今日のアフリカ
2025年03月
ブルキナファソで「対テロ戦争」の民族紛争化
2025/03/29/Sat
3月10~11日、ブルキナファソ西部のソレンゾ(Solenzo)で多数の市民が虐殺され、その映像がSNSに流れた。犠牲者の多くはプール人(フルベ人)で、「祖国防衛ボランティア」(VDP)の攻撃を受けた(28日付ルモンド)。
ブルキナファソで、プール人はイスラム急進主義勢力(ジハディスト)と結びつけられてきた。この国でイスラム急進主義勢力の活動が広がるのは2015年頃からである。2014年にコンパオレ政権が市民革命で倒れ、その後に就任したカボレ(Roch Marc Christian Kabore)大統領は、ジハディストに対抗するために、モシ人の自衛組織Koglweogoやドゴン人のDozoなどを支援した。
カボレ大統領は2020年にVDPを法制化するが、VDPにはモシ人やドゴン人の自衛組織が加わった。VDPや軍には、ジハディストはプール人だとの見方が根強い。2022年9月のクーデタで政権を握ったイブラヒム・トラオレは、ジハディスト対策として「迅速介入部隊」(BIR)を設置した。BIRはVDPとともに、しばしばジハディストと関係があると見なされた市民を襲撃している。その多くがプール人である(21日付ルモンド)。
プール人に対する偏見は、広く浸透している。軍トップのトラオレは、2023年2月20日、プール人コミュニティと大統領官邸で面会し、「武器を置かないと、皆ぶっ殺す」、と脅しつけたという(28日付ルモンド)。人権団体からは、エスニシティを理由とした攻撃が行われているとして、ジェノサイドを危惧する声もでている。
エスニシティに基づく偏見が紛争を通じて強化されるのは、ルワンダをはじめ、幾度となく観察されてきたことである。サヘル地域では、同じメカニズムを通じて、プール人やトゥアレグ人という牧畜民に対する偏見や攻撃が強まっている。(武内進一)
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共同宣言をめぐる論争、法廷へ
2025/03/26/Wed
ナミビアの11の伝統的権威と野党の土地なき人民運動(LPM)は、昨年12月に内閣で承認された植民地期ドイツのジェノサイドに関する共同宣言を無効にして取り消すよう、法的代理人を通じて書簡をナミビア政府へ送った。
法的代理人であるムロルア・クルツ・カスペル社による説明によると、当事者らは、今週末までに緊急申請という形式で法的措置をとるために、高等裁判所に救済を求めている。書簡の中で、同社のパトリック・カウタ氏は、申請者を代表して、共同宣言は、植民地期ナミビアにおける大量虐殺に関する2006年の議会の決議と矛盾していること、そしてその決議は合法的または適切に撤回されたり、ナミビア政府の行為を許すために変更されたりしていないと主張している。2006年の議会決議では、ナマとヘレロの伝統的指導者らが交渉プロセスの先頭に立つこと、政府は単にプロセスを促進するだけだと説明されていた。
昨年12月12日付内閣決議では、政府は国際関係協力省による共同宣言への署名を承認し、ドイツとの交渉の終結を告げていた(「今日のアフリカ」、2024年12月31日)。加えて決議では、共同宣言の合意が、被害を受けたコミュニティが居住するとされる7つの特定地域の首長らに提出され、精査され、そののち国会承認のために提出されるように指示されていた。
25日付のナミビアン・サンの報道では、政府とともに交渉をおこなってきた団体代表のチャールズ・アイセブ氏の見解が紹介されている。同氏は、大臣が特使として7つの特定地域へ派遣され、昨年12月19日にすべての地域で協議が完了し、首長らが著名に賛成したと述べている。
しかし、ヘレロとナマの伝統的指導者らの各組織(OCAとNTLA)は、今年1月、政府の共同宣言への反発について声明を出していた(「今日のアフリカ」、2025年1月31日)。
アイセブ氏によると、今月末までにおこなわれる予定だった署名は先月のドイツの大統領選挙とナミビア初代大統領であるサム・ヌヨマ氏の死去により署名が遅れている。そのため、来月4月の第2週にドイツとの最終協議を行う予定という。引き続き、論争に関与するアクターらの動きを注視していく必要があるだろう。(宮本佳和)
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ナミビア、初の女性大統領就任
2025/03/26/Wed
21日、35回目のナミビア独立記念日に、同国初の女性大統領ネトゥンボ・ナンディ=ンダイトゥア氏が就任した。
ナンディ=ンダイトゥア氏は、第3代大統領のハゲ・ガインゴブ氏の死去に伴い2024年2月からナミビアの大統領代行を務めていたナンゴロ・ムブンバ氏の後任となる。
ナミビアでは昨年11月の大統領選挙で、1990年の独立以来政権を握ってきた南西アフリカ人民機構(SWAPO)が勝利した。同選挙で、ナンディ=ンダイトゥア氏は58%の票を獲得し、2位で25.8%を獲得した独立変革愛国党(IPC)のパンドゥレニ・イトゥラ氏を引き離した。しかし、SWAPOは35年間の政権下で着実に支持を失っている。昨年の世論調査では、同党が権力を失うか、かつての解放運動組織である南アフリカのアフリカ民族会議のように連立政権を組むことを余儀なくされる可能性が示唆されていた。最終的に、同党は議会投票の53%(96議席中51議席)を獲得し、かろうじて勝利した。
ナンディ=ンダイトゥア氏は現在72歳で、アパルトヘイト下の南アフリカからの独立を目指す解放運動に参加してから約60年を経て、大統領職に就いた。彼女は、リベリアのエレン・ジョンソン・サーリーフ氏、マラウイのジョイス・バンダ氏、タンザニアのサミア・スルフ・ハッサン氏に次ぐ、アフリカにおいて数少ない大統領職に就いた女性議員の一人である。
