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Africa Today今日のアフリカ

今日のアフリカ

2019年09月

チセケディの政治戦略

2019/09/29/Sun

不正疑惑の大統領選挙による選出から半年以上が経過し、コンゴ民主共和国のチセケディ政権が徐々に動き出した。組閣が正式に発表されたのは9月3日のことで、66人の閣僚(大臣、副大臣)のうち、前大統領カビラ派のFCCが43人、チセケディのCACHが23人を占めた。議会や州政府でFCCが圧倒的多数を占めることを考えればこの結果は当然で、むしろCACHが約3分の1の閣僚ポストを得たことは健闘と言えるかもしれない。この間チセケディは、何とか独自色を出そうと努力してきた。政治犯を釈放し、治安警察ANR(Agence Nationale de Renseignement)を解体し、カビラ派のANR長官を更迭した。一方で、最大の鉱山企業Gecaminesのユマ(Albert Yuma Mulimbi)長官を続投させるなど、カビラ政権期との連続性もまた明白である。  チセケディの戦略として見えてきたのは、欧米諸国との関係を改善し、自分の政治的スペースを広げるというものである。9月16日から4日間にわたるベルギー公式訪問でも、関係改善に向けて様々な策が講じられた。カビラ時代には、EUや米国がコンゴ人政治家に制裁措置を課し、コンゴ側もEUの事実上の領事館を閉鎖するなど、両者の関係は緊張していた。しかし、今回の訪問においては、ルブンバシのベルギー領事館再開、アントワープのコンゴ領事館再開、経済協力の再活性化などが約束された(9月17日付RTBF)。チセケディは既に4月に訪米してポンペイオ国務長官と会見し、在コンゴ米国大使と親密な関係を維持しているとの報道もある(2019年5月6日付ルモンド)。  チセケディは、最近のルモンド紙とのインタビューのなかで、「自分にとっての優先事項はコンゴ人の生活水準を改善することだ。自分にはあまりに多くの仕事があり、過去の意趣返しをしている暇はない」と語っている(9月22日付記事)。カビラ派が強い影響力を保持していることを認めつつ、そのなかで少しでも事態を改善しようと努力する姿勢を印象付けようとしているようだ。この戦力がいかなる効力を発するか、しばらく注目したい。

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ブルキナファソで遺伝子操作の蚊を放出する計画

2019/09/24/Tue

ブルキナファソのマラリア研究チームが、2020年7月に不妊の遺伝子操作を施したメスの蚊を5000匹放出する実験をおこなうことを計画していることがわかった。このプロジェクトは、オックスフォード大学を含む複数の研究機関の研究者を擁するTarget Maralia Projectによって実施されるもので、ビル&メリンダ・ゲイツ財団の資金提供を受けている。不妊の蚊を放出することでマラリアを媒介するハマダラカの自然減を引き起こし、マラリアの感染拡大を抑制することが期待されている。プロジェクトでは一年間のモニター実験を計画しており、実験期間を通じて研究者を訓練し、地元住民の理解を得ることを促すという。 不妊の蚊を放出するこの手法は、2000年代に入ってから世界的に着目されるようになったもので、実験室における実験では条件を満たせば一定の効果が見込めるとされている。2000年代後半よりフィールドテストが検討されてきた手法であるが、実際にハマダラカを対象にフィールドテストが実施されるのは世界初となる。研究チームは、長期的に効果が見込まれ、低価格で実現可能な対策を開発することを目標としている。 ブルキナファソの昨年のマラリア罹患者数は1200万人、うち死者は約4000人とされており、60%が5歳以下の子どもである。ブルキナファソ西部のSouroukoudinga村はDiabate教授のこのプロジェクトを受入れるとしている。村長はプロジェクトを歓迎しており「このプロジェクトが成功することを心より祈っている」とコメントしている。 遺伝子操作を施した蚊を放出することに関して、ブルキナファソの活動家は、経済的に脆弱な地域で実施するには不確実な手法であることを指摘しており、いままで確認されてこなかった病原体の放出やウィルスの拡大を引き起こす可能性を懸念している。また、環境グループTerre De VieのAli Tapsoba氏は生態系への影響を指摘し、国境を越えて影響が拡大することも考えられると指摘している。これに対しプロジェクト側は、国の自然規制当局と倫理委員会によって監督されていると発表している。 遺伝子操作を施した蚊による自然界への影響はいまだ不明な点が多い。ブラジルとパナマにおけるジカ熱に関する同様の実験は、逆にメスの蚊の増加を引き起こしているという指摘を受け、実験継続が断念されている。またフロリダでも同様の計画が世論の反対を受けて保留状態となっている。蚊の寿命は数ヶ月でありリスクは無視できるほどであるとされているが、慎重に検討することが求められている。

