今日のアフリカ
2025年11月
南アフリカのGBVへの抗議活動と家父長制社会の綻び
2025/11/30/Sun
南アフリカは、11月21日、全国的な抗議活動へと発展したオンラインでのキャンペーンを受け、ジェンダーに基づく暴力(GBV)を国家的災害と宣言した。
BBCによると、ヨハネスブルグで開催されたG20サミットを前に、21日、南アフリカ各地の都市で数百人の女性が、GBVに抗議するために集結した。「追悼と抵抗」の象徴として黒色の服を着用した参加者らは、ヨハネスブルグ、プレトリア、ケープタウン、ダーバンを含む15か所で、GBVによって毎日15人の命が失われていることを象徴し、15分間の黙祷を捧げた。
国連女性機関によると、南アフリカはGBVの発生率が世界で最も高い国の一つであり、女性の殺害率は世界平均の5倍に達している。「G20女性シャットダウン」と名付けられたこの抗議行動は、NGO「ウィメン・フォー・チェンジ」が主催したもので、女性とLGBTQ+コミュニティに対し、「職場、大学、家庭におけるあらゆる有償・無償の労働を控え、1日中金銭を使わず、彼女たちの不在がもたらす経済的・社会的影響を示す」よう訴えた。この抗議行動は、同団体が1ヶ月にわたり展開してきたキャンペーンの集大成であり、南アフリカ政府に対し、GBVを国家的災害と宣言するよう働きかけてきた。
オンライン署名には100万件以上が集まり、米国グラミー賞受賞歌手のタイラを含む多くの人びとが、ソーシャルメディアのプロフィールを女性の権利と関連付けられることが多い紫色に変更した。紫色のネイルアートや衣服を着用した写真を投稿する人びとも相次ぎ、こうした動きは「パープル・ムーブメント」と呼ばれる。
このキャンペーンを受けて、国立災害管理センター(NDMC)のボンガニ・エリアス・シトレ所長は21日、GBVとフェミサイドを国家的災害に指定すると発表した。これまでNDMCは、この指定は災害管理法に定められた法的要件を満たしていないと述べていたが、「進行中の暴力行為によってもたらされる持続的かつ差し迫った生命の安全に対するリスク」を評価した結果、基準を満たしていると結論付けた。
協同統治・伝統問題省は、BBCの取材に対して、この指定によって政府機関は割り当てられた予算を使い、「あらゆる可能な対策を実施」できるようになると答えている。対策が効果を上げない場合、政府は国家非常事態を宣言することができ、この問題への対応はより緊急なものとなる。
一方、国連が定めた「女性に対する暴力撤廃の国際デー」である11月25日には、イタリアにおいても、ジェンダーを理由に女性を殺害するフェミサイドを独立した犯罪とする法案が、全会一致で可決した。イタリアは、世界男女格差指数で85位と、EU諸国の中でほぼ最下位に位置している。この法案は、2023年12月に20代女性が元交際相手によって殺された事件をきっかけに、抗議活動が活発化し、法制化が一気に進んだ経緯がある。
11月下旬に異なる国々で立て続けに生じたジェンダーをめぐる国家的災害指定や法案可決は、いずれも抗議活動が国をうごかしていた。それぞれの国が抱える文脈は異なるものの、男性優位の家父長制社会が抱えてきた問題が表面化し始めているのを、私たちは目の当たりにしているのかもしれない。(宮本佳和)
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セネガル指導部の亀裂
2025/11/22/Sat
セネガルで2024年3月に成立した政権は、バシル・ジョマイ=ファイ大統領とウスマヌ・ソンコ首相がタッグを組み、国民の支持を集めてきた。ここに来て、両者の間の亀裂が報じられている。
亀裂が表面化したのは、11月11日に発表された大統領派コーディネーターの人事である。ジョマイ=ファイはソンコの側近であるアイダ・ンボジ(Aïda Mbodj)を更迭し、元首相のアミナタ・トゥレ(Aminata Touré)を任命した。
大統領派の最大政党Pastef(労働・倫理・友愛のためのセネガルアフリカ愛国者)党首であるソンコは、8日に開催された集会で、ンボジへの支持を表明していた(12日付ルモンド)。
両者の亀裂は、7月頃から指摘されてきた。ソンコが社会革命を志向し、Pastefを機動力として、腐敗したマッキー・サル時代の国家機構を一掃したいと考えているのに対して、ジョマイ=ファイはより包括的なアプローチを志向し、Pastefに同盟する小政党にも役割を与えようとしている、という分析もある(18日付ルモンド)。
若者の支持を得た、アンチ・システムの政権として、セネガルは注目を集めてきた。表出した指導者間の不一致が今後どのように展開するか、重大な局面にある。(武内進一)
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最近のアフリカ大統領選挙
2025/11/10/Mon
9月から10月にかけて、アフリカ5ヵ国で大統領選挙が実施された。そのなかで最も日本で報道されたのは、カメルーンであろう。10月12日に実施されたカメルーン大統領選挙では、92歳のポール・ビヤ(Paul Biya)が8期目の当選を果たした。ビヤは1982年からこの国の権力を握り続けている。