就任演説でも、男女平等と女性のエンパワメントについて強調し、2002年に同党が党規約を改正し、党のあらゆる組織における指導的地位に男女半々の代表者を置く方針(50/50方針)を決定したことに言及した。この方針の結果、ナンディ=ンダイトゥア氏を含め多くの女性が政府の要職に就くようになった。演説では、自身が女性であるから選択されたのではなく、実力によって選出されたことを強調し、「私が大統領に選出されたことは、あらゆる立場にある女性たちに、自らの存在をアピールするよう勇気づけることになるだろう」と述べている。
副大統領には、女性のルイカ・ウィットブーイ氏が任命され、新内閣を構成する14名の大臣のうち9名が女性である。3つの権力機関のうち2つは女性が主導し、ナンディ=ンダイトゥア氏が行政府を、サーラ・クーゴンゲルワ=アマディラ氏が立法府の議長を務める。アフリカの若い国において、女性が率いる新しい内閣が、これからどのように舵をとるのか注視される。(宮本佳和)
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スーダン内戦のチャド、南スーダンへの広がり
2025/03/17/Mon
2023年4月以来続くスーダン内戦は、深刻な人道危機を生み出し続けている。最近の戦況は、ブルハーン率いる国軍が首都を概ね制圧する一方、ヘメティが指導するRSFは西部ダールフールの支配を強めるという構図になっている。ここに来て、周辺国の政治的不安定化への影響が顕在化している。
今年2月下旬、RSFはケニアのナイロビで会合を開き、スーダンに「平和統一政府」を樹立するための基本憲章を採択した。この会合には、青ナイル州や南コルドファン州を地盤とするSPLM-North(指導者Abdelaziz Al-Hilu)も参加した。国軍側は当然この動きに反発し、駐ケニア大使を召還した(2月21日付ルモンド)。
準軍事組織RSFがスーダン国軍と激しい軍事的衝突を継続する背景として、UAE(アラブ首長国連邦)の支援が指摘される。RSFはUAEに金を密輸し、その見返りに支援を得ている。ダールフールを拠点とするRSFに、UAEはチャド経由で武器を流している。UAEは、チャドのマハマト・デビィ政権にも巨額の支援を行っている。
RSFはダールフールでアフリカ系住民を虐殺しているが、デビィ政権を中心的に支えるザガワ(Zagawa)人にも多くの犠牲が出ている。チャドのザガワ人エリートのなかには、マハマトがRSFを支援する現状に強い不満を持つ者も多い(3月11日付ルモンド)。
南スーダンへの影響も懸念される。3月7日、アッパー・ナイル州で南スーダン国軍とホワイト・アーミー(ヌアー人民兵で、マチャル副大統領に近い)が衝突した。サルヴァ・キール政権はUAEとの関係が近く、2月下旬のナイロビでの会合にはサルヴァ・キール政権に近いSPLM-Northが参加した。これに対する対抗措置として、スーダン国軍がホワイト・アーミーを支援したと見られている(3月11日付ルモンド)。
スーダン内戦では、首都から東部を押さえる国軍側と、ダールフールや南部を押さえるRSF側という地理的対立構造が顕著になり、RSF側には周辺国(チャド、南スーダン)を通じて軍事物資が流入している。この構図のなかで、政治的不安定がスーダンから周辺へと広がりつつある。(武内進一)
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チセケディ政権の外交と内政
2025/03/09/Sun
東部紛争をめぐってコンゴ民主共和国とルワンダの関係が緊張する中で、チセケディ政権は欧米に対する外交的働きかけを強めている。8日付ファイナンシャルタイムズによれば、先月末コンゴの上院議員がルビオ国務長官に書簡を送り、コンゴ軍への支援と引き換えに、米企業に鉱物資源採掘権を供与する提案を行った。米国側は、この協議を開始すると報じられている。
コンゴには銅、コバルト、リチウムなど重要な鉱物資源が豊富に埋蔵されているが、その採掘権のほとんどは中国系企業が握っている。書簡では、コンゴ国軍兵士の訓練や武器・装備品の供与と引き換えに、採掘権を米企業に与えることが提案されている。
欧米の支持をルワンダから自国に変えるために、チセケディ政権は様々な訴えかけを行ってきた。その成果もあって、2月以降、米国はルワンダに制裁を科し、英国やドイツがルワンダへの援助停止を表明した。2月21日には、国連安保理が初めてルワンダを名指しで非難した。チセケディ政権の外交政策は、この点で成果を挙げている。]
一方で、内政は危うい。チセケディの孤立が深まっている。2月、彼は主要野党指導者に向けて大同団結を呼びかけたものの、モイズ・カトゥンビやマルタン・ファユルなどはこれを拒否した。南アフリカに居住している前大統領ジョゼフ・カビラも、チセケディ政権への批判を強めている。カトリック教会関係者は、チセケディの方針に反して、M23を含む東部コンゴの武装勢力と広く対話するよう訴えている(2月28日付ルモンド)。
また、元UDPS(与党)暫定議長の要職にあったカブンド(Jean-Marc Kabund)が、2月27日付Jeune Afrique誌に掲載されたインタビューで、チセケディを厳しく批判している。与党内部も分裂しているのだ。
トランプ政権の実利指向を考えれば、鉱物資源をめぐるディールに応じてコンゴ軍に武器を供与するかもしれない。しかし、それがどの程度東部コンゴの戦況を変えるかは別問題である。(武内進一)
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