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ICCとコートジボワール内政

2019/09/22/Sun

9月16日、ICC検事部は、1月15日に下された、元コートジボワール大統領ローラン・バボと元青年愛国運動指導者シャルル・ブレ=グデの無罪判決への異議申し立てを行った。Fatou Bensouda検事総長は、判事が証拠を過度に狭く解釈したと批判して、審理手続きの再開を要求した。1月の判決では、3人の裁判官のうち2人が、訴追根拠が著しく薄弱だとして無罪を表明し、1人はこれに反対した。検事総長による異議申し立てによって、再度の審理が開かれることとなる。17日付ルモンド紙によれば、無罪判決が覆る可能性が高いとの意見もあるが、バボ側の弁護士は想定内の対応だと述べている。バボらは2月1日に釈放された後もICCの監視下に置かれており、バボはブリュッセルに、ブレ=グデはハーグから出ることを許されていない。  この控訴は、バボの政党(FPI)や支持者には打撃となる。2020年10月の大統領選挙をにらんで、前大統領アンリ=コナン・ベディエ率いる政党PDCIは、FPIとの同盟関係を構築しようとしていた。この戦略も見直しを迫られる可能性がある。FPI側は、今回の控訴を「メンツをつぶされたくないICC事務局と、アビジャンで祖国からバボを遠ざけておきたいと考える者たち」によるものだと論評した。一方、ワタラ政権側は今回の措置について一切のコメントを避けている。  コートジボワールでは、来年の大統領選挙に向けて、ワタラ現政権、ベディエのPDCI、バボのFPIの間で駆け引きが続いている。各陣営は、内政に多大なインパクトを与えるICCの動向を注意深く観察しつつ、対応を決めていくことになる。

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チュニジアの大統領選挙

2019/09/21/Sat

チュニジアで9月15日に大統領選挙第1回投票が行われた。7月25日にカイド・エセブシ前大統領が死去したことに伴うものだが、投票の結果、2人の新顔が第2回投票に進出することになった。保守系法律家で元大学教授のサイエド(Kaïs Saïed、18.40%)とTV局を牛耳る実業家のカルイ(Nabil Karoui、15.58%)の二人である。  ルモンド紙は、この選挙が公明正大なものだったと評価している(9月18日付)。財政的な手段も政党のバックアップもなく、メディアも避けていたサイエドがトップを取ったことはその象徴である。一方、大統領選挙の結果は、チュニジアの状況が近年の欧米民主主義国が直面しているものと同じであることを示している。すなわち、既成政党をはじめとする既存の権威の失墜である。保守系イスラム主義のAbdelatif Mourou (12.88%)、国防相Abdelkrim Zbidi (10.73%)、首相のYoussef Chahed (7.38%)など、既成政党をバックにしたり、既に権威ある立場の候補者は軒並み落選した。2011年以来チュニジアの政権は、選挙民の失望を買い続けてきた。サイエドとカルイの二人は、「消去法」による選択であった。  19日、穏健派イスラム主義政党ナフダは、第2回大統領選挙投票でのサイエド氏の支持を決めた。カルイ氏の方は、8月23日に不正資金疑惑のため逮捕・収監されている。カルイ氏はTVチャンネルを所有する実業家で、自分の慈善事業を自らが所有するTVチャンネルで宣伝することで人気を高めてきた。10月の決選投票までに事態がどう動くかは、まだ予断を許さない。  2011年の「アラブの春」の口火を切ったチュニジアは、他のアラブ諸国が強圧的政権への揺れ戻しや内戦の混乱に陥る中、曲りなりにも民主主義体制を維持している。チュニジアの現実は民主主義体制の難しさも示しているが、難局を乗り切る人々の英知を信じたい。

