、先住民からの同意の取得を含む7つの主要原則の遵守を要求する。この規則には、ウシ、コーヒー、アブラヤシ、ゴム、大豆、木材とともに、カカオが含まれている。カカオをEU域内に輸出するには、そのカカオが2020年以降の森林減少に寄与する形で生産されていないことを確認するためのトレーサビリティの証明が必要になる。

 カメルーン産カカオの輸出先の7割はEUだ。期限までに基準をクリアするため、カカオ畑の位置を地理的に特定し、生産者を登録する作業が急ピッチで進められ、政府によればすでに全カカオ生産農家の「99%」と目される24,800人の生産者の登録が完了した(RFI、7月21日付)。既に、カメルーン・コーヒーおよびカカオ業界団体(CICC)は、アクセス無料で利用できるオンラインプラットフォームを整備して、輸出業者がカカオの生産地情報の詳細について確認できる態勢を整えた。トレーサビリティの質を担保するにはまだ課題が多い。データを扱う省庁間の連携を困難にする縦割り行政の問題、土地の権利を持たないカカオ農家にどのように持続的な栽培への投資をおこなえるのかという問題、カカオ畑と市場流通の間を複雑に取り持っている中間業者のビジネスの捕捉の難しさなどである。今後、カカオ栽培の持続性向上をめぐって、「森林減少フリー製品規則」がどのように機能するかが注目される。(大石高典)

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