10月25日のコートジボワール大統領選挙では、83歳のアラサン・ワタラ(Alassan Ouattara)が四選された。10月29日のタンザニア大統領選挙では、サミア・スルフ・ハッサン(Samia Suluhu Hassan)が当選した。65歳のハッサンは、独立以来政権を握る与党CCM出身で、前大統領ジョン・マグフリ(John Magufuli)の下で副大統領を務め、彼が急死したあと大統領に昇格した。
カメルーンもコートジボワールもタンザニアも、事実上野党を排除した選挙だった。国民の不満も強く、特にタンザニアでは抗議行動に苛烈な弾圧が行われ、数百人以上が死亡したと言われる。タンザニアはCCMの一党優位体制が続いてきたが、これほどの抗議運動と犠牲者数は前例がない。
選挙で野党が勝利し、政権が交代した国もある。9月16日に実施されたマラウイの大統領選挙では、野党のピーター・ムタリカ(Peter Mutharika)が勝利した。ムタリカは85歳で、2014~2020年にも大統領を務めたが、今回の大統領選挙で現職のチャクウェラを破って当選した。10月9~11日に実施されたセイシェルの大統領選挙では、野党のパトリック・エルミニ(Mathew Antonio Patrick Herminie)が選出された。エルミには62歳。現職のラムカラワン(Wavel Ramkalawan)に勝利した。
アフリカは国の数が多く、選挙といっても多様な現実がある。とはいえ、近年特に、野党を抑圧し、事実上排除した選挙が多くの国で行われていることは憂慮すべきである。それは若者世代の不満を高め、結局は政権の不安定化をもたらすだろう。(武内進一)
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ホワイトハウス信仰局トップのアフリカ大湖地域歴訪
2025/11/08/Sat
7日付けルモンド紙は、米国ホワイトハウスの信仰局長ポーラ・ホワイト(Paula White)のアフリカ歴訪について報じている。興味深い内容なので紹介する。
ホワイトは1966年生まれ。福音派の牧師でテレヴァンジェリスト(TVなどのメディアを通じてで説教する伝道師)である。トランプ政権がホワイトハウスに設置した「信仰局」(White House Faith Office)のトップで、統一教会に解散命令を出した日本政府を批判したことでも知られる。
ホワイトは、現在ガボンにおり、ルワンダ、コンゴ民主共和国、ウガンダを訪問する予定である。6月27日にルワンダとコンゴが和平協定を結んだ際、ホワイトはトランプ大統領、ヴァンス副大統領、ルビオ国務長官らとともに同席し、署名式を祝福する祈りを捧げた。
ホワイトハウスはこのアフリカツアーを熱心に準備してきた。11月15日にはワシントンで、ルワンダのカガメ、コンゴのチセケディ両大統領が出席し、和平協定の署名式が予定されている。ホワイトのアフリカ歴訪は、その直前ということになる。
コンゴでは、この10年の間に福音派教会の数が三倍に増えている。ホワイトはコンゴ滞在中にチセケディ大統領と面会するが、チセケディも熱心なペンテコスト派キリスト教徒である。
ホワイトとチセケディは、「スピリチュアル・ファザー」を同じくしている。西アフリカで最も人気のあるテレヴァンジェリストのニコラス・ダンカン=ウィリアムズ(Nicholas Duncan-Williams)である。このガーナ人牧師はフェイスブックで170万人のフォロワーがおり、アフリカと米国の政治と宗教に影響を与えてきた。
チセケディは、2019年1月に大統領選挙で「勝利」したが、その2ヶ月前にアクラに行き、ダンカン=ウィリアムズの教会であるAction Chapel Internationalでの宗教行事に出席している。ダンカン=ウィリアムズはその席でチセケディを祝福し、勝利を預言した。それ以来、彼はチセケディの「スピリチュアル・ファザー」となった。
一方で、ダンカン=ウィリアムズはホワイトを「我が娘」と呼び、親密な関係を保っている。ホワイトは、2010年代にカリスマ派運動に宗旨変えをしたが、それ以来ダンカン=ウィリアムズを「スピリチュアル・ファザー」と呼び、しばしば彼を米国に招いてきた。
彼は、2015年にホワイトの結婚式を主宰し、2016年にホワイトが第一次トランプ政権で福音派アドバイザリー・ボードのトップに任命されると、2017年1月20日のトランプ大統領就任式に招かれて祈りを捧げた。
コンゴ側はホワイトとの関係を通じて、自分たちの主張がトランプ政権によりよく届けられると期待している。ホワイトは、キンシャサの前にキガリを訪れ、カガメと会談する。
以上が記事の概要である。トランプ政権では宗教右派の影響力が強まっていると言われるが、ガーナのテレヴァンジェリストとの関係も含めて複雑な関係が構築されていることがわかる。これがコンゴとルワンダの和平協定に何らかの影響を与えるのか、これから注視する必要がある。もっとも、チセケディは2日にもカガメが「東部コンゴに領土的野心を持っている」と批判しているし(3日付ルモンド)、東部ではM23が独自に行政官を採用し、自前の行政機構を創ろうとしている(4日付ルモンド)。和平に向けた道のりは簡単ではなさそうだ。(武内進一)
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