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エチオピアの巨大ダム建設の協議再開

2019/09/18/Wed

9月15日から16日まで、エチオピア北西部に建設が計画されている巨大ダム(グランド・エチオピア・ルネッサンス・ダム:GERD)に関する会合が開催され、エチオピア、エジプト、スーダンの政府高官らが参加した。およそ1年ぶりに三者がGERDについて協議する機会を持ったが、具体的な進展は見られなかった。 GERDは、エチオピアのタナ湖を源流とするナイル川支流(青ナイル)の上流部に設置される計画であるため、青ナイルの流域であり、またヴィクトリア湖を源流とする支流(白ナイル)と合流する地域を含むスーダンと、その下流にあたるエジプトから激しい批判が出ていた。水利を巡る交渉が長期化するなかで、エチオピアとエジプトはときに激しく対立してきた。 2017年11月に三者の交渉は一旦停止したものの、2018年6月に就任から間もないアビィ・エチオピア首相がエルシーシ・エジプト大統領を訪問し、エジプトの水利の安定的確保を約束し、また、共同の記者会見で最終合意を目指す旨を述べるなど、エチオピア新政権がGERD問題の解決に前向きに取り組む姿勢がアピールされた。 だが、今般の報道内容からは、エチオピアに譲歩の姿勢は確認できない。9月17日付のロイター記事によれば、エジプト政府が本年7月末にエチオピアとスーダンに対してGERD問題に対処するためのプロポーザルを共有しつつ閣僚級協議を呼びかけたものの、エチオピアはそれを即時に拒否している。代わりに自国が作成したプロポーザルを議論する会合を提案するなど、依然として両国間に容易に埋めがたい溝があることが強調された。 次回のGERDに関する協議は、9月30日からカイロで開催される予定である。 参考資料: 常味高志「JETRO ビジネス短信:首脳会談でエチオピアのダム建設の最終合意を目指す」(2018/6/15)https://www.jetro.go.jp/biznews/2018/06/e39097f543609be5.html ロイター記事「Exclusive: Egypt and Ethiopia at odds as talks over Blue Nile dam resume」(2019/9/17)https://www.reuters.com/article/us-ethiopia-dam-egypt-exclusive/exclusive-egypt-and-ethiopia-at-odds-as-talks-over-blue-nile-dam-resume-idUSKBN1W1238

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中国の対アフリカ農業政策

2019/09/15/Sun

9月13日付ルモンド紙は、去る6月にFAO(国連食糧農業機関)事務局長に屈冬玉(Qu Dongyu)氏が選出されたことを受けて、中国のアフリカにおける農業政策を研究するCIRAD(開発農業研究国際協力センター)のJean-Jacque Gabas研究員に対するインタビュー記事を掲載した。以下、概要をまとめる。  FAO事務局長ポスト獲得に際して中国は、債務減免やFAO予算への負担増など、様々な手段を使った。中国は既に、UNIDO、国際電気通信連合、国際民間航空機関、そして2016-18年にはInterpolのトップも獲得している。これは、あらゆる大国がこれまでにしてきたことだ。そうした大国と同様に、中国は国際機関のトップのポストを獲得することで、国際的な影響力を拡大しようとしている。  アフリカ諸国がFAOトップへの中国出身者就任を支持した背景には、それなりの意思表示があるとみるべきだ。OECD諸国の農業に対する協力は弱く、2008年の食糧危機までは減少を続けてきた。政策の関心は構造調整であり、貧困削減であり、持続的開発であった。アフリカ諸国にとって、中国の台頭は機会として捉えられている。  FAO事務局長ポスト獲得を、中国がアフリカからの農産物輸入を拡大させたいからという理由で説明することは妥当ではない。中国はアフリカにとって最大の貿易相手国だが、アフリカ諸国の中国に対する農産物輸出の割合は、2~3%に過ぎない。中国はアフリカのコメや製糖産業に投資しているが、それは本国向けではなく、アフリカ域内市場を目的としたものだ。アフリカから中国が輸入している農産物としては、ゴム、加工用キャッサバが重要で、その他には落花生、綿花、原木などがある。しかし、アフリカのヨーロッパ向け輸出産品や他の中国向け輸出産品に比べると、これらは量的にわずかである。  中国によるアフリカのランドグラブというのは神話だ。土地への投資に関する統計はわずかで信頼に足るものはあまりないが、明らかに、中国の投資はそれほど多くない。投資額で見ると、8位か9位だ。最大投資国はOECD諸国(英米仏)で、それに国内アクター、湾岸諸国が続いている。  中国の対アフリカ農業政策として注目されるのは、アフリカでの農業実験センターや技術移転センターの設置である。だいたいどの国にもこうした施設が一つはあって、中国人技術者がアフリカの条件に合ったコメや野菜の品種開発を行っている。運転手以外、職員は中国人だ。その目的は、中国で開発された品種、農薬、肥料、農業機材を、中国企業の仲介を通じて普及させることにある。これは長期的に重大な結果をもたらすかも知れない。中国政府はしかし、この取り組みがあまりうまくいっていないことを認めている。中国人技術者は中国語しか話せず、アフリカ人農民への普及ができていない。私たちは中国の大学と協力し、評価を行って報告書を提出した。中国政府はこの報告を受けて対応を考えている。  今日、アフリカの農業・農村開発の多くは若年層の労働市場参入と、雇用問題の重要性を指摘している。しかし、農村部に雇用を創出するには、農業生産の集約化やアグリビジネスの発展だけでは解決にならない。他の国際機関やドナーとの協力が不可欠だ。しかし、中国は他のドナーとの協力を一切していない。FAOで彼らが何をしたいかはまだわからない。中国が国際協力主義に則ってFAOで活動することを望む。    Gabas研究員の発言は示唆に富むが、特に重要と思うのは次の2点である。第1に、国際機関のトップを取りに行く中国の姿勢が、他の大国と何ら変わらないことを指摘した点。第2に、若年層の雇用創出は今日のアフリカにとって最大の問題だが、これは農業・農村政策だけでは解決できず、他の国際機関やドナーとの協力が必要不可欠であることを指摘した点である。これは、日本を含めた他のドナーにとっても当てはまる指摘だ。いかなる技術を開発するかという点以上に、技術をどのように他の分野に繋げ、普及させていくかが問われている。

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マシャール元南スーダン第一副大統領のジュバ帰還

2019/09/10/Tue

新政府設立に向けた準備期間中の南スーダンに関し、今月9日にマシャール元第一副大統領がキール大統領と面談するため首都ジュバに戻った旨、現地紙で報じられた。両者が顔を合わせるのは、今年4月のバチカン市国以来と言われている。その際には、フランシスコ法王が膝をつき両者の足にキスをして和平の実現を訴えかけたことでも話題となった。 南スーダンにおいては、昨年9月にキールとマシャールら紛争当事者が和平合意に署名したものの、その後、新政府設立の準備が遅延し、暫定準備期間が今年11月まで延期されるなどした。現在はハルツームに居住しているとされるマシャールの今般の帰還は、2日程度の予定と短いものだが、期限内に新政府設立を果たそうとする動きとして評価できるものであろう。 また、今般のマシャールの帰還に、スーダンの軍部有力者であるヘメティ(Mohamed Hamdan Daglo)が同行したことも興味深い。バシール前スーダン大統領による、南スーダンの和平協議への貢献は大きかった。今後、ヘメティが、スーダン側のキーパーソンとして南スーダンの和平協議に関わってくる可能性も見えてきた。

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ムガベ前ジンバブウェ大統領死去

2019/09/08/Sun

9月6日(金)、前ジンバブウェ大統領ロバート・ムガベが療養中のシンガポールで死去したことを、ムナンガグワ現大統領がツイッターで確認した。ムガベは95歳であった。シンガポールには4月以来入院しており、シンガポール外相スポークスマンは、遺体をジンバブウェに戻す手続きを進めていると述べた。  6日、7日付の有力紙は大きな紙面を割いてムガベの訃報を掲載している。ムガベは1924年に北西部マショナランドで生まれた。学生時代は極めて優秀であったが、少年期に父親を失ったこともあり、孤独を好み、友人は少なかったという。当初教員として活動し、研修を受けたガーナのアチモタ校での経験に触発されて政治活動に入った。アチモタ校の同僚であったガーナ人のSally Hayfronと結婚している(サリーは1992年に死去)。1964年から75年まで国家転覆罪で収監され、その間に息子を亡くしたが、アクラで行われた葬儀への出席は叶わなかった。釈放後はモザンビークから解放闘争に従事し、1979年のロンドンでの協議を経て、独立に向けた選挙が実施されることになった。ムガベは独立するジンバブウェの首相を務めることになったが、選挙ではムガベ率いるZANU(ジンバブウェアフリカ国民連合)とンコモ率いるZAPU(ジンバブウェアフリカ人民連合)との亀裂も明らかになった。  ンコモとZAPUは南部のンデベレ人を主たる支持基盤としていたが、1982年~84年にかけて、ムガベは「グクラフンディ」(gukurahundi)と呼ばれる反政府勢力掃討作戦を南部で展開し、ZAPU支持勢力を抑圧した。1987年には大統領となり、政治権力を一身に集中させた。1990年代後半から2000年代には、白人農場の強制収用や野党の抑圧で国際社会の批判を浴び、国家経済を破綻に追い込んだ。結局、2017年に腹心の部下ムナンガグワを中心とする軍部が反旗を翻し、ムガベは辞任を余儀なくされた。  ムガベは複雑な人物である。マーガレット・サッチャーと親交を結び、エリザベス女王を敬慕し、労働党を嫌悪する一方で、英国の植民地主義を正確な英語で罵った。ムガベの死に際して、ラマポサ(南ア)、ルング(ザンビア)、ガインゴブ(ナミビア)、マグフリ(タンザニア)、ケニヤッタ(ケニア)、ンクルンジザ(ブルンジ)、キール(南スーダン)、ブハリ(ナイジェリア)、サル(セネガル)などアフリカ諸国の指導者は、そろってその功績を称えた。ムガベを批判的に振り返るコメントはごくわずかであったという(9月7日付ルモンド)。ルワンダの政府系新聞New Timesは社説でムガベの死を取り上げ、「その欠点にもかかわらず、最後の独立の闘士が人々を勇気づけてきたことは認めねばならない。巨木が倒れ、内部には白アリが巣くっていたということだ」と結んでいる(9月7日)。

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南アの反移民暴動

2019/09/08/Sun

9月1日(日)以来、ヨハネスブルク、プレトリアでアフリカ系移民が経営する商店への襲撃、略奪が発生した。9月3日付ルモンド紙によれば、問題の発生源は交通セクターのようで、1年以上前から南ア交通業界では外国人ドライバーへの不満が高まっていたという。記事に詳しい説明はないが、南アでは以前から、タクシー(バンに乗客を乗せて走る路線バス)とウーバーなどの運転手の間で衝突があった。それに移民労働者をめぐる反感が重なって問題が大きくなった可能性がある。3日付ファイナンシャルタイムズは、南アトラックドライバーが外国人労働者に抗議し、ストを決行したと報じている。日曜以降は、交通業界にとどまらず、アフリカ系移民が経営する商店の略奪や焼き討ちに発展した。  これに対して、南アに移民を送り出しているアフリカ諸国は相次いで反発や懸念を表明した。最も迅速に動いたのはナイジェリアである。同国は南アに多くの移民を送り出しており、南アで移民襲撃があると多くのナイジェリア人が被害を受けてきた。月曜(2日)夜、ナイジェリア政府は、自国民を守るために決定的な手段に訴えると表明し、水曜にはケープタウンで開催される世界経済フォーラムへの副大統領の出席を取りやめた。ナイジェリアでは、報復と称して、南ア企業への攻撃が起こった。携帯電話会社のMTN、小売りのショップライトなどが攻撃され、水曜日に一時休業に追い込まれた。ナイジェリアでは、ポップスターのTiwa Savageがヨハネスブルクで今月開催される音楽フェスティバルに参加しないと表明するなど、民衆レベルでの南アへの怒りも目立つ。南アへの怒りはナイジェリアに留まらず、木曜日には、コンゴ民主共和国でもショップライトへの襲撃が起こった(6日付ルモンド)。  一方、冷静を呼びかける声も少なくない。ナイジェリアの情報文化大臣は、南ア企業への攻撃は、MTNやショップライトなどの企業に投資しているのはナイジェリア人なのだから、自分を攻撃していることになると述べた(6日付FT)。コンゴでも、市民団体のLuchaが「暴力を暴力によって非難することはできない」として略奪を断罪した(6日付ルモンド)。  南アでの反移民暴動(ゼノフォビア)は近年頻発している。この背景に、南アの若年黒人層の高い失業率があることは間違いない。事態は他のアフリカ諸国も同様だから、南アでの動きに反発して(あるいはそれを口実として)ショップライトなどの南ア企業を標的とした暴動が簡単に広がってしまう。ただし、事態は収拾に向かっているようで、背景にはアフリカ諸国間の連携があったと推測される。  南アの交通セクターについては、以前からインフォーマルな暴力組織との関係が指摘されてきた。こうした危険な業種から暴力が噴出した時に、いかにそれが広がらないよう早期に手を打つか。これが南アにとっての課題である